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異世界詐欺師のなんちゃって経営術  作者: 宮地拓海
第三幕

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515/821

317話 絆があれば

 ナタリアと合流し、書類を揃え、その日の夕方、俺たちは情報紙発行会編集部へとやって来た。


 メンバーは、俺、エステラ、ナタリア、タートリオ、ハビエル、マーゥルとおまけのゲラーシー。

 領主とギルド長は権威の上乗せだ。

 ルピナスは、もともと宿泊の予定ではなかったので昼過ぎに帰っていった。

「また来るわ、近いうちに」と言っていたので、本当に近いうちにまたやって来るだろう。

 念のため、デリアに送らせた。


 現在陽だまり亭はマグダとノーマに守ってもらっている。

 ちょっと大きく事を動かすということでメドラにも連絡を入れてある。


 こっちの護衛はナタリアとハビエルでなんとかなるだろう。

 カーラにも、現行犯で捕まった被疑者として同行してもらっている。彼女は証人だ。

 情報紙発行会のあり得ない違法行為の数々を証言してもらう。


「とりあえず、乗り込むのはボクとナタリアとヤシロで行きます。みなさんはここでしばらく待機していてください。声が聞こえるようにドアは開けておきます。必要があると思われた時に入ってきてください」


 最初は軽く泳がせる。

 いきなりこのメンツで乗り込めば全面戦争かと身構えられてしまうからな。

 ハビエルを護衛兼見張りとして残し三人で編集部へと入る。


「責任者はいるかい?」


 発行会編集部へ乗り込み、エステラが入り口で大きな声を出す。

 中にいた者たちがざわつき、数人がバタバタと走り去る。

 発行会に貸しているのはこの建物一棟だけだ。記者たちの寮もこの建物の中にあるのだろうし、見られて困る物を大慌てで隠蔽しに行ったようだ。


 まぁ、無駄だけどな。


「ちょっと、なによ!? 不法侵入じゃない、これって!」


 奥から、ダンダンと足音を響かせてド三流記者――バロッサが肩を怒らせて出てくる。

 ほぉ、随分といい服を着ているじゃねぇか。

 以前陽だまり亭で会った時はもっと庶民的な服を着ていたと思うが、ほんの数日で見違えるほど偉くなったんだな、お前は。


「不法行為を行ったのはそちらだろう、発行会チーフデスクのバロッサ・グレイゴン」

「は? 何か証拠でもあるわけ? 言いがかりはやめてほしーんですけどぉ?」

「カーラ、入ってきてくれるかい」

「……は、はい」

「――チッ。愚図が」


 俯くカーラがおずおずと前に出てくると、バロッサははっきりと舌を打ち、誰にも聞こえないような小さな声で悪態をついた。

 まぁ、俺には聞こえたけどな。

 耳を鍛えておくと、こういう時に役立つ。

 人は、咄嗟の時に本音をぽろりする生き物だからな。


 相手に騙されないようにするにも、相手を騙すにも、その『ぽろり』を聞き逃さないのが強みになる。だから俺の耳は鍛えられてんだよな。


「で、そいつが何かしたわけ?」

「彼女は、街道で違法に情報紙の移動販売を行っていたんだ」

「はぁ? 何やってんの、まったく。勝手にそんなことされると迷惑なんだけど?」


 バロッサはエステラではなくカーラに向かって言葉を発する。

 お前のせいで自分たちが迷惑を被っていると、全身全霊でアピールしている。

 あくまで自分は関係なく、寝耳に水だと。


「で? そいつが違法行為をしていて、なんで乗り込んでこられなきゃいけないんですかぁ?」

「同じような違法行為が恒常的に行われていないか、関係者に聞き取りをするのは当然のことだろう?」

「あ、そう」


 言って、バロッサは後方を振り返りながらデカい声を張り上げる。


「この中で違法行為してる人いるー?」


 バロッサの声に応える者は誰もいない。

 みな視線を逸らし、身動き一つ取らなかった。


「いないってさ。分かったら帰って、仕事の邪魔だから」

「それで帰れるほど、簡単な仕事じゃないんだよ、領主というのはね」


 エステラはあくまで笑みを絶やさない。

 たくましくなったものだ。

 まぁ、バロッサが小物過ぎるからかもしれないが。


「だったら、全員に『精霊の審判』でもかければどーですかぁ?」


 編集部内の空気が張り詰める。

 恐怖に引き攣る声がいくつか漏れ聞こえてきた。

 この中には、カーラ以外にも違法移動販売を行った者がいる。

 そりゃいるだろうな。売らなきゃ金にならないんだ。飯すら食えない。背に腹は代えられない。


「まぁ、アタシはここにいるみんなを信用しているし、違法行為をした人なんていないはずだけど、……もし、嘘を吐いている人がいたとしたら、それはその人個人の責任であって、アタシたち発行会がとやかく言われる筋合いじゃないですよねぇ? 違いますかぁ?」


 違法移動販売はあくまで個人の責任。

 おそらく「売ってこい」とは言っていないのだろう。「お金がないなら売ってくれば?」的な、強要になり得ない脅迫に留めているはずだ。

「まさか本当に売るなんて思わなかった」ってスタンスでな。


 このド三流がそこまで小癪なことを考えられるはずもないから、でっぷり会長のテンポゥロか、もしくはウィシャートの関係者にでも「そう言え」と吹き込まれているのだろう。

 自分より上位の者の言う通りに動いてその成果を享受している者は、「自分は守られている」と尊大になり、バックの大きさを過信するあまり自分が崩れかけの崖の上に立っていることにも気が付かないことがある。

 信頼しきっているバックの大物は、あっけないくらいにあっさりとリスクを切り捨てるなんてこと、考えもしないで。


 エステラに目配せをすれば、あらかじめ俺が言っておいた通りの言葉を口にする。


「では、君にも『精霊の審判』をかけさせてもらえるということだね?」

「えぇ、別に構わないわよ。アタシは違法な移動販売なんかやってないし。どーぞ、好きなだけかければいいじゃない。たーだーし、それでアタシが無罪だったら……分かってるよねぇ?」


 邪悪な笑みを顔面に貼りつけて、領主であるエステラに脅しをかけるバロッサ。

 本来ならナタリアがさっくりと排除するような行為ではあるが、ナタリアは若干感心したような表情で成り行きを見守っている。

 ちらりと一瞬だけこちらを向いた目は、「まさかここまで的確に言い当てるとは……」という驚きと賞賛が込められていた。


 こいつらには、事前に説明しておいた。

 バロッサにこういう言い方をすれば、こういう反応を返してくるから、そこでこんなセリフを言って、こういう言動を引き出してくれ――と。

 とりあえず、ここまではドンピシャ予想通りだ。

 予想が当たり過ぎて、エステラがちょっと笑いかけている。

 笑わずに、次のセリフを畳みかけろよ。


 この次で、ド三流の笑顔は二度と見られなくなるんだからよ。


「何か勘違いしているようだから敢えて訂正させてもらうけれど――ボクは君に『違法な移動販売をしたかどうか』なんて問うつもりはないよ?」

「……え?」


 不穏な空気を感じたのか、バロッサの表情が曇る。

 あぁ、残念。もう笑顔が消えてしまった。二度とお目にかかれないあの勝ち誇ったような笑顔が。


「君は先ほど、『この中に違法行為をした者はいない』と言ったね? そこで確認なんだけれど、『この中』というのに君は含まれ、違法行為はしていないと胸を張って宣言できるのかな?」


 バロッサが固まる。

 言葉が出てこないようだ。

 ほれ、エステラ。次のセリフ言ってやれよ。


「もし君が、『もちろん自分もここにいる者たちと同様に違法行為なんかしていない』と言うのであれば、そう宣言してくれたまえ。『精霊の審判』をかけさせてもらうから」

「い、いや……それは」

「もし君が、『この中』に自分は含まれない――つまり、違法行為をしていると自白するのであれば、領主として君を拘束し罰を科す」


「違法行為をしてません」と言えば『精霊の審判』をかけるし、「違法行為をしてます」と言えば『精霊の審判』は免れるが普通に罰せられる。

 さぁ、バロッサ。好きな方を選ぶといい。


「そ、それって、ズルくないですか?」


 ほほぅ、まだ悪足搔きをするか。


「アタシだって人間だから、生まれてから今までの中で一回や二回は違法なことをしたかもしれないじゃない? それを盾に取ってそういうこと言うのって、単なる脅迫っていうか、感じ悪いですよねぇ? それが領主のやることなんですか~って感じ」

「そうだね。ボクも完璧な人間なんていうのは数人しか見たことがない。君のように普通に生きていれば、幼心の冒険心から、少々法を逸脱した行為があってもおかしくはないし、それを咎めようとは思わないよ。だからね、はっきりと言ってあげるよ――君は、情報紙発行会の一員として、チーフデスクという役職に就く者として、法に背き他者の利益と尊厳を踏みにじるような非道な行いはしていないかい? ほら、期間は限定された。イエスかノーで答えておくれよ」


 小賢しい言い逃れをすることは目に見えていた。

 なので、正論で追い詰めるように言っておいた。

 やるなエステラ。なかなかいいアドリブだったぞ。


「そ、そんなの、罠かもしれないのに、軽々しく答えられるわけないじゃない。それ命令じゃなくて任意ですよね? ならお断りします。それとも領主の強権を振るうんですか? ただのか弱い一般市民相手に? それって非道ですよね?」

「答えないのかい?」

「答えるわけないじゃないですか。答える義務はないですから」

「そうか……残念だね」


 呟いて、エステラはバロッサに指を向ける。

 腕をまっすぐに伸ばして、『精霊の審判』の構えで。


「なっ!? 何する気よ!?」

「さっき君は言ったじゃないか、『精霊の審判』を『好きなだけかけていい』と。なのに今、『精霊の審判』への協力を拒んだ。これは、ボクとの間の約束事を反故にしたことになるよね?」

「か、かけていいとは言ったけれど、きょ、協力するなんて言ってないじゃない!」

「そうか。では、とりあえず一度かけさせてもらうよ。『精霊の――』」

「待ちなさいって言ってんじゃないのよ!」


 ガラスが割れそうなほどの金切り声を上げ、バロッサがエステラに飛びかかる。

 だが、その指がエステラに触れる前に、ナタリアによって床に組み伏せられた。


「領主への暴行は重罪ですが……、それくらいご存じですよね?」

「そいつが悪いんじゃないのよ! アタシを罠に嵌めようとするから!」

「ボクが君を罠に? 具体的に、どんな罠だと言うんだい?」

「それは……っ!」


 言えないよな。

「違法な行為を隠しているのに暴こうとしている」なんて、言えるはずがないよな?


 さぁ、どうする?

 正当な理由もなくエステラに牙を剥いたお前はどのみち重罪だ。

 今ここでエステラに『精霊の審判』をかけられるか、ナタリアにしょっ引かれて合法的に裁かれるか、どっちがいい?

 あぁ、分かってる。どっちも嫌だよな?

 往生際が悪いお前は、どっちも受け入れられないよな?


 だったら、やることは一つしかないだろう。

 ほら、早くやれよ。

 お前がすがれるのは、もうそれしかないだろう?



「会長! テンポゥロ会長、助けてっ!」



 そうだ、三下。

 お前ごときを潰しても意味がないんだからよ、さっさと黒幕をおびき出してくれよ。な?





 バロッサの金切り声を聞きつけ、編集部の奥からのそりとテンポゥロが現れた。

 相変わらずの肥え太った体。

 人を見下す下卑た目つき。


 奥の部屋から現れて、俺たちをギロリと睨む。


「何事だ?」

「圧力です! アタシたちの書く記事が脅威になったから、権力を使って潰しに来たんです!」

「バロッサ君、今の発言に『精霊の審判』をかけても?」

「やめろって言ってんだろ!?」


 覗き込むエステラに牙を剥くバロッサ。

 体を押さえつけられ、腕の一本も動かせないのに元気なもんだ。

 きっとこいつは、自分は負けないとでも思っているのだろうな。

『何に』かはひとまず置いておいて、自分が思う通りの結末になるのが当然で、そうならないのは自分以外の誰かが悪く、その誰かは悪なのだから正統に成敗されてしかるべきだと、そんな都合のいいロジックを真剣に信じ込んで生きているのだろう。


 不思議なもんだが、そんなトンデモ論理を信じて疑わない人間というのが一定数いるのだ。

 これまでの人生で、そんなに都合よくうまくいったためしなどなくても。自分の望む未来からかけ離れた生き様をさらしていたとしても。手痛いしっぺ返しを何度喰らおうとも。


『今満たされていないのはアイツが悪いからだ! アイツさえいなくなれば私は幸せになれる! 満たされる!』


 そんなことを本気で信じてしまう人間が、恐ろしいことに少なくない人数存在するのだ。

 うまくいけば自分の手柄、失敗すれば他人のせい。そんな生き方を恥ずかしげもなく、おかしいと感じることもなく、それどころか自分こそが正しいのだとわざわざ他人に食ってかかるようなヤツがいる。


 つまりこのド三流記者バロッサは、そういった類いの人間なのだ。



「とにかく、ウチの記者を離せ。無礼であるぞ!」

「無礼を働いた狼藉者をかばうというのであれば、あなたも領主へ害意を抱く者として取り押さえますよ?」

「よいのか? 私にそのような口を利いて?」


 領主付きの給仕長に対し、領主の前で尊大な態度を取る等級無し貴族のテンポゥロ。

 どうやら、思考回路はド三流記者バロッサと同じらしい。

 自分は絶対的に正しい。つまり間違っているのはそちらで、そちらが間違っているのであれば、領主であろうが自分に従わなければいけない。


 ……誰に教わったんだ、その謎理論?


「これは侵略となるぞ? 今はたまたま四十二区に編集部を置いているが、私はあくまで二十三区の貴族だ。他区の貴族――それも領主という立場の者が他区の貴族の所有する敷地内でその権力を誇示するなど言語道断! 事と次第によっては王族へ直訴して王宮騎士団の派遣を要請することだって可能であることを心せよ!」


 言ってやったぁ! みたいな顔をしているテンポゥロ。

 だが、エステラは落ち着き払った顔でにこりと微笑む。


「いいよ」


 そして手のひらを上向けて「どうぞ」という仕草を見せる。


「……ふ、ふふん。大方、二十三区の領主が味方にいると思って余裕ぶっておるのだろうが、甘いぞ小娘。政治の世界は道理や綺麗事だけでは計れぬものであることを貴様も知るべきだ。仮に二十三区領主が割って入ってこようと、その頭ごと押さえつけて貴様を弾劾、追放することなど造作もないのだ! 貴様らは知らぬであろうが、こちらには大きな力を持つ後ろ盾がいるのだよ。くくく……二十三区領主を味方に引き入れた程度で随分と大きく出たものだが、身の程というものを知るのだな、新参者の小娘が!」

「ウィシャートの名前を、そんな軽々しく乱用しても平気なのかい?」

「――っ!?」


 エステラがウィシャートの名を出すと、テンポゥロが目を見開いた。

 いや、もうすっかり周知の事実だから、お前らの後ろにウィシャートがいて、組合と連動して四十二区に攻撃しかけてきてるの。

 え、なに? バレてないと思ってたの?

 ウィシャートはもうとっくにバレてると思ってるはずだぞ。

 情報共有できてないのか?


 あぁ、そうか。

 お前、もう間もなく切られるもんな。

 そんな親切に教えてはもらえないよな。


「ふ……ふふ、そうか。カーラか。カーラがあることないことをしゃべったのだな? おのれの罪を軽減しようと敵に阿る恥知らずが。ここまで面倒を見てやった恩を忘れおって! ろくな死に方をせんぞ、阿婆擦れが!」


 あばずれって……

 売り子女子のカーラがエステラに捕まって、おのれの身可愛さにぺらぺらと全部を話したと思っているようだ。

 そこしか情報が漏れた可能性は考えられないって? 脇が甘過ぎだろ、おい。


「だが、……ふふふ、それで勝ち誇っているようでは、やはり片生りと言わざるを得ぬな」

「三等級貴族がその後ろに控えているってことを言いたいのかな?」

「ぬぐっ……!?」


 さらりと、エステラが指摘すると、テンポゥロはあからさまに顔色を変えた。

 それ、秘密だったのか?

 ここにいる関係者全員知ってるけど。


 まぁ、普段からこうまであからさまに権力の影をチラつかせていれば、そこかしこに情報をバラ撒く結果になるだろうよ。


「ふ……ふふ、それが分かっていてこのような狼藉を働くということは……よほど潰されたいらしいな。家程度では済まさんぞ、この区ごと全部だ! 分かっているのか!?」


 バレてしまっては仕方ない……、ってのは悪党の常套句ではあるが、自分でゲロッたようなもんだろ、今の? それでよく開き直れるよな。

 とんだ独り相撲だよ。


「さぁ! 自分の立場が分かったら、さっさとこの女を退けなさいよ愚図領主! 大体ね、最貧区のくせに生意気なのよ! あんたらは目上の区に対してへこへこ頭下げてればそれでいいのよ! そんなことも分からないから最貧区なのよ! 若い女だからってね、甘やかしてもらえると思ったら大間違いだから!」

「ナタリア」

「はっ」

「ぎゃうっ!」


 エステラの指示で、ナタリアがバロッサを拘束する腕に力を込めた。

 生易しいなぁ。一回持ち上げてから床に顔面叩きつけてやればいいのに。


「貴様っ、大概にせぬと――」

「先ほど、そこの地べたに這いつくばっている彼女に言われた言葉なんですが、似たような言葉をあなたにお返ししなければいけないようです」


 静かに話すエステラの声が室内の空気を冷やしていく。


「そっくりそのままお返ししたいところなのですが、いかんせん彼女には品がなさ過ぎる。レディが口にするのは少々憚られるので多少の改変はご容赦を」


 赤い瞳を細めて、エステラがテンポゥロに向かって言い放つ。


「『お好きにどうぞ』」


 先ほど、ド三流が「やれるもんならやってみろよ」的なことを言っていたのをそのままお返ししたわけだ。


 この手のヤツらは、自分が優位に立っていると勘違いしている時は居丈高に煽るような言葉を吐くのだが、それと同じ言葉を逆の立場で――自分たちが追い詰められている場面で返されるのが何よりムカつくのだ。

 機会があればやってみるといい。面白いようにぶち切れやがるから。


「これも、そこの這いつくばり女子が言っていたのですが……見苦しい抵抗をしてボクを倒せなかった時は……『分かっているよね?』」


 どんな脅しの言葉を吐かれようが、エステラは怯まない。

 むしろ、向こうが喚けば喚いただけカウンターの威力は上がっていく。

 今、エステラは連中からのヘイトを溜め込んでいる途中なのだ。

 そして、溜めて溜めて、ぱんぱんに膨れ上がったヘイトを一気に叩き返す。


 そんなシナリオがはっきりと描けているから、随分と余裕があるように見える。

 ホント、たくましくなっちゃってまぁ。


「そもそも、君たちは三等級貴族どころか、ウィシャートですら引っ張り出すことは出来ない」

「ふははは! 等級無し貴族が領主を動かすことなど出来ぬと、そんなことを思っておるのだろう? だが、残念ながらそれは見当違いだ! 貴様は知らぬだろうが、我らの結びつきは未だかつてないほど強固なものになっておるのだ。実はある頼まれごとをしておってな。それがある限り、我らの絆は鋼の鎖よりも――」

「土木ギルド組合」


 エステラの一言で、テンポゥロのご高説が止まる。

 言葉を止めたテンポゥロに、エステラは貴族らしい美しい笑みを向ける。


「最近、元気がないようですね」

「……貴様」


 なんにも知らないと思っていたんだろうな。

 若く、頼りない、最貧区の、女の領主は。

 周りの者にいいように操られ、お飾りでヘラヘラ笑って、群衆の人気取りにでも利用されているのだろうと、そんなことを思っていたのだろう。


 お前ら、エステラを舐め過ぎだ。



 こいつはな、俺が当初『油断できない』と思った切れ者なんだぞ。



 ま、最近はポンコツ化が著しいのでその評価も下方修正が必要かもしれんが。

 それでも、権力をチラつかせてふんぞり返るしか能がないテメェらが太刀打ちできる相手じゃねぇよ。


「君の言う鋼の鎖より強固な絆があるなら、組合はもうとっくに救済されていて然るべきなんじゃないのかい?」

「……くっ、組合は、所詮組合。だが、我が情報紙発行会は違う! 我が発行会こそ、ウィシャート様の利益となり、力となれる存在なのだ」

「その割には、金銭的援助もしてくれていないようだけれど」


 情報紙発行会は現在、明らかな資金不足に喘いでいる。

 船なら、船首を除いてすべてが沈没している状況だ。

 救命ボートで数名だけは生き延びられるかな~くらいの惨状だな。


「断言しよう。ウィシャートは動かない。いや、動けないよ。今回のことではね」

「バカなことを申すな! ウィシャート様は情報紙の最大スポンサーだ。情報紙が領主の権力により不当な扱いを受けたとあれば、必ずや腰を上げられる! 我らに盾突いた報復を存分に味わうがいい!」

「そうだね。区内の一組織を、領主の独断で潰したとなれば、スポンサーは黙っていないかもしれないね」

「当然であろう!」

「けれど、これは組織内の揉め事だから」

「何を申すか!? 領主による外圧にほかならぬではないか!

「いいや。これは、君たち情報紙発行会内部の、――役員同士の諍いなんだよ。そうですよね、ミスター・コーリン」


 エステラの声に、もじゃもじゃ頭の爺さんが入室してくる。

 タートリオの登場に室内がざわめいた。


 一部は顔を青ざめさせ。

 一部はあからさまな嫌悪感をその顔に浮かべ。


 そして、一部は待ちわびた救援がやって来たような安堵と感動に輝く涙を浮かべて。




「久しぶりに顔を出してみれば……随分と環境が悪くなったようじゃのぅ」


 タートリオを睨みつけるテンポゥロとバロッサ。

 そして、その二人とよく似た顔をした記者が数人いる。

 あいつらはテンポゥロ派の記者なのだろう。おそらく、バロッサ共々、他の記者を踏み台にして美味い汁を啜っていたに違いない。


「コーリンっ!」

「うむ、久しいぞい、セリオントの小倅」


 今にも噛みつきそうな激しい怒りを滲ませるテンポゥロに対し、タートリオは凍てつくような怒りを瞳に込めている。


無用な権力の行使(パワーハラスメント)をせぬよう、役員が職場へ立ち入ることは禁止すると決まったはずだぞ!」

「な~にが、決まったはずじゃぞい。おぬしが会長などと名乗って一人で勝手に決めたことではないか」

「ふん! 運営手形の多数決をとった公平な決定だ。そもそも、そのような運営方法をとるというのは創業以来からの決まりではないか!」


 タートリオがテンポゥロに抗議しに行かない理由はそこにあった。

 行かないのではなく、行けなかったのだ。

 正攻法でタートリオを言い負かす自信がなかったテンポゥロは、『役員』という肩書きを持つタートリオを排除するため、『役員の編集部内への立ち入りを禁じる』という規約を設けた。

 表向きは権力による記者への悪影響を排除するため。

 だが、実際はタートリオ外し以外の何物でもない。

 どんなに理不尽であろうと、規約に書かれてしまった以上違反すればカエル。そうでなければ手形没収。

 どちらにせよ、文句を言いに行った時点で発行会へ意見する権利を失ってしまうのだ。


 いつか、情報紙を元の姿に戻したいと思っていたタートリオは、苦汁を舐めつつ反撃するタイミングを窺っていた。

『役員』を辞め『会長だからセーフ!』とガキみたいな屁理屈を振りかざし編集部へ入り浸るテンポゥロに引導を渡すその時をな。


「役員が編集部に立ち入ったのだ! さぁ、今すぐ手形を置いてここを去れ! ここは記者の聖域、部外者が入っていい場所ではないのだからな! それとも、私の手でカエルにしてやろうか!?」

「おや? ここは編集部じゃったかのぅ?」

「なにを白々しい! ここは、我々が契約をし、正式に借り受けた編集部だ! 仮住まいだとしても、契約が正式に交わされた以上、ここは編集部だ!」


 そうだな。

 規約を作った時の編集部とは場所が変わったからあれは無効、なんてのは通用しない。

 契約が生きている以上、ここが情報紙発行会の編集部だ。


 契約が生きている間は、な。


「残念だけれどね、ミスター・セリオント」


 エステラが、いきり立つテンポゥロの前に立つ。

 そして、このおっさんがま~ったく気付いていない事実を告げる。


「発行会側からの一方的な契約違反により、この場所はもうすでに編集部ではなくなっているんだよ」

「なんだと!? 小娘っ、契約を反故にするというのか!?」


 まき散らされたテンポゥロの唾が飛散し、でっぷり太ったおっさんが足を一歩踏み出そうとしたその瞬間――




 ――ドンッ!




 と、室内の空気が爆発した。

 何事かと思ったら、ナタリアが凄まじい形相でテンポゥロを睨みつけていた。

 ナタリアに取り押さえられていたバロッサに至っては、今の衝撃で気を失ったのか白目を剥いて口の端から泡を吹いている。


「……黙って聞いていれば、何度も小娘小娘と…………我が主への侮辱は万死に値するぞっ!」


 びりびりと空気が振動する。

 紙やすりで肌をこすられたのかと思うような、ひりつく痛みが全身に走る。


 あ、これ、ナタリアの放った殺気なのか。

 ……えぇ……ルピナスのヤツとは比較にならないくらい濃いんですけど?


 ナタリア、マジ切れするとこんなおっかないの?

 初めてリカルドの館へ行った時も相当キレていたけど、これほどではなかった。

 よかったなぁ、リカルド、適当なところでやめておいて。

 あれ以上やってたら、お前たぶん死んでたぞ。


 ナタリアは、バロッサを押さえつけていた手を離し、しゃがんでいた体勢から体をすっと伸ばして美しい姿勢で立ち上がる。

 一応の拘束なのか、のびるバロッサの背中に右足をドンッと乗せ、ぐっと体重をかける。

 そして、懐から一枚の紙を取り出した。


 この建物の賃貸契約書だ。


「この建物を貸与するにあたり、以下のような禁止事項が定められています。『貸主である領主へ危害を加えぬこと、または企てぬこと』。領主に借りた建物で領主へのテロ行為を画策されぬための規約ではありますが、先ほどこちらの『チーフデスク』という相応の役職にある人物が領主を害する目的で掴みかかろうとしました。それは明確な規約違反であり、その行為をもって第二項第三条『禁止事項が認められた場合は即時賃貸契約を解除し専有権は貸主である領主へと返還されるものとする』が適用されました。つまり――この建物はすでに編集部ではなくなっているのです。どうぞ、速やかな退去を」


 澱みない物言いに、誰もが言葉もなくただ耳を傾けるしか出来なかった。

 口を挟むなどという愚行を許さぬ迫力を纏ったナタリアの声に、他のすべての音が鳴りを潜めてしまっていた。


「そういうことらしいぞい、セリオントの小倅よ」


 タートリオがゆっくりとした歩調でテンポゥロの眼前へと歩いていく。

 真正面から肥え太った顔を睨みつけ、爺さんとは思えない覇気のこもった鋭い声音で告げる。


「潮時じゃぞい」


 セリオントの額に大粒の汗がにじむ。

 眼球が細かく揺れ、動揺がはっきりと見て取れる。

 規約が契約がと御題目を上げようと、格の違いは理解しているのだろう。

 目の前にタートリオが現れれば、おのれの矮小な権威など吹き飛んでしまうと。


「ふ……ぅっ! ふ、はは、よいのか? 私に逆らうと、スポンサーであるウィシャート様が黙ってはおらぬぞ」

「ほぅ。領主が一組織に権力を持って介入し圧力をかけると?」

「そうだ! 私の行動は、ウィシャート様の望まれたものなのだからな! いわば名代なのだ、私は!」

「それこそ、先ほどお主が申しておった侵略にほかならぬではないか。のぅ、ミズ・クレアモナよ」

「そうですね。彼の言葉を借りるのであれば、『他区の貴族――それも領主という立場の者が他区の貴族の所有する敷地内でその権力を誇示するなど言語道断! 事と次第によっては王族へ直訴して王宮騎士団の派遣を要請することだって可能であることを心せよ!』ですね」


会話記録カンバセーション・レコード』を手に、先ほどテンポゥロが言った言葉を繰り返すエステラ。

 な? 権力バカは自分の発言に首を絞められるだろ?

 なんでか知ってるか? バカだからだよ。


「情報紙発行会の役員同士が意見の対立で揉めている。たったそれだけのところに他区の領主が踏み込んできて権力を振りかざすというのかの? それはまさに、権力者による侵略じゃぞい。それが許されるなら、三大ギルドも権力者に侵略され形骸化させられかねんのぅ……そんなことになれば――」


 タートリオがふいっと入り口へ視線を向けると、そこから巨大な筋肉の塊がぬっと現れた。


「そんなことになるなら、ワシらは協力して権力に抗わなきゃなんねぇなぁ。戦争だぜ、そうなりゃ」


 木こりギルドギルド長スチュアート・ハビエル。

 自身が守る木こりギルドが領主や王族からの干渉を受け形骸化されるならば、死力を尽くしてそれに抗う気概のある男だ。

 当然、どこか一つが狙われれば、他のギルドも足並みを揃えてそれに抵抗するだろう。


「木こり、狩猟、海漁と、その他多数のギルドや組合と連携を取り、そんな危険な思想を持つ領主には断固抗議をしないといけねぇわけだが……三十区領主ウィシャート家は、そんな侵略を目論んでいるってことで間違いないのか? えぇ、『名代』さんよぉ」


 テンポゥロは迂闊にも、自身をウィシャートの名代だと口にした。

 ハビエルのヤツ、まんまとその言葉を利用しているな。嬉しそうな顔をしちゃってまぁ。


「ボクが懇意にしているギルド長たちが、権力によって不当な圧力を受けるというのであれば、ボクは協力関係にある外周区の各領主たちや『BU』と連携して、その不穏因子に対し正当な抗議と反攻を行う準備を進めると、ここに宣言しよう」


 言葉に詰まるテンポゥロに、エステラが追い打ちをかける。

 アドリブだが、なかなかいい追い打ちだ。

 ギルドVS領主ではなく、領主ギルド連合VSウィシャートという構図に塗り替えたな。


「そういう話であれば、『BU』の代表である私も協力をしよう。有力な組織の独占、私物化は見過ごすことの出来ぬ行為であるからな」


 背筋を伸ばし、偉そうな態度でゲラーシーが入ってくる。

 絶対マーゥルに「行ってこい」って背中を押されたくせに、さも自分で判断して乗り込んできたみたいな顔をしている。

 ゲラーシーみたいな見透かしやすいヤツが嬉々として前に出てくると……バックにチラつく影の支配者が、一層不気味に感じるよ。

 あ、マーゥルも入ってきた。

 これで、全員入ってきたわけか。


「さぁ、セリオントの小倅よ。いや、ウィシャートの名代、と言った方がよいかの?」

「ぐ……っ!」


 その言葉を撤回しなければ、ウィシャートは外周区と『BU』、そして三大ギルド他複数のギルドを相手に抗争する羽目になる。

 そんなこと、させられねぇよな?

 ただの子飼いの、小物の、簡単に切り捨てられるおっさんが、そんな大それたこと、出来るわけねぇよな?


「……名代は、言葉の綾だ……」

「では、ウィシャート家に侵略の意思はないと?」

「当然であろうが!」


 がなり立てるテンポゥロを、ナタリアが静かに睨みつける。

 それだけでテンポゥロは「うぐっ」と言葉に詰まった。


「いや……まぁ、常識的に考えて、そのようなことはされないであろう……」


 随分とトーンダウンしたが、ウィシャートの名を持ち出すことは諦めたようだ。


「では、役員同士の――発行会内部の内々の話し合いを始めるぞい」



 タートリオが嬉しそうに、しわだらけの顔で笑った。





 カツンと、タートリオが杖を鳴らした。

 軽く持ち上げて床に打ちつける。

 たったそれだけの行動で、タートリオの背後に椅子が用意された。


「……あ」


 その場にあった荷物を退けた者と、椅子を運んできた者が同時に息を飲む。

 まるで条件反射のように体が動いてしまったとでもいうのだろうか。


「うむ。合格じゃぞい。まだまだ、なまってはおらぬようで安心したぞい」


 一見すればなんのことか分からず、貴族が記者たちをアゴでこき使っているように見えるが、これはトレーニングなのだそうだ。

 ほんの微かな音や変化、動作、そういった些細なことを見逃さない訓練。

 そういうものを見逃さないことがいい記者の条件なのだと、タートリオがここに来る前に語っていたのだが、……なるほど、あの辺はタートリオが目をかけていた記者ってわけか。


 確かに、記者なら相手の表情の変化や、周りの変化に目敏く気が付かないとな。スクープを取り落としてしまうだろう。

 そうだな、たとえば……


「入ってきたらどうだ?」


 廊下へ繋がるドアを開けると、そこにわらわらと男たちが群がっていた。

 先ほど寮へと何かを隠しに行った者たちだ。


 何を隠したのかは知らんが、それはきっと徒労に終わる。

 悪事の証拠があろうが、うまく隠せていようが、勝敗はもうついている。

 セリオントに加担した者たちは、悪あがきをする時間すら、もう与えてはもらえないのだ。


「……な、なんで……」

「ドアの向こうにいるのが分かったのかって? そんだけ気配させてりゃ気付くだろう、普通」


 人は、そこに存在するだけで気配を生む。

 呼吸だったり衣擦れの音だったり。

 なんの音を発さずとも、息を潜めている時特有の緊張感は空気を伝ってくる。


 こういう些細な変化に敏感でないと、いい記者にはなれない――ってことを、タートリオが言っていたんだよ、ここに来る道すがら。

 だから、テンポゥロやド三流記者はいつまで経ってもダメなんだと。


 テンポゥロ派らしい記者たちを室内へ入れると、連中は足早にテンポゥロの背後へと回った。

 途中、床の上で失神しているバロッサを見て「ぎょっ」っと目を剥いて。


 編集部内の人間が、テンポゥロのいる奥側と、俺たちのいる出入り口側になんとなく二分された。

 向こうが、テンポゥロの、そしてウィシャートの恩恵を受けて好き勝手やっていた連中。

 こちらに残っているのが、そのせいで苦労を強いられていた者たちなのだろう。

 割合としては2:8……いや、1.5:8.5くらいか。

 テンポゥロの腰巾着は少数精鋭なようだ。


 信用できる人間が少ないんだろうな、あのでっぷり会長は。

 人徳なさそうだもんな。


「さて、と――」


 タートリオが用意された椅子に腰掛ける。


「誰か、ここに居ない記者を集めてきてはくれんかの? 全員の前できっちりと話を付けたいんじゃぞい」

「はい! 行ってきます」

「自分も、手伝います!」


 タートリオの頼みを聞き、すぐさま四人の男女が編集部を飛び出していった。

 これまで、テンポゥロに睨まれ、押さえつけられ、何も行動できなかった者たちが、タートリオの登場で変化を見せた。

 自我を取り戻したかのように、考え、行動を起こしている。


 うん。

 いい目をしている。


「どうしたぞい? 座らんのかの? これでは、ワシがおぬしを説教しておるようじゃぞい」


 かっかっかっと、どこぞのご隠居のように高らかに笑うタートリオ。

 笑われ、テンポゥロが顔を真っ赤に染める。


「おい! 椅子を持ってこい!」

「へ? ……はい?」

「椅子だ! 早くしろ、愚図が!」

「は、はい!」


 近くにいた男を蹴飛ばし、椅子を持ってこさせる。


 この状況からタートリオを追い出して、何もなかった、明日からまた元通りに、とはいかないことが理解できたのだろう。

 テンポゥロが望む日常を取り戻すには、全記者が見守る中でタートリオを打ち負かし、正義は自分にあることを知らしめなければいけない。


 ウィシャートの権威を引き合いに出せない時点で、ヤツが打てる手は決まっているけどな。


 五分ほどして、編集部に記者たちがどっと押し寄せてきた。

 入ってきた者たちは男女問わず、どこか泣きそうな、でもキラキラした瞳をしていた。


 タートリオが来ていると、そんな伝言を聞いたのだろう。


 好かれてるなぁ、タートリオ。

 情報紙に憧れてここにいるヤツにとっては、タートリオのやり方こそが理想だろうからな。

 気持ちは分かる。


「さて、これで全部かの? ……見知った顔がいくつか見えんようじゃがの……」


 テンポゥロに刃向かい解雇された記者たちのことだろう。

 彼らを思ってか、タートリオ派の記者たちが悔しそうに唇を噛んだ。


「編集長よ」

「へひぅい!?」


 テンポゥロの影に身を隠し息を潜めて無に徹していた編集長が奇っ怪な声を上げる。

 あいつもタートリオが怖いらしい。


「おぬし、上がってきた記事をきちんと精査しておるのか?」

「え、あ、いや……それは……」

「しとらんのか?」

「職務に対しては、私なりに向かい合い納得のいくように取り組んでおりますです、はい」

「おぬしが納得しとるかどうかなんぞどーでもいいんじゃぞい」


 トンッと、杖が床を打つ。


「それは、情報紙に載せるに相応しい記事であると判断しておるのかと聞いとるんじゃぞい」

「そ……れは…………」

「情報紙の規約には、編集長は情報紙の質を落とさぬよう最善を尽くし、その責務を全うすると明記されとるぞい。無論、知っておるの? 編集長になる時に説明を受ける決まりになっておるからの」

「それは、その……」

「説明を受けて、知っておるの?」

「…………」

「…………」

「…………はい」


 無言で逃げようとした編集長だが、タートリオの無言の圧力には抗えず、小さく首肯した。


「では、宣言できるよのぅ? 『自分は、情報紙の質を落とさないという観点で記事を精査し自信を持って紙面に掲載した』と。ほれ、宣言してみるのじゃ」

「い、いえ、ですが、それはその、完璧を目指すことはもちろん理想として胸に持っておりますが、必ずしもその通り遂行できるわけではないということもご考慮いただきたく――」

「つまり、質が落ちることを承知で、そこでのびておるバカな女のデタラメな記事を紙面に載せておったんじゃの?」

「……いや、それは…………」

「金のために、情報紙の紙面を穢したな?」


 タートリオの怒りに、編集長は「ひぅっ!」と喉を詰め、慌ててテンポゥロの背に身を隠した。


「セ、セリオント様! 会長であらせられるあなた様が、あ、あの、時代遅れの老いぼれに鉄槌を下してやってください! 私はどこまでもあなた様について行きますゆえ!」


 自分ではどうしようもなくなり、テンポゥロに泣きつく編集長。

 そうか。

 なら、どこまでもついて行けばいい。


「ミスター・コーリン。もう、やめにしないか?」


 追い詰められているテンポゥロが、それでも不適な笑みを浮かべてタートリオに語りかける。


「大方、そこの貴族たちに焚きつけられ、情報紙へ返り咲きたい一心でここまで乗り込んできたのであろうが――それは、貴殿が最もよしとしない行動ではないのか?」


 この段になっても悪あがきをやめないテンポゥロ。

 状況が不利だと悟るや、今度はタートリオの心情に訴えかける作戦に出るようだ。


「その者たちは結託し、おのれたちの意に反する者を排し、圧力をかけ、おのれの利益だけを得ようとしている者たちなのだぞ? 街門の警備の拙さを指摘されれば、論点をずらしウィシャート様を非難し、屁理屈を重ねてその場にいた貴族たちを煙に巻いた。そうして、街門と港から生まれる利益を独占しようとしているのだ」


 ほぉ、随分と都合よく事実をねじ曲げているな。

 ウィシャートの非がすべてなかったことにされている。


「情報紙への攻撃にしてもそうだ。類似品をこれ見よがしに作り、金に物を言わせてこちらの読者を奪う手管は悪辣の一言に尽きるではないか。それに、この建物にしてもそうだ。集団で乗り込んできて、自衛をすれば契約違反だと喚き散らす。実に見苦しいとは思わぬか?」


 こいつは、分かっていて事実をねじ曲げているのか、本気で自分が純粋な被害者だと思い込んでいるのかどっちなんだ?

 後者だとしたら、かなり重症だと言わざるを得ないが。


「貴殿もきっと騙されているのだ。たぶらかされているのだ。拐かされているのだ。おそらく、私を追い出し、発行会の会長にしてやるなどと甘言を垂れておったのであろう? だがな、仮に連中の目論見がうまく運び、貴殿が発行会の実権を握ったところで、貴殿の望む情報紙は作れぬぞ。きっと、権力を振りかざし、恩着せがましく今回のことを蒸し返し、あの手この手で自分たちにとって都合のいい記事を書かせるに決まっている」


 それはお前だろー、って、言っちゃいけない場面だっけ、今?

 ウィシャートに金だか権力だか、それ以外の何かしらの『エサ』をもらって、ウィシャートにとって都合のいい記事を量産しているのがお前らじゃねぇか。


「確かに、私は自分が思う正義のために少々強硬な手段を取ったかもしれない。そこは謝ろう。だが、真実を広く知らしめ、弱きを守るために強きを挫かんとするジャーナリズムは持ち合わせておる! その点では、私と貴殿は今でも変わらず同志であると信じている! 過去のわだかまりは捨てて、今一度、共に情報紙を盛り立てていこうではないか!」


 デカい声で言い切り、立ち上がり手を差し伸べるテンポゥロ。

 その顔は「これで、私の勝ちだ」という自信が浮かんでいる。


「志は、今も同じ――ということかの?」

「その通りだ! いや、かつてよりも我らの絆は強固になったと確信している!」

「そうか……」


 視線を下げ、杖に掴まってゆっくりと立ち上がるタートリオ。

 テンポゥロの真正面に立ち、差し出された手を見つめ、ゆっくりと腕を持ち上げる。


「貴殿が話の分かる御仁でよかった」


 ゆっくりと持ち上がるタートリオの腕が、握手をするためのものだと察したテンポゥロが勝利を確信して笑みを浮かべる。

 だが、タートリオの腕はテンポゥロの手を取らず、地面と水平に肩の高さまで持ち上げられる。


 そして、タートリオは腕をまっすぐに伸ばしてテンポゥロを指さした。

『精霊の審判』の構えだ。



「変わらず志を同じにする同志に一つだけ問う。偽れば、貴様はカエルじゃぞい」




 タートリオの瞳は、これまでにないくらいに真剣そのものだった。







あとがき




先日、河口湖へ行ってきました!


(」゜▽゜)」< ふーじーごーこー!


実は二回目なんです、河口湖。

二年ほど前に行ってるんです。

富士回遊に乗ってみたくて

富士山の見えるホテルを予約して、うっきうきで準備していたら――



ニュース「関東に台風直撃!」

JR東日本「線路に土砂流入で河口湖方面通行禁止!」

宮地「マジでか!?」



10月20日に旅行の予定だったんですが、

10月12日に台風が来ちゃいまして……


しかも、相当大きな台風だったため一週間経っても復旧の目途は立たず


泣く泣くキャンセルしました……富士回遊を



で、高速バスで河口湖へゴー!

(*´▽`*)/ゴー!



高速バスも楽しかったですよ~☆

えぇ、めげません、へこたれません、あきらめません!

それが、昭和の男というものです!


まぁ、

「部屋から富士山が『ドドーン!』と拝める」が売りのホテルの窓から富士山が見えないくらいに曇ってましたけれども!



仲居さん「あっちの方に富士山があるんです」

宮地「……真っ灰色ですね」

仲居さん「でも、富士山は動きませんから、今日もありますよ」



台風の影響はこんなところにも……



という二年前の旅行から、

早いもので二年が経ちまして、

「え、二年前からもう二年も経ってるの!?」と驚きも一入でしたが、

今回こそはと、



乗りました、富士回遊!



日本で一番富士山の近くを走る電車ということで、

窓一杯に富士山が、ドーン!


車内からぱっしゃぱっしゃ写真を撮りまくりました☆

この後、電車降りたらいくらでも写真撮れるのに!



今回は日帰りだったので、行き先を絞って駆け足での観光となりました。

目的地は、ハーブ園!


『ハーブ庭園 旅日記』


というところにお邪魔しました。


コロナ以降、旅行にも行けず、

お散歩もほとんどしなくなり

楽しみといえば、部屋を彩る植物たちを愛でることくらい。


最近、ハーブに興味津々なのです(*´▽`*)



で、目的地に着いたら、

駐車場から富士山が ドーン!


めっちゃ近い!

すぐそこに富士山!

施設に入る前に写真ぱっしゃぱっしゃ撮りまくってしまいました。


フォルダーを埋め尽くす富士山。


時間がないのでサクッと施設に入ろうと足を踏み入れたところ、

美しい像がそこかしこに。

女神像や、神話に出てきそうなモチーフの像がお出迎えしてくれまして、

思わずシャッターを切りまくり。


女性の像って、本当に美しいですよね。

思わず、接写につぐ接写で、またフォルダーを圧迫してしまいました。



従業員さん「すみません。女神像のおっぱいを接写するの、やめてもらっていいですか?」

宮地「いえ、人体の富士山ですので」

従業員さん「おっしゃってる意味がよく分かりませんが?」

宮地「富士山は日本人の心。おっぱいもまた、日本人の心。つまり、富士山はおっぱいなんです」

従業員さん「すみません、訂正します。おっしゃってる意味がまったく分かりません」



フォルダーを埋め尽くす女神のおっぱい。



で、ハーブを育てているという温室へ

そこでハーブのお世話をしているお姉さんに出会いまして



お姉さん「いらっしゃいませ。こちらは初めてですか?」

宮地「はい。初心者です」

お姉さん「では、いろいろ触って楽しんでいってくださいね」

宮地「いいんですか!?」

お姉さん「『ハーブを』ですよ?」

宮地「あぁ、そっちかぁ~」



ふぅ、危うく塀の中に連行されるところでした。

日本語って難しいですねぇ



ハーブは、葉っぱに鼻を近付けても香りがしないことが多いんですが

指で軽~く葉っぱを撫でたり、優し~く揉んだり、茎を揺らしてやると

途端に香りが「ぱぁ~!」って広がるんです。


こちらの温室では、そんな感じでハーブに触れさせてもらえたので

いろんな香りを楽しむことが出来ました。


平日の朝だったので、他にお客さんもいませんでしたし、

ハーブも、従業員さんも、女神のおっぱいも一人占めでした。


すごくいいところなので、皆様も是非行ってみてくださいね☆



あと、富士山が堪能できる展望デッキというのがありまして、

そこにはハンモックとか置いてありまして、

ハンモックとかあったら、とりあえず乗るじゃないですか

他にお客さんもいないわけですし

今ならハンモックも富士山も一人占めなわけですし!



宮地「ゆらゆら~。これは最高オブ最高だね~」

店員さん「いらっしゃいませ。ゆっくり楽しんでくださいね(くすくす)」



……他にお客さんがいない上に、私が表のハンモックで遊んで全然展望デッキに入ってこないから、受付のお姉さんが外まで見に来ちゃいまして……

めっちゃゆらゆらしてるところを見られました……はじゅい(*ノωノ)



展望デッキは、まさに富士山の特等席と言わんばかりの絶景で

すーっごく気持ちよかったです。


ラウンジでは富士山をモチーフにしたソフトクリームや、

火の神をイメージしたコノハナサクヤヒメのパフェとか、

富士の樹海をイメージした抹茶のパフェとか……なぜ樹海をイメージしたし!?(;゜Д゜)


いろいろあったんですが、私は定番のふじさんソフトクリームを購入♪


富士山をバックにふじさんソフトクリームの写真を撮ろう~



として、ソフトクリームを落とす……orz

子供か……



売店のお姉さん「あ~、よく落とされるんですよね~」

宮地「……ホントに?」

売店のお姉さん「えぇ。お子さんがよく」

宮地「……大人は?」

売店のお姉さん「…………童心に返った、ということで」



慰めてもらい、

さらに、もう一回ソフトクリームを盛り直してくださいました。

なんていい人!?

なんていいお店!?


皆様、是非行ってください!(感謝の宣伝!)



あと、園内ショップでお土産を買おうとしたところ、

気のよさそうなオジサマ店員さんが



オジサマ「化粧水、試してみますか?」

宮地「私が?」

オジサマ「男性でもご使用になれますよ」

宮地「じゃあ……(つけつけ)めっちゃすべすべする!?」

オジサマ「でしょ~(にこにこ)」



宮地さん、

河口湖でオジサマと化粧水談議に花を咲かせる。


そんな日が来ようとは。



で、店内をぷらぷら見ていると――



お姉さん「ピーチティーの試飲ができますが、もしよろしければいかがですか?」

宮地「桃茶かぁ~、どうしようかなぁ~」

お姉さん「是非(ぷるん)」

宮地「いただきましょう!」



桃茶を勧めるお姉さんの『桃ぷるん』につられました。

いや、ここでは『人体の富士山』と呼ぶべきか。



宮地「ん! 美味しい。甘い香りがして、それなのに後味がしつこくない」

お姉さん「飲みやすいですよね。あ、もしよければブルーベリーのジュースも試飲してみますか?」

宮地「じゃあ、折角なんで」

お姉さん「持ってきますので、それまでこちらを召し上がってください」

宮地「これは?」

お姉さん「干しブドウなんですけど、高級なブドウだけを使っていて、一つ一つ皮を剥いてあるんですよ」

宮地「本当だ、皮がないせいかあっさりしているのに甘みが深い!」

お姉さん「一箱400円なんですが三箱買っていただけると千円になるんですね。でも、今日は平日の朝早くにお越しくださったので、もう二箱付けちゃいます!」

宮地「いや、そんなに干しブドウは食わん!」(;゜Д゜)



5箱は、食べないかなぁ。



お姉さん「このブルーベリージュースは、ポリフェノールと食物繊維が豊富なので、眼精疲労や目からくる肩こり、それと便秘やお肌のトラブルも解消してくれるんですよ」

宮地「ここの店員さんが、やたらと私のお肌を守ろうとしてくる!?」

お姉さん「お味はどうですか?」

宮地「甘い、なのにすっきりしていて飲みやすいですね。ヨーグルトにかけても美味しそう」

お姉さん「絶対美味しいですよ」

宮地「じゃあ、一本買っていこうかな」

お姉さん「今ですと、十本買っていただくとかなりお得に――」

宮地「だから、そんなには飲まんって!」



お姉さん。

許容量ってもんがあるんじゃけぇ。



お姉さん「じゃあ、富士山のお水で淹れたお茶をお持ちしますね。あ、それまで、この岩盤浴が体験できる六晶石のホットパットを使ってみてください。あ、桃のコンポートとか食べます?」

宮地「なんか、お祖母ちゃん家ばりにいろいろ出て来る!?」



久しぶりに行ったお祖母ちゃんの家って

やたらといろいろ出てきませんでしたか?

「あ、あれも食べるか?」「あれ持ってきてやろうか?」とかって


なんか、それに近いノリでした。

しかもこう、商品を買わせようというアピールじゃなくて

「ウチの商品、美味しいんですよ~。ねぇ、美味しいでしょ~」ってにこにこ顔なもんだから、ついつい買っちゃいましたね、いろいろ。



まぁ、あとお姉さんの富士山が『桃ぷるん』でしたからね!



で、買い物もしたので帰りましょうかね~っと、ショップを出ようとしたところ、

出口にもお見送りの女神像が。

これは撮らねば――



宮地「ぱしゃり」

店員さん「乳を接写すなっ!」



そうして、フォルダーを圧迫する女神のおっぱい。



思い出と素敵な写真をたくさん手に入れた日帰り旅行となりました。



河口湖周辺にはまだ行けていない素敵スポットが多いので

近いうちにまたお邪魔したいな~と思います。



とかなんとか浮かれ過ぎて、

本編でなんか大変なことが起こって、今回も引きで終わっているのに

空気を読まない温度差でこんなあとがき書いちゃいました☆



次回もよろしくお願いいたします。

宮地拓海

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― 新着の感想 ―
[一言] ナタリアもター爺もカッコよすぎ… ふざけてる時とのギャップがたまらんですね! 続きが気になり過ぎて夜7時間しか寝れないので、 首とおっぱいを長くして続きをお待ちしております!
[一言] じーさん…かっけぇ… この世界の変態は、みんな覚悟を決めるとカッコよくなるのか!? それともそんな強い覚悟と決意があるから、その鋼の意思で変態をやっているのか!?
[良い点] 毎度毎度楽しく読ませていただいております。 [気になる点] 本編とあとがきの温度差で風邪ひきそうでs。 [一言] お体に気を付けて頑張ってください!
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