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異世界詐欺師のなんちゃって経営術  作者: 宮地拓海
第三幕

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313話 四十二区流おもてなし

「いらっしゃいです! ようこそ陽だまり亭へ!」


 出張所で、ロレッタが元気よく俺たちを出迎える。


「よぅ、ロレッタ。連れてきたぞ。盛大にもてなしてやってくれ」

「任せてです! 紙のように薄い上品質なクレープをご馳走するです!」


 くるくるシャキーンと、クレープ生地を掬うお玉を構えるロレッタ。

 その眉毛は自信の表れからキリッと持ち上がっている。


「冷凍ヤシロよ」


 タートリオが俺を呼ぶ。

 ……だから、誰が冷凍だよ。


「あのお嬢さんは、そなたの知り合いか?」

「あぁ。同じ店で働いている仲間だ」

「………………美しいぞい」

「手ぇ出したら、デリアがゴンだからな?」

「ん~……獣人族の『ゴン』かぁ……それは死ぬぞい」


 さすが情報通。

 獣人族の並外れたパワーの危険性も正確に把握している。

 というか――


「お前も獣人族って言うんだな?」

「ん? あぁ、貴族では珍しいかもしれんがの……」


 と、ここで声を潜め、タートリオが俺に耳打ちをする。


「ワシは子供のころから亜人差別が嫌いだったんじゃぞい。その……初恋の相手が、アナグマ人族の女の子での……その子がまたつぶらな瞳で可愛くての……」


 両手で顔を押さえ、恋も知らないガキんちょに戻ったように照れてみせる。


「まぁ、結ばれることはなかったがの……あの子を悪く言われているようで、亜人や亜系統という呼び方は好きじゃなかったんじゃ。そうしたら、三十五区で面白い呼び方をしていると情報を得ての、早速取り入れたんじゃぞい」


 ウェンディたちの結婚式の時、ルシアが即座に取り入れて広めた獣人族・虫人族という呼び方。

 それは、違う区にまで広がり影響を及ぼしていた。


 貴族の中にもいるんだな、亜人差別を快く思っていなかったヤツが。

 ルシアが特殊なのかと思っていた。


「おそらく、スアレス家の者が言い始めたんじゃろうの。あの家は変わり者が多いと噂じゃからのぅ」


 過去、当主の嫁にホタル人族の側仕えを付かせ、現当主は給仕長にグンタイアリ人族を起用している。

 貴族社会では異端中の異端。

 だが、それを蔑む者ばかりではなかった。


 タートリオのように、その考え方を評価する者もいたんだ。

 貴族って連中は、全部が全部腐ってるわけではないらしい。

 タートリオにオルキオ、そしてドニスの甥っ子フィルマン。

 きっかけは恋かもしれないが、亜人差別を心よく思っていない者たちが貴族の中にいた。

 だったら、まだまだ世の中は捨てたもんじゃないかもしれない。


「タートリオおじ様。その獣人族という名称を生み出して広めたのが、このヤーくんなのよ」

「なんと、そなたであったのか、冷凍ヤシロ?」


 いや、別に俺が広めたわけではない。

 ただ単に思いつきで口にしていたら、知らないうちにいろんなヤツが使うようになっていただけだ。


 あと、誰が冷凍だ。


「ふむ……そなたは、実に興味深いな」

「そんなことはいいから、クレープを食ってくれ。『リボーン』に載っていた新しいデザートだぞ」

「おぉ、そうか。では、あの情報誌がどれほど正確なのか、試させてもらうとしよう」


 ころっと意識をクレープへ向けるタートリオ。

 一方のルピナスは不満顔だ。


「こういうところで実績をアピールしておけば、協力を引き出す時に有利に働くのよ?」

「仕方ありませんよ、ルピナスさん。ヤシロは、そういう人間なんです」

「謙虚なのは、必ずしも美徳だとは限らないのよ?」

「そんなんじゃねぇよ」

「そうだよね。君は『いい人だと思われる』のが嫌なんだよね?」

「うっせぇ。エステラ、うっせぇ」


 俺は、そんなどーでもいいことで名前が知れ渡るのを嫌っているだけだ。

 どこに行っても「あ、獣人族の名付け親だ」なんて認知されてみろ、いろいろやりにくいだろうが。

 特に獣人族にはお人好しが多いんだからよ。

 ミリィやシラハみたいに、無条件で相手を褒めるばかりのヤツが多いのだ。

 ヤップロックみたいな極端なヤツに「あなたのおかげで私の人生は変わったのです! あなたは人生の恩人です! ありがとうございます、恩人様!」とか祭り上げられてみろ……俺の全身は年中鳥肌でやがて羽毛が生えてニワトリになってしまうだろう。


「ルピナス、お前もクレープを食ってみろよ。カンパニュラが感動していたデザートだぞ」

「では、いただくとするわ」

「デリアも食っていいぞ。エステラのおごりだ」

「ホントか!? ありがとな、ヤシロ! エステラ!」

「……なんでボクのおごりなのにヤシロが感謝されるのさ。……今の感謝分、半額出してよ」


 ケチくさいんだよ、お前は

 そーゆーとこだぞ、貴族的な気品とか威厳が身に付かない理由。


「ほぅ……これは、メニューが豊富で、選ぶのに迷ってしまうぞい」

「お爺ちゃんは甘いの好きです?」

「ちょっとロレッタ!?」

「ほぇ?」

「タートリオ・コーリン氏だよ? 貴族の、前当主の、現情報誌発行会役員の、結構な権力を持つ人なんだよ!?」

「あぁ、よいよい。ワシは美少女には『ふれんどりぃ』に接してもらう方が嬉しいんじゃぞい。『ター爺、かわいい~』とか撫で撫でされたいぞい」


 いや、それは犯罪。


「た~爺、かわいい~。なでなで」

「むほ~! お嬢ちゃん可愛いぞい! なんでも好きな物をご馳走してあげよう! なんでも頼むがよいぞい!」

「ちょっと次女! 貴族の人に馴れ馴れしいですよ!? ごめんですター爺、ウチの妹が」

「君もだよロレッタ!? 自覚して!」


 ハラハラするエステラをよそに、タートリオはだらしなくヘラヘラしている。

 美少女が好きなんだろうな。

 よし、ナタリア。四十二区中に警戒を呼びかけておいてくれ。


 ぺこりと頭を下げて、ナタリアが移動を開始する。


「離脱する前に、私はチョコストロベリー生クリームを。エステラ様のおごりで」

「任せてです!」

「いや、どっか行くならさっさと行って!? 任務の遂行は迅速にね!?」

「大丈夫です。『このジジイ、エッロいから気を付けるように』と全領民に言って回るだけですから」

「おぉーい、口を謹んでナタリア!?」

「クレアモナ家の給仕長である私が?」

「悪評が広がりそうな時にウチの名前出さないで!」


 そういう隠蔽体質、治した方がいいぞエステラ。

 バレた時の好感度の下がり方、エグいから。

 いっそ開き直ってしまった方がダメージは少ない。


 まぁ、ダメージを受けないのが一番いい選択なんだけどな。


 ちらちらと、タートリオの顔色を気にするエステラだが、そのタートリオは特に気にする様子もなく、ロレッタの手元に視線を注ぎ込んでいる。


「ほぉ……これは見事だ」


 慣れた手つきで生地を丸い鉄板の上に広げ、均一の薄さで焼き上げる。

 ぺらりとめくられた生地はシルクのようになめらかで、微かに向こうが透けるほど薄かった。

 これが幾重にも層になると、なんとも言えないもちもちふわふわとした食感になるのだ。


 練習の際、俺はロレッタに「クリームやフルーツに頼らず、生地だけで美味いと思わせられるようになれ」と教えていた。

 まぁ、コツとかはジネットが事細かに教えていたようだけれど。


 おかげで、ロレッタの焼くクレープ生地は何も付けなくてもその食感と小麦本来の甘さと香りだけで十二分に美味い。

 そこに生クリームやハムっ子農場で採れたフルーツを盛り付ければ――そんなもん、美味いに決まっている。


 ノーマ特製、ナタリア監修のペティナイフを器用に使い、イチゴをスライスするロレッタ。

 軽い力で、イチゴの細胞を潰すことなく均等にカットしていく。

 ここがかなり苦戦していたとジネットから聞いている。

 フルーツのカットって、何気に難しいんだよな。

 俺が「うまいな」って思えるのは、俺以外ではジネットとポンペーオくらいだ。

 ノーマは、下手ではないがプロ級とまではいかない。

 風邪の時にリンゴを剥いて欲しいくらいの技術はあるけどな。

 ノーマと比べれば、まだ俺の方がうまい。


 ロレッタも、いつの日か俺を唸らせる技術を身に付けてくれるだろうか――


「あっ!?」


 スッスッスッと、イチゴをカットしていたロレッタだったが、最後の最後でイチゴの実が潰れた。

 あれは商品にはならない。

 そうなってしまったイチゴは――


 そうそう、きょろきょろと辺りを見渡して、さっと素早く口の中へ隠蔽。


「って、オイコラ」

「むゎー! ごめんなさいですごめんなさいです! この次は絶対成功させるです!」


 ――ロレッタが俺を超える日は、来ないかもしれない。



 その後は危なげなく盛り付けを行い、ナタリアが注文したチョコストロベリー生クリームが完成した。

 ……う~ん、85点かなぁ。

 もっとこうさぁ、イチゴの向きと配置をさぁ……あぁ、もう、惜しいなぁ、お前は! 及第点だけども! もっとこだわれるだろう!


「お姉ちゃん、おにーちゃんが渋い顔してるよ~」

「今ちょっとそっち見れないですから声かけないでです!」


 頑なにこちらを見ようとしないロレッタ。

 きっと、自分でも今のは八割程度の出来だったと自覚しているのだろう。


「あと、お兄ちゃんが見てるから緊張するんだって伝えといてです!」

「おにーちゃん、邪魔だって~」

「そんなこと言ってないですよ!? 伝言は、込められた思いをねじ曲げないよう細心の注意を払ってです!」


 邪魔者扱いされた俺は、カウンターにヒジを突いて、身を乗り出すようにしてじぃ~っとロレッタの手元を観察してやった。

 ロレッタが「はぅぅううっ! やりにくいですぅう!」と泣いてもやめてやらない。

 どーせ邪魔者ですしぃ~!


「ヤシロ、大人げないよ」


 エステラに首根っこを掴まれようが、俺はロレッタの観察をやめなかった。


 じぃ~……





「素晴らしかったぞい」


 と、クレープの感想だと言い張りロレッタを褒める要注意ジジイタートリオ。

 妹たちには「もじゃもじゃを見たら全力で逃げろ」と伝えておいた。


「ねぇ、ヤシロ。お店、次女と三女に任せてよかったのかい?」

「ん? あぁ、あいつらは盛り付けの合格が出ている年長の二人だからな」


 陽だまり亭では、ジネットの合格が出た年長組は盛り付けを行うことが出来る。

 次女と三女は盛り付け合格者だ。

 なので、出張所のクレープを任せることが出来る。

 もっとも、生地が焼けるのはジネットとロレッタだけなので、あらかじめ大量の生地をストックしておく必要があるが。

 あ、生地が大量に余る分には問題ない。

 余ったら余った分、全部持って帰って弟妹が貪り食っているようだから。

 これはまぁ、アレだな。ハムっ子ネットワークの謝礼の一部みたいなもんだ。


 ちなみに、タコスやポップコーンの移動販売は年中から任せることが可能だ。

 タコスは盛り付けというほどの技術を必要としないしな。


「それにしても、四十二区には可愛い女の子が多いなぁ。ワシ、楽しいぞい」


 年甲斐もなく、若い女子を見て頬を緩ませるもじゃもじゃジジイ。

 お前が見た女子、パウラとエステラたちを除けば、全部ヒューイット姉妹だからな?

 みんなほとんど同じ顔だぞ。

 あの顔がタートリオのドストライクなのだろうか。


「中でもロレッタちゃん、最強ぞい」

「あんま見るな。減る」

「まぁまぁ、お兄ちゃん。イヤラシイ視線は感じないですし、きっと善意で言ってくれてるですよ」


 褒められてえへへと笑うロレッタ。

 こいつは「可愛い」と言われても「は~い、ありがとです~」と軽く流せるタイプだ。

 実際、大工に「可愛い可愛い」ともてはやされても照れるような素振りは見せていない。

 客商売として、その辺は割り切っているのだろう。


「たまに、イヤラシイ視線を向けてくる人がいたりするですけど……」

「……ヤシロ」

「俺じゃねぇよ!」


 誰がロレッタにエロい視線を向けるか!


「お客さんで、ですよ」

「大丈夫なのかい、ロレッタ?」

「はい。そういうお客さんは、マグダっちょやデリアさんが軽ぅ~く『ごっちん』してくれるですから」

「えっ…………ヤシロ?」

「大丈夫だ。今のところ死傷者は出ていない」


 陽だまり亭の風紀を著しく乱そうとする不届き者には、速やかにお引き取り願っているだけだ。

 出禁なんて、どこの食堂でも普通にやっていることだ。

 店外へ一歩出れば、そいつは客でもなんでもない赤の他人だ。

 その後そいつがどうなろうが、それは当店の知ったことではないのである。


「ちなみに、ノーマさんがお店にいる時にそーゆーお客さんが来ると……知らない間にいなくなっていて、そして二度とお店に来なくなるです」


 あぁ、うん……その手の話に関してはきっとノーマが一番厳しいだろうな。

 デリアやマグダ以上に、こう、精神的な攻撃がさ。

 ほら、ノーマって乙女だし? 女子の味方だし?


「ちなみに、殺気の飛ばし方って知ってるの、ロレッタちゃん?」

「殺気……あぁ、マグダっちょがたまにやってるヤツですね」


 たまにやってんのかよ……

 そういや、メドラの殺気を浴びると魔獣でも動けなくなるとか言ってたっけ?

 まさか、練習してるのか、マグダ?

 お前はメドラに近付かなくていいんだぞ? むしろあんまり近付き過ぎるな?


「ちょっとやってみせるわね。ヤーくん、変質者の役をやってくれないかしら?」

「いや、現実と乖離し過ぎていて厳しいな」

「何言ってんのさ。適役じゃないか。普段通りの君でいいんだよ。ほら、やってあげなよ」


 無責任なことを言って、俺の背を押すエステラ。

 何が普段通りだ。俺ほどの紳士はそうそういないというのに。


「それじゃあ、ヤーくん。私をイヤラシイ目で見てくれる?」


 と、言われても、肉体年齢的に二回りほども上のルピナスを……

 Bカップなのに?

 そもそも、俺は人のモノに手を出す趣味は持ち合わせてないし……

 何より、Bカップだし……

 それにさぁ……Bカップだしなぁ……


「ヤーくん」


 可愛らしい声で名を呼ばれた瞬間――



「言いたいことはよく分かった……わ!」

「ぐ……っ!?」



 分厚い空気の塊で殴られたように、凄まじい圧迫感と息苦しさを覚えた。

 全身金縛りに遭ったようにぴくりとも動かない。

 っていうか、ルピナスがめっちゃ怖い目で睨んでるぅうう!


「……と、こんな感じよ」

「ぷはぁ……!」


 ルピナスの顔に笑みが戻ると同時に俺の全身は自由を取り戻し、それと同時に地面へと膝を突き、それと同時に額からぶわっと汗が噴き出した。――と同時に、「ふざけんなよ」という激しい憤りが湧き上がってきたが、同時に「そんな文句言ったら何されるか分からない」という自己防衛本能が音量マックスで脳内に鳴り響き、それと同時に俺は口を閉じることを選択した。

 ここまで、0.4秒。


「どうすればそんな殺気を飛ばせるです?」

「簡単よ。腹が立った相手を睨みつけて、心の中で――こしょこしょ――」


 と、ロレッタに耳打ちをするルピナス。

 うんうんと頷いていたロレッタの顔色がみるみる悪くなっていく。


「そんなエグいことを考えてたですか!?」

「殺気を飛ばす呪文よ☆」

「いや、相手を呪う言葉です、それは……」


 俺、何を言われてたんだろうな……


「ちょっとやってみたらどうかしら?」

「お、お兄ちゃんにですか!?」

「そうよ。別に私の言ったとおりじゃなくていいから、彼に対する不満や憤りを心の中で燃え上がらせて、その感情を視線に込めて飛ばすのよ」

「お兄ちゃんに対する不満なんて……………………」


 俯き、口を閉じ、小首を傾げて、はっと顔を上げて、右斜め上へ視線を向ける。そしてゆっくりと深く頷いたロレッタ。


「どうやら見つかったみたいだね、君への不満」

「ほほぅ、ロレッタ……上等じゃねぇか」

「い、いやいや! ないですよ、お兄ちゃんに不満なんて! ただちょっと、普段思うところがあるというか、もうちょっと配慮があってもいいんじゃないかと思うというか、お兄ちゃん分かってないなぁってモヤモヤしているだけですよ」

「そういうのを『不満がある』っていうんだよ、ロレッタ」


 おのれ、ロレッタめ。

 こんなにもよくしてやっている俺に対して、一体どんな不満があるというのか。


 よぉ~しいいだろう。

 お前の不満、受け止めてやろうじゃねぇか。


「じゃあ、ロレッタ。俺に殺気を飛ばしてみろ」


 ルピナスがやったように、俺の呼吸を阻害するレベルの殺気を飛ばしてみろ。


「えっと……じゃ、じゃあ……」


 ロレッタが俺の前に立ち、キッと眉をつり上げて俺を睨む。


 あ゛ぁ゛ん?

 なにガンくれてんだ、お゛ぉ゛ん?


「怖いですっ! お兄ちゃんの顔が、悪魔のようです!」

「こら、ヤーくん。初心者相手に反撃しないの!」


 理不尽に怒られた。

 俺今、ロレッタに悪口言われただけなのに。


 じゃあ、普通な顔して受けて立とうじゃねぇか。

 すーん。


「お兄ちゃん、面白い顔しないでです!」

「これは素の顔だわ!」

「素が面白いからねぇ、君は」


 うるせぇよ、エステラ。

 飛べ、俺の殺気!


 エステラはそよ風も感じないような涼しい顔で俺の視線を受け流す。

 やっぱ、殺気を飛ばすなんて常人には無理なんじゃないのか?


 それでも、試してみるつもり満々なロレッタ。

 俺の向かいに立ち、眉をつり上げてじぃ~っとこちらを睨んでくる。


 だが、ちぃ~っとも殺気は飛んでこない。


「もっと強く思うのよ、ロレッタちゃん」

「むむむ……ぅ!」

「声は出さないで、心の中で、強く、熱く、強烈に思うの」

「…………っ!」


 両手で口を押さえ、眉間のしわを深くして俺を睨むロレッタ。

 必死に念じているのだろうが、変化はまったくない。


「もっとよ! もっと強く! 心の中で叫んで!」

「…………っ!」


 ルピナスの声に眉間に力を入れるロレッタ。

 体にも力が入り、口を押さえていた手がぎゅっと握られる。


「あとは勢いよ! 心の中にある感情を高めて、憤りや不満を大きく膨らませて、限界まで溜めて――そして、溜めた感情を言葉に変換して思いっきり叩き付けるのよ!」

「マグダっちょや妹だけでなく、あたしにももっといいこいいことかしてですー!」


 口を押さえていた両手は拳を握り振り下ろされ、ロレッタの絶叫が俺の横を通り過ぎて陽だまり亭の方角へと飛んでいき、消えていった。


 殺気は、一切出ていなかった。



「…………はっ!? 間違って声に出しちゃったです!?」



 そうだよな。

 ロレッタはそこまで器用じゃないもんな。

 感情を昂らせて勢いに乗せたら、そりゃ声になって口から飛び出してくるよなぁ……だってロレッタだもん。


「むぁぁああ! 違うんです、お兄ちゃん! 今のは、あの、そーゆーのではなくて! い、妹がいつも家で嬉しそうに自慢してくるですから、ちょっと羨ましいというか、むしろあたしの方が頑張ってるのになんでかなって思ったりとか……いやでも、そうじゃなくて、……むぁああ! 忘れてです!」


 いやぁ、お前、それは無理だろう……


「殺気は飛ばなかったけれども……おっちょこちょいなロレッタちゃん……めっちゃ可愛いわ」

「あはぁ、尊いぞい……」


 他所の区の二人がほっぺた真っ赤にしてお前のこと見てぷるぷるしてるし。

 これは、この先ずっといじられるぞ。

 あとたぶん、ハムっ子ネットワークで弟妹に知れ渡ると思うし。


 とりあえずまぁ……


「はい、いいこいいこ」

「むぁああ! この流れでやられると無性に恥ずかしいですっ! も、もういいです、いいこいいこ終わってです!」


 ロレッタが身悶えるほど、ルピナスとタートリオの表情筋が融解していくので、液体になるまで試してみようかと思ったのだが、ロレッタが逃げ出したため実験は中断された。


 それから陽だまり亭に帰るまでの間、自業自得の羞恥を味わったロレッタにじぃ~っと睨まれ続けた。

 あぁ、うん。ちょっとだけ出てたぞ、殺気。

 ちくちくって、視線が刺さってるのが分かる程度にな。


 折角教わった技だが、ロレッタはこの技を封印するんだろうなぁ~なんてことを考えながら、俺たちは陽だまり亭へ向かった。






「ヤシロ」


 隣を歩くデリアが、不意にこんなことを言ってきた。


「あたいも出来るぞ、殺気飛ばすの」

「おうそうか、それはすごいな。すごいから、俺で試そうとするのはやめてくれな?」


 おそらく、デリア全力の殺気を喰らったら意識が吹っ飛ぶ。

 オメロだったら肉体までもが塵と化すだろう。


「あっ、いいところに。お~い、オメロ~!」

「逃げろオメロー!」

「え? 親方と兄ちゃん? え? え?」


 あぁ、オメロは驚きすくみ上がっている。

 あいつ、デリアを見るだけで足が動かなくなるんだよなぁ。


「行くぞ~、オメロ~!」

「え、え!? 何が!? 何が来るんです!?」


 距離にして100メートル。

 陽だまり亭にほど近い道。

 まさか、こんな穏やかな場所に、これほどの危険が潜んでいるとは、オメロも想像しなかっただろう。


「せ~の――ふんっ!」

「ごふっ!」


 目に見えない何かが100メートルの距離を凄まじい速度で飛翔し、オメロの心臓を貫いた。


 オメロ散る――


「な? すごいだろう!」

「うん、すごいから、もう街の中でそれ人に向けちゃダメだぞ」

「分かった!」


 よかったよ、分かってくれて。


「ちなみに、デリアは心の中で何を思ったんだい?」


 えぇ~、エステラ、それ聞いちゃう?

 この話、あんまり広げない方がいいと思うんだけど。


「何って?」

「オメロに怒ってることとかないんだろう? なのに殺気って飛ばせるのかい?」

「そうだなぁ。慣れると別に怒ってなくても出来るぞ。今はただ『えい!』って思っただけだし」


 そんな気軽に、あんな凶悪な兵器放てるのか……


「でも、これは相手が自分より明らかに弱い時にしか使えないのよ。心が強かったり、相手がこちらの力を理解していないと効果がないの。『やんのか、コラ?』と同じような行為だからね」


 と、『やんのか、コラ?』を全力で寄越してきたルピナスが説明してくれる。

 ……おぉう、めっちゃ怖かったぞ、今の。思わず小銭全部置いて逃げそうになったわ。


「問答無用で相手を萎縮させられるのは、メドラギルド長くらいじゃないかしらね」


 なるほどな。

 やっぱりメドラは規格外なんだな。


「私の威嚇はデリアには通用しないでしょうしね」


 あれ? 『威嚇』?

 俺の時は『殺気』じゃなかった?

 ん? 俺は殺されかけてたのか? ん?


「ヤーくん。女性に年齢の話は……め、よ?」


 あぁ、それで『威嚇』が『殺気』になったのかぁ。

 ……怖いよぅ、この街の大人女子……しくしく。


「なにやってんさね、あんたらはさぁ」


 陽だまり亭の方からノーマがゆったりと歩いてくる。

 ゆっさゆっさと、威風堂々と揺らしながら。


「「ファンタスティック☆」」

「ルピナスさん、ミスター・コーリンの方をお願いします」

「じゃ、エステラさんはヤーくんをお願いね」


 手短に交わされた役割分担の後、俺はエステラに、タートリオはルピナスによって羽交い締めにされていた。

 くぅ……なんたる理不尽。


「だから、なにやってんさね……」

「見ての通りだ」

「見て分かんないから聞いてんさよ。……あと、あそこのアライグマも」

「あぁ、オメロは大丈夫だぞ」

「……ってデリアが言うってことは、デリアが原因なんさね」


 さすがノーマ、よく分かっている。


「はぁ……とにかく、アタシがオメロを運んでおくから、あんたらは早く陽だまり亭にお行きな。店長さんとカンパニュラが待ってるさよ」

「そうね。そろそろカンパニュラの顔が見たいわ」

「ボクも、ジネットちゃんのご飯が食べたいよ」

「あたいは甘いのがいい!」

「デリアはブレないさね」


 いいや、こいつらは誰一人ブレてねぇよ。


「ヤシロと、そっちのご老人は……まぁ、おそらくブレてないんだろぅねぇ。……見過ぎさね」


 煙管でコツコツと俺とタートリオのデコを突くノーマ。

 痛い。だが――


「「谷間から出てきた煙管でなら、むしろウェルカム」じゃぞい」

「……エステラ。ヤシロが増えたさね」

「うん。たぶん今だけだから、ちょっと我慢して」

「で、ロレッタは何を『んきゅんきゅ』悶えてるんさね?」

「あぁ……それも、今は放置でいいよ」

「まったく……あんたらはいつも何かしらやらかしてんさねぇ」


 呆れ顔で言って、ノーマが俺たちを置いて一人で陽だまり亭へ戻る。

 途中に転がっているオメロをひょいっと片手で拾い上げ、担いで。


「ミスター・コーリン。今度は『リボーン』創刊号で目玉商品だった、陽だまり亭の料理をご馳走いたしますよ」

「おぉ、陽だまり亭懐石というヤツじゃの」


 さすが、チェックしていたか。


「まぁ、200Rbも値引きをするということは、相当売れない不人気商品なのであろうがの」


 そんなことを言うタートリオを陽だまり亭へと連れて行くと――


「みなさん、今日もお仕事お疲れ様です。午後も頑張ってくださいね」

「「「あはぁ、カンパニュラたんかわぇぇ~……」」」

「お嫁に欲しい」

「むっ、ダメですよ、そのような発言を軽々しく口にしては。思わせぶりな言動は、いつか女性を悲しませてしまうかもしれませんからね。反省してください! むぅ、むぅ!」

「「「「マグダたん、陽だまり亭懐石一つ!」」」」

「……都合四つ、承り~」


 ――ご褒美懐石が根付いていた。

 ……あいつら、カンパニュラに叱られたくて、わざとやってんだよなぁ。


「めっちゃ売れとるぞい」

「クーポン券の影響でな」

「じゃが、あやつらはクーポン券を持っておらんぞい?」


 たとえ今は持っていなくても、一度認識してしまえば注文へのハードルは極端に低くなる。

 値段が高い物は誰でも購入を躊躇してしまう。

 値段の割に期待に添わないものかもしれない。そんな失敗をしたくないってのは誰もが持つ当然の心理だ。


 だが、一度でもそれを見て、口にして、その価値を知れば、そしてその値段が妥当だと思えば、値段の高い安いに関係なく売れる物は売れるようになる。


 シャインマスカットは平均して3000円前後の価格帯だが、その味が絶品だと知れた今では飛ぶように売れている人気商品だ。

 マスクメロンも然り。

「ちょっと高いけれど、ちょっとしたご褒美に買っちゃおう」という需要が生まれている。

 それは、品質が確かであるということが知れ渡ったことが大きい。


 陽だまり亭懐石も同じだ。

 奮発してもいいかなと思うようなことがあれば、250Rbくらいは出せてしまうのが人間というものなのだ。


 テーマパーク内の品質の割に値段の高い物でも、その時のテンションで買ってしまうノリと似ている。

 要は、「自分がその値段に納得できるかどうか」なのだ。



 つまり、今ここにいる大工どもの中では、「カンパニュラに叱ってもらえるなら250Rbなんか安いもんだ!」という認識が芽生えているというわけだ。

 よし、お前ら全員出禁にしてやる。


「カンパニュラ」

「あ、母様!」


 ルピナスを見つけ、カンパニュラが嬉しそうに両腕を広げて駆けてくる。


「お帰りなさいませ」

「ただいま戻りました。それで、今は何をしていたのかしら?」

「はい。接客です。それと、お客様がいけないことをすると叱ってあげるべきだと教わりましたので、いけない発言を叱っていました」

「へぇ、そうなの」

「はい。みなさん、とても聞き分けがよくて私も叱り甲斐があります」

「そう。みなさん、いい方たちなのね」

「はい」


 カンパニュラの言葉を聞いて笑顔で立ち上がるルピナス。

 その笑みを大工たちへと向ける。


「いつも娘がお世話になっているようですわね」

「「「「いやいや、俺たちの方こそがお世話されちゃって、なぁ? あはは」」」」

「今後とも、娘のことを『くれぐれも』よろしくお願いします――ねっ」

「「「「どぅっ!?」」」」


 全力の殺気来ましたー!

 大工四人が一斉に泡吹いてひっくり返ったぞー!


「「「「す、すみませんでした。あまりに可愛かったもので、つい」」」」

「可愛いということには同意致しますわ。ですが、ほどほどにお願いしますね」

「「「「はい、誓って!」」」」


 ひっくり返ったまま、大工たちが精霊神に誓いを立てる。

 効果抜群だな、ルピナスの殺気。


「かにぱんしゃ、かいしぇち、もってきた、ぉ」

「ではテレサさん、あちらのテーブルにお願いします」

「はい!」


 とことこと、大きなトレーに懐石を載せて運んでくるテレサ。

 その後ろをマグダがつかず離れず、三人前の懐石を載せたトレーを持ってついてきている。

 何があってもフォローが出来る位置取りだな。


「おまたせしましま!」

「「「「あはぁ、テレサたんもかわいいっ!」」」」

「ありがとごじゃましゅ! おねーしゃに、つたえましゅ!」

「「「「いや……それは、あの、やめてもらえると……」」」」


 バルバラの耳に入るとまた殺気を浴びかねないもんな。


「あなたが、テレサちゃん?」

「はい。……あっ、かにぱんしゃの、おかーしゃ?」

「えぇ、そうよ。カンパニュラがお世話になっているわね」

「んーん! おせわ、ちぁうよ。おともだち、ょ」

「そう。これからも仲良くしてあげてね」

「はい!」


 テレサの頭を撫でるルピナス。

 テレサは嬉しそうに撫でられ、そしてカンパニュラに耳打ちをする。


「おかーしゃ、ちれー、ね」

「ふふ。ありがとうございます」


 そんな少女二人のやり取りを見つめて、ルピナスは呟く。


「……磨きたいわね、あの娘」


 なんかロックオンされたぞ、テレサ!?

 なんか分かんないけど、とりあえず逃げて!



 そして、もう一人。

 随分と静かだと思ったが――タートリオもカンパニュラとテレサのやり取りをじっと見つめていた。

 そして、一度大きく頷いた後、ぼそりと呟く。


「ワシは、もっとぼぃんでばぃんな大人が好みじゃぞい」



 うん、聞いてないから黙ってろ、ジジイ。

 その意見には、概ね同意するけども。





「これは見事じゃぞい!」


 タートリオコーリンが食いついたのは、陽だまり亭懐石の見事な飾り切り――ではなく、食品サンプルだった。


「これがすべて蝋で出来た偽物だとは……はぁ~、よく出来てるぞい」


 不意に店を出て行き、庭先で大はしゃぎを始めたので何事かと見に行ったら、食品サンプルを見て目をキラキラさせていたのだ。

 そろそろ懐石が出来る頃合いだというのに全然店内に戻らないから、店先に並べていない食品サンプルを持ってきて、無理やり席に座らせたのが今さっきだ。


「本当に、本物そっくりね」


 ルピナスも偽物のケーキを手に取りまじまじと観察している。

 すっかりお馴染みになっていたから忘れていたけれど、食品サンプルって食いつきいいよなぁ。


「これはなんという料理じゃ? エビの尻尾に似ておるが……」

「エビフライだな」

「エビフライとな!?」

「海のそばにある三十五区でも聞いたことがない料理ね。……え、四十二区の港ってまだ完成していないわよね?」


 海に近い区に住む二人が、海から遠い四十二区に存在する自分たちが知らない海鮮料理に興味津々だ。


「マーシャに――海漁ギルドのギルド長に融通してもらってな」

「デリアと仲がいいものね、マーシャギルド長は」

「あぁ。親友だぞ」


 デリアの功績で誕生した……ってわけでもないんだが、まぁ、そう思っておいてもらってもいい。

 妙に懐かれると後々面倒なことになるのは経験済みだからな。

 ルシアみたいに「アレ作れ、コレ作れ、それを教えろ」とやかましくされては堪らない。


「この周りの茶色い物はなんじゃぞい?」

「これはパン粉だな。パンの価格が落ちたから、今後はいろんな区で見かけるかもしれないぞ」

「なんと!? パンをこのような使い方で!? ……なるほど、これは贅沢じゃぞい」


 パンは無駄に高かったからな。

 しかも、供給が安定していなかった。

 だが、今後は安定してパンが食べられるだろう。


 菓子パン人気はどの区でも凄まじく、教会も出し渋りが出来なくなったのだ。

 一日焼くのをやめるだけで、店の前で抗議活動が巻き起こるくらいなのだとか。

 おまけに、貴族の中にもパンにハマった者が多いとかで、とにかく毎日食べられるようにと方々から圧力がかかっているそうだ。

 けけけ、ザマァミロ。ちったぁ人々のために苦労をしやがれ。


「……まさか、あの柔らかいパンを考案したのも、そなた――とか言わんじゃろうのぅ?」

「考案者が知りたきゃ教会にでも問い合わせるんだな」


 柔らかいパンの考案者は秘匿されている。

 さすがに二十五区くらい離れていると、考案者が誰かは分からないらしい。

 ……もっとも、近隣三区と『BU』連中は運動会に参加していたから、概ね知っているだろうけど。

 その辺を探られると案外あっさりバレそうだ。


「お待たせしました。陽だまり亭懐石~彩~です」


 運ばれてきた懐石に、ルピナスが目を輝かせ、タートリオが運んできたジネットの谷間をガン見する。


「はい、1000Rb」

「有料なのか!?」

「罰金ですわよ、タートリオおじ様」


 俺が手を出し、ルピナスが援護射撃を寄越してくる。

 このジジイ、外の森に埋めてやろうか?


「見事な料理ね。まるでこの箱の中に花が咲き乱れているようだわ」

「ありがとうございます。『お重』という漆器になります。この黒と赤が食材をより一層引き立ててくれるんですよ」

「確かに、いい色合いね。お重、私も買ってみようかしら」


 ルピナスは懐石の見た目に興味津々だ。

 一方のタートリオは見た目よりも味が気になるようで、さっさと里芋を口へと運んだ。


「んっ! 上品な味じゃぞい。色味は鮮やかでありながら味は優しく落ち着く……いささか量が多く見えたが、これならペロリと食べられそうじゃぞい」


 さすが記者、というべきか。

 あっさりとした反応かと思いきやしっかりと見ている。押さえるポイントを押さえて、無駄のない取材だ。

 料理の見た目は第一印象がすべてだ。

 じっくりたっぷりいろんな角度から見て、小さなこだわりを発見する。そんな楽しみ方はしない。

 パッと見た印象、それがすべてなのだ。


 なので、ルピナスのように一つ一つを丁寧に見ていくこともしない。

 味も、おそらく容易に想像できるものでもなく、こだわりが感じられる複雑そうなものでもなく、一口で味の良し悪しが分かりそうなものを選んだのだろう。

 あの一口で、記事を書くには十分過ぎる情報は得られる。


 いろんな物に興味を引かれてしまう、記者って生き方をしていたのであろうタートリオにとって、人生というものはあまりにも短過ぎるのだろう。

 実に無駄がない。


「ター爺、これ! これです! これを見てみてです!」


 ロレッタがタートリオに催促するように、カブの飾り切りを見せつける。


「これ、あたしが切ったですよ! ここまで来るのにすっごく練習したです!」

「あはぁ、得意げなロレッタちゃん可愛いぞいっ、ぼぃんでこそないけれど」

「味付けは店長さんなので、美味しさは折り紙付きです!」

「むはぁ、なんか肝心なところが他人任せなところがまたいいぞいっ、ぷるんとはしていないけども」

「今は、にんじんの飾り切りを練習中です!」

「むっほっほ~ぅ、出来てもいないことを自慢げに語っちゃうなんて、姪と叔父みたいな親密さを感じちゃってトキメキじゃぞいっ、ばるぅ~んとはほど遠いけれども」

「その注釈いるですかね!?」


 いやぁ~、やっぱいくら可愛くてもノーマを見ちゃった後だとなぁ。

 タートリオの好みは、きっとロレッタのようなタイプなのだろう。

 だが、好みとか理想とかそんなものは関係なく、やわふわたゆんぷるんなおっぱいは、もうそれだけで最強なのです!


「ノーマ、いつもありがとう」

「このタイミングでなけりゃ、素直に聞き入れたんだけどねぇ」


 煙管でこめかみを小突かれる。

 褒めたのに。


「あぁ、私、ダメだわ。これはゆっくり食べちゃうわ。一つ一つがとても綺麗なんですもの」

「ありがとうございます。どうぞ、ごゆっくりお召し上がりください」


 ルピナスは、飾り切りの施された食材を一つ小皿にとっては、じっくりと全方位から観察して、そして大切に大切に口へと運ぶ。

 こんな食われ方をされたら、作った方は嬉しいだろうな。


「タートリオさんも、どうぞごゆっくりとおくつろぎください」

「うむ。食品サンプルが他にもあれば拝見させてもらえるかな?」

「では、お持ちしますね」

「……それはマグダが。店長は、アレを」


 ルピナスとタートリオが店に来て、陽だまり亭懐石を食べ始めた。

 懐石はフルコースが一つのお重に盛り付けられた豪華な料理だ。

 食べるのにも結構な時間がかかる。


 その時間を利用して――



「それじゃあ、カンパニュラ、それからテレサも」


 ――子供っぽくないお子様に、実に子供らしい贈り物をしようじゃないか。


「こっちに座ってくれ」

「ですが、ウェイトレスのお仕事に支障が出ませんか?」

「いいんだよ。これも大事な、お前の役割だ」


 精々、いい表情を見せてくれ。


「さぁ、テレサもこっちへ」


 エステラが椅子を引き、テレサをエスコートする。

 おっかなびっくり、言われた座席へ座るテレサとカンパニュラ。


 何が始まるのかと興味を向けるルピナスにタートリオ。

 まぁ見ておけ。

 すごくいいものを見せてやるから。


「……テレサとカンパニュラはとてもいい子」

「でもですね、周りに迷惑をかけないようにって、ちょこっと頑張り過ぎです」


 マグダとロレッタに言われ、互いの顔を見合わせる二人。

 自覚はないようで、小首を傾げている。


「だから、今日はお前ら二人には……ガキっぽいガキになってもらおうと思う」


 俺の宣言に合わせるように、ジネットがトレーを持ってやって来る。


「お二人の今日のお昼ご飯は――お子様ランチです」


 小さな少女たちの前に、可愛らしいワンプレートのお子様ランチが配膳される。

 一口ハンバーグに、小さなエビフライ。

 コーンクリームコロッケにナポリタン。

 そして、エビピラフ。丸く山のように盛り付けられたピラフの頂上には陽だまり亭という文字の入った旗が刺さっている。


 あとは千切りキャベツにミニトマト。

 プレートの端っこにはリンゴジュースとオレンジゼリーが付いている。


「わぁ……すごい。可愛いです」

「かぁいぃ、ね? これ、おこさま、らんち?」

「そのようですね。テレサさんはご存じだったんですか?」

「はい! きょーかいの、おともらち、ね、みんな、しゅちって、いってたぉ」


 テレサも、まだお子様ランチを食べたことがなかった。

 テレサはおねだりなんかしないからな。

 基本的にバルバラやヤップロックたちと同じ物を食べるのだ。

 シェリルやトットもいるが、あいつらは滅多に外食をしないからなぁ。


「ぁう……でも、しぇりぅちゃん、たべたい、かもだから……」

「いいんだよ、そんなことは気にしなくて」

「そうですよ、テレサさん。今は、カンパニュラさんと一緒に食べてあげてくださいね」

「……ぅん」


 シェリルも食べたいだろうと、そんなことを気にして元気をなくすテレサ。

 ここに来ればいつだって食えるってのに……ったく。


「テレサ、ヤップロックに伝えておいてくれるか? 『トウモロコシで儲けてるんだから、家族を連れて売り上げに貢献しに来い! 陽だまり亭懐石とお子様ランチを作って待っているからな』ってよ。『会話記録カンバセーション・レコード』をそのまま見せればいいから」

「ぅん! しぇりぅちゃん、ちっと、よぉこぶ、ね!」


 給仕長モードが切れると、いつもの舌っ足らずに戻るテレサ。

 けれど、もう少し練習させれば、口調も綺麗になりそうだ。

 ルピナスがキラキラした目をしている……ヤバいな、連れ去られないように見張っておかなきゃ。


「それでは、折角のご厚意ですので、いただきましょうか」

「はい。いただちます」


 二人で手を合わせて「いーたーだーきーます」と合唱し、先割れスプーンでお子様ランチを食べ始める。

 カンパニュラはエビピラフを、テレサはハンバーグを選んだ。

 一緒に口へ運び、一緒にもぐもぐと噛んで、一緒に瞳をきらめかせる。


「「おいしぃ~」」


 その顔がそっくりで、見ていた大人たちが一斉に噴き出した。


「え? な、なんでしょうか? 私たちはそんなにおかしなことをしましたか?」

「へん、だった? あーし、まちがった?」

「いいえ。何も間違っていませんよ」


 不安そうな二人に、ジネットとルピナスが笑みを向ける。


「ただ、二人がとっても可愛かっただけよ」

「はい。とぉ~っても、可愛かったですよ」


 髪を撫でられ、恥ずかしそうに俯くカンパニュラとテレサ。

 そんな仕草もそっくりで、仲のいい姉妹のように見えた。


「冷凍ヤシロ、ワシもこれが食べてみたいぞい」

「残念だったな、これは十二歳以下限定なんだ」

「なんと!? それは……悔しいぞい」

「ご試食くらいなら、いいのではありませんか?」


 ジネット、ジジイまで甘やかすんじゃねぇよ。

 ルピナスまで期待した目をしちゃってるし……


「お前ら、懐石残すつもりじゃないだろうな?」

「とんでもないわ! とっても美味しいのに!」

「お子様ランチは別腹じゃぞい」


 いいや、100%同じ腹に収まるよ。



「……ったく。ジネット」

「はい。……くすくす」


 年配者のわがままに嘆息する俺を見て、ジネットが肩を揺らす。


「なんだよ?」

「いえ。ヤシロさんは、大人にも甘いんだなぁ、と思いまして」


 いや、それはお前だろうが。


 その後、中身の見えない粘土型を一人一個ずつ引かせてやったら、タートリオが「そっちの方がいいヤツじゃぞい」とテレサのを取ろうとしたので全力で締めておいた。

 デリアを使って。


 大人げないんだよ、ジジイ。

 子供らしいことするのは、カンパニュラとテレサだけでいいっつーの。







あとがき




どうも、部屋の模様替えに勤しむ宮地です。

いいえ! 宮地です!(←否定されていた時用)


これまで、天井まで届く本棚とか、幅120cm奥行75cm高さ190cm(デスク上部の棚含む)の仕事用デスクとか、

ドーン! とデカく、収納力たっぷり、圧倒される迫力と圧迫感

みたいな家具を好んで使っていたのですが、


ほら、大英図書館的な、巨大書架みたいな閉塞感と贅沢さみたいな感じに憧れて、

見上げるくらいの棚っていいな~って思いまして

そーゆー巨大な収納をたくさん買って使用していたのですが、

ある時ふと――



「圧迫感すごいな!?」Σ(・ω・ノ)ノ!



――と、気付きまして。


そこで、一万ぽっきり!


……あ、違いました。『一念発起』でした。

危うく綺麗なお姉さんがいちゃいちゃしてくれるお店のお話になるところでした。

そーゆーお店以外で「ぽっきり」って言葉使いますかね? ちょっと聞いたことないですけども。


まぁ、それはいいとして、

一万ぽっきりで部屋をリフォームしようと思います!

(間違ってる方で話進めちゃった!?)Σ(・ω・ノ)ノ!


まぁよいよい。

まずはデスクを買い替えて~

床材ももうボロボロになっちゃってるんで新しいのに替えて~

あとはちょっとした収納棚を買って~


……一万円どころの話じゃないっ! Σ( ̄□ ̄|||)


いや、でもまぁ、

「ぽっきり」なんてのは、大抵その予算内に収まらないものですし

「ぽっきり」が「以内」だなんて、誰も言ってないわけで


じゃあ、「ぽっきり」ってなんだー!?

(/ ̄□ ̄)/ (ちゃぶ台)


……すみません、取り乱し過ぎてちゃぶ台の絵文字見つかりませんでした。


まぁ、とりあえず、「ぽっきり」は「追加料金もあるよ♪」というものだと覚えておけば間違いないかと。

これから、成人を迎える若者諸氏は、様々な場面で「ぽっきり」に出会うことでしょう。

そんな時、この言葉を思い出していただければ幸いです。


「ぽっきり」は、「ぽっきり」じゃない。


あと、オイシイ話と、ちょっとエッチな話には気を付けて!

マジで気を付けて!

綺麗なお姉さんが「かっもぉ~ん」ってしてる変なバナーとかクリックしちゃダメですからね!


(」 ̄□ ̄)」< 架空請求されちゃいますよー!


……あぁ、一話のあとがきを思い出します。

たしか、そんな話だったような気がします。


というわけで、一念発起してリフォームします!

そのうち!


……いや、しますよ?

しますけど、すぐってわけにはねぇ、いかないじゃないですか、ねぇ?

ほら、いろいろ準備とかありますし、

まずはこう、気持ちを作るところから始めないといけませんし。


ほら、あれですよ、

プールに入る前に、胸元に水をかけて心の準備をする、みたいな。



先生「じゃあ、プール入る前に胸に水かけろー」

宮地「じゃあ、クラスで一番巨乳なあの娘に」

級友「俺はなだらかちゃんに」

級友「オレ、女子の先生に」

級友「隣の無防備エロスなお姉さんがいいんだけど、水持って運べるかな?」

先生「自分の胸にかけろー」

宮地&級友ズ「「「えっ、そんなのちっとも楽しくないのに?」」」



こんな感じで、準備が必要なんです。


…………

…………

……………………



どんな感じだ!?

(/ちゃぶ台ひっくり返した人)/ (ひっくり返ったちゃぶ台)


あぁ、もう、まったく顔文字が見つかりませんでした。

気持ち、ひっくり返した時の手だけ『/』で表現してみました。

皆様のインスピレーションに挑戦! ですね。



というわけで、おっぱいに水をかけながら部屋のリフォームをしたいと思います。


これまでは重厚感っていうんですか?

暗めで落ち着いた、どっしりしたイメージの部屋が好きだったんです。

床も、ニトリで買えるパズルみたいな床のヤツ(アレ、なんて言うんですかね? 正方形で好きなサイズにつなぎ合わせて床にするヤツ)で

落ち着いたダークブラウンの床にしていたんですが、

今度は明るい北欧調の白っぽい床に変更します!


テーマは解放感!



両極端か!?Σ(・ω・ノ)ノ!



最近、『見せる棚』にハマってまして、

床と天井に突っ張り棒で固定して、背板がない、向こうがシースルーな棚なんですが

そこに、「空間が生まれるように」物を収納するんです。


詰め込み過ぎはNO! ですよ(・×・)


デスクもちょっとコンパクトにして、物をあまり置かないように。

それに合わせて、マンガ本とか資料とかDVDも整理しちゃいました。

お家スッキリです(*´▽`*)


……いえ、終活じゃないですよ!?

まだまだ死にませんよ!?


あれですよあれ!

物を持たない的な……

そうそう、『ミニマムマニア』!



……なんか違う気がします。

それだと、小柄な女性好きなロリコンオジサンなニオイが……


ミニマムフェチ?

……フェチ度が上がりましたね。


あぁ、あれです。


『ミニマミスト』!


……なんか、ぺったんこを貫いている人みたいですね。

もうほとんどエステラさ――……いえ、なんでもないです。


ミニマム、ではなく、

ミニマル、らしいですね。


ミニマリスト、だそうです。

まぁ、私は趣味のオモチャがたくさんあるので

まったくミニマリストではありませんけどね。


……趣味のオモチャは健全なものですよ?

もう、ぜんぜん、子供たちと一緒に遊べるようなオモチャですからね!

あぁ、そうですか、私が子供たちと一緒に遊ぶこと自体が健全じゃないんですか、そうですか、……くすん


とりあえず今、本棚にはガンダムが並んでいます(*´ω`*)


ですので、私はやっぱりミニマリストではなく、

ただのミニマムフェチですね\(*´▽`*)/おじょーちゃん、おじさんといっしょに、あそばないかーい



というわけで、

次回はリフォーム(という名の模様替え)のお話――か、おっぱいのお話をしたいと思います!

さぁ、どっちになるか、乞うご期待!!



そういえば、

十代の頃バイトしていたお店の店長さん(女性・巨乳)が物凄い花粉症で、

仕事中ずっとくしゃみを連発していたんですが、

くしゃみをする度に胸を押さえるんですね。


で、「なんで?」と聞いたら、



店長「くしゃみし過ぎて……なんか、もう、くしゃみする度に揺れて痛いのよね」

宮地「え、押さえときましょうか?」

店長「いや、いらんけど!?」

宮地「それを支える部署への転属を!」

店長「ないから!」

宮地「ないなら作ろう、ホトトギス!」

店長「ろくなイノベーション生まねぇな、この十代は!?」



今でも鮮明に覚えています。輝かしい十代の、青春の1ページ…………

……いや、店長さん関西弁じゃないから、東京に出てきた後かな?

二十一の頃バイトしてたお店だっけ? あれぇ……?


まぁ、おっぱいが揺れていたという記憶だけは鮮明です!(*´▽`*)


――というわけで、次回はリフォーム(という名の模様替え)の話かおっぱいの話をお届けします!

どちらになるか、乞うご期待☆(二回目)



次回もよろしくお願いいたします。

宮地拓海

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[良い点] >「かにぱんしゃ、かいしぇち、もってきた、ぉ」 か〜わ〜い〜い〜♪(≧▽≦) >「ぁう……でも、しぇりぅちゃん、たべたい、かもだから……」 や〜さ〜し〜い〜(´;ω;`)ブワッ …
[良い点]  今回もロレッタが可愛かった。 [一言]  ヤップロック一家の件、作者の好みで来店をカットされてるのかと思ってましたw
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