297話 関係者たち
「少し時間があるなら、デイグレア・ウィシャートのことを聞かせてくれないか?」
オルキオは、おそらくそのつもりでここに来たはずだ。
情報紙を見て、そのやり口や性質から推論を立て、ウィシャートが関与しているのではないかと結論付けた。
そして、もしそうであるなら自分の持っている知識が何か役に立つのではないかと、四十二区のためにここまでやって来てくれたのではないだろうか。
「オルキオは俺と四十二区のことが大好きだもんな」
「あはは。否定はしないよ」
肯定もしやがらなかったな、このジジイ。
いや、まぁ、ジジイ5に属しているとはいえ、オルキオは若干ジジイって感じじゃないんだよなぁ。たぶんあの中では一番若いし、何より品があるから『老人』って感じのくたびれ感が一切ないのだ。
ゼルマルやボッバ、フロフトなんかは迷いなく「ジジイ! いや、クソジジイ!」と言えるのだが、オルキオだけはまだかすかにオジサンの部類に入る気がしてしまう。
「ゼルマルたちに囲まれてないと若く見えるな」
「あはははっ! そうかい? うん、そうかもね。私は周りの空気に合わせるのがうまいから」
貴族の中では変わり者だったオルキオ。
少しでも波風を立てないように周りに同化する術でも身に付けていたのかもしれない。
それでも、アゲハチョウ人族のシラハとの結婚を押し切ったのだから、十分に異端と言える。こいつらの時代ならなおのこと。
「それで、デイグレア・ウィシャートについてだったね?」
空になったコーヒーカップを置き、オルキオが静かに息を吐く。
ジネットが「おかわり、お持ちしますね」と席を立ち、その後ろ姿を視線で追って、ジネットが伝染したかのような穏やかな笑みをこちらへ向ける。
「悪いけれど、実はそこまで詳しくは知らないんだ。面識はあるけれどね。おそらく、ルシア様やミスター・ドナーティたちが知っている情報と大差はないと思うよ。なんにせよ、彼は用心深いからね」
「『彼は』か?」
「え? ……へぇ、驚いたな。いや、さすがはヤシロ君と言うべきか」
オルキオは目を丸くして、そして嬉しそうに笑った。
そして、うんうんと頷いて祖父が孫に向けるような柔らかい笑みを浮かべる。
「君のような人がいてくれて、私は本当に心強いよ」
何に対してだよと突っ込む前に、ジネットがおかわりのコーヒーを持って戻ってくる。
ポットからカップへコーヒーが注がれる様を見つめ――というか、コーヒーを注ぐジネットを見つめ、その後でこちらへ意味ありげな笑みを寄こしやがった。
聞かなくてよかったよ、何に対してだなんて。
「ヤシロ君の言う通りだね。用心深いのはウィシャート一族すべてだと言うべきだったよ」
オールブルームの玄関口を預かる一族は、先祖代々腹黒いことをし続けているらしいな。探られるとまずい事情がわんさかと盛り沢山なのだろう。
「不正のミックスモダン焼きだな」
「なんだい、それは?」
「ただの比喩だ」
「面白いね。陽だまり亭にあるメニューなのかい?」
そういえば、モダン焼きはまだ作ってなかったなぁ。
「いや、まだないが……」
「わたし、覚えたいです!」
「……マグダはすでに予約を入れている」
「あっ、あたしも覚えるです!」
「そんな前のめりになるようなもんじゃねぇよ。ただの焼きそば入りのお好み焼きだ」
ちゃんと作ればちゃんと美味いが、手を抜けば途端に嵩増し感溢れるケチ臭い物になる。
教えるなら、ちゃんと教えなきゃな。
「教えるのは話の後だ」
「ふふ、じゃあ話を戻すよ」
淹れたてのコーヒーを飲んで、オルキオが表情を引き締める。
「私の知る限り、ウィシャート家というのは、非常に用心深く、金への執着心が強く、狡猾でいて獰猛、油断のならない一族だよ」
狡猾や獰猛という言葉が出てくるあたり、血なまぐさいこともいくつかやらかしてきているのだろう。たとえば、マーシャにしようとしていたことなんかをな。
「彼らはお金の使い方がうまいんだ」
「権力者が面白いように懐柔されるのか」
「はは……君と話していると、幾度となく心臓が飛び跳ねてしまうね。オブラートに包んだ言葉がまんまと暴かれてしまう」
貴族を評する時に「お金の使い方がうまい」なんて言って、「買い物上手なんだぁ~、へぇ~」なんて思うかよ。俺はそこまで馬鹿でも純粋でもない。
だが、その証言で分かったことが一つある。
悪代官と癒着する庄屋ポジションには二種類のタイプがある。
金を渡すことで権力者を味方につけた者と、権力者が味方にいることで金を儲けた者。
前者は、金が尽きれば権力者は去っていく。
後者は、権力者が金を稼がせているので後ろ盾は強固だ。ま、しくじれば切り捨てられるかもしれんが。
後者の方は権力者の息子や血縁者であるパターンが多いから、そうそう失脚することはない。
だが、ウィシャートは前者だ。
ヤツはなんらかの方法で得た大金をエサに、権力者の後ろ盾を得ていったタイプだ。
そう考えれば、買い物上手ってのもあながち間違ってないのかもしれないな。
「聞いた話なんだがね、ウィシャート一族は権力者の喉元に届く刃を常に隠し持っているらしいんだ」
もちろん、刃とは比喩だろう。
それに比類する致死量の弱み。裏ネタ。悪行目録。
死なばもろとも。
自分たちが失脚すれば、後ろ盾も道連れにしてやる――と、そんなやり方で、強固な後ろ盾を得てきたらしい。
知りたくもないが、きっと双方にとって非常にマズい悪事の証拠でも握っているのだろう。
一方的な弱みを握られたまま、権力者がおとなしく引き下がるとは思えない。
おそらくそれは、双方に咎が及ぶ諸刃の剣。
気安く使えないからこそ、そいつの存在はデカくなる。
『精霊の審判』に近しいものがあるな。
トリガーは重い。だから、ある程度の安心は確保されている。
だが、発動されればおしまいだ。
その上で資金援助なり袖の下なりを渡し続けていれば――なるほどな、「ウィシャートは生かしてそばに置いておくのが得策だ」と、そういう発想になるわけだ。
「俺が同じ立場なら似たようなことをするだろうが、同じ立場じゃない現状ではただただ嫌なヤツだな」
「あはは。それはどうかな?」
ウィシャートが嫌なヤツじゃないとでも?
と思ってたら、その否定は一つ前の発言にかかっていたらしい。
「ヤシロ君なら、彼らと同じ立場でももっと別の方法を取っていると思うよ」
「もっと悪辣で狡猾な手段をか?」
「ふふふ。そうだね、もっと器用でスマートに敵を作らない方法で、かな?」
どうにも、オルキオは俺が善人だと思い込んでいる節がある。
おそらく、俺の情報のほとんどをジネットから得ているせいだろう。お人好しフィルターを通過した情報は、すべてが美談に変換されるからなぁ。
「領主一人が私服を肥やすより、街全体が潤った方がヤシロ君の利益は上がるからね」
何を訳知り顔で。
で、隣でくすくす笑うな、ジネット。
お前が仕込んだんだろ、こんなしょーもない知識。言い方がそっくりだ。
「だが、ウィシャート家は違う。彼らは、力で他者を支配する。逆らう者には容赦しない。……暗部、とでも言うのかな? 権力で潰せない者に対して武力を行使する――そんな組織も有しているようだしね」
声を潜めたのは用心のためか。
まさか、盗聴器なんて物はないと思うが、一般人に扮したウィシャート御用達の暗殺者が紛れ込んでないとも言い切れないわけか。
「その暗部とやらは、結構四十二区に入り込んでるようだぞ」
「――っ!? 大丈夫だったのかい?」
「なんとか、今のところはな」
マーシャ襲撃犯も、デリア襲撃犯も、街門前広場占拠犯たちも取り押さえて排除した。
今のところ、負傷者は俺とグーズーヤだけだ。
ただ、あいつらはどれもド素人だった。
ナタリアレベルの暗殺者が紛れ込んでくれば、話は変わってくるだろう。
今はまだ様子見ってところか、ウィシャート?
デリア襲撃に失敗して用心深くなったかと思いきや、ゴロつきを大量投入して広場を占拠しやがった。
アレはおそらく、そーゆートラブルが起こった時に『誰が』動くかを確認するための陽動だったのだろうと思う。
だからこそ、俺が目立つ行動を起こした。
狙うなら俺を狙えよ、ウィシャート。
ただし――
俺を殺し損ねた時が、お前の人生が終わる時だって覚悟を持ってな。
目には目を。
歯には歯を。
そして――
「ボインにはボインを!」
「急にどうしたんだい、ヤシロ君!?」
「……平気。いつもの発作」
「いつもこうなのかい!? それは平気なのかい!?」
「あぁ、オルキオさん、引っ越しちゃったから、まだお兄ちゃんに慣れてないですね」
「いや、慣れちゃってていいのかな、女子たち!?」
オルキオがわーきゃー騒ぐ中、シラハがじっと俺の腕を凝視している。
長袖の中程が綺麗に繕われている、その部分を。
「ねぇ、ヤシロちゃん。それ、どうしたの?」
「ん? あぁ、ジネットに繕ってもらったんだ。うまいもんだろ?」
「そうじゃなくてね」
話を誤魔化そうとしたのだが、シラハの瞳は真剣で誤魔化しきれなかった。
「ちょっと見せてね」
「あ、いや待て。その前に話を――」
言い終わる前に、シラハが俺の袖をまくり上げる。
「きゃっ!?」
「ヤシロ君!? 大怪我じゃないか!」
「違う違う違う! これはニセモノ! フェイクだから!」
大騒ぎするシラハとオルキオを、陽だまり亭従業員総出で落ち着かせる。
まったく、いちいち脱線するんだから……と、思ってたら、ロレッタが俺の考えとまったく同じことを呟いた。
「まったく、お話が脱線しまくりです」
「……ヤシロが『ボインにはボインを』とか言うから」
俺のせいじゃないやい。
ニセモノの傷を触らせてやり、「え、これ本当に偽物なのかい?」みたいな心配をされつつも、なんとか落ち着かせることに成功した。
多少は若いといってもジジイ5のメンバー。
心臓への負荷が大きくなるとぽっくり逝きかねないから気を付けないとな。
「なるほどね。情報紙の偏向を知らしめるために、か。よくいろいろと思いついて、それをあっさり実行するね、ヤシロ君は」
「思いついても実行できないことがほとんどだよ、私なんて」と、オルキオは力なく笑う。
きっと過去に実家の改革をあれこれ考えて、それでもそれらを実行できずにいたのだろう。
その結果が、シラハを傷付けることになった一族の暴走、か。
「とにかく、こいつはニセモノだから、心配すんな」
そう言って、早々に『傷跡』を覆い隠す。
もう特殊メイクをする必要はないのだが、「ほら、いきなり傷がなくなると『なんだよ、嘘かよ!』って心証が悪くなるから、徐々に小さくして『驚異的な回復力!?』って思わせる方向でいくんだよ」と周りの連中には説明して、現在も俺の腕に『傷跡』を貼りつけている。
本物の傷がなかなか完治しないせいで、こいつを外せないのだ。
この『傷跡』の裏には清潔なガーゼが貼りつけてあり、俺は毎朝こっそりと自分で傷の治療をしている。
治るのは時間の問題だ。もう痛くもない。
ゴロッツの安い刃こぼれしたナイフに雑菌がついてなかったのはラッキーだった。
破傷風とか、冗談じゃないしな。
これはただの演出。
そう言って聞かせたというのに、シラハの目は鋭くジネットの繕った袖を見つめたままだ。
「その傷は偽物でも、その袖を切り裂いたのはナイフよね? なら、本当に傷を負ったんじゃない、ヤシロちゃん」
鋭い。
こいつも、知人が傷付けられることに怒りを覚えるタイプなのかもしれない。
そういうヤツは、誰かが隠している傷や痛みを敏感に察知したりするものだからな。
「まぁ、ちょこっとな」
「そう、ちょこっと……ね」
カップの中に重いため息が注がれる。
コーヒーカップを両手で包み込んだまま、シラハは俯き、ぎゅっと唇を引き結んだ。
「私ね、今、すごく幸せなの」
たっぷりと間を取った後で、シラハが呟く。
声音は明るいが、顏は俯いたままだ。
「ヤシロちゃんとジネットちゃんがね、わざわざ三十五区まで来てくれて、虫人族のためにすごく頑張ってくれて、街は大きく変わったわ。もちろん、いい方によ。私のことも、初めて会った見ず知らずのオバサンなのに、とても親切にしてくれて……そう、初めて会った時からヤシロちゃんもジネットちゃんもとっても優しくて、あぁ、いい子たちだなぁって、私、ずっとそう思っていたのよ」
明るい声音が、微かに震え始める。
「オルキオしゃんとも、一緒に暮らせるようになって、閉鎖的だったアゲハチョウ人族のみんなも、それぞれにやりたい仕事を見つけて、自分のために生きられるようになって、他の虫人族だってそれは一緒でね……それは、一組の恋人たちの結婚っていう小さなきっかけだったかもしれない。けど、ヤシロちゃんはその小さな幸せを全力で守ってくれた。私、まるで自分のことのようにそれが嬉しかったのよ」
ぽとりと、コーヒーの中に雫が落ちる。
オルキオが、俯くシラハの髪を撫でようと腕を伸ばす。
だが、その指先が髪に触れる前に、シラハがぽつりと言葉を漏らす。
「やっぱり、許せないわ……私」
持ち上げられたシラハの表情は、らしくないほど険しく、その瞳は怒りに燃えていた。
「こんなことをさせた人を、私は許さない」
穏やかで、周りから押しつけられる凝り固まった善意を否定せず、自身を傷付けてでも周りの者たちの気持ちを優先して守り続けていたシラハ。
菩薩かというような寛容さを持ち合わせたシラハが、怒りを滲ませている。
それも、実行犯ではなく、その裏にいる黒幕に対して。
「やり口がまったく変わっていないのね、彼らは……」
そんな言葉に、俺は思い至らなかったある事実に勘付いた。
……え。そうなのか?
いや、しかし、ヤツならあり得るか……
そうだ。
ルシアが言っていたじゃないか。
ウィシャート家の娘がオルキオの家に行儀見習いとして滞在していたと。
行儀見習いってのは建前で、その実、その娘とオルキオを結婚させて、オルキオの実家と太い繋がりを持ちたがっていたのだと。
だが、オルキオはシラハと結婚した。
オルキオだって貴族だったんだ。ウィシャート家の腹積もりくらい理解していただろうし、おそらく実家の連中にもそれとなく、もしくは直接的に言い含められていたはずだ。
なにせ、他区とはいえ領主と縁を繋ぐチャンスなのだから、相当プレッシャーを与えられていたに違いない。
それでも、オルキオはシラハを選んだ。
実家の反対を押し切り、実家を飛び出して。
それは、ウィシャート家の思惑を潰すものでもあった。
そして、今回の騒動からも分かるように、デイグレア・ウィシャートに限らず、ウィシャート家の連中は――
自分の思惑を潰されることを、決して許さない。
「まさか、オルキオの家を放火したのは――」
「いや、それは違うよ、ヤシロ君。あの愚かな行為を実行したのは間違いなくウチの一族の者だよ」
あくまで身内の恥として、事実を事実のままに語るオルキオ。
だが、そのオルキオの隣には、物言いたげな不満顔のシラハがいる。
事実は事実なのだろう。
オルキオの言う通り、実行犯はオルキオの身内なのだろう。
だが。
「そいつを唆したヤツがいる――だろ?」
「…………」
その問いには、オルキオは無言を貫いた。
身内の恥を他者のせいにしたくないというのは、オルキオの優しさからなのか、元貴族としての矜持なのかは分からない。
だが、隣でそれを見ていたシラハは明らかに違う感情を抱いている。
オルキオは被害者であり、加害者の身内だ。
お家騒動は、貴族ならどこの家庭でも多かれ少なかれ起こっていることだ。
だが、それが外部からの干渉によって引き起こされたとすれば話は別だ。
シラハは、ずっと我慢していたのかもしれない。
けしかけた黒幕が、今ものうのうと暮らしていることに。
自身に消えない傷を負わせ、最愛の人を追い詰め、二人を引き裂いた諸悪の根源を、憎んでいるのかもしれない。
耐える女。
そんな慎ましい女性が内に秘めた激情は、きっと思い通りに行動を起こして生きている者とは比較にならないくらいに大きい。
「ごめんなさい、オルキオしゃん。私、ダメな妻です……」
オルキオに向かい、深く頭を下げる。
その後で、持ち上げられた沈痛な面持ちが俺へと向けられる。
「ヤシロちゃん。我が家に火を放ったのはオルキオしゃんの叔父様。本家の跡取り息子が亡くなれば、分家である自分の息子が次代の党首になれると――そうなるように力を貸してやると唆された哀れな男よ」
一族の恥を、こうして他者にしゃべられるのは相当な屈辱だろう。
本来なら、妻を殴ってでもやめさせるところだ。貴族という、面子を何より大切にする者たちなら。
だが、オルキオは優しい手つきでシラハの髪を撫でた。
「まったく、愚かだよね。口車に乗せられて、一族すべてを巻き込んで、お家取り潰しの憂き目に遭うんだから……まったく、愚かだよ」
「こんなことを言わせてしまって悪かったね」と、囁くような声でシラハに謝罪するオルキオ。シラハは小さく首を振り、涙をこらえるように俯いた。
「ヤシロ君。ウィシャートは鼻がいいんだ。自分と近い『ニオイ』を嗅ぎ分ける能力に長けていると言ってもいい――」
それは、俺が悪人を嗅ぎ分ける能力と似ている。
悪人は、悪人にお似合いなドブ臭ぇニオイがぷんぷんしてやがるからな。
「彼らが味方に置いている者は、みな似た者同士なんだよ。同じ穴の狢とでもいうのかな、妙に強固な繋がりを持つ者が多くてね……裏切り者が出にくい、いや、裏切れば即消されるという方が正確かもしれない……とにかく、内部に潜り込むのが非常に困難なんだ」
相手の喉元に届く刃。
死なばもろともの連中のやり口は、同族を引き付け、ビジネス以上の繋がりを生み出している。
一族以外でも、ウィシャートに近しい者は忠誠心以上の強固な絆で結ばれているということか。
「そうして、彼らの手口に『まんまと乗せられる』人物を見つけ出すのがうまい」
そうして目を付けられた者が、ウィシャート家のためにせっせと働く駒になるのだろう。
オルキオの家を燃やした者のように。
「安全だった場所が、ある日突然危険になることがある。誰よりも信頼してきた者が、実は自分を監視するために派遣されたヤツらの手駒という可能性も――私はね、四十二区に流れ着くまで、本当に心が休まる日はなかったんだよ」
ウィシャート家を取り巻く手駒たちの強固な絆を知っているということは、オルキオも過去にウィシャート家に探りを入れようとしていたのだろう。
そして、信頼できると思っていた者に裏切られたのかもしれない。
三十五区でシラハとの離縁を余儀なくされ、ウィシャート家に探りを入れ、返り討ちに遭い、逃れ逃れて四十二区へ。
オルキオは、どんな人生を送ってきたのだろう。
「だからね、私はこれまで一度も彼女には会いに行かなかった」
彼女というのは、今俺たちが情報を欲している例の彼女のことだろう。
「ルピナス・ウィシャート。それが、行儀見習いとして私が面倒を見ていた女性の名だよ」
ウィシャート家に通じる女。
オルキオから、彼女の情報がもたらされる。
「彼女はウィシャート家に見限られた存在だから、累が及ぶことはないとは思うけれど、慎重を期してあげてほしい」
そんなことを、真剣な瞳で言って、オルキオはコーヒーを一口飲む。
ムム婆さんは黙って座っている。
ジネットも、不安げな表情ではあるが、何も言わずオルキオの言葉を待っている。
マグダとロレッタは一応客のいない店内を気にしつつ、話に耳を傾けている。
シラハは、膝に手を置いて俯いている。
だが、その膝に置かれた手には、おそらくオルキオの手が重ねられているのだろう。
こっちからテーブルの下を覗き込んで確認するようなことはしないが。
「彼女――ルピナスは、九歳の頃に我が家にやって来たんだ」
九歳……
「オルキオのストライクゾーンだな」
「ごふっ!」
さっき飲んだコーヒーが戻ってきたのか、オルキオは気管支が「もうやめて!」って悲鳴を上げそうなほど咽せる。
「ど、どうして、そんな……ごほっごほっ!」
「いや、だって。九歳のシラハと出会って一目惚れしたんだろ?」
「いや、それはそうだけれど……」
「そうなのよ。それで、オルキオしゃんったら、純情だった私を外で――」
「シラハ、少しお口を閉じようか」
握った手を持ち上げてぐっと力を込めるオルキオ。
あ、やっぱ手を握ってやがった。
「あのね、ヤシロ君。シラぴょんと出会った時、私は十四歳だったんだよ」
その年齢差もどうかと思うけどな!?
「しかも、その年齢で、外でとか……」
「そのエピソードはもうちょっと大人になってからだよ! というか、この話やめないかい!? ここにはうら若い女性も多いからさ!」
やはり、うら若い女性には聞かせられないエピソードのようだ。
頬を染めるジネットとは対照的に、マグダとロレッタは興味津々な目をオルキオに向けている。
あ、ムム婆さんもすまし顔をしながらも耳がオルキオの方に向いている。
いくつになっても好きなんだな、他人の色恋。
「ごほん、ごほん! とにかく、そういった感情は一切抱くことなく、私はルピナスと出会い、教師と生徒として接していたんだ。その時私は二十一歳だったからね」
シラハの方をチラチラと窺いながら言い訳めいた弁明をするオルキオ。
そうやってハラハラするから怪しく見えるってのに。こういうのは堂々としていた方がいいんだぞ。
チラ見よりガン見の方がバレないって言うし!
「ウィシャート家の目論見は最初から分かっていたよ。というか、父から散々言われたんだ。ルピナスに懐かれて、ルピナスが我が家にとって都合よく立ち回るようにしつけておけとね。……犬や猫じゃあるまいに。失礼な言い草だったよ」
オルキオの親族は親族で、ウィシャート家の権力にあやかって勢力を伸ばそうと考えていたって訳だ。
で、ウィシャートは表だって行えないような裏の仕事をオルキオたちがまとめている虫人族――亜人たちにやらせようとしていたと。
ホント、どっちもクズだな。
相性よさそうだ。
「当然、私にそんなつもりはなかった。その頃にはもうシラぴょんがいたからね」
顔を見合わせてにこりと微笑むジジババ。
ん? ジジババでいいだろうが、こんな歩く胸焼け製造機。
「十六歳のシラぴょんはね、ちょっと背伸びしてお姉さんっぽい女性になろうとしていてね、覚えたてのお化粧とかして……可愛かったなぁ」
「やだ、オルキオしゃん……恥ずかしくて、シラハのハートが溶けちゃうわ」
「二人の恋は――」
「――メルティーラブ」
「マグダ、叩き出してくれ」
お前ら、手紙じゃなくてもポエムが飛び出すのか。
とんだ無差別兵器だな。
「で? どんな娘だったんだ、ルピナスっていうのは」
「ルピナス様はとても聡明な方だったわよ」
オルキオに聞いたら、シラハが答えた。
口ぶりからして、随分とよく知っている様子だ。
「でも、それ以上に活発で、大胆で、アグレッシブで、たくましくて、豪快で、野性的で、パワフルで、時に凶暴で、無鉄砲で、粗野で、直情的で、手の付けられないお転婆で、おしゃまで、お嬢様の型に嵌まらないお元気な方だったわ」
「出始めと終わりはなんとなくおとなしめだけど、途中でとんでもない大暴走してなかったか、お前の形容詞!?」
『凶暴』からよく『おしゃま』に帰ってこられたな!?
どんだけ暴れ回ってたんだよ、その令嬢!?
「あはは。確かに、行儀見習いに来たお嬢様という感じはしなかったね」
そんな枠に収まらないくらいの印象を抱いたんだが?
野生児だったんじゃないのか、本当は?
「ルピナスを動物に例えるならオオカミだね。荒野だろうがジャングルだろうが、どんな環境に独りぼっちで放ってもたくましく生き抜きそうな生命力に溢れていたよ」
「そいつお嬢様じゃないだろ!?」
「いやいや、血統は確かだよ。なにせ、ルピナスはデイグレア・ウィシャートの姉だからね」
現領主の実の姉!?
ゴリゴリの正統じゃねぇか。
直系じゃん。え、なに? 突然変異?
「ただ、頭脳はずば抜けてよかったんだよ。教えたことは一度で完全に覚えるし、三年もしないうちに、教師役の私が解けないような難問をすらすら解くようになるしね」
才能はあったのか。
……才能がある手の付けようがないじゃじゃ馬。うわぁ、最低の人種だ。
「それでも、私を見下すようなこともなく、どんな些細なことでも学び吸収しようとする姿勢を持っていた優秀な女性でもあるんだ」
「うふふ。きっと、ルピナス様はオルキオしゃんが好きだったのよ」
「えっ、そんなことないよ?」
「もう……オルキオしゃん、鈍いんだから」
「いや、でも、そんなこと言われたこともないし、シラぴょんとも仲良くおしゃべりしてたし」
オルキオは、ルピナスが家に来た直後に「自分には心に決めた人がいる」と告げたらしい。
頭のいいルピナスは、自分の役割を理解した上でオルキオのもとへ来ていた。
だが、オルキオの心が他所へ向いていることを知るや、自分の役目をあっさりと放棄したらしい。
曰く、「ウィシャートの者と認められていないのに、ウィシャートの駒として動くのが嫌になりました」――だそうだ。
それが、彼女が十歳の時の台詞だというのだから恐れ入る。
もしかすれば、ウィシャート家はデイグレアなんかじゃなく、ルピナスを領主にしていた方が繁栄したんじゃないかとすら思う。
もっとも、その繁栄の仕方はウィシャート家が望むものではないだろうが。
オルキオが言うには、ルピナスは悪事を快く思わない生真面目な性格らしい。
「ルピナス様は、私たちの結婚にも協力してくださったのよ。彼女がいなければ、私はオルキオしゃんと結婚できていなかったと思うわ」
貴族がよくやる手口の一つに、裏から手を回して圧力で握り潰すというのがある。
それを未然に防いだのがルピナスなのだとか。
当時、ルシアの祖父が領主を務めていた時代、ホタル人族のお手伝いをそばに置くほど虫人族に心を砕いていた領主婦人、ルシアの祖母に取り入って『貴族の長男と亜人』という前代未聞の結婚を成就させたという。
ルピナスってのは本当に行動的な女性だったんだな。
そして、小さい頃からオルキオに惚れていたというのが本当なのだとすれば――なんて強い女性なんだろうか。
好きな男の幸せを願って、自分以外の誰かとの結婚を全力でサポートするなんて……
「私、言われたもの。『絶対にオルキオ先生を幸せにしなきゃ許さないから』って」
しかし、オルキオは結婚直後に廃嫡される。
「ルピナスがまだ家にいる間に次期当主を変更し、なんとかウィシャート家との繋がりを維持しようと目論んだんだろうね」
「でも、ルピナス様はオルキオしゃんの廃嫡に酷く憤慨なさってね――」
『私は貴族としてのすべてをオルキオ先生から教わりました。その先生が貴族でなくなるというのであれば、私も先生に倣って貴族をやめます!』
「そう言って、ウィシャート家に絶縁状を叩き付けちゃったのよ」
なんつーパワフルなお嬢様だ。
貴族として生まれ、衣食住には困らない生活をしていたお嬢様が、その身一つで世間に放り出されてやっていけるほど、当時のこの街は豊かでも優しくもなかったろうに……あ、このお嬢様は荒野であろうと一人で生き延びていけそうなほどたくましかったんだっけ?
「ルピナスが絶縁状を叩き付けたのが十四歳の年の末、そして、年が明けて彼女が十五歳の年に、私たちの家が放火されたんだ」
オルキオの親族としては、オルキオがいなくなればルピナスが大人しくなると考えたのかもしれない。
だが、ウィシャート家は違うだろうな。
うまいことを言ってオルキオの親族を焚きつけたのだろうが、腹の底の「こっちの計画を邪魔しやがって。許せねぇ」って意図が透けて見える。
ウィシャート家はそこまでゴロつき斡旋業に固執していなかった。
現に、今もゴロつきギルドの連中をうまく操ってやがる。
連中にしてみれば、オルキオの実家と縁が繋がれば『楽になるな』くらいのものだったのだろう。
ウィシャート家の女たちは、扱いが随分とぞんざいらしいし。
だが、自分たちの計画を邪魔されたという事実だけは許せなかった。
だから、火を放つように仕向けた。
なるほどな。
シラハ。お前の言ったこと、分かるような気がするぜ。
やっぱり、許せねぇよな。
そんなクズに崖の上から見下ろされてるのかと思うと、腹の虫が収まらねぇどころか総立ちでヘッドバンキング始めそうだぜ。
こりゃ、デイグレア・ウィシャートの名前が『何がなんでもぶっ潰してやるリスト』から消える日も近いかもしれねぇなぁ。
「それで、そのルピナスさんは今、どうされているんでしょうか?」
少し不安げな表情でジネットが尋ねる。
ウィシャート家に真っ向から逆らった一人の女性のその後が気にかかるようだ。
ウィシャートのことだから、執拗な嫌がらせをしているか、幽閉していたとしても驚かない。
だが、意外にもオルキオの答えは平和なものだった。
「彼女は今、平民――というと言い方は悪いけれど、一般人として暮らしているよ。ね、シラぴょん」
「えぇ。ルピナス様は、三十五区でご結婚されて、今はご家族と暮らしているそうよ」
長らく三十五区を離れていたオルキオ。
ルピナスの情報はシラハから聞いたのだろう。
「シラハは知っていたのか、ルピナスのその後を」
「えぇ。とてもお世話になったのに、火事に遭った後、私たちは自分のことで精一杯になっちゃって、お礼も恩返しも出来ないままだったから……」
火事の後も、オルキオとシラハは周りとの摩擦に抗っていたと聞いている。
それでも、二人きりでは立ちゆかなくなり、二人は離ればなれになって暮らすことを余儀なくされた。
ウィシャートとしては、それで溜飲が下がったのだろうか。
今現在、オルキオの周りにウィシャートの影は見えない。
先ほどオルキオが、『四十二区に流れ着くまで、本当に心が休まる日はなかった』と言っていたことからも、オルキオがあの火事で死んだとは思っていないはずだ。
貴族ではなくなり、最愛の人とも離ればなれになり、最貧区四十二区へ逃げるしか出来なかったオルキオを見て、ウィシャートは『勝った』と思ったのだろうか。
……ウィシャート家にしては大人しいような気もしないではないが。
まぁ、一人にいつまでも時間を割けないからな。
もっと別のことに目が向いたのかもしれない。
なんにせよ、オルキオは現在ウィシャート家に狙われてはいないようだ。
今はシラハがいる。だからオルキオはウィシャートと対立するようなことは避けていたのか。
あの火事も身内の恥として飲み込もうとしたように。
もしかしたら、四十二区に来て知り合った友人たちを巻き込まないために、ずっと前から自身の屈辱を飲み込んでいたのかもしれない。
最愛の人と引き離され、おのれのすべてを奪った連中への恨みや怒りを、一人で、じっと耐えて…………
「ジネット、オルキオにクレープをご馳走してやってくれ!」
「あぁ、いや。大丈夫だよ、ヤシロ君!? 確かにつらい時期もあったけれど、今は幸せだから」
立ち上がりかけたジネットを制して、そしてにっこりと優しい微笑みを浮かべて俺とジネットを見つめる。
「君たちのおかげで、ね」
そして、シラハの肩を抱いて引き寄せる。
オルキオの肩に頭を乗せて、シラハがうっすらと頬を染める。
「爆ぜろ」
「情緒不安定ですか、お兄ちゃん!?」
「……ヤシロは素直な子」
いや、若干な? 若っ干だけど、イラッてしたもんで。
「お兄ちゃん、その人に会いに行くです?」
ロレッタの質問に、全員の視線がこちらを向く。
俺としても、オルキオに紹介してもらって会いたいとは思っていたんだが……
おそらく俺は今物凄く監視されてると思うんだよなぁ。
だってほら、街門前広場で大暴れして、『俺が中心だ!』って見せつけたわけじゃん?
絶対ウィシャートは俺の動向を探ってると思うんだよなぁ。
俺がウィシャートの立場で似たような権力持ってたら絶対探らせるもん。
そんな俺が、ウィシャート家に絶縁状を叩き付けるような直系の姉を訪ねたら……絶対巻き込んじまうよなぁ。
くそ。大暴れするのはもうちょっと後にすればよかった。
「まぁ、ルピナスに会っても、有用な情報は得られないかもしれないけれどね。なにせ、もう何十年も前に家を出た娘だから」
確かに、今のウィシャート家のことは分からないかもしれないが……
「あぁ、そういえば、ウィシャート家の女は問答無用で外に放り出されるんだっけ?」
「そうだね。おそらく、本館の中心部には入ったことがないんじゃないかな?」
ウィシャートの館には一族が家族単位で住む離れがいくつもあり、その中で当主によって選ばれた者だけが本館への立ち入りを許されると、ルシアが言っていた。
客人が立ち入れるのも本館のごく一部だけだと。
ってことは、本館の隠し通路とか、危険物の隠し場所とか、そういうきな臭い物のことは知りそうにないな。
あんまり会う意味はないかもしれない。
いや、会ってみたいという気持ちはある。
会う前から『意味がない』と決めつけるのは愚策だとも思う。
だが、こっちの都合でルピナスとその家族に累が及ぶのは本意ではない。
何か、さりげなくすれ違えるような、すれ違い様にぽろぽろっと情報がもらえるような、そんな状況があればいいんだが……四十二区と三十五区の距離で、面識もない俺らじゃ無理だよな。
オルキオを巻き込むのは……ジネットに余計な心配をかけることになりそうだし。
おそらく、オルキオやシラハの関係者がルピナスと接触を図るとウィシャートはそれを潰しに来るだろう。
こういう状況だ。自分たちのアキレス腱になりそうな部分は特に用心深く見張っているはずだ。
俺ならそうするし。
……うむ。やっぱ無理か……いや、でも何か方法が…………
「おやおや、もしかして私をお呼びではありませんか、ヤシロさん?」
にっこにこ顔で、アッスントが陽だまり亭へとやって来た。
話し声が外まで丸聞こえだったのかと身構えたが、アッスントはここにいる顔ぶれで何の話をしていたのかを推測したようだ。
それにしてもあの顔……
「ブタそっくりだな」
「ブタ人族ですからね!? え、なんです、今さら? もしかして忘れてましたか?」
ちょっと驚かされたことに対する報復だ、気にするな。
「これはミスター、ミセス。お話の場にお邪魔するご無礼、お許しください」
「よしておくれよ。私たちは別に貴族でもないんだ。普通にしてくれるとありがたいな」
「ご無沙汰ね、アッスントさん。結婚式の時はありがとうね」
「いえいえ。三十五区の虫人族のみなさんに商品を勧めていただいて、こちらとしては大助かりでした」
あの結婚式のパレードで、人間は触覚カチューシャを、虫人族は浴衣など人間と同じような格好をして互いの距離を縮めていた。
シラハが間に立ってくれていたのか。
「アッスントさん、何かお飲みになりますか?」
「ではお願いします」
「じゃあジネット、アッスントに陽だまり亭懐石~彩り~を」
「せめて飲み物でお願いします!」
んだよ。
ここ最近、陽だまり亭懐石~彩り~はずっと割引価格でしか出てねぇんだよ。
たまには定価で売らせろよ。
「コーヒーと果実ジュースとどちらがいいですか?」
「では、果実ジュースを」
「子供か!?」
「いいじゃないですか! ……コーヒーは苦いのですよ」
おまっ!?
マジか!?
コーヒー飲めないのか!? これから流行らせようとしてるってのに。
ジネットが厨房へ向かい、アッスントがオルキオの隣に腰を下ろす。
そして、斜向かいから俺の顔を覗き込むくらいの勢いで満面の笑みを向けてくる。
「『Re:Born』販促行脚をいたしませんか?」
「販促行脚?」
「えぇ。四十二区と、四十二区へ来やすい二十九区や近隣の『BU』内ではそれなりに支持を得た『Re:Born』ですが、外周区の遠い区まではその勢力が届いていないのです」
そりゃそうだろう。
現在、クーポン券が使えるのはほとんど四十二区だ。
たかが数十Rbのために遠くの区まで行こうなんて変わり者はそうそういない。
「『Re:Born』の有用性が知れ渡れば、協賛者も増えますし、各区の店がこぞってクーポン券を出すでしょう。そうすれば、他区へ行ってみたいと思う顧客が増え、他区間の行き来が活発になれば乗合馬車の本数も自ずと増えるでしょう。そうして経済が循環していくことは、我々行商ギルドにとって非常に望ましいことなので、全面協力させていただきますよ」
「要するに、『リボーン』を持って外周区で売り歩けってか?」
「それに加え、移動先でも出来る簡単な体験教室なども出来るといいですね。たとえば、ムムさんのしみ抜きとか、マッサージ……は、ベッドが必要になるので難しいですが、美容か健康にいい何か――」
「足つぼなんてどうでしょうか!?」
ジュースを持って戻ってきたジネットが大きな瞳をキラキラさせてアッスントに訴えかける。
「……え、えぇ、まぁ、そういうのも有り、です……かね?」
「足つぼでしたら、椅子を一脚用意するだけで可能ですし、場所も手間も時間も取られません! きっと向いていると思います!」
「そ、そうですね……」
アッスントがチラチラとこちらを見ている。
が、お前が『マッサージ』とか言うからだぞ? 責任はお前が取れ。
「ですが、いい講師が見つかるかどうか……」
「なんでしたら、わたしがお手伝いします!」
あ~ぁ。
一番ダメな結末に行き着いちゃったな。
どーすんだよ、おい。
「そ、それは、後日考えるとして!」
あ、強引に話を打ち切りやがった。
「我々は、現在憎い敵である情報紙を倒すために全力を挙げている――と、思われているはずですので、こういう大きな行動も取りやすいと思うのです」
なるほど。
建前上は、こちらを攻撃してきた情報紙――ひいてはウィシャートへの反撃に見せかけて、それは目くらましってわけか。
「そして、三十五区に行った際に――」
「ルピナスと――たとえばマッサージ体験なんかで――こっそり密会できれば」
「えぇ、話を聞くくらいは出来ると思いますよ。もちろん、ヤシロさんは彼女の素性をまったく知らないという体で、です」
それは面白そうな提案だ。
少々準備と本番に時間と労力がかかるが……
「情報紙へのいい打撃にもなるし、やってみるか」
「では、もろもろこちらで手配させていただきますね。あ、大工さんを数名お借りしてもいいですか?」
「エステラに言え、そういうことは」
「では、言ってまいります」
嬉しそうに陽だまり亭を飛び出していったアッスント。
あの喜びようは――
きっと、ジネットの説得から逃げ出せた喜びだろうな。
くそ。
足つぼに浮かれたジネットをどう鎮めりゃいいってんだよ。
はたして、アッスントを生け贄に捧げれば、足つぼ魔神は鎮まってくれるだろうか……
あとがき
どうも!
最近、ヤシロさんは周りの暴走を止める役割に回りがちでしたが……
ウィシャート、
いつの間にか、しっかりと書き込まれていたんですね、『何がなんでもぶっ潰してやるリスト』に
『叩き潰しても心が痛まないリスト』よりワンランク上のリストで、
かつて、妹たちを泣かせたカマキリ人族の男をけしかけた行商ギルド(アッスント)がここに名前を書き込まれていました。
これまでで、このランクの怒りを買ったのは行商ギルド(アッスント)のみでしたねぇ。
アッスント「あの……あんまり名前連呼しないでくれませんか?」(おなか「キリキリ……」)
それとは別に、
宴in四十二区の時に、四十二区の男衆に対して
『ちょっといじり過ぎても心が痛まないリスト』というのが登場していましたが……まぁ、こっちはどーでもいいでしょう。
そもそも、いじり過ぎて心を痛めるようなタイプじゃないですし。
っていうか、あれでいじり過ぎてないという判断なんですね、ヤシロさん。
と、それはともかく、
その『何がなんでもぶっ潰してやるリスト』から名前が『消える』って、どういうことなんでしょうねぇ…………
というところで、あとがきです☆
改めまして!
ヒマワリやトマトの成長記録ばっかり撮影していたら
やたらと植物関連の記事が引っかかるようになった宮地です。
……AIに情報抜かれてるんですかね?
撮った写真を見るアプリで、「最近のハイライト」っていう
AIが勝手にアルバムの中から写真をピックアップする機能があるんですが
……見事に緑一色ですね。
AI「お前、こーゆーのが好きなんだろ? ん?」
みたいな押しつけ感が、若干鼻につきます……
成長記録なので、ほとんど変化のない写真が何枚も続いて――
いや、せめて名前の通りピックアップはして!?
「これ、いい写真だねぇ~」っていうヤツを推薦して!
手あたり次第じゃん!?
と、ウチのAIが利口なのか残念なのか分からない状態になっております。
あ、そうそう!
最近のスマフォ、すごいんですね!
写真撮るじゃないですか。
で、その画像を、なんかこう、ごちゃごちゃってすると、
画像で検索かけてくれるんですね!
すごく便利!
たとえば、仕事帰りにお花畑とか「るんるんるん♪」って歩くじゃないですか?
そんな折、見たこともない可愛らしい野の花を見つけるじゃないですか。
でも名前も分からない、そんな時!
その花の写真を撮って、なんかこう、ごちゃごちゃっとすると
その画像から、花の名前が検索できちゃうんです!
すごい!
先日、駐車場の脇にひっそりと咲いていた真っ白な美しい花を見つけ、
なんて花かなぁ~? って検索したら
ニラでした。
駐車場の脇にニラ生えてた!?Σ( ゜Д゜;)
そんなびっくり体験をしました。
ただ、花の画像で検索すると、検索結果が変わる時があるんですね。
結構似た花って多くて、果たしてこれはどちらが正解なのか……
と、悩んでしまうこともしばしば
そんな折、
私よりほんのちょこっと植物に詳しい
まぁ、ほんのちょこっとだけですけどね!
なにせこっちは、ヒマワリ育ててますからね!
あと、トマトとバジルとクローバーとイチゴ!(えっへん!)
で、まぁ、ほんのちょこっと私より植物に詳しい人――仮に『植物さん』としておきましょうか――にこんなことを教わったんです。
植物さん「花の種類を知りたい時は、葉っぱで検索するといいよ」
マジで!?
え、葉っぱなんかみんな同じ形じゃないの?
で、先ほど出てきたニラ。
白くて小さくて綺麗な花なんですが、
花だけ見るとソバの花とそっくりなんですね。
画像検索でどっちも引っかかるくらいに。
でも、言われて見てみれば葉っぱが全然違う!?
……植物さん、すげぇ……ぱねぇ……おねぇ……
植物さん「誰がオネェなのよ!? 踏ん付けてやる!」(いい意味で)
……いや、なんか不意に「あ、このネタ炎上しそうかも!?」とヘタれてしまった挙句の(いい意味で)です!
いい意味なら炎上しない。きっとしない。だって、いい意味ですし。
話を戻します!
それで、葉っぱで検索をしていたんですが、
背の低い草花の場合、
「ん? え、お前の葉っぱ、どれ?」ってなることがしばしば
なんかもう、こんがらがって、
あの葉っぱもこの葉っぱも「ぅしゃ~い!」ってもっさもっさ生えているもので、なかなか難しいこともしばしば
……あ、そろそろ気付いちゃいました?
植物の話だから『しばしば』推してるんです、芝、だけに!(* ̄▽ ̄*)ドヤァ
でまぁ、分からないものは、分かる人に聞くのが一番ですし
ここは素直に尋ねましょう。
とはいえ、こっちも植物を育てている、植物の飼い主、つまりオーナー、すなわちマスターですから、
植物マスターですから!
それなりには知ってるんだぞという、知識のひけらかしもしたいわけで――
宮地「ごらん。あの花の名は、タンポポだよ」
植物さん「知ってるわ!」
宮地「朝顔! ヒマワリ! チューリップ!」
植物さん「知ってる花が小学生レベル!」
宮地「コスモ……ス?」
植物さん「勘やめれ!」
ひけらかしは難しいです……(´・ω・`)
それで、知ったかぶりはやめて
知らない花の名前を素直に教えてもらうことにしました。
宮地「あれは、オオイヌノフグリ?」
植物さん「ではないね」
宮地「じゃあ、何のフグリ?」
植物さん「花の名前、そんなフグリだらけじゃないからね!?」
もっと草花に詳しくなりたい。
それで、ドヤ顔で「アレは○○」「ソッチは○○」とか言いたい。
宮地「アレはワコール。そっちはグンゼ。トリンプ、ラヴィジュール、ピーチジョン」
植物さん「下着メーカー!?」
宮地「(* ̄▽ ̄*)ドヤァ」
ドヤれました。
もうね、肩紐のラインでピーンとくるんですよね
いやもう、ぽぃーんとくるんですよね!
宮地「グンゼのブラ言葉は『希望』!」
植物さん「ないから、そんな花言葉みたいなヤツ!?」
宮地「グンゼは中学生くらいが身に着けてるイメージだから、これからの成長に期待という意味を込めての『希望』」
植物さん「うん、聞いて。ないから! ブラ言葉とか、ないから!」
宮地「イオンのブラ言葉は『お手頃価格』!」
植物さん「感想じゃん!? イオンだとお手頃価格のブラありそうだけどさ!」
こういうちょっとした知識を見せられると、カッコいいですよね☆
あっ、そうだ!
もしかしたら、
ブラジャーの写真を撮って、なんか、こう、ごちゃごちゃっとしたら
画像検索でどこのメーカーさんのか分かるかも!?
じゃあ、どなたか検証のために画像を撮影させ……ちっ、サツか!? ズラかるぜ!(しゅぴん!)
ちなみに、
女性警察官は、
男性をみだりに刺激してはいけないという観点から、
下着の色が規制されているらしいですよ!
白かベージュでないとダメなんだそうです。
えっ!?
見せる機会があるの!?
あ、透けブラとかパンチラとかですか!?
……白が大好きな宮地さんを始めとする男性はどうしたら……(*´Д`)
ベージュもね、ある年齢を超えてくると、素敵に思えるようになるんだよ。
あと、これは男性も女性もなんですが、
恋人が出来ると上司に報告する義務があるのだそうです。
年齢や職業、家族構成まで。
――悪い人が、警察官さんを騙して情報盗もうとしたり、コントロールしようとしたりする目的で近付いてくる可能性があるから、だそうです。
身辺調査をして、反社会的な人物であると判断された場合は
警察官をやめるか、恋人と別れるか、選択を迫られるようです。
これは難しい選択ですね……
じゃあ、難しくない方の『洗濯』は私がやっておいてあげましょう! 白でもベージュでもどんとこ……しまった、ここ警視庁だった!? ズラかるぜ!
というわけで、植物のお話でした。
……なんですか皆様?
私が植物の話をしたというのに、ブラジャーのことばっかり考えちゃってるみたいな顔をして!
ダメですよ、人の話はちゃんと聞かないと! ぷんぷん!
いや、ぷるんぷるん!
というわけで、最後は「しばしば」で絞めたかったのですが思いつかなかったのでぬるっと終わります!
次回もよろしくお願いいたします。
宮地拓海




