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異世界詐欺師のなんちゃって経営術  作者: 宮地拓海
第三幕

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485/821

287話 手に手を取って

「すみませんでした。反省します。ゴメンナサイ……」


 グーズーヤが陽だまり亭のフロアの端っこの方で三角座りをして泣いている。


「エステラにいじめられたせいで」

「六割は君のせいだよ」

「……四割は認めた微笑みの領主なのであった」

「あんまり意地悪をしてはダメですよ」


 もともと、グーズーヤの失言が原因だ。自業自得だろう。


「そもそも、君のおなかが黒いからボクにまで偏見の目が向けられるんだよ」

「お前がだろう? ちょっと腹見せてみろよ。きっと内側の黒さが透けて見えてるぞ」

「残念ながら、ボクのお腹は新雪のように真っ白だよ。レディだからね、日焼けには気を遣っているんだ」

「ほぅ、どれどれ?」

「見せないよ」


 腕を伸ばすと、ぎゅっと手首を掴まれた。

 なんだよ、腹くらい。水着の時は散々見られただろうに。


「まったく、『会話記録カンバセーション・レコード』は欠陥品だな。なぜ見た風景まで記録しておけないのか……」

「卑猥な目的でしか利用しないだろう、君なら。なくて正解だよ、そんな機能」


 ラッキースケベを半永久的に記録保存できるなんて、夢のような機能だと思うがなぁ。


「もし、そのような機能があれば、もう会えなくなってしまった人の笑顔を見られていいかもしれませんね」


 少し寂しそうにジネットが言う。


「でも、会いたくなってしまって、やっぱりダメかもしれませんね」


 写真やビデオがあれば、在りし日の姿は見られる。

 けれど、どうやっても会うことは出来ない。会話することは出来ない。

 それは寂しさを増長させるかもしれない。


 もしかしたら、ジネットは独りぼっちだった頃、祖父さんとの会話を『会話記録カンバセーション・レコード』で読み返したりしていたのかもしれないな。


「ジネットだったら、地面がたくさん記録されるんじゃないか? よく転ぶから」

「むぅ。そんなことないですもん」


 ほっぺたを膨らませて、そしてにこりと笑う。

 寂しさが少しは抜けていっただろうか。


「でも、過去の風景を記録することが出来ていたら……」


 両手を合わせて、ジネットが俺を見る。

 時折見せる、今よりも少し遠い過去を見つめるような瞳で。


「この付近が賑やかだったころの風景を見せてあげられましたのに。ちょっと残念です」


 ジネットにとって、とても楽しかった記憶なのだろう。

 道を歩けば顔なじみがたくさんいて、陽だまり亭の周りにも家がたくさん建っていて……


「いや、別に見せなくていいよ」


 写真の一枚でもあったなら見せてもらったが、ないものを見たかったと言っても寂しさを思い出させてしまうだけだ。


「今でも十分賑やかだからな、この辺は」


 毎日毎日誰かしらがやって来て、そいつらがいちいち大騒ぎをしていく。

 ここくらいだぞ?

 他区の領主が風呂上がりに集まってきてわいわい騒ぐ食堂なんて。


「ふふ。そうですね」


 ジネットの笑みに温かさが戻る。

 過去は変えられないが、未来なら自由自在だ。存分に楽しんでやればいい。


 それに、どうせすぐ賑やかになるだろうしな、この辺も。

 ウーマロたちがこの辺に家を建てれば、住みたいってヤツは大勢出てくるだろう。

 そうなったら毎日毎日騒がしくて堪らなくなる。


 変なヤツが住み着かないように、この辺の地価を上げておかなきゃな。

 ……あ、ダメだ。

 この街は金を持ってるヤツほど変なヤツが多いんだった。

 ルシアやハビエルやマーゥルみたいなのが集結したら目も当てられない。

 紹介制にしようかな。陽だまり亭の審査に通った者だけが住むことを許されるようにした方が安心だ。


「ジネット。あらかじめこの付近の土地を買い占めておこう。変なヤツが引っ越してこないように」

「うふふ。面白い方が引っ越してこられたら楽しいじゃないですか」

「ドニスやルシアみたいな変態だったらどうする!?」

「ヤシロ。他区の領主に暴言を吐かないように」

「ぺったんこ」

「自区の領主にも暴言吐くな!」


 テーブルを飛び越えてエステラが俺の首を絞めてくる。

 ほらな。

 こういう危険人物が引っ越してきたら大変だろう?

 だから、周りの土地を買い占めておくんだよ。


「で、どうしてもこの辺に住みたいというのなら、四倍くらいの値段で売りつけてやればいい。今後の迷惑料も込みにして……ふふふ、暴利って、いい言葉だよな」

「君は、そんな発想を持ちながらよく自分の腹が黒くないだなんて主張できるよね」


 バカモノ。

 価値ある土地を高く売るのは普通のことだ。


「いっそのこと、マンションを建ててオーナーになるか。そうすれば賃貸収入でウハウハだ」


 オーナーなら、気に入らないヤツを拒否することも出来るし、あとから追い出すことも可能だし。


「何より、無料でマンションを建ててくれる知り合いが、俺にはいるし☆」

「待ってッス、待ってッス! その『マンション』っていうの、ニュータウンの寮みたいな規模の集合住宅ッスよね? それを無料ではキツいッスよ!? せめて二階建てで八世帯程度に留めてほしいッス!」

「……そこまでだったら無料でやってもいいと思ってしまっているウーマロは、もう末期」

「ウーマロ。君は少しヤシロに会う頻度を落とした方がいいかもしれないね」

「そんなっ!? マグダたんに会えなくなるくらいなら、オイラヤシロさん色に染められた方がマシッス!」

「やめろ、ウーマロ。……レジーナが来る」


 発言には気を付けろ、バカ。

 あいつが引っ越してきたらどうするんだ。レジーナなら、他人の家で引きこもるくらいのことは平気でやりかねないんだぞ。

 陽だまり亭に住み着かれたら駆除が大変だ。


「レジーナさんがご近所さんになると、今よりたくさん会えるようになって嬉しいですね」

「やめとけ。下着を干す度に一枚二枚行方知れずになるぞ」

「その危険は今現在も変わらないんじゃないのかい?」

「……最近、ジネットが巧妙になってな……」


 気付いたら干し終わってるんだ。

 なぜだ?

 俺がジネットの行動を読めないだなんて……っ!


「……店長が下着を干す時は、マグダがヤシロを外へ連れ出している」

「なっ!? そんなことしてたのか!?」

「……ノーマやデリアにも協力を要請している」

「だからたまにしょーもないことで呼び出されるのか、俺は!?」


 いや、でもまぁ、結局行ったら行ったで結構話し込んじゃうんだけども。

 だって、ノーマが歯車とか見せてくるからさぁ、それを何に活用するかとか、話は尽きないわけで。


「そんなに警戒しなくても盗らないのに」

「ヤシロさんは……前科があるからダメです」


 違うもん。

 前のは落ちてたヤツを拾っただけだもん。

 落ちた桃は持ってっていいって桃農家の人が言ってたもん。

 パンツ農家の人だって落ちたパンツは持ってっていいって言うに決まってるもん。


「チェアベッドを持ち込んで、優雅に眺めるだけだって」

「見るのもダメです、もう!」


 美しい風景は、心に焼きつけておきたいものだろうに。

 写真もないこの世界でなら、なおさらな。


「君は腹が黒いだけでなく、頭の中は桃色なんだね」

「じゃあ、お前のお尻は青いのか?」

「失敬な!」

「そっくりそのまま返してやるよ」


 ケツの青い新米領主ってのが、他区からの評価っぽいぞ。

 ほれ見せてみろ。本当に青くないか確認してやろう。


「……ウッセは腹が黒い。本当に」


 マグダがぽつりと言う。

 ウッセは腹黒というよりただのバカだと思うが……


「……ウッセは上半身裸で解体場をうろついていることが多い。なので焼けている」


 くっそ重たい魔獣を運んで、解体するのは相当体力を使うのだろう。

 服を脱ぎたくなるくらいに汗もかくのだろう。

 想像したところで、まったく面白くともなんともない光景だな。


「……ヤシロも、少しは焼いた方がたくましく見える」


 とかなんとか言いながら、俺の服の裾をぺろ~んとめくり上げるマグダ。

 俺の腹筋があらわになり、同時にジネットとエステラが短い悲鳴を上げた。


「な、何をしてるんだい、マグダ!?」

「だ、だめですよ、そのようなことをしては!」


 顔を背け、手で目元を覆いながら、指の隙間から視線だけをこちらに向ける二人。

 あぁ、なるほど。

 チラ見って、こんな感じでバレるんだ……

 いや、腹筋くらい見られても別にいいんだが。


「俺が日焼けすると、『やっぱり腹が黒い』って面白くもない面倒な絡み方をしてくるヤツが出てきて鬱陶しいだろ?」

「……確かに。エステラの幼馴染とか、言ってきそう」

「ボクの幼馴染はジネットちゃんとマーシャだから、そんなことは言わないよ」


 どんなに目を逸らしても、リカルドはお前の幼馴染だぞ、エステラ。

 諦めろ。


「あ、あの、やしっ、やしろさん、その、服を、戻しましょう、ね?」

「ん? あぁ、悪い」


 リカルドの話題が出て、すぐさま冷静さを取り戻したエステラとは異なり、ジネットはずっとあわあわしている。

 目に毒ってヤツだな。


 ……の、割にはチラチラ見てたなぁ。


「……ジネットのエッチ」

「はぅっ!? そ、そんなことは…………はぅぅ、懺悔します」


 見ていたという自覚はあるのだろう。

 ジネットが項垂れる。

 と、同時にエステラに頭をぽふっと叩かれた。


「イジメないの。マグダも、レディとして嗜みある行動をするようにね」

「……分かった、善処する。『チラ見の領主様』の言うとおりに」

「よぉし、その反抗的な態度を悔い改めさせてあげよう!」


 と、エステラが腕まくりをした時、外から馬車の音が聞こえてきた。

 そうして、程なくロレッタが陽だまり亭へと戻ってくる。


「ただいまです! お手紙届けてきたです!」


 ルシアのところへ手紙を届けに行ったロレッタ。

 どうやら、その返事をもらってきたようだ――本人ごと。


「邪魔をするぞ、カタクチイワシ」


 ルシアが四十二区に乗り込んできた。




「ルシアさん、いらっしゃいませ」

「うむ。邪魔をするぞ、ジネぷー」


 ジネットがルシアに席を勧める。


「ギルベルタさんも、どうぞ。今、お茶をお持ちしますね」

「ありがとう思う、友達のジネット」

「じゃあマグダ、ロレッタ。ちょっと手伝ってくれ。テーブルをくっつける」

「……任せて」

「お手伝いするです」


 俺たちがテーブルの移動を始めた時、エステラが外を指さした。


「ごめん。ちょっとナタリアを呼んでくるよ。ルシアさんが来てくれたなら、工事関連で書類を作りたいから」

「それなら行く、私が」

「ギルベルタはルシアさんのそばにいなきゃダメだよ。一応、四十二区は他所の区なんだから」

「感謝する、心遣いに、微笑みの領主様の」

「……なら、微笑みの領主呼びをやめてくれると嬉しいんだけどね」


 乾いた笑いを漏らすエステラ。

 そのまま外へ出ようとするエステラを、ロレッタが呼び止める。


「待ってです、エステラさん。ナタリアさんなら、あたしが呼んでくるです」

「いや、でもロレッタは今帰ってきたばかりじゃないか。三十五区は遠かっただろ?」

「平気です! あたしまだまだ元気ですから」


 何か役に立ちたい。

 そんな気持ちが顔に滲み出している。


「じゃあ、お願いできるかな? ありがとう」

「いえいえ。では、行ってくるです」


 エステラも、ロレッタの気持ちを汲んだようだ。

 何かしたいって気持ちが急いている時は、動いている方が気分的に楽だからな。

 今、ロレッタはちょうどそんな感じなんだろう。


 エステラがロレッタと話をしている間に、マグダとギルベルタがテーブルを準備してくれた。俺もちょこっと手伝った。


「ウーマロ。お前も座れ。おそらく組合の話だ」

「はいッス。じゃあ、お邪魔するッス」

「ギルベルタ。オマールを呼んで参るのだ」

「了解した、私は」


 オマールは三十五区の大工だが、最近は港の工事のため四十二区に泊まり込んでいる。

 ニュータウンにある空きアパートをカワヤ工務店に丸々一棟貸し与えているのだ。


「これからニュータウンに行くのか?」

「違うと答える、私は。いる、外の馬車の中に」

「外の馬車に?」


 なんで四十二区に滞在しているオマールがルシアの乗ってきた馬車に乗ってんだよ?


「昨日のゴロツキとの一件を報告に来ておったのだ。そうしたら、エステラからの手紙でトルベックが大変だと聞いてな。カワヤを引き連れてやって来たというわけだ」


 三十五区は三十五区でバタバタしたらしいな。


「なんで一緒に入ってこなかったんだよ?」

「私の馬車に同乗させてやったら、緊張のあまり目を回してしまってな。馬車の中で寝かせてやっているのだ」

「……どんだけ肝っ玉小さいんだよ」


 そういえば三十五区の領民って、みんなルシアを恐れていて、ルールに厳格で若干融通が利かない性質だったっけなぁ。

 花園にいる間はルシアにもフランクで、花園を一歩出ると兵隊みたいにかしこまるような極端なヤツもいた。


「すげぇ怖がられてんだな」

「違う。緊張から来る心労だ」

「無礼を働いたら何されるか分からないもんなぁ……あ~怖い怖い」

「無礼しか働かぬ貴様に言われる筋合いはないわ! 私ほど寛容な領主はそうそうおらぬだろうが!」


 領民との距離が大きいのがこいつの密かな悩みだ。

 そういう面では、エステラに憧れていたりするのかもしれないな、こいつは。


「す、すみません……醜態をさらしてしまいまして」


 真っ青な顔でふらふらとやって来るカワヤ工務店代表、オマール・カワヤ。

 吐きそうか?

 トイレ行くか? 好きだろ、トイレ?


「遅くなりました」


 ふらつくオマールが席に着くより早く、ナタリアが陽だまり亭へとやって来た。

 ロレッタにおんぶされて。


「あのっ、そろそろ降りてほしいです!」

「やだPi☆」

「そのイラッてするの、効果ないって学習したですよね!? 生みの親であるマーシャさんだって『あ、これダメだ』ってぽろっと言ってたですよ!」


 だからこそあえて使ってんだよ、ナタリアは。

 つか、随分早く着いたと思ったら……何やってんだよ、お前らは。


「ナタリア。後ろから見るとお尻のライン丸出しですげぇ卑猥な格好になってるぞ、それ」

「では降りましょう。無料サービスするのはもったいないですので」


 すっと降り立ち、スカートの裾を払うとたちまち給仕長の雰囲気を纏う。

 なぜ公私がここまで極端に真逆なのか……


「おや? 大丈夫ですか?」


 目の前をふらふらと歩くオマールを見つけ、ナタリアが声をかける。


「あなたは三十五区の、たしか……トイレット・ハバカリさん、ですよね?」

「惜しいけど違うよ!?」


 意味はほぼ一緒だね!

 でも、そういうことじゃないんだ、名前って。


「とりあえず座ってくれるかい、ミスター・カワヤ」

「そ、そんな!? 微笑みの領主様にそんな敬称なんて……恐れ多いですっ!」


 一応、こっちの影響で迷惑をかけるからと「ミスター」呼びをしたところ、想像以上に熱量の高い返事をもらって頬を引きつらせるエステラ。

 なんか、ルシアに対してよりも緊張してないか、このオッサン。


「あ、うん……じゃあ、オマールって呼ばせてもらう、ね?」

「微笑みの領主様に名前を!? あの愛くるしい唇から、俺なんかの名前が!? 尊い! 尊過ぎて死ぬ!」

「うん、ごめん。ちょっと一回黙ってくれるかな!?」


 俺の勘違いだった。

 オマールは緊張しているんじゃない。

 発症していたんだ。


「エステラ……患者を増やすなよ」

「ボクのせいじゃなくないかな……?」


 症例がトレーシーとそっくりなんだから、きっとこれはエステラ症候群に違いない。


「とりあえず、普段通りにしてくれるかな」

「はい! 領主様!」


 いや、お前の領主は隣の怖い顔をしたルシアの方だろうが。


「エステラよ……盗るな」

「盗ってませんよ!?」


 領民の流出は収入にも響くからな。


「仕方ないので、ハム摩呂たんと交換ということで――」

「さぁ、さっさと話を始めるですよ!」


 ルシアの話をロレッタが遮る。

 よ、ナイス長女。弟を守るよく出来た姉だな。


 ぷりぷり怒るロレッタを見て、ルシアが「これはこれで……」みたいなにんまりした笑みを浮かべる。

 末期め。


 そんな末期患者が表情を引き締める。


「まず、知らせてくれたことに礼を言う」

「いえ、必要だと判断しましたので。簡略化した手紙で失礼しました」

「気にするな。私とそなたの仲だ」


 領主的な笑みを交わす二人。

 その奥に、もう少しだけ柔らかい表情が見え隠れしている。


「ゴロツキどもの対策が必要になるだろうなと思っていた矢先にこれだ……思ったよりも行動が早かったな」


 ウィシャートが行動を急いだ理由には、なんとなく見当が付く。


「港の工事が進むほど、後乗りは難しくなるからな。工事の初期段階で止めたかったんだろうよ」

「相談や援助という形で障害を取り除く手助けをすれば、少なからず関係は繋げるということか……」


 あからさまな嫌がらせを見せつけておいて、それを自分で治める。そして手を差し出して、「この手を取らないと、また同じことが起こるぞ」と脅してくる。

 いわゆる『みかじめ料』ってヤツだな。


「しかし性急であったと思わぬか? あまりにあからさまな行動を起こせば、咎が自分に向くことになろうに」

「エステラに――四十二区に何を言われようと突っぱねられると思ってんじゃないのか?」

「我が三十五区や『BU』、それに三大ギルドが結託していると理解した上でか?」

「被害はまだ四十二区にしか出ていないからな」


 自区の民を危険にさらしてまで揉め事の渦中に飛び込もうとする領主はいない。

 いるとしたら、もしいたら、そいつは領主失格だ。

 エステラなら、ルシアやデミリーが誰かに苦しめられていれば、頼まれる前に渦中へと飛び込んでいきそうだが、そんな領主は少数、いや唯一と言ってもいいかもしれない。


「それに、ウィシャートが関わっている証拠は、今のところ存在しないしな」


 俺らの中ではクロ確定だが、ヤツを組み伏せるだけの物的証拠は何もない。

 おまけに被害を受けているのは四十二区だけ。

 他所の区を引っ張り込むには弱過ぎる。


「あとは、世論を味方に付けて四十二区領主の行動を封じる腹づもりなんだろう」

「世論だと? ゴロツキを操って騒ぎを起こすような者を支持する者などいるはずがなかろう」

「それが、そうでもねぇんだよ」


 最新の情報紙をルシアへ渡す。

 ざっと目を通し、ルシアが額に青筋を浮かべた。


 無言で情報紙をオマールへと渡すルシア。

 オマールもざっと目を通して「……ひでぇ」と呟きを漏らす。


「……組合め」


 目を伏せたまま、ルシアが低く唸る。


「こちらの都合で申し訳ないのですが、おそらく組合から四十二区に協力するなという圧力がかけられると思います。カワヤ工務店にはいろいろ勉強させてもらえると思っていたので残念ですが、今回は自分たちでなんとかしてみます。ルシアさんの気遣いを無駄にしてしまって心苦しいのですが」


 トルベックとカワヤ、両工務店の大工がうまくやれるようにとルシアはいろいろ骨を折ってくれた。

 それらが全部無駄になったのだ。


「なぁに、むしろちょうどよいくらいだ」


 ルシアが邪悪な笑みを浮かべ、エステラが「……え」と、ちょっと引いた声を漏らす。


「トルベック工務店のあらぬ噂を吹聴し、我が区の大工や貴族たちに微妙な圧力をかけてきている節があったものでな、組合との付き合い方は見直さねばならぬなと、そこのオマールと話しておったところだったのだ」


 低く、微かに笑みを含む声でルシアが言い、研ぎ澄まされたナイフのような目つきで顔を上げる。


「言ってやるのだ、オマールよ」

「はい」


 情報紙をテーブルに置き、オマールが胸を張って言う。


「俺らも、組合を抜けます!」

「「はぁ!?」」


 エステラとウーマロが揃って声を上げる。


「というか、もう抜けてきた。連中がこちらに接触するより早く、絶縁状を叩きつけてきてやったわ」


 爛々と輝く瞳が怖ぇよ、ルシア。


 甘ちゃん領主は、エステラだけじゃなかったようだ。




「いや、あの……ルシアさん、……え?」

「まぁ、落ち着くのだエステラ」


 思わず立ち上がったエステラを座らせるルシア。

 ウーマロは呆然としている。


 俺はと言えば、それも選択肢の一つだろうなとは思っていた。


「どうして……いや、それよりも、大丈夫なんですか?」


 カワヤ工務店は、トルベック工務店ほど実績があるわけじゃないのに……とは言えず、言葉を濁すエステラ。

 何が言いたくて、何を濁したのか、ルシアは正確に読み取ったようで笑みを深める。


「我が区の大工も捨てたものではないのだぞ? なぁ?」

「はい。港の修繕や船大工としての仕事はどこにも負けませんし、今後もそれらの仕事がなくなることはない。組合なんかなくたって、十分やっていけますよ」


 枯れたオッサンが爽やかに笑う。

 ほうれい線をくっきりと浮かび上がらせて、日に焼けた顔をくしゃっと丸める。

 白い歯がやけに目立つ。


「まぁ、正直、それだけじゃ到底やってけないんですが……」

「そこは私が補填する。仕事の斡旋も、可能な限り行おう」


 組合を離れることで起こる不利益を領主が負担する。

 四十二区と同じことを、ルシアも言っている。


「本来なら、領主がどこか一つのギルドに肩入れするのは好ましいことではないのだがな」

「大丈夫だ。特定の食堂に入り浸っている領主もいる」

「……それ、ボクのこと?」


 そうだよ。

 お前ほど依怙贔屓の酷い領主もいないだろう。


「ふふ……あはは。そうだな、先達に倣うとするか」

「やめてくださいよ、ルシアさんも」


 ルシアに苦言を呈し、俺を睨むエステラ。


「あ、あのっ!」


 ガタッと音を鳴らし、ウーマロが立ち上がる。

 全員の視線を一身に受け、若干緊張した面持ちでとある提案を持ちかける。


「もし、よかったらなんッスけど……トルベック工務店と提携しないッスか?」

「提携……?」

「はいッス!」


 ウーマロがルシアを見つめて頷く。

 美人の顔を見て話をしている。本気モードのウーマロだ。


「詳しく聞かせてもらえるか?」

「はいッス! え~、つまり、吸収とか合併じゃなくて、互いに仕事を融通し合いましょうって契約ッス」


 さらにウーマロはおのれの考えを述べていく。


 四十二区と三十五区はオールブルームの対角線上、最も遠いところに位置する区だ。

 そうそう気軽に行き来できるものじゃない。

 仕事に通うなんてもってのほかだ。


 だから、トルベック・カワヤ両工務店から数人ずつ大工を互いの区へ派遣し合う。そして、そこで仕事を共にするのだ。

 技術の継承、協力体制の構築、そして収入の調整を行う。


 正直言って、これは完全にカワヤ工務店への救済措置だ。

 今後も、トルベック工務店には仕事が舞い込んでくるだろう。

 直近で、近隣の領主どもが大衆浴場を欲しがっていたからな。

 港の建設が終わるまでは待っていろと伝えてあるが、あいつらがいつまで我慢できるか分かったもんじゃない。


 人手も足りないし、現場監督も足りていない。

 監督だけは、ハムっこ連中では補えない。


「そこで、人材の交換派遣を行うんッス。違う現場、違う監督。きっといい刺激になると思うんッス」


 トルベック工務店が吸収した土着の大工たちの中には、トルベック工務店が主に行っているような仕事に向かない連中もいる。

 そういった連中が、三十五区では力を発揮できるかもしれない。


 逆に、ウーマロが得意ではない仕事もある。

 マーゥルの家の花壇を移設するなんて仕事は、ウーマロ向きではない。

 だが、今後はそんな仕事もお鉢が回ってくることになる。

 組合を抜けた今、四十二区内で起こるすべての大工仕事をまかなわなければいけないのだ。


「互いの得手不得手をうまくやりくりして、なんでも出来る共同体になれればいいと思うんッス」


 トルベック工務店だけでは抱えきれない仕事をカワヤ工務店が引き受けてくれりゃウーマロも助かるし、効率も上がる。


「ついでに、オイラたちに港関連の技術を教えてもらえれば万々歳ッス」


 最後に、自分の旨みを見せることで、あくまで双方にメリットがあるのだというポーズを取る。

 上からの救済ではなく、対等な位置関係の相互扶助として。


「なるほど。キツネの棟梁は、新たな組合を作ろうと言うのだな?」

「そ、そんな大それたもんじゃないッスけど……まぁ、近しいものはあるッスね」


 四十二区三十五区大工同盟、とでも呼べばいいのか。

 トルベック工務店が新たな共同体を作ったりしたら、そっちに入りたいって連中が続出しそうだ。


「組合の創設って、何か届け出が必要なのか?」

「ギルド新設のようにかい?」


 この街では、ギルドを作るのに領主の許可がいる。

 そして、その許可は教会への報告義務がある。

 似たギルドを乱立して飯の種を食い合わないように。

 意味のない争いを起こさないために。

 ――という建前で、教会が睨みを利かせている。


 大々的に活動したければ、教会へ心付けを寄越せとでも言いたいのだろう。

 商売なんてもんは競い合わせることで発展していくというのに。

 独占状態にするから上層部から腐っていくんじゃねぇかよ。


「組合は、あくまで有志が集まって結成するものだからね。教会や領主の許可は必要ないよ。ギルド同士で合意があれば問題はない。……ですよね?」

「うむ。私もそのように認識している」


 ちょっと自信がなかったのか、ルシアに確認を取るエステラ。

 そういえば、ミリィが生花ギルド組合を作る時も、別に教会がどうとかって話はなかったな。

 エステラとルシアには一応話を通してあったようだが。


「それで、組合なんて大層なもんじゃないんッスけど……どう、ッスか?」


 ウーマロが遠慮気味に問う。

 遠慮気味なのは、どう言い繕ってもこれがトルベック工務店からの施しだからだ。

 カワヤ工務店に対して「これから大変だろ? 助けてやるよ」と言って手を差し出している状態に他ならない。

 それを屈辱だとか侮辱と感じるヤツも少なくない。

 そして、大工なんていう、自分の腕一本で仕事をしている連中にはそういうタイプが多い。


 仮に、エステラがドニスあたりに、「ウチの方が儲けてるから助けてあげますよ」なんて言えば、ドニスは「いらん」と突っぱねるだろう。

 ……いや、マーゥルにつられて四十二区に住みつきかねないな。

 そういうのは度外視して、領主として一応は対等な力関係にありつつも、四十二区よりも格上とされる二十四区の領主なら、『じゃ、お言葉に甘えて」とは言えないだろう。


 これまで。

 あの三十五区での餅つき大会の日まで、カワヤ工務店がトルベック工務店を見る目は冷たかった。

 最近頭角を現してきたとはいえ、かつては四十区の一大工でしかなかった。

 カワヤ工務店にしてみれば、トルベック工務店は自身がいる三十五区より格下の、最貧三区に拠点を置く大工だ。

 見下してもいただろうし、歯牙にもかけていなかっただろう。


 それが今や完全に立場が逆転して、お情けで手を差し伸べられているのだ。

 その手を素直に取れるかどうか……それは、俺らには読みようがない。

 面倒くさいけれど、責任者ってのはそういうものなんだ。


 だが、カワヤ工務店代表は違った。


「もちろん、よろこんで! どうぞよろしくお願いします、ミスター・トルベック!」


 いいものをいいと認め、すごいヤツをすごいと言える。

 そして、その恩恵に躊躇いなく与れる。

 こういうヤツの部下は恵まれている。

 変なプライドのせいで不利益を被ることもないし、上司の責任で恩恵が受けられるんだ。


「やはは。くすぐったいッス。ウーマロでいいッスよ、ミスター・カワヤ」

「やめてくれよ。俺のこともオマールでいい」

「じゃ、改めて、よろしくッス、オマール」

「あぁ。よろしくな、ウーマロ」


 男たちが固い握手を交わす。


「よかったですね、ウーマロさん」


 ずっと見守っていたジネットが小さな声で呟く。

 今すぐにお祝いのご飯でも作りに行きそうな雰囲気だ.


「……へ? な、なんですか?」


 俺がじっと見つめていたからだろう、ジネットが照れたような焦ったような雰囲気で言う。


「いや、お祝いの料理でも作りそうだな~って」

「そうですね。是非お祝いをしましょう。ウーマロさん組合の結成祝いです」

「いや、待ってッス店長さん! そんな名前じゃないッスよ!? そもそも組合じゃないッスから! あくまで相互扶助関係で――」

「じゃあ、ウーマロさん同盟でどうです?」

「どうとかじゃないッスよ、ロレッタさん!? そんなご大層な名前にしないッスし、オイラの名前をそんなもんに使わないでほしいッス!」

「……おめでとう、大ウーマロ結社」

「くふぅぅ……っ! マグダたんの案には逆らいにくいッス……!」


 とはいえ、『大ウーマロ結社』はキツいよな。


「いっそのこと、『ウーマロと愉快な仲間たち』にでもしたらどうだい?」


 ウーマロの不幸を、くすくすと笑ってからかうエステラ。

 領主からのいじめだ。いじめっ子だ。


「でもエステラさん。それじゃ、今のトルベック工務店と変わらないです」

「ちょーっとロレッタちゃん!? 誰が愉快な仲間ですか!?」


 お前だよ。

 お前らだよ、グーズーヤ。

 愉快なのしかいないじゃねぇか。


「じゃあもう、こうしとけ。『ウーマロと愉快なウーマロたち』」

「オイラ独りぼっちになっちゃったッス!?」

「いや、ウーマロが複数いるんだ」

「意味が分かんないッス!」


 ウーマロが吠え、エステラやジネットが笑い、俺はルシアと視線を交わす。

「満足か?」と目で問えば、「んべっ」っと舌を見せられた。


 ったく、可愛くない。


 ウーマロならカワヤ工務店に甘い処置をしてくれると期待していたくせに。

 だからこそ、オマールを連れてきたんだろう。

 思い通りじゃねぇか。


 もっとも、こうなると予想は出来ても不安は残る。

 だから、実際そうなると安心するものだ。


 ルシアのあの小憎たらしいまでに明るい笑顔は、きっとそんな安心感が表れているんだろうなと、思った。





「ところでお兄ちゃん」


 話が一段落したところで、ロレッタが眉をつり上げて俺に詰め寄ってくる。


「どうして意地悪領主に何もしないです?」


 意地悪領主って……


「エステラに何か恨みでもあるのか?」

「エステラさんじゃないですよ!? ……違いますからね、エステラさん!? エステラさんのこと好きですからね!」

「あぁ、うん。大丈夫だから、落ち着いて」

「私も好きだぞ、お義姉様!」

「ルシアさんは、ちょっと保留でお願いするです!」


 弟の人生がかかってるもんな。


「そうじゃなくて、三十区の領主です!」

「何もしないってのはどういうことだ?」

「だって、こんなに嫌がらせしてきてるですよね? 何か手を打たないと、嫌がらせは終わらないんじゃないですか?」


 良くも悪くも、ロレッタはまっすぐだ。


「ボクは、君のそういうまっすぐなところが好きだよ、ロレッタ」

「――と、誰よりもまっすぐな胸元のエステラ様がおっしゃっていますよ」

「うるさいよナタリア。」


 特にすることがないからだろう。

 ナタリアがエステラに絡み始めた。

 呼ぶのギリギリにすればよかったかなぁ。


「でもね、ロレッタ。気に入らないからって、ケンカをふっかけるわけにはいかない相手もいるんだよ」

「でも、ケンカを売ってきてるのは向こうですよね?」

「その証拠がないじゃないか」

「ゴロツキを多くの人が見たです!」

「ん~……どう説明すればいいか」


 困り顔で首を捻って「ヤシロ、何かある?」と俺に丸投げするエステラ。

 何かあるかと言われてもな……


「じゃあ、ちょっと実践してみるか」


 こういうことが得意そうなナタリアを巻き込んでロレッタに寸劇で理解させてやる。

 ナタリアと軽く打ち合わせをする。

 ギルベルタも興味深そうに話を聞いている。

 面白がってエステラとルシアも聞き耳を立てている。

 えぇい、ついでだ、ジネットとマグダも混ぜてやれ。


 そして、打ち合わせを終えて、ロレッタを主人公とした寸劇が始まる。


「何年か先の未来。お前はジネットから免許皆伝をもらって、自分の店を出すことになった」

「えっ!? あたし、自分のお店持てるですか!?」

「はい。ロレッタさん。陽だまり亭ののれん分けです」

「すごいです! あたし、頑張るです!」

「……悔しい、マグダよりも先に」

「マグダっちょより先ですか!? これはすごいです! 俄然やる気が出てきたです!」


 と、ロレッタが浮かれている間に、ナタリアが架空の『ロレッタ亭』へやって来る。


「お~、ここが噂の『ロレッタ亭』ですか。では、さっそく入ってみましょう。ガチャ、ぎぃぃぃ~。みしっ、みしっ」

「なんで開店してすぐ、そんな古ぼけた洋館みたいな音するですか!?」


 ショートコントか。

 入りから何から何まで。


「ここのおすすめは何ですか?」

「おすすめは、唐揚げカレーです!」

「では、素パスタをください」

「おすすめ食べてです!? あと、パスタには何かしらかけた方がいいですよ!?」

「では、おすすめのものを」


 言って、席へ座るナタリア。

 本当に出そうかどうしようか迷ったロレッタだったが、「フリでいいから」と言ってやると、カレーを出したフリをした。


 そして、ナタリアが食べたフリをする。

 ――ここから、寸劇は本番を迎える。


「うっわ、マズっ」

「え!? そ、そんなことないですよ!? きっと美味しいです!」

「食べられたものじゃないですね。もう結構です」

「そんな!? ちゃんと全部食べてです!」

「お金、置いておきますね。あ、おつりは結構です。では」


 そう言って、席を立つナタリア。

 ナタリアが退場するのと同時に、マグダとギルベルタがやって来る。

 だが、『ロレッタ亭』に入る前に立ち止まる。


「……美味しくない模様」

「がっかり思う、私は。していた、多大な期待を」

「……別の店にするべき」

「賛同する、私は、永遠のライバルマグダに」

「ちょっと待ってです! 美味しいですから! 店長さんの免許皆伝ですよ!?」


 だが、客は戻らない。


「――と、こんなことを毎日されたらどうだ?」

「怒るですよ!?」

「でもね、ロレッタ。落ち着いて考えてごらん」


 目に涙を浮かべるロレッタを落ち着かせるように、エステラが落ち着いた声で言う。


「ナタリアは、注文した料理の料金はきちんと払っている。『不味い』と言っているのも個人の感想だ。君たちも、ラグジュアリーの紅茶を美味しくないと言っていただろう?」

「そ、それは……」


 ラグジュアリーは、四十区にある貴族御用達の一流(笑)喫茶店で、今でこそ俺の教えたケーキを出しているが、昔は黒糖パンみたいなもっさりしたケーキと、渋みしか感じない紅茶を出していた店だ。

 俺はもちろん、ロレッタやマグダ、そしてジネットまでもがその味を否定した。ジネット、二口目を口にしなかったもんな。


「で、でも! お客さんに美味しくないって……、営業妨害です!」

「直接言ったわけじゃないよね? たまたま、ナタリアの個人的な感想が聞こえちゃっただけだよね?」

「それは……」

「それとも、ナタリアが悪意を持って君の店を貶めたという証拠を提示できるかい?」

「あたしが、この目で見たです!」

「……マグダは、ロレッタがヤシロを悪く言っているのをこの目で見た」

「ぅえぇえっ!? い、いつですか!? 嘘ですよ、お兄ちゃん! あたし、お兄ちゃんの悪口なんて言ってないです!」

「……マグダは確かに見たし聞いた。『精霊の審判』をかけてもいい」

「マグダっちょ……」


 パニックに陥るロレッタに、詳しく教えてやる。


「今マグダが言ったのは、本人の証言が証拠として認められないということだ」


 ロレッタの「この目で見た」が証拠になるなら、マグダの意見も証拠になるということだ。


「で、でも、あたし、お兄ちゃんを悪く言ったりなんて……」

「そんな顔しちゃ、だめPi☆」

「むゎあ! なんかイラッてするです、そのぶりっこ!」

「それだ、それ。俺を『悪く言う』っての」


 悪意の有無には言及していない。

 戯れ程度に悪く言うことは誰にだってある。

 それを、さも『酷い悪口を言ってた』と思わせるのが、マグダのやった方法だ。


「で、そんな方法を使ってくるヤツがいたよな?」

「あ……、三十区の?」


 今の即興寸劇ですら翻弄されまくったロレッタだ。

「こっちには証人がいっぱいいるんだ!」と息巻いて三十区へ乗り込んでもあしらわれて終わり。

 むしろ、それを逆手にとって反撃を喰らうのがオチだ。


「確実な証拠がいるんだよ。一撃で息の根を止められるくらい強力な、ね」

「うぅ……あたしには、ちょっと難しい話です」

「だからこそ、ボクはロレッタのそのまっすぐなところが好きだと思えるんだよ。ボクだって、こんな捻くれた物の見方なんかしたくないんだよ、本当は」

「しかし、それをしなければ領民を守れない。そなたにはじれったく感じるかもしれぬが、エステラを責めてはやるなよ、お義姉様」

「責めるつもりは……ないです。ただ、お兄ちゃんはいつも困ってる人を助けてくれたです。つらい時を終わらせてくれたです。だから、ウーマロさんたちのことも……って」


 ウーマロが苦しんでいたのを見ていたからな。

 だが……


「ロレッタ、さっきの続きだ。もし、うまく証拠を掴んで、ナタリアの行為を営業妨害だと認定させたとしよう。ナタリアに賠償金を支払わせ、二度と店に近付かないように契約させた。これで一件落着、めでたしめでたし」


『ロレッタ亭』の事件はそこで終わる。


「喜んだお前は、ジネットに報告に行くことにした。『あたしは勝ちましたよ』と、誇らしげに。……だが、そこに陽だまり亭はなかった」

「えっ、ど、どうしてです!?」

「私がエステラ様の部下だからです」


 ナタリアが悪人顔でロレッタの前に立つ。

 その背後にエステラが、これまた悪人顔で立っている。


「私をこけにしてくれたあなたに報復をしなければ気が収まらない。けれど『ロレッタ亭』には近寄れない。なら、ターゲットを変えるまでです」

「ナタリアはボクの大切な家族みたいなものだからね――領主の権限で陽だまり亭の営業許可を取り消したよ。ついでに住民登録も抹消した。領主だから、ペン一本で済んだよ」

「そんな……あんまりです!」

「ついでだ。私も参加してやろう」


 そう言って、一層凶悪な顔つきでルシアがロレッタの前に立つ。


「エステラは私と同盟関係にある。エステラの敵は私の敵だ。『陽だまり亭』は『四十二区と三十五区領主に逆らった不届きな食堂だ』と言い触らしておいた」

「なんてことするですか!? そんなことされたら、店長さんは……」

「もう、どこでも商売が出来ないだろうな――お前がナタリアを撃退したせいで」

「――っ!?」


 ロレッタの目に涙が浮かんで、ジネットがぎゅっと頭ごと抱きしめた。


「大丈夫ですよ。お芝居ですからね。ね? ロレッタさん」

「……平気。陽だまり亭はなくならない」

「…………そう、ですね。……うん、分かった、です」


 三人がぎゅっと一塊になり身を寄せ合う。


「怖かったな、ロレッタ」


 声をかけると、憔悴したような声が返ってくる。


「はい……怖かったです」

「でもね、ロレッタ。それが貴族なんだよ」

「質の悪いことに、連中は面子というものを何より大切にしている。『腹が立ったから』という理由で、今のようなことを平気でやるような人間ばかりなのだ」


 貴族自身がそう言うと説得力がすごいな。


「だから、下手に手を出しちゃいけないんだ。……悔しいかもしれないけどね」


 ウィシャートを潰して、それで終わりなら、俺だってそうしている。

 だが、ウィシャートに連なる根っこをすべて断ち切れなければ、必ず報復がやって来る。

 その矛先がどこに向くか、それは俺にも分からん。


「特に、あの男は厄介でな」


 はぁっと、長い息を吐き、ルシアが心底嫌そうな顔で言う。


「あの男のバックには三等級貴族がついている――という噂なのだ」


『BU』よりもさらに上位の貴族がウィシャートのバックに?

 そんな初耳な情報を寄越し、「まぁ座れ」と着席を促すルシア。


「少し長くなるかもしれぬ。ジネぷーよ、美味しい夕飯を頼むぞ」

「はい。任せておいてください」



 そうして、ルシアが自分の持っている情報を教えてくれた。







あとがき




本日は、ちょこっと観覧注意なあとがきです

( ゜∀゜)o彡゜ オッパイ オッパイ

(゜∀゜o彡°オッパイ オッパイ;



どうも、宮地ですぱい。

あ、すみません。ちょっと九州弁モドキが出ちゃいました。


九州男児A「九州弁やなかばい」

九州男児B「そーばい」

宮地「でも、おっぱいは好きでしょ?」

九州男児AB「「そりゃそーばい」」


というわけで、お許しを得たと解釈しつつ

今回は職場で聞いた不思議なお話を。



部長「いやぁ、この前不思議な体験しちゃってさぁ」



と、人生を適当に生きていそうな他部署の部長が言っておりまして、

「お、この時期の不思議な体験って怪談か? 怪談だな?」と思って

「聞かせてもらおうか。語りたまえ」と上から目線で話を聞いてきたんですが――



部長「車を車検に出したからさ、昨日は電車で来たんだよ。そしたらさ、帰りに(職場最寄り駅の)ホームで女子高生に『あのっ、握手してください!』って言われてさぁ」

宮地「もしもし、ケーサツですか?」

部長「待って待って。向こうから言ってきたことだから」

課長「部長。どっちからとか関係なく、オッサンが有罪になる国なんですよ、ここは」

宮地「きゃあ、恐ろしい」( ̄□ ̄|||)

部長「いや、それでね、『え? 僕?』って聞いて、『誰かと間違ってない?』って聞いたら、『間違ってません。握手してほしいんです』って。あんまり言ってくるからさ、『じゃあ』って握手して――」

宮地「もしもし、ケーサツですか?」(二回目)

部長「待って待って。向こうから言ってきたことだから」(二回目)

課長「部長。どっちからとか関係なく、オッサンが有罪になる国なんですよ、ここは」(二回目)

宮地「きゃあ、恐ろしい」( ̄□ ̄|||)(二回目)

部長「いや、それでね! 握手したら、その女子高生がさ、『お仕事頑張ってください! 応援してます!』って言って、ホーム出てったの。……僕、有名人か何かに似てるのかな?」



って、

不思議のベクトルが期待外れ!?Σ(・ω・ノ)ノ!


いや、まぁ不思議な話ではありますけれども。



課長「それたぶん、罰ゲームですね」

部長「罰ゲーム?」

課長「どこかで友達が隠れて見てたんですよ。知らないオジサンに握手して、有名人みたいに接して、オジサンがどんな反応するか面白がってたんじゃないですかね」

部長「あぁ、なるほど~! それなら納得かも」



部長はすっきりした顔してましたけど、

結構酷いイタズラじゃないですかね?


全国の女子高生の皆様、

他人に迷惑がかかる遊びはやっちゃダメですよ?



まぁ、私にならウェルカムですけどね!

\(*´▽`*)/



さぁ、握手したまえ!

ムハー(*゜∀゜)=3


……遠慮しなくていいんですよ?

…………さぁ!

………………いざ!


………………(´・ω・`)ショボーン




課長「それと似た経験だったら、俺もありますよ」

部長「へぇ、どんなの?」

課長「朝起きたら、嫁が枕元でおっぱい出してて」

部長「待って! 似てるかな!?」

宮地「えっ、部長、女子高生おっぱい出してたんですか!?」

部長「出してなかったよ!」

課長「違うんですよ。あのね、嫁が枕元でおっぱい出してて『触っていいよ』って言ってくる――っていう夢を見たんです」

部長「なんちゅー夢見てんのさ……」

宮地「その夢、ちょっと今度ダウンロードして貸してください」

部長「え、そんなこと出来るの?」

課長「出来るかwww」



部長はちょっと天然。



課長「で、あまりに変な夢だったから嫁に話したんですよ。『お前が俺の枕元でおっぱい出して、「触っていいよ~」って言ってたんだ』って。そしたら嫁が『そんなん言ってないわ、バカ!』ってめっちゃ怒って、クッションとかリモコンとか投げつけてきて、『うわ、これヤバい!』って焦って、『夢、夢! 俺の夢だから!』って言って逃げるように出社したんです。で、その日は残業で遅くなって、帰ったら23時過ぎてて、嫁は先に寝てて、『あ~、謝れなかったなぁ』って思いながら寝て、で、その次の日の朝――嫁が枕元でおっぱい出してたんです」

部長「また夢!?」

課長「いや、現実です! で、『どした!?』って聞いたら、『あんたが変な夢を持ってるから、叶えてあげようと思って……』って。昨日の話、俺が抱いている夢だと思われたみたいで。確かにそう思われるような言い方したかなぁ~って感じだったんで訂正しようと思ったんですけど、『あんま変な夢持たないでね、ばか』って、嫁がめっちゃ可愛かったんで内緒にしました」

部長「なにその話、ムカつく!?」

宮地「その嫁、コピーして、くれ!」

課長「もう、その日は会社休もうかと思いましたよね」

部長「課長さぁ、今日特に仕事ないけど残業する?」

課長「しませんよ! 帰りますよ!」

宮地「あ、そう言えば課長、長期出張に出たいって言ってませんでしたっけ?」

課長「言ってないわ!」

宮地「単身赴任に憧れてるって言ってましたよねぇ」

部長「そうなの? じゃあ、台湾の支社にお願いしとこうか?」

課長「鬼か!? 鬼ばっかりか!?」



その後課長は、支社もなければなんの伝手もないブラジルへと飛ばされ――ることもなく、

今日もにこにこ仕事してましたよ。

なんか。最近夫婦仲が良くなったんですって! けっ!



という不思議な話を聞きました。

……え、どこが観覧注意かって?


……イラッ!(# ゜Д゜) ってしません?

あれ、私だけ?


私もいつか、体験したいです

寝起きおっぱい。


それが、私の――夢(ゝω・´☆)



次回もよろしくお願いいたします。

宮地拓海

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― 新着の感想 ―
[一言] 今時、「~バイ」なんて言葉使う九州人いません笑 テレビ(博多華丸)の視すぎ笑
[一言] 私もたった今不思議な体験をしました。 閲覧希望な本編を楽しく読んでいたら、まさかの閲覧注意な話でした。
[一言] なんかジンクスでもあるのかなと 女子高生 握手 でググったら 数年前ですがえらい記事が見つかりましたww
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