275話 錚々たる面々、続々と
朝、目が覚めたら。
「よぉ、ヤシロ! だらしのない寝顔だなぁ。がっはっはっ!」
「おはよう、ダーリン。寝顔、ステキだったよ……きゃっ☆」
視界がハビエルとメドラに埋め尽くされていた。
なんて日だ。
「なんだ悪夢か。もう一回寝て起きたら巨乳美少女に変わっているに違いない。おやすみ」
「何を寝ぼけたことを言っているんだい? 早く起きないと、この二人が添い寝することになるよ」
二体の巨体の向こうからエステラの声が聞こえる。
エステラがいるなら、せめて寝起きはお前のアップにしてくれればいいものを。
「今日の体力使い果たした。……寝る」
「早いよ、使い切るのが。まだ目覚めの鐘が鳴ったばかりだよ?」
つまり、まだ日も昇っていない時間というわけだ。
そんな朝っぱらから、こんな見る者の体力と寿命をごっそり抉り取るような衝撃映像を見せつけるなと言いたい。
あと、いい加減日も昇らない早朝に鳴る鐘を『目覚めの鐘』と呼ぶのをやめていただきたい。
「目覚めの鐘で目覚めてんの、ジネットくらいだろう」
「そんなことないよ。農業ギルドや川漁ギルド、生花ギルドに行商ギルドなんかは早起きだよ。ナタリアも、この時間には起きているしね」
「お前は起きてねぇんじゃねぇかよ」
「ボクは……たまに起きるよ」
イベントがある時だけ早起きする、と。お前は小学生か。
「ぶつくさ言ってないで、さっさと起きろ、ヤシロ。お前の望み通り巨乳と美少女が起こしに来てくれたんだからよ」
「分けんじゃねぇよ」
『巨乳美少女』で一括りなの、俺の理想は!
「やめとくれよハビエル! ダーリンの前で美少女だなんて、照れんじゃないか!」
「ちょっと待ってください、メドラさん!? それだとボクが『巨乳』担当になってしまうんですけども!?」
巨乳と美少女で美少女を取られたらそうなるわなぁ。
「メドラとハビエルの筋肉に遮られて、目が覚めてから一回もエステラの姿見てないけど、え、なに、お前今日は巨乳なの?」
「そんなわけないだろう!? ……くっ、自分で言ってて物悲しい……っ!」
あまりに騒がしいので、諦めてベッドから這い出る。
俺は荷物をため込むタイプではないので、部屋は割とすっきりしている方だと思うんだが……巨体が二体もいるとすっげぇ狭く感じるな、この部屋。
「お前ら、ベッドより嵩張るな」
「がっはっはっ! 鍛えてるからな!」
ささやかなイヤミは、ハビエルの耳に称賛として届いたらしい。
いいな、お前は。人生楽しそうで。
朝起きて「あぁ、体だるぅ……今日起きたくな~い」なんて日がなさそうだもんな。
「で、エステラ。俺、お前に何か恨み買うようなことしたっけ?」
「別に君に罰を科しに来たわけじゃないよ」
えぇ……、罰でもないのにこんな胃にもたれるような起こし方、する?
「ただまぁ、君に自覚がないなら君の悪行と非礼の数々を今度リストアップしてあげるよ」
「え、なに? バストアップ? やめとけよ、無謀なチャレンジは」
「はい、リストに一項目追加」
言いながら脇腹をつねられた。
おい、やめろよ。
痛いよりくすぐったいが勝って変な声が出そうになっただろうが。
俺が脇腹弱いのはトップシークレットなんだからな?
「今日、何かあるのか?」
「何を言ってるんだい。今日は港の着工式だよ」
あぁ、そうだっけな。
三十五区の大工が難色を示すようなら延期もやむなしかという話が一瞬だけ浮上したのだが、三十五区での餅つきのお披露目会を経て、三十五区の大工とトルベック工務店の間に横たわっていた確執は消えてなくなった。
確執があるように見えただけで、実際はなかったというべきか。
まぁ、あのお気楽極楽のーてんきなウーマロと実際に触れ合えば、確執なんか起こるわけがないんだけどな。
案外、ジネットに最も近いのはウーマロかもしれない。
困ってるヤツを見かけりゃ放っておけなくなるし、かなり酷いことをされても笑って許しちまうし。まぁ、ジネットと違って泣き言は多いけどな。あと愚痴も。
そう考えると、やっぱ違うな。
ジネットの域に達するにはまだまだだ。
「ウーマロ、まだまだ巨乳には程遠いな」
「近付いてないよ、一歩もね」
「いや、ウーマロの話をしてんだよ」
「ボクもウーマロの話をしているんだけど?」
あ、そうなの?
てっきり自己申告かと思った。
「朝っぱらだってのに、相変わらず仲がいいなぁ、お前らは」
「アタシとダーリンも負けてないけどね。ねぇ~ダ~リン☆」
「ハビエルバリアー!」
「やめろぉ!? これは塞ぎきれねぇよ!」
「朝から仲がいいのはあなた方もでしょう、ミスター・ハビエル」
「アタシも負けてないけどね!」
「……そーですね」
エステラが面倒くさくなってまともな対応を放棄しやがった。
あいつは、ちょいちょいそういう一面を見せるよなぁ。
「みなさん。ヤシロさんはもう起きられましたか?」
ひょっこりと、ジネットがドアから俺の部屋を覗き込む。
朝一で見たかったよ、その笑顔。
「お、ヤシロ。巨乳と美少女と巨乳美少女だぞ」
「やめとくれよハビエル。美少女だなんて……っ!」
「いえ、ですから、メドラさん!?」
人の部屋で騒ぐお騒がせ権力者三人の間をすり抜けて、ジネットの前へと向かう。
「もしかして、下にいっぱいいるのか?」
「はい。デミリーさんとルシアさんとドニスさんがお見えですよ」
「早ぇよ……」
「打ち合わせだそうですよ」
いいや、エステラとルシアは飯が目当てなだけだ。
ドニスは早朝の肌寒い時間に、耳当てマーゥルが見られないかと期待しての行動だろう。
呼んでねぇよ、こんな早朝には。
「じゃあ、着替えたら降りるから全員追い返しといてくれ」
「うふふ。冗談が過ぎますよ、ヤシロさん」
「そんなこと思ってないくせに~」みたいな顔でこっち見てるところ悪いんだけど、本気で追い返しといてくれるかな?
着工式は日が昇ってからだぞ?
早いんだよ、来るのが。
遠足を待ちきれない小学生か。
小学生ばっかりか、この街の権力者。
「それじゃあ、アタシがお着替えを手伝ってあげるね……きゃっ☆」
「本気で素っ裸になってやろうか……?」
「そうしたら、責任を取って結婚だね」
「俺、被害者なのに!?」
エステラのとんでも理論には眩暈を覚えるな。
責任を取ってメドラと結婚って……懲役何年なんだよ、それ。
「あ、ヤシロさん。今日の式典にと、ウクリネスさんから素敵なお洋服が届いていましたよ」
「またタキシードとか着せられるのか俺は?」
「イメルダさんのパーティーの時の衣装ですか? あれは素敵でしたね」
え、そうなの?
じゃあアレを着ようかな。女子ウケがいいなら。
で、『Free Hug』とか書いておけば、美女が列をなしてむぎゅむぎゅしてくれるってわけだ。
「よし、タキシードを着よう!」
「ウクリネスの衣装を着てね。なんでも、こういう式典の時の男性用の正装として定着させたいみたいだから」
それで、俺がその広告塔になるのか?
広告費込みで無償提供されるって寸法か?
したたかだねぇ、ウクリネス。
「こちらがそのお洋服なんですが、これも素敵ですよ」
そう言って手渡されたのは、兵庫県付近の女性歌劇のトップスターが身に纏っていそうな貴族然とした――いや、王子様然としたきらびやかな衣装だった。
俺、こんなの着てるヤツ女性歌劇のトップスターか、男性アイドルグループくらいしか知らない。
「こういうのは貴族が着るもんだろ……」
異世界ファンタジーアニメでどこぞの公爵様が着ていそうだ。
ボタンと紐とぴらぴらが多い!
こんなもん、俺に似合うわけないだろうが……
これならまだ束帯の方がマシかもしれない。
「タキシードでいいか?」
「いや、今日は貴族も大勢来るからね。こちらも負けじと対抗しようじゃないか」
「俺はド庶民なんだが?」
「まぁまぁ。どんな仕上がりになるのか、ボクも楽しみだしさ」
「面白がってるだけじゃねぇか」
「ジネットちゃんも見たいよね?」
「はい。ヤシロさんならきっと似合いますよ」
無責任なことを。
いいか、冷静になってよく考えろ?
みんなが普段着で出席する中、俺一人だけきらびやかな王子様スタイルなんだぞ?
浮くわ!
ふわふわ、ふわふわ、飛んでっちゃうわ!
「お似合いだなんてとんでもない、浮いてるけど」って? やかましいわ。
「君は水着だ浴衣だとボクたちにいろいろ着せてきたじゃないか。たまには自分もその立場に立ちなよ!」
「お前だって、あり得ない衣装は問答無用で拒否ってきたじゃねぇか。裸エプロンとか」
「当たり前だろう!? 裸エプロンなんか人に見せられるわけないじゃないか」
「この王子様ルックも似たようなもんだろうが」
「そんなことないよ。きっと似合うって」
「――と、半笑いで言われて、信用すると思うか?」
「よし分かった、こうしよう!」
と、エステラがろくでもないことを考えている時の目で言う。
「この衣装か、メドラさんお勧めの衣装か、どちらかを選ばせてあげよう!」
「アタシは、裸エプロンっていうのに興味があるね! 決していやらしい意味じゃないけどねっ! きゃっ★」
いやらしくない意味がどこにも見出せねぇよ!
男の裸エプロンになんぞ、なんん~んの価値もないわ! どっこにも需要ないしね!
つか、それってもはやふんどしじゃん! ほとんどふんどし!
「エステラ……覚えとけよ?」
「ボクのせいじゃないって。けれどそうだね――」
この上もなく楽しそうな顔でエステラが俺の胸をとんっと小突く。
「似合っていたら、心からの称賛を贈ってあげるよ」
「……いるか、んなもん」
どーせ、似合ってなかったら爆笑を寄越すんだろうが。
朝からなんとも憂鬱な気分で、港の着工式当日は始まった。
「よぅ、オオバ! 来てやったぜ!」
「私が出席してやることを光栄に思うがいい、オオバヤシロ」
フロアに顔を出すと、リカルドとゲラーシーがいた。
「ジネット。聞いてないのが増えてるんだが?」
「みなさん、着工式が楽しみなんですね」
だとしても、早く来過ぎじゃねって話なんだが……
つか、そもそもなんで陽だまり亭に集まるんだよ。
「エステラんとこで集合すりゃあいいだろうが」
「ボクの館じゃ、美味しい朝食を提供できないからね。どちらにせよ陽だまり亭に来ることになっていたよ」
「シェフを雇え! 金をケチるな!」
「ケチるさ!? どーせこれから先もいろいろ突飛なことをやらかすつもりなんだろう、君は? いくらお金があっても足りやしない……」
その分、十分なリターンをもらってるだろうが。
少なくとも収支がトントンになるくらいには。
「ごめんなさいねぇ、ヤシぴっぴ。こんな朝早くから姉弟で押しかけてしまって」
「マーゥルも来たのか」
「えぇ。新しいお料理があるって聞いたから、私楽しみにしていたのよ」
「……どれの話だよ?」
「そんなにあるの?」
「マーゥルが知らなそうなものだと……ニラ餃子に親子丼、磯辺焼きにゴマ餅スティックに五平餅、あとはふわふわ卵のオムライスとかか」
「まぁまぁ! どれも美味しそう。どれが一番美味しいの?」
「ジネットの料理はどれも美味いよ」
「ぅきゅっ!?」
ジネットが変な音を漏らし、振り返った俺と目が合うと「……えへへ」と照れ笑いを浮かべる。
いや、そんな嬉しそうな顔で照れるな。伝染る。
咳払いをして、マーゥルへと向き直る。
果たして、マーゥルが何の話を聞いてここに来たのか。
それを白状する前にこっちの手の内をさらさせるあたり、こんなどーでもいい場面でも根っからの領主なんだよな、マーゥルは。ただ、領主になったことがないだけで。
「オオバヤシロ、ぜんざいだぜんざい! ぜんざいというのがあるのだろう? それを提供するのだ」
弟の方は、こっちが何かを言う前に、自分の手の内をさらしてやがる。
そんな簡単に自分が望む物の情報を漏らせば、それをエサに交渉されるだろうに。
ほらみろ、マーゥルが呆れ顔になった。再教育が必要だなって目をしてるぞ。ご愁傷様。
「やぁ、オオバ君。朝から押しかけてしまって申し訳ないねぇ」
「あれ? もう日の出か?」
「はっはっはっ、言われると思ったよ」
お決まりのイジリにはもう笑顔すら崩さなくなったデミリー。今日も頭部が輝いている。
「……『輝きの領主』」
「やめてくれるかい!? そーゆーのはホントびっくりするくらい定着してしまう危険があるんだよ!? 君発信だと特にね!」
「いいじゃないですか、オジ様。素敵な二つ名で」
「道連れを欲する素敵な笑顔になっているよ、エステラ。君はそんな悪い子じゃなかったはずだ。目を覚ましなさい。オオバ君に毒され過ぎだよ」
微笑みの領主が輝きの領主を地獄へ引きずり込もうと手招きしている。
地獄絵図だな。
「やぁ、ヤシぴっぴ、おはよう。女神様の息吹を感じるような素敵な朝だな」
「マーゥルがいるからって、ポエマーな挨拶寄越してんじゃねぇよ、ドニス」
感じたことなんかねぇよ、女神の息吹なんて。
「こら、カタクチイワシ。衣装はどうしたのだ? 着て参らぬか」
ニヤニヤした顔でルシアが俺の肩を小突く。
……お前の差し金じゃないだろうな?
「あんな肩が凝りそうな服、こんな朝っぱらから着てられるか」
成人式の着付けじゃあるまいし、本番直前に着れば十分だ。
女性歌劇のトップスターだって、開演三十分前くらいまで着替えたりはしないだろう。
「というか、お前らな……、俺じゃなくてエステラに挨拶しろよ!」
なんで寄って集って俺に直行してくんだよ。
特にリカルド、ゲラーシー、マーゥル。お前らはまだエステラに挨拶してないだろうが。
主催者はエステラだからな? 俺じゃないからな!
「ところで、お前ら給仕はどうしたんだよ?」
「私ならここに」
「いる、私も、後ろに、友達のヤシロの」
「ぅおうっ、びっくりした!?」
背後にぴったりとくっつくようにナタリアとギルベルタが立っていた。
「ぴったりとくっつくように立っているのに、やんわりとも触れない絶妙な距離感でっ!」
「朝からブレませんね、ヤシロ様は」
「安心する、私は。見ていると、元気そうな友達のヤシロを」
しかし、お馴染みの両給仕長以外の給仕長が見えない。
ゲラーシーのとこのイネスや、マーゥルのとこのシンディ、ドニスんとことリカルドんとこの爺執事も見当たらない。
「なに、早朝から大勢で押しかけると迷惑になると思ったまでだ。式典の前にはやって来るぞ。我らの準備があるからな」
「だったらお前らもその時間に来ればよかったのに」
ゲラーシーが「気が利く俺、どうよ?」みたいな顔で言う。
むしろ、お前が来ずにイネスだけ来てくれた方が嬉しかったけどな。Eカップ美女を見ながら頬張るおにぎりはさぞ美味かろう。
「なんたるオッサン率だ……」
ハビエルがいるのにイメルダが来てないとか。ちゃんと顔を出せよ、美女枠として!
……あぁそうか。このメンツなら幼女がいないんでハビエルは大人しいもんな。
イメルダも、抜くところではきっちり手を抜いてくるタイプだしなぁ。
「それでは、朝食のご用意をいたしますね」
「待てジネット! お前まで厨房に引っ込むと、フロアのおっぱい指数が著しく低下してしまう!」
「手伝うか、私は、友達のジネット」
「では私も」
「待て待て待て! ギルベルタにナタリアまでいなくなったら、残るのは熟っぱいだけになってしまう!」
「メドラさんとマーゥルさんになんて発言をするんだい、君は!?」
おっぱい的になんの戦力にもならないエステラが苦言を呈してくる。
そんな口は、四十二区おっぱいランクで平均点を取れるようになってから言え!
「大丈夫です、ヤシロ様。我々がいなくなろうと、エステラ様がいます!」
「焼け石に水って言葉知ってる!?」
「よし、ヤシロ。ちょっと外に出て二人で話をしようじゃないか」
「二人きりになればおっぱいの平均値が上がると踏んでの提案だろうが……変化ねぇじゃねぇか!?」
「そんな思惑はなかったし、やかましいよ!」
ゼロは何を掛けてもゼロなんだよ!
……と、言う前にエステラに鼻をつままれたので言えなかった。やめろ、耳と鼻は鍛えようがないんだから。
ジネットが給仕長ズを伴って厨房へ向かう。
あぁ、本当に行ってしまった。心なしか、空気が固くなった気さえする。
「それじゃあ、美味しい朝食を待つ間に打ち合わせといこうじゃないか」
メドラが俺を抱えて中央付近のテーブルへ移動し、俺を抱えたままテーブルの向きを変えてくっつけてあっという間に四つのテーブルを繋げた十六人掛けの席を作る。そう、俺を抱えたまま。
「ダーリンは、ここにおっちんだよ」
「え、なんで魔神の隣……」
俺を椅子に座らせ、勝手に隣に座るメドラ。
俺、ジネットとナタリアの隣がいい。美味しく取り分けられたものをどんどん渡してくれるし。
「それじゃあ、ワシが反対の隣に座ってやろう」
「うっわ、魔神に挟まれちまったよ」
反対隣にハビエルが腰を下ろす。
なに、この圧迫感?
若干酸素が薄くなってんだけど?
え、なに? まさかお前らの筋肉って呼吸してんの? 筋肉呼吸? 両生類でも皮膚呼吸止まりだってのに。
「席は自由でいいよね。早くしないと、教会の寄付の時間に遅れてしまうからさ」
「え、あのシスターって、ここに揃ってる領主やギルド長より優先される存在なの?」
すげぇな、べルティーナ。
教会の権力ってすごいんだなぁ~。
「みなさんも、ご自由に座ってください。気心の知れた者同士、今は上下関係を度外視して、有益な場に出来ればと思います」
「うむ、そうであるな。この場で見栄の張り合いをするのも馬鹿らしい」
「DDのおっしゃるとおりね。陽だまり亭は笑顔の咲くお店ですもの。みなさん、フランクにいきましょう」
「……笑顔が、素敵だ」
『BU』の重鎮、ドニスとマーゥルがエステラに賛同したことで、反対意見は封殺された。
……あとドニス? そーゆーことはもっと大きな声で言わないと『聞こえなかったこと』にされちまうぞ。
「ふん。カタクチイワシの前で虚勢を張ることほどくだらないこともあるまい。カタクチイワシ、いつでも気兼ねなく私に給仕することを許してやろう」
「ギルベルタに言え。いや、自分でやれ」
お前の場合、もうちょっと素を隠した方がいいんじゃないかと思えて仕方ないんだがなぁ。
「ミ、ミズ・エーリン。さぁ、こちらへ」
「まぁ、ありがとうDD。さすが、おいくつになっても紳士でいらっしゃるわ」
「う、うむ。……男として、当然である」
椅子を引いて、マーゥルをエスコートするドニス。
むき出しの頭頂部が真っ赤に茹で上がっている。あんまり熱すると一本毛が抜けるぞ。
「オジ様もどうぞ」
「おぉ、すまないねエステラ。私がエスコートしようと思っていたのだが」
「とんでもない。オジ様は、ボクにとって大切な方ですから」
「はぁあ、可愛い! 私の娘(のような存在)めっちゃ可愛い!」
おいおい、エステラ。
ただでさえ濃いキャラが多いんだ。比較的まともなデミリーを壊すんじゃねぇよ。
その後も、エステラが各領主たちを促して自分は俺の真正面の席に座る。
「うわぁ、四面楚歌だ」
「人を壁扱いしないように」
筋肉、筋肉、絶壁に囲まれたらそんな気分にもなるだろうが。
圧がすごいんだよ、圧が。
ホント、おっぱい成分が足りないなぁ~――なんて思っていると、おっぱいが向こうからやって来た。
「エステラ様、おはようございます! 私、エステラ様にお会いできるのが待ちきれずに、こんな早朝だというのに会いに来てしまいまし……みなさん、ズルいですよ!?」
ドアを開け放ち飛び込んできた隠れ巨乳――いや、隠し巨乳のイリュージョニスト、トレーシーが店内にずらりと居並ぶ領主たちを見て愕然とした顔で叫ぶ。
一番乗りのつもりで来たら盛大に出遅れていたわけだ。
給仕長のネネがいないところを見ると、館を飛び出してきたのだろうな。
……ったく、落ち着きがねぇよなぁ、この街の領主どもは。
デミリーが気を利かせて空けてやったエステラの隣の席へトレーシーが座り、デミリーがハビエルの隣へ腰かけたところで、打ち合わせが始まる。
「まずは、街門前の広場で式典を始めることになります」
エステラが、居並ぶ領主たちに説明を始める。
街門前広場は割と広くスペースが設けられている。
ハビエルと木こり勝負をした折、四十区と四十二区の木こりがうじゃっと集まっても狭いと感じなかったくらいには広い。
木こりがメインで使う門だからな。ドデカい大木を大量に持ち込んでも渋滞しないようにしてある。
「会場は、トルベック工務店が昨日のうちに建ててくれています」
……またこき使ってる。
ウーマロも、そろそろ「三ペタくらいさせてほしいッス!」ぐらいのことは言っていいと思うぞ。
その権利がいらないってんなら、俺に譲渡してくれてもいいし。
「トルベック工務店が作ったのであれば問題はないであろうな」
「そうね。ここにいる以外にも領主たちが来る会場ですもの。不備があっては困るわ。その点、彼らなら安心ね」
ルシアとマーゥルがことさら強調するように言う。
ここにいる他の区の領主の耳に入れておきたいのだろう、『港の建設に携わるトルベック工務店は優良な組織だ』ということを。
ここにいる連中が『トルベックなら問題ない』という認識で一致していれば、ここにいない領主連中から不安や不満が出ても封殺できる。
もっとも、ここにいる連中は、わざわざ言うまでもなくトルベック工務店の実力を知っている者たちばかりだけどな。
「街門前広場での式典は簡単なものになります。その後、街門を出てそこで木こりギルドによるデモンストレーションを行います。ミスター・ハビエル」
「あぁ。ここからはワシが説明させてもらうぞ」
エステラから話を振られて、ハビエルがみんなの注目を集めるように両手を広げる。
……隣で腕を広げるな、狭い。
勢いあまってメドラの横乳でも突っつけばよかったのに。
「メドラ、ハビエルがお前の横乳を狙ってるぞ」
「ダーリンの前でなんてこと考えてんだい、このケダモノ!」
「おぞましい冗談はやめろ!」
「ヤシロ、話の腰を折らないの」
ふん。
目の前にぶっとい腕が伸びてきて邪魔だったもんでな。
「ごほん。あ~、気を取り直して。街門の外の森は、昨年から少しずつ切り拓いていたんだ。今じゃかなりすっきりして、初めて見るヤツはきっと驚くぞ」
俺は街門の外に出ることがないので見たことがないんだよなぁ。
森を切り拓いてるぞって話だけは聞いていたが。
「街門前に大木を一本、わざと残してある」
街門の真ん前――といっても50メートルほど離れた場所だが――そこの樹を一本残してあるのだ。
切り拓いたことで魔獣が走りやすくなって街門に突っ込んでこないようにって理由と、もう一つ、デモンストレーションに利用するためでもある。
「ワシがその大木を切り倒し、港への道が開通するという演出だ」
街門から港を結ぶ道は、その一本の大木を除いてほぼ出来ている。
この後、港の建設と併せてレンガを敷き詰めるらしいが、それはまだ先の話だ。
魔獣が嫌う石をレンガに加工して敷き詰めることで、魔獣が寄ってこないようにするのだ。
ついでに、道の両サイドも壁で覆う。もちろん、外壁と同じ魔獣が嫌う石で作った壁をだ。
屋根は付けない予定なので絶対安全とは言えないが、かなりの効果が期待できるとメドラが言っていた。
おまけに、港と、そこに至る道の途中には狩猟ギルドと衛兵の詰め所も設けられる。
四十二区の衛兵はともかく、狩猟ギルドの人間が交代で見張りをしてくれることになっているので安心できそうだ。
顔と頭はともかく、腕っぷしだけはいい。その点では信頼のおける連中だからな。
「道が開通したら、そこから希望者と共に港の予定地へ向かうんだ」
「じゃあ、ここからはアタシが説明をするよ!」
言いながら、メドラが注目を集めるように両腕を広げる。
だから、腕! ぶっといのが目の前に「ドーン!」って伸びてきてるから!
「ハビエル、メドラがお前の横乳を狙ってるぞ」
「この大胸筋に目がくらんだか」
「ダーリン、酷いじゃないか。こんなヒゲだるまの大胸筋を触るくらいなら、ダーリンの柔肌をなでなでぷしぷしぺろぺろしたいに決まってんじゃないか! やだよっ、何言わせんだい、ダーリンのエッチ!」
「うぉう、危ねぇ!」
背後から轟音を響かせて接近してきた巨大な平手を間一髪でかわす。
小学校の頃から執拗にやらされていた避難訓練が役に立った。一瞬で椅子から滑り降りてテーブルの下に潜り込めたもんな。
やっぱ、真面目にやっておくと命を救ってくれるんだなぁ、避難訓練って。
「ヤシロ。話の腰を折らないよ・う・に!」
テーブルから這い出すと、エステラが怖い顔で睨んでいた。
メドラの大振りが発生させた突風をモロに喰らったのか、髪の毛がもはっと乱れている。
「あ~、こほん。話を戻すよ」
俺が着席するのを見届けて、メドラが話を再開させる。
「港までの道は、まだまだ未完成だ。というか、何も出来ちゃいない。早急に魔獣除けの対策は講じるつもりだが、それが整うまではウチから若い連中を派遣することになった」
メドラがエステラと視線を交わし、エステラがこくりと頷く。
両者の間で契約が取り交わされているのだろう。
「だからまぁ、しばらくは強面の連中が四十二区をうろつくことになるだろうが、ちょっかいをかけなきゃ害はない。まぁ、仲良くしてやっておくれ」
陽だまり亭前の街道を悪人面のムキムキメンズが行き交うのか……
「女性客が離れていきそうだな」
「大丈夫だよ、ダーリン。不測の事態に備えて、アタシも日参するつもりだからね。ちょこちょこ会いに来ちゃうかも。きゃっ☆」
「あぁ、残念。男性客も離れていくことが決定した……」
工事が終わるまで、暇になりそうだなぁ、この店。
「魔獣除けの石も、必要な分は揃えられる目途が立った。安心してくれていい」
メドラの言葉に、エステラがほっと胸を撫で下ろす。
滑りのよさそうな胸を。
すとーんと。
あ、睨まれた。
目を逸らしておこう。
「狩猟に木こりに海漁、三大ギルドのギルド長と、港からの品と利益で街に貢献している三十五区領主の推薦があったからね、少々渋られたが、話は通ったよ」
四十二区の外は森の深層部だ。
魔獣の脅威が他の土地とは桁違いなのだ。
それ故に、過剰かと思えるほど万全を期そうというわけなのだが、特殊な製法で生み出される魔獣除けの石を大量に発注するのは煙たがられるらしい。
使えるコネを総動員してなんとかもぎ取ってきたという感じだ。
「魔獣除けの石は王家の管理なので、メドラさんやミスター・ハビエル、ルシアさんの協力があって助かりました。もちろん、マーシャも」
今ここにはいない、自身の親友にも感謝の気持ちを述べるエステラ。
石大工たちが加工してくれる魔獣除けの石だが、その原石は王家が管理しているのだそうだ。
そうでなければ、魔獣除けの石を量産してこの街の外に新たな街を作られかねないからな。
自身の脅威になり得る物を生み出さないためには、そういうところをきちっと絞っておかないといけないのだ。
あと、自由にさせておくと行商ギルドが富を独占しかねない。
魔獣除けの石は外壁にはなくてはならない物だ。それを独占されると、無茶な要求でも聞き入れなければいけなくなるのは目に見えている。
「『BU』のみなさんも、この事業への協賛をいただきまして、感謝の念に堪えません。式典で改めて述べさせていただきますが、発起人のミスター・ドナーティとマーゥルさんには今ここで感謝を述べさせてください。ありがとうございます。非常に助かりました」
「あらあら。いいのよ。四十二区に港が出来れば二十九区も潤うし、何より、私の楽しみが増えるもの」
「その通りだ。今となれば、区が違うからと牽制し合うのではなく、手を取り合い協力をして双方に益を生むことこそが重要だとはっきり言える。礼には及ばぬぞ、ミズ・クレアモナ」
「さすが、DD。素晴らしい考え方だわ。私たちも、互いに手を取り合い、協力していい街を作っていきましょうね」
「う、うむ! 手をつないでな!」
「えぇ、手を取り合って、ね」
マーゥルと手がつなぎたい思いが前面に押し出されちゃってるドニス。
マーゥルも狙ってやってんだろうが……マーゥル相手だとチョロいなぁ、ドニスは。
二つの意味で『チョロりん』だ。
「それで、メドラさん率いる狩猟ギルドに守られながら港の建設予定地へ行って、着工式を行います」
着工式といっても、領主の挨拶や来賓の紹介などは先に済ませてあるので、セレモニー的なことをちょこっとやって終了となる。
一度軽く掘り返して柔らかくしてある工事予定地の土に、エステラやウーマロら、関係者がスコップを突き立てるのだ。
それで「工事が始まりましたよ~」ってわけだ。
「それが終わったらさっさと撤退します。狩猟ギルドがいてくれるとはいえ、万が一があっては困りますから」
「あぁ、そういう時って、余計なことをして怪我するヤツが一人はいるからなぁ」
「自覚があるなら、十分気を付けるようにね、ヤシロ」
「だそうだぞ、リカルド」
「バカヤロウ、俺は怪我なんかしねぇよ。エーリンあたりがはしゃいで怪我をしそうだな」
「なっ!? ふざけたことを言うな、シーゲンターラー!? 子供ではないのだぞ、私は」
と、ゲラーシーが牙を剥くが。
「よく言うぜ、綿菓子大好きっこのくせに」
「綿菓子が好きだからといって、子供だというわけではないであろうが、オオバヤシロ!?」
いや、いい大人は好きな食い物に綿菓子をチョイスしたりしねぇよ。
金物ギルドで販売を開始した綿菓子器ご購入者第一号はゲラーシーだからな。
『エーリン』と『ミズ・エーリン』で随分と違うもんだなぁ、おい。
「みなさん、お話は済みましたか? お食事をお持ちしてもよろしいでしょうか?」
「あぁ、いいよジネットちゃん。こっちのことは気にしなくて。どんどん持ってきて」
エステラは、領主やギルド長よりジネットの飯が優先なのだ。
こいつがトップで大丈夫なのか、四十二区?
というか、ここにいる連中を軒並み虜にしているジネットの料理って、もしかしてこの街一番の交渉材料になり得るんじゃないか?
ジネットの飯で釣れるヤツも、ジネットの飯禁止で折れるヤツもいっぱいいるだろう。
ジネットお前……相変わらずチート持ちだよな。
「ところで、あの軽薄な海漁のはどうしたんだい?」
メドラがぐるりと居並ぶメンバーを見渡して言う。
「マーシャなら、式典の二時間ほど前に四十二区入りする予定ですよ」
「ふん。随分と悠長なもんだね。これだけのメンツが雁首揃えてるってのに、一番恩恵を受ける海漁ギルドのトップが遅れて来るなんてさ」
どうにも、メドラはマーシャと相性が悪いらしい。
以前もちょっと食ってかかってたっけな。
まぁ、マーシャみたいなタイプが気に入らないって同性は、それなりの数いそうではあるが。
本人は特に気にもしそうにないな、そういう同性からのやっかみは。
「彼女は、移動するのにも誰かの補佐が必要ですから、個人の感情で無茶は出来ないんですよ。きっと、本人はもっと早く来たがっていると思いますよ」
「マーシャさんでしたら、お泊まりしたいと思っていたかもしれませんね」
「『かも』じゃないよ、ジネットちゃん。随分とごねられたもんさ。止めるのに苦労したんだから」
エステラがげんなりしている。
やっぱ前ノリしたがっていたのか。
「今日はボクも忙しいからね、マーシャにばかり時間を使えないんだよ」
「まぁ、警備が手薄になるのも困るしねぇ」
エステラが言わなかった部分を、デミリーが汲み取り言葉にする。
マーシャは子供ではないので一人で放置しておいてもどうこうなるわけではない。
海水の入った水槽さえあれば死にはしないし、一晩二晩放置してもケロッとしているだろう。
陸の上でも丸一日元気に過ごせるそうだし、人魚ってのは結構タフなのだ。
だが、陸の上では早く移動できない。
もし仮に、暴漢に襲われでもしたら逃げ切ることは不可能だろう。
「新たな港が出来るというのは、新たな街門が誕生するということ以上に革新的な出来事であるからな。一見賛同しているように見える者であっても、腹の底ではどう思っているのかなど分かりようもない……」
ルシアが静かな声で言って、目つきを鋭くさせる。
「港の建設を中止に追い込みたい者がいるとすれば、まず真っ先に狙われるのはマーたんであろうな」
「海漁ギルドが音頭を取り、ワシらやメドラたちはそれに賛同したという形になっているからなぁ。潰すなら海漁って発想になるのは仕方ねぇのかもな」
「ふん! 仮に音頭を取っていたのがアタシの狩猟ギルドやあんたんとこの木こりギルドだったら、どんな相手にも後れは取らないけどね」
「ワシらならそうかもしれんがな。まぁ、そう言うなメドラよ。だからこそ、海漁ギルドをギリギリまで四十二区に入れないようにしたんだろうしな」
「分かっているさ。エステラの判断は賢明だったってことはね」
ルシアの言葉に、ハビエルとメドラが賛同する。
これだけ多くの来賓がいる中だと、どうしてもマーシャに割けるリソースは普段よりも落ちてしまう。
マーシャに掛かりっきりで他の連中を蔑ろにするわけにもいかない。
この輪の中に入れちまえばメドラにハビエル、それにナタリアやギルベルタがいて安全かもしれないが、こいつらはそれぞれに優先すべき事柄があり、それは決してマーシャの護衛ではない。
俺が暴漢なら、群れだからこそその中で混乱を起こしてその隙にマーシャに危害を加える方法を取る。
それが分かっているから、ナタリアはそれを許容しないのだろう。
ルシアのセリフを肯定するわけではないが、この中にも、実は四十二区の港建設を快く思っていない者がいるかもしれない。
可能性を否定するのは平和ボケしたお気楽者か、周りが見えていない愚か者だ。
おそらくエステラは、式典の準備が完了し、自分が身軽になるタイミングでマーシャを招くつもりなのだろう。
その頃にはマグダもデリアも万全の体制が取れているだろうし、狩猟ギルドの護衛も揃っているはずだ。
今日だけは、マーシャの護衛に全力を注ぐつもりなのだろう。
厳重過ぎるほどに。
あからさまに守りを固めて、暴漢に「あ、これは無理だわ」と思わせるくらいにな。
バレバレのセキュリティは、ある一定の抑止力にもなり得る。
メドラなら、そんなことは百も承知のはずだ。
なのになぜわざわざそんな分かりきったことを口にしたのか。
それは――
「まぁ、そういう理由ならしょうがないね」
ここにいる他の者への説明が目的だったのだろう。
港の建設なのに海漁ギルドのギルド長がいないのはどういうことだと、よく理解もしていない貴族が騒ぎ出す前にここにいる連中にその理由を明確に知らしめたのだ。
騒ぎが起こってから説明したのでは言い訳臭くなるからな。
ここにいる連中が「それはこういう理由なのだよ」と説明役に回ってくれりゃ、マーシャ本人の耳に届く前に沈静化できる。
そして、もう一つ。
「ダーリンたちが出る式典はアタシがばっちり護衛してあげるよ。まぁ、ついでにあの人魚も見といてやるけどさ。ついでだしね。世話の焼ける女だよ、まったく」
「メドラさんに見ていてもらえるなら、これ以上もないほど心強いですよ」
「まぁ、アタシがムカついちまってあのこまっしゃくれた頭をひねっちまったら申し訳ないけどねぇ」
「あはは……それは、誰も止められないので、可能な限り自制してください」
「約束は出来ないねぇ。アタシはあの女とはソリが合わないんでね」
あくどい笑みでメドラは言っているが、それはまさしくマーシャを守る宣言に他ならなかった。
仮に、この中に港の建設に反対する者が潜んでいたとしたら、メドラが守ると宣言したマーシャへの手出しは不可能だと思って尻込みするか、諦めるかもしれない。
メドラと敵対するのは自殺行為だからな。
俺たちは、ここにいる連中と個別に付き合いがあり、人となりを知っているため相応に信頼関係を築けている。
だが、メドラとマーゥルやハビエルとドニスのように、そうではない者たちもいるのだ。
こういう牽制は必要なのだろう。
俺らには友好的だが、俺らの知人にまで友好的かと言われればその限りではない。――なんてヤツもいるかもしれないしな。
かくいう俺たちだって、こいつらの腹の底まで熟知しているわけではない。
マーゥルなんか特に、腹の底が読めない人物だ。
これまでの友好関係がすべて演技で、最後の最後で逆転の一手を打つための布石だったと言われても、マーゥルなら納得してしまいそうだ。
疑い出せばキリがない。
だから、どこかで線を引いて『とりあえず、今は信頼できる』という関係に腰を落ち着けるのが得策だ。
わざわざ言葉にして、この場にいる者に「その認識で間違いないな?」と暗に投げかける。
異論が出なければ、今回はその認識で問題がないと了承したことになる。
つまり、「マーシャに危害は加えさせない」――それが、この場にいる全員の共通認識となったわけだ。
港の建設が始まる前に躓くわけにはいかないからな。
テーブルの端ではらはらした顔をしていたジネットだったが、場の空気が穏やかになったのを感じたのか、表情を緩めてほっと息を吐いていた。
隣にいないから、連中の思惑を説明してやれなかったんだよな。
とりあえず安心しとけ。大丈夫だから。
「今回はあの人魚を守ってやるけどね……でもダーリン! あの人魚には気を付けるんだよ」
ぐりんっとメドラが体ごとこちらを向く。
どんなお化け屋敷よりも怖かった。
「あの軽薄人魚は、男と見ればにゃんにゃんにゃんにゃん甘ったるい声で話しかけて手玉に取ろうとするんだ。ダーリンはあぁいう露骨なエロさに弱い時があるから、アタシは心配だよ」
「あの、メドラさん。親友として擁護しますが、マーシャは男性に対してそのようなことはしませんよ」
「うむ。マーたんは女である私にさえおっぱいを突かせてはくれぬのだ」
「少し黙ってほしい思う、ルシア様」
「確かに、人好きしそうな笑顔は振り撒いてるが、それ以上何かあるって感じさせるようなことはしてねぇなぁ」
エステラの擁護に続いて、ギルド長同士顔を合わせる機会が多そうなハビエルがマーシャを擁護する。
ん? ルシアの意見なんぞなんの価値もないから無視だ無視。
「それはあんたがオッサンだからだよ。あの女はね、ダーリンを見る度にこうして両腕を上げて、乳を揺らすようにして手を振って、ダーリンに色目を使いやがるのさ! こんな風に、乳を揺らしてね!」
「くっ! こんなそばでこんなにも揺れているのに四割くらいしか楽しめないと歯噛みするべきか、メドラ相手なのに四割も楽しめてしまっているとおのれの業を嘆くべきか……悩ましい!」
「ジネットちゃん、懺悔室の予約しといて」
「はい。あとで懺悔してもらいます……もぅ、ヤシロさんは」
俺の苦悩を理解もせず、エステラが勝手なことを言う。
お前には分からんだろうな。
電車で目の前に座っているオバハンのパンチラに、つい視線を向けてしまった時の「どーした俺の無自覚!? バグか!?」という焦りと絶望感。
平時なら「絶対ねーよ」な相手でも、咄嗟の時に体が動いてしまう男の性の悲しさよ!
パンツにはロマンがある。そこに強烈なまでに惹かれてしまうのが男という生き物なのだ。
この悲しいまでにパンツに惹きつけられてしまう男の性を、『ロマンシング・サガ』と呼ぶ。
「式典だからね、あの人魚も正装をしてくるだろう。そうしたら、いの一番にダーリンのところに来て乳を揺らすはずだよ」
「おぉ、今から楽しみ☆」
「ジネットちゃん。式典ギリギリまで懺悔室借りられるかな?」
「シスターにご相談してみます」
やめて。
そんなことされたら俺、式典サボってふて寝しちゃう。
「今日は一日、あの人魚に目を光らせて、ダーリンを毒牙から守ってあげるからね」
今日一日、マーシャに目を光らせて――ね。
「メドラ」
「なんだい、ダーリン」
「マーシャは俺にとっても大切な友人なんだ」
「うんうん、あくまで友人だね! 分かってるよ、友人止まりさ!」
「だから、ありがとな」
「……へ?」
メドラは宣言してくれたのだ。
マーシャを守ると。他の誰でもないメドラ自身が。
メドラが一日中目を光らせていれば、これ以上に安心できることはない。
「頼りにしてるぞ」
「……ふん。ダーリンが進めている事業の邪魔をさせないためにだよ」
そっぽを向いてそんなことを言うメドラは、素直じゃない風を装ってとても素直に頬を赤らめていた。
頼もしいボディーガードだ。何が起こっても大丈夫だろう。
何事も起こらないのが一番だけれどな。
あとがき
みんな大好きメドラちゃん、登場です☆
まいど、宮地です。
領主やギルド長が集まってまいりました。
こうして集めてみると、
ゲラーシーが大人しい……
まぁ、リカルドほどグイグイ来ないし、
マーゥルほど狡猾でもないし、
ドニスのように恋もしていないし……特徴がないですね。
マーゥルがいるので大人しいのかもしれませんが。
そんなわけで、偉いさんがどやどやっと集まってきました。
皆様、覚えておいででしょうか?
数字の小さい区から順におさらいです♪
ドニス・ドナーティ
二十四区領主
マーゥルに恋する純情一本毛ポエマー。
トレーシー・マッカリー
二十七区領主
エステラに憧れGカップをさらしで押さえつけるイリュージョニスト。
ゲラーシー・エーリン
二十九区領主
綿菓子大好き子供舌メンズ。ヤシロにこっぴどくやられ姉により再教育中。
マーゥル・エーリン
ゲラーシーの姉
『BU』最強貴族。造園と四十二区ウォッチングが趣味の穏やかなオバサン。
ルシア・スアレス
三十五区領主
虫人族大好きキレ者領主。最近『自重』という言葉を捨てた。
アンブローズ・デミリー
四十区領主
ミスター初日の出。エステラの父の親友でエステラのよき理解者。
スチュアート・ハビエル
木こりギルドギルド長
イメルダの父で、筋肉ひげだるま。ロリコンの代名詞
リカルド・シーゲンターラー
四十一区領主
エステラの兄貴になりたい脳内小学生 (ムキムキ)。
メドラ・ロッセル
狩猟ギルドギルド長
本作のヒロインの一人。オーガニック料理が好きな女の子。
エステラ・クレアモナ
四十二区微笑みの領主
壁。
このようなそうそうたるメンバ……サクッ!
エステラさんは美人でお淑やかで笑顔が素敵な素晴らしい女性ですごめんなさい。
とりあえず、この辺が
現在四十二区に味方してくれそうな権力者たちですかね。
カップ数だけでも覚えて帰ってくださいね☆
というわけで、
非常に味付けの濃かった今回の異世界詐欺師ですが……
お口をさっぱりするために、こちらの作品なんかいかがでしょうか(*´▽`*)
『縁、結ぶ。異世界結婚相談所~現世で100連敗を喫してもなお、結婚目指して異種族婚活はじめます~』
『縁、解く。異世界離婚相談所~現世で999組を成婚させた末、異種族夫婦の離婚問題に取り組みます~』
上記二作品
よろしくお願いいたします!
宮地さんのマイページか、
小説情報の下の方の、『同一作者の小説』から飛んでいけます。
神が統合せし『世界』シリーズ
という、カッコよさげなシリーズ名で一括りにしているのですが、
作業場では『婚活』『離婚』と呼んでおります。
――と、異世界詐欺師三幕開始時のあとがきで宣伝させていただきましたが、
この度、上記二作が
無事完結いたしました!
♪ヾ(´▽`*)ゝヽ(*´▽`)ツ♪
♪ヾ(*´▽`)ノヽ(´▽`*)ゞ♪
ありがとうございます。
ありがとうございます。
一気読み、出来ますよ!d(≧▽≦)b
実はこちら、
是非とも一気読みしていただきたくて、
あんまりしつこく宣伝してなかったんです。
いやまぁ、ツイッターでは連日宣伝してましたけれども。
でも、完結しましたので、心おきなくお勧めできます!
(」≧▽≦)」< もう、モヤモヤせず一気読みできますよー!
甘酸っぱい恋愛モノがお好きな方、
優しい世界がお好きな方に是非読んでいただきたい!
異世界詐欺師を知らない方にも是非!
というわけで、お友達にもご紹介してあげてくださいねっ!
面白いから!
ちょっと感動できますから!
あと、
(」゜□゜)」< 恋がしたーい!
ってなりますから!(≧▽≦)ノ
ほんのちょっと、「イモ食いたい」ってなる、かも?
『縁、結ぶ。』のヒロインはクール系天然娘 (ぺったんこ)で
恋を知らない仕事人間なんですが、思いやりがあったり動物が好きだったりで
結構可愛い性格をしているんです。(よく毒を吐きますが)
そして、このヒロイン、
各章ごとに毎回……パンツの色が発覚します! えぇ、不思議な力によって。
恋を知らない生真面目人間が恋を知る瞬間を是非、見届けてあげてください!
『縁、解く。』のヒロインは天然ほわほわ系(けしから―ん!(≧▽≦) o彡°)女子で、
いろいろ過去を背負っていそうな影がチラ見えして……
恋に無頓着な女の子なんですが、感情表現がダイレクトでこちらも可愛いです!
そしてこのヒロインは……物語が進むとあんな大胆な行動を……っ(*ノωノ)キャッ
一人ぼっちで生きてきたヒロインが頼れる人に素直に甘えられるようになる軌跡を是非、見守ってあげてください!
『縁、結ぶ。』→『縁、解く。』の順で読むのがいいかもしれません。
逆でもなんら問題はないのですが。書いた順がそうなので。
お勧めは、
『縁、結ぶ。』一章
↓
『縁、解く。』一章
↓
『縁、結ぶ。』二章
↓
『縁、解く。』二章
↓
『縁、結ぶ。』三章
↓
『縁、解く。』三章
って感じですけどね☆
――というわけで、今回は盛大に宣伝でした!
また今から新作仕込みま~す。
まずは、詐欺師と森羅盤上のストックを作って……夏ごろ書き始められるといいなぁ。
もう、梅雨も明けますねぇ。
今年も、シャツの濡れた美少女と雨宿りをするってシチュエーションに遭遇することなく梅雨が去っていってしまいますね。(ノД`)
やっぱり文房具屋さんの前で待機しているからだからダメなんですかねぇ?
もっと女子が来そうなお店で……ランジェリーショップ!(*゜▽゜)
……ランジェリーショップの前で待機してたら捕まるじゃないですか……
じゃあ、いっそ中で!?(*゜▽゜)
……いや、もっと捕まりますね。
来年までに何かいい案を練っておきます。
夏、どうかお手柔らかに願いたいものです。
次回もよろしくお願いいたします。
宮地拓海




