無添加100話 ぐらんぷり!
「――というわけで『ミス料理上手』準グランプリは、四十二区金物ギルドのノーマさんです!」
「「「お嫁さんにしたい!!」」」
いつものなんちゃって和装を脱ぎ捨てて、藤色の艶やかなドレスを身にまとったエプロン姿のノーマが、淑やかにぺこりと頭を下げる。
会場の、特に四十一区の男たちが大騒ぎだ。
「あの娘は誰!?」
「なんて名前!?」
「彼氏はいるのか!?」
「どうなってるんだ、あの色気!?」と、情報収集に躍起になっている。
どうやら、大食い大会の時のチアガールリーダーだとは思われていないらしい。
雰囲気が違うからなぁ。
今日のノーマは、『ザ・淑やか』だ。
そして、四十一区ではそういう大人な女性が人気なようで――
「まさか、店長が準ミスにも選ばれないなんて思わなかったです」
「……四十二区では考えられないこと」
ロレッタとマグダもショックを受けている。
当の本人は、料理の出来に満足がいっているらしく壇上でにこにこしている。ノーマに拍手を送ったりして特段気にしている様子は見えない。
「グランプリには、きっと裏の事情で謎の力が働いていたに違いないです」
「……審査員は賄賂と権力に弱いもの。嘆かわしい」
まぁ、そう言いたくなる気持ちも分かる。
なんたって、グランプリを獲得したのが、四十一区のはんなり美魔女オシナなのだから。
……実際、素敵やんアベニューの大看板を背負うことになる『サワーブ』の店長だからな、宣伝のために加点があった可能性は否定出来ない。
もっとも、審査員が四十一区のオッサンどもだったので、ジネットのようなピュアな可愛さよりも、オシナやノーマのような大人な妖艶さが評価されたって部分が大きいのだろうが。
というか、だ。
「お前が審査員の買収にとやかく言うなよ、マグダ」
「……マグダは純然たる審査の結果、グランプリを受賞した」
あぁ、そうだな。
トルベック工務店と砂糖大根農場が特別スポンサーについた『ミスキュート』でぶっちぎりのグランプリだったよな。
あからさまにスポンサーの意向が働いていたように見えたけども、純然たる審査の結果ぶっちぎりでグランプリだったよなぁ。ぶっちぎりで。
「お兄ちゃん……このミスコン、第一回目にしてすでに腐敗してるです」
「美しさは最高のステータスだからな。血眼になる層が一定数いるんだよ」
「ミス○○愛用!」とか「ミス○○の美しさの秘訣」とか、「ミス○○と□□体験」とか、集客力を高めるにはうってつけの看板になるとこだろうよ。
「これで、オシナの店は当面閑古鳥とは無縁になるだろう。忙し過ぎてオシナが音を上げそうだ」
オシナ好みのゆったりとした営業方針は、このグランプリで少々狂うことになるだろう。
打開策は……店先にメドラを置いておくとか? わぁ、効果絶大。
「あ、戻ってきたです! 店長さ~ん!」
「みなさん、ただいま戻りました」
「……店長は健闘していた。審査員に見る目がなかっただけのこと」
「そんなことないですよ。オシナさんもノーマさんも、とっても綺麗でしたから」
「店長さんだって、すっごく綺麗です!」
「うふふ。ありがとうございます」
「……試食までが審査範囲なら、絶対に勝っていた」
今回の審査は『料理を作る姿』までで、完成品の味は対象外だった。
確かに味なら負けないかもしれんが……
「すまなかったな、ジネット。俺のせいだ」
「どうしてヤシロさんが? ヤシロさんに責任なんてありませんよ」
いいや、俺が悪い。
ミスコンの前に教えた料理が……モツ鍋だったんだから。
そりゃあ、覚えたての料理を作るよな、ジネットは!
だって、作りたい病を発症してんだもん!
今、めっちゃ作りたい時期なんだよ、こいつは! 試行錯誤が楽しくて仕方ないんだ。
けどな、ジネット。
アレの調理過程は……知らないヤツにとっては衝撃的過ぎるんだよ。
予選や、本線で入場したところまでは、ジネットだって優勝候補の一人だったんだ。
観客のどよめきでそれくらい察しがつく。
ちょっと背伸びした感じの今日の衣装も、ドレスというほど華美ではないにせよ、朗らかな笑顔がトレードマークのジネットをよく引き立ていて十分魅力的だ。
だからこそ。
第一印象がよかったからこそ……内臓の登場に悲鳴が上がったんだよ。
「こんな可愛らしい娘が一体何を!?」ってあの空気。……正直、頭を抱えたね。
料理のことだからジネットに任せっきりで、一切話を聞かなかった俺が悪い。
清純そうで笑顔が素敵な可愛い美少女が、持参した樽の中から牛の内臓を引きずり出し、そこに大量の塩をまぶしてガッシガッシこすり始めたら……初見の人はドン引きだよな。
水を捨て、小麦粉をまぶし、もみもみごしごし。臭みが取れていくのを実感し、完成した時のあの美味さを思い浮かべていたのか、でろぉぉぉ~んとした内臓をこすりまくっている時のジネットは終始にこにこ顔だった。
笑顔で内臓をこすり倒す美少女。
……な? 引くだろ?
「せめて『ふわとろタマゴのオムライス』を直前に教えておくんだった……っ」
「えっ、それはどんな料理なんですか? わたし、作ってみたいです!」
「もう遅いわ!」
「いえ、コンテストとは別に」
「あたしも食べたいです!」
「……マグダはすでに予約済み」
くそう……
オムライスのタマゴを上手く載せて、「上手に出来ました」って嬉しそうにジネットが笑っていれば、きっと今回の結果も変わっていただろう。悔やまれる。
「あ、次はエステラさんとナタリアさんが出場される『ミススタイリッシュ』ですよ」
『ミススタイリッシュ』は、服やアクセサリーをいかに素敵に着こなせるか、そのセンスはもちろんおしゃれ着に負けないプロポーションやルックス、表情や仕草の作り方も問われるかなり高難易度のコンテストだ。
『ミス素敵やん』に次ぐハイレベルな戦いになることだろう。
「あ、ネフェリーさんです」
「……ネフェリー、この数日でさらに『仕上げて』きた……侮れない女子力」
ロレッタやマグダが言うには、ネフェリーは強化合宿の時よりもさらにウェストを引き締め、脚をスラッとさせてきたらしい。
ヤシロズ・アーイ!
………………はぁ、まったく。乳が2mm減ってる! 誠に遺憾だ。
ダイエットって、そーゆーことじゃないでしょー! もう!
「ネフェリーさんの衣装、素敵ですね」
「あれ、ウクリネスさんからの賄賂なんです」
「……水着の季節にモデルを引き受けるという条件で、特注品を譲渡された。ネフェリー、抜け目のない女」
ウクリネスのネフェリー好きも大概だな。
ということは、今年も新作水着がわんさか出てくるってわけか。楽しみにしておこう。
「ふぉおおお!? エステラさん、メチャクチャ本気じゃないですか!?」
「……全力の領主モード」
ロレッタとマグダが騒ぎ出したのは、エステラが登壇した時だった。
……あいつ、かつて俺が初めて『領主代行』に会った時以上に気合いの入りまくったお嬢様スタイルできやがったな。
薄ピンクのドレスの上にライムグリーンの爽やかなケープを羽織り、どこぞのお姫様みたいだ。
あいつ、勝負時にはピンクを着るよな。普段はそういうガーリーな雰囲気一切見せないのに。ギャップ狙いか?
「素敵ですねぇ、エステラさん。見違えました」
「あぁいうドレスを着ると、凄く女の子っぽいし、あのドレスなら――」
「「「無乳が誤魔化せる」」」
「悪いですよ、みなさん。めっ」
声を揃えた俺たち三人、まとめて怒られた。
しかしまぁ、すげぇ気合いの入りようだな。
こりゃ、グランプリはエステラのもの――
「わぁああ!」
「うぉぉおおお!?」
突然、会場が沸いた。
「お兄ちゃん! エステラさん以上に本気モードの人がいたです!」
「……ナタリア、戦闘モード」
「素敵ですねぇ」
エステラとは対照的に、シンプルながらも体のラインがはっきりと出る大人っぽいカクテルドレスを纏ったナタリア。
一歩歩く度に会場から歓声が湧き、感嘆のため息が漏れる。
体の表面を撫でてさらりと流れていく風を思わせるような柔らかいシルクのドレス。あれは、相当自分に自信がないと着れないぞ……自分の顔とスタイルに。
「……エステラを潰しにきている」
「だな。敵はエステラだけって戦闘服だ、あれは」
ホント、ナタリアのヤツ……エステラが大好きなんだな。
エステラにちょっかいをかけるのが。
しかし、なんというか……
「美乳だな」
「他に言うことないですか、お兄ちゃん!?」
「……美尻」
「似たようなもんですよ、マグダっちょ!?」
「脚が綺麗ですね」
「店長さんまで!?」
「あ、いえ! わたしは、ヤシロさんのような目では見ていませんよ?」
ほっほ~ぅ、ジネット?
俺が一体どんな目で見ていると思ってるんだ? ん?
まぁ、そーゆー目で見てますけども。
「まぁ!」
「素敵っ!」
女性たちから声が上がる。
オッサンどもの低いうなり声とはまるで違う、華やかな歓声だ。
「あっ、イメルダさんですね」
「あいつも本気モードだなぁ」
「あれ!? イメルダさん、衣装変わってるです?」
「……観る用のドレスと観られる用のドレスを使い分ける女、イメルダ。さすが元四十区のファッションリーダー」
言われてみれば、『ミスプチエンジェル』でハビエルの息の根を止めようとしていた時の服とは変わっている。
どこにこだわりを持ってるんだよ……根っからのお嬢様なんだな、イメルダは。
「女性人気が凄いですね」
「分かりやすく憧れやすいからな、イメルダは」
お嬢様でオシャレで美人。
羨望の眼差しを向けやすい存在なのだろう。
「私もあんな風になりたい!」と。
「ナタリアの服は無理でも、イメルダのドレスは着てみたいって気がしないか?」
「そう、ですね。わたしに似合うかと言われると自信はありませんが、機会があれば着てみたくなるような素敵なドレスですね」
いいところを突いてくるよな、イメルダは。
そういう「途方もなく難しいけれど決して不可能ではない、かもしれない」くらいの、手が届くんじゃないかと思わせるようなコーディネートをしている。そしてそれを完璧に着こなしてみせている。
実際マネをしたら大惨事になるのだろうが、見る者に希望を与えるようなチョイスはさすがだ。
この蒼々たる顔ぶれが相手じゃ、四十一区の人間は太刀打ち出来ないだろうなぁ……可哀想に。
そんなことを思いつつ、カチコチに緊張したミリィが舞台へ上がった瞬間「かわいい~!」って声が上がり「はぅっ!?」ってショックを受けている様を微笑ましく見ていたまさにその時。
「ん?」
登壇を待つ参加者の中に、見覚えがあるようなないような、そんな微妙な感情を引き起こさせる美女を見つけた。
……というか、誰だか分かっているんだが、なんとなく認めたくないというか…………
「どうしました、ヤシロさん?」
「いや、……アイツ」
「え? ……あぁ! バルバラさんですね」
……だよなぁ。
「あいつ、なにオシャレしてんだ?」
「コンテストですから」
「どうですお兄ちゃん!? 化けたですよね、バルバっちょ!」
バルバっちょって……
「パウラさんとネフェリーさんとあたしで、徹底的に女子っぽい仕草を叩き込んだです! 見てです、立ち姿がもう完全に女子です!」
確かに、いつものだらーとしてぐでーとした、姿勢の悪いバルバラはそこにはいない。
楚々と立ち、野の花を踏んづけてしまわないように静かに足を動かす恥じらいある美少女がそこにいた。
「……衣装はウクリネスからの無償提供(ただし水着の試着モデル確約)」
またか、ウクリネス!?
なに、お前はスポーツウェアの宣伝のために一流アスリートのスポンサーになるメーカーか何かなの?
「メイクはイメルダさん直伝です! というか、マスター出来なかったのでイメルダさん直々にメイクしてあげていたです!」
「マスターしろよ……」
「仕草と精神面だけでいっぱいいっぱいだったです!」
「外殻だけ取り繕いやがって」
外面?
そんな生易しいもんじゃねぇ。外殻だ、あれは。分っ厚い殻を被ってやがるのだ。
「けれど、見違えましたね」
「……まぁ、な」
もし、バルバラの本性を知らなければ手放しで「美少女!」と称賛出来ただろう。
事実、バルバラが舞台に上がると会場の男どもがでれっとした顔をさらしてやがった。
鼻の下を伸ばして「うはぁ! 守ってあげたい!」とか言ってるオッサンもいる。
まさかあのバルバラが守ってあげたい系女子に化けるとは……
「こっちの方がよっぽどハロウィンだぜ……」
「ふふ。『綺麗になりたい』という気持ちは、女の子に魔法をかけるんですよ」
『呪い』じゃなけりゃいいけどな。
ずらずらと舞台へ上がっていく候補者たち。
ここから予選を行って数を減らしていくのだが、四十二区チームは手堅く残るだろうな。
「ロレッタ。この次はお前が出るコンテストだろ?」
「はいです! あたしにぴったりな『ミス元気娘』です! 目下のライバルはパウラさんですね」
『ミス元気娘』には、主に飲食店の従業員が参加している。
笑顔が素敵だねと言われるようなタイプの、元気が取り柄の明るい女子たちが集まっている。
なんともやかましそうだ。
「ちょっとメイクが崩れてるぞ。直してやるからこっち来い」
「ほにゃ!? お兄ちゃんが直してくれるです!?」
「おう。任せとけ」
「こ、これは、思いがけないラッキー展開です! あたし、なんだか今日凄くツイてるです! もしかしてもしかしたらグランプリ取っちゃうかもですよ、これはっ!」
「ジネット、墨と筆を持ってるか?」
「『肉』って書く気ですね、さては!?」
おデコを押さえてずざざっと遠ざかっていくロレッタ。
……ち。なんて勘の鋭い。
「絶対面白いのに……」
「面白さは、今日は求めてないですよ!? 可愛さです、今必要なのは!」
「もう、ヤシロさん。ちゃんと直してあげてください」
「ジネットがやってやるか?」
「いえ。ヤシロさんの方がお上手ですから」
女子に言われるようなもんでもないと思うが。
とはいえ、美容関係とメイク関係は一通りマスターしたんだよな。エステやネイルやスキンケア。メイキャップはもちろん、特殊メイクまで網羅した。
ロレッタを可愛く仕上げるなんて朝飯前だ。
「ここで直すか?」
「いえ! コンテスト参加者用に用意された控え室は設備が凄いんです。是非そこで直してほしいです!」
「男が入ってもいいのか?」
「更衣室はダメですけど、男女共用の方なら問題ないです」
基本的に男子禁制だが、事情により男の手伝いが必要な場合を考慮して、別棟に男女共用更衣室&メイクルームを作ったらしい。……ウーマロ、芸が細かいぜ。っつうか、俺が口出しすることを見越していた……ってわけじゃ、ない、よな?
「じゃあ、ちょっと行ってくる」
「はい。お二人の分まで応援しておきますね」
「誰の応援をするんだ?」
「みなさんです」
全員でグランプリは取れないんだが。
ジネットなら、誰がグランプリを取っても喜びそうだ。
ハズレのない人生って、こういう生き方なのかもなぁ。
そんなわけで、ちょっと離席して、わーきゃー騒ぎ過ぎて崩れてしまったロレッタのメイクを直しに行った。
戻ってきた時に、あんなサプライズが待っているなど思いもしないで。
「……なんでヤツがここにいる?」
割と混雑していたメイクルームに並び、なんとかメイクを終えて戻ってみると『ミススタイリッシュ』は終わっていた。
グランプリに輝いた女性が舞台の真ん中で惜しげもなくその美貌を見せつけている。
「グランプリに輝きましたルシアさん。一言お願いします」
「審査員諸氏の慧眼を称賛する」
審査員に見る目があれば自分が優勝するのは当然だとでも言いたげだな。
……そう言ってるのか、あれは。
「なんで三十五区の人間がいるんだ?」
「ハビエルさんから聞いたそうですよ」
酒飲み仲間の情報か!?
やっぱり立ち入り禁止にすべきだったな、ハビエルめ!
「でも、エステラさんが準グランプリでしたよ! 凄いですね、エステラさん!」
ルシアがグランプリで、エステラが準グランプリ……
権力の影響なんじゃねぇの?
「接待コンテストかよ」
「そんなことはないと思いますよ。エステラさん、とっても素敵ですし」
しかし、あの誤魔化し乳でナタリアやイメルダより上にいくのか、甚だ疑問ではあるけどな。
「審査委員長のリカルドさんが凄く褒めてらっしゃいましたよ」
「あぁ、それで準グランプリを取ったのにエステラがあんな酸っぱそうな顔をしてるのか」
やっぱ領主の力が大きく働いたようだな、この『ミススタイリッシュ』は。
「ところで、ロレッタさんのメイクは……まぁ! 素敵ですよ、ロレッタさん!」
変貌したロレッタに、ジネットが相好を崩す。
ただ直すだけでは芸がないので、少々手を加えさせてもらった。
髪型と、アイシャドウ、あとチークを少々。
絶妙なバランスで、ロレッタのくりっくりの目が印象的に見えるメイクにしてある。
「いつもより目が大きく見えますね」
「そうなんです! あたしも鏡見てびっくりしたです!」
「……むぅ。マグダにもそのメイクをしてくれていれば……」
「マグダはそのままでもグランプリ取っただろう?」
「……ヤシロのメイクがあれば殿堂入りしていた」
「第一回大会から殿堂に入ろうとするんじゃねぇよ……」
お前はもう次回から出ないつもりか?
そしたら寂しがるくせに。
「それじゃあ、あたしはそろそろ行くです! 陽だまり亭に二個目のトロフィーをもたらすために!」
ミスと準ミスにはそれぞれ記念の楯が贈られる。それをトロフィーと言っているわけだが……
日本でトロフィーと言って真っ先に思い浮かぶ、あの塔のような形状のトロフィーはさすがに用意出来なかった。
いきなり言って作るには少々複雑な造形であることと、あの形の意味を上手く説明出来なかったからだ。
「なんでこんな細長いんさね? 置き場所に困らないかぃ?」と、不思議そうな顔をされた。
言われてみれば、なんであのトロフィーってあんなに細長いんだろう?
何から派生してあの形になったのか、分からなかった。知らないことって結構あるもんだよなぁ。トロフィーなんてしょっちゅう目にしてたのに。
まぁ、楯も優勝杯も栄光の像も、勝者に贈られるあれらの物を全部ひっくるめてトロフィーって言うらしいんだけどな。
なので、楯でもまぁトロフィーだ。うん。
で、木こりから上質のヒノキを提供してもらい、そこへ受賞者を讃える文言を刻んだ銅板を埋め込んだ記念楯が作成されたのだ。
飾るにはちょうどいい大きさかもな。
「それじゃ行ってくるです!」
駆けていくロレッタを見送る。
ナタリアやイメルダが賞に掠りもしないコンテストだからなぁ。俺の思う基準はあてにならない。
なにせ、デリアやメドラが『ミスマッスル』を落とすような大会だ。
ここでの『勝利』には様々な要因が絡んでくるのだろう。
それを不当と糾弾することは可能だが、それは野暮ってもんだ。
ここはそういう大会なのだ。
不満があるなら、純然たる美を競い合う大会を自分たちで作るしかない。
もっとも、俺が審査委員長になったとしても、誰にグランプリをやればいいのかなんか決められないけどな。
まぁ精一杯楽しんでこい。
きっとロレッタは楽しんでいる時が一番いい表情をしているはずだから。
「はぁ……負けたぁ」
首筋に重ぉ~いため息を吹きかけられ、背筋がぞくぞくっとした。
「首筋やめろ、バルバラ!」
「えぃゆぅ…………っ」
両目に涙を溜めて、唇を引き結んでいる。
泣くなよな……
「アーシ……がんばったのにぃ……」
「頑張ったから結果が出る――なんてことはないんだよ。ダメな時はどんなに努力してもダメなもんだ」
「そんなぁ……」
きっと、バルバラは人生で初めて目一杯の努力をしたのだろう。
テレサに誇れる姉であるために。
苦手なことにも積極的に取り組んで、それでぱっと見ではボロが出ないくらいの外面を獲得した。
それは凄い努力の上に成り立っているのだろう。
だが、だから結果が出るかと言えば話は別だ。
「あのな、バルバラ。どんなに挫折しても、どんなに挫けそうになっても、どんなにヘコんでも、どんなに苦しくても、まったく結果が残せなくても、それでも諦めずに努力し続けられる、そんなヤツだけが言えるんだよ、『努力が報われた』なんてのはな」
ちょっと頑張ったけどダメでした、なので諦めました。なんてのは努力したとは言えない。
基本、努力は報われない。
けれど、そこで諦めればそれは無駄な努力になってしまう。
無駄ではなかったとしても『報われなかった努力』『結果の残せなかった努力』になってしまう。
何十、何百の失敗にも挫けずに努力をし続ければ――極論、報われるまで努力をやめなければ『努力は必ず報われる』なんて言葉が言えるようになるんだ。
「努力は報われる」って言ったヤツは、報われるまで努力し続けられたヤツなんだよ。
「よかったな。まだまだ努力をし続けられるぞ。もっとカッコいい姉になれるチャンスだ。テレサにカッコいいところ見せまくれるな」
少々強引だが、そんな励ましの言葉をかけてやった。
最初きょとんとしていたバルバラだが、自分なりに俺の言った言葉の意味を考え、考え、考えて……少しだけ表情が和らいだ。
「そっか……うん! アーシ、頑張る! もっともっと頑張る! そして、テレサが誇れるような姉ちゃんになって…………いつか」
バルバラが、泣いて赤くなった瞳で俺を見る。
「好きな人に振り向いてもらえる、いい女になるな!」
……なんで俺を見て言う?
お前の思い人は、向こうでネフェリーのおしゃれ着に卒倒しているストーカータヌキだろうが。
「……ふふ。また、だな」
「ん?」
つま先で地面を蹴り、頬を朱に染めてにへらっと口を横に広げるバルバラ。
「挫けそうな時、英雄はいっつも元気をくれる。英雄と話すと、もっと頑張ろうって思える。ううん。英雄がそう思わせてくれてる」
そして、初対面の時の殺意まみれの眼からは想像も付かないような無防備な笑顔が目の前で咲いて――
「アーシ、英雄のそういうところ大好きだ!」
――他意のない、真っ直ぐな感謝を寄越される。
まったく。
四十二区は恐ろしいところだよ。
荒くれ者の盗賊を、こんな無防備な女の子に変えちまうんだからな。
どんだけお人好しオーラが充満してんだよ。
魔王とか魔神を連れてくれば、みるみる縮んでやがて消滅しちまうんじゃないだろうか。
あぁ、怖い怖い。
浄化されないように気をしっかり持っとかなきゃな。
「おねーしゃ!」
「テレサ!」
駆け寄ってきたテレサを抱き上げ、バルバラがくすんと鼻を鳴らす。
泣き顔は妹には見せられないもんな。
「アーシ、グランプリ取れなかったよ。悪かったな」
「うぅん! わるい、ないょ! おねーしゃ、いちばん、ちれぃ!」
ぎゅーっとバルバラの首にしがみつくテレサ。
「そっか……へへ。テレサの一番なら、アーシはそれでいいや!」
「おねーしゃ、いちばん!」
「テレサも、アーシの一番だぞ!」
「うん!」
そうそう。
そうやって『誰かの一番』になれるってのが意外とすげぇことなんだって、よく噛み締めておけよ。
「けど、来年こそはグランプリ取るぞー!」
「あーしも、とりゅー!」
姉妹で仲良く美を磨くといい。
……バルバラ、振り落とされるなよ。テレサの成長速度は恐ろしいほど速いからな。
「ふむ。成長の可能性があるというのは幸せなことだ。それに気が付けたのであれば、まだまだ伸びるな、あの姉妹は」
「わぁ、もはや成長の余地もない完璧な領主のルシアさんだー」
「ふふん! 見たか、カタクチイワシ! これが、完璧な美の証だ!」
「……謙遜しろや」
記念楯を俺のデコにぐりぐり押し当ててくるルシア。
デコの油分で曇れ! で、ちょっと錆びろ、銅!
「ヤシロ、楯が欲しいならボクのをあげるよ」
疲れた様子の……というか、やつれた顔のエステラが準ミスの記念楯を差し出してくる。
いやいや。
「折角の記念なんだ、館に飾っとけよ」
「ふっ……七人の審査員のうち、リカルドの一票だけでもらった楯だと思うと…………なんだか物凄く胃が重たくなってね」
うわぁ……六人がルシアに投票して、リカルドだけがエステラに入れたのか。
モテモテだな、エステラ。
「来年度は、もっと運営に食い込んで審査基準を健全化する必要がありそうだね」
「そうだな。第一回から賄賂と癒着がそこかしこで見て取れるからな」
「まぁ、今回は初めてだし、『素敵やんアベニュー』の宣伝目的である部分も多分に含んでいるから大目に見るけどさ……」
かなり気合いを入れていた反動か、物凄く不服そうだ。
そのうち「四十二区でもミスコンを開催する!」とか言い出しかねないな、こりゃ。
「あ、ヤシロさん! ロレッタさんですよ! 応援しましょう」
ジネットの声が弾む。
ロレッタが舞台へと上がり、両手を振りながら周囲にアピールして、盛大にコケた。
どっと笑いが起こる。
さすがロレッタだ。笑いの神が群れを成して降り注いでやがる。
「パウラさんの衣装も可愛くて素敵ですね」
ドレスが多い中、ホットパンツにヘソ出しジャケット姿のパウラは目を引いた。
快活で、ほんの少し女の子っぽい。
実にパウラらしい出で立ちだ。
そして、そんなパウラの後ろに……
「えっ!? あれ、レジーナだよな?」
「え、どこですか?」
「パウラの後ろ」
「え? …………えぇっ!?」
ジネットはレジーナの大変身を知らなかったようで、あまりの変貌振りに目を白黒させていた。
「み、……見違えました」
「見間違えたかと思うほどに、だろ?」
しかし、なんでまた『ミス元気娘』にエントリーしてんだよ?
『元気』とは対極にいるような生き様のくせに。
『元気』が『陽』の言葉なら、レジーナは間違いなく『陰』の生き物だろうに。
「……レジーナは『ミス淫猥』を探していたので、もうなんでもいいだろうという結論に至り、パウラが引きずっていった」
「何やってんだ、あいつは。他所の区に来てまで……」
あるわけないだろうが、そんなもん。
「ロレッタさんの衣装、やはり少し地味だったでしょうか?」
陽だまり亭三人娘の衣装はすべてジネットの手作りだ。
それぞれの個性に合わせるように、ジネットはふんわりと、マグダは可愛らしく、ロレッタは快活な雰囲気の衣装になっている。
色身もジネットは紺と白、マグダは赤と白、ロレッタは緑と白というように、個性を強調しつつ三人で統一感も出している。
「お揃いです」と、三人とも嬉しそうに衣装合わせをしていた。
……露出は少なめだけどな。
特にジネット。
マグダとロレッタはヘソとふとももを出しているのに、ジネットは二の腕がちょっと出ているだけだ。それも上からシースルーのケープを羽織っているから露出感が少ない。
もっと有効活用すればよかったのに!
その最強の武器を!
エクスカリパイを!
「エクスカリパーイ!」
「ヤシロさん?」
「あぁいや、なんでもない」
「……通常であれば『なんでもない』時の発言ではないけれど、ヤシロだから仕方ない」
「えっと、今のは一体どういう意味なんでしょうか?」
「……店長は知らなくてもかまわない内容」
「あのな、『エクスカリバー』って聖剣があってな、それとおっぱいを掛け合わせた――」
「いちいち説明しなくていいよ、そんなくだらないこと」
エステラに首根っこを掴まれ、ジネットから引き離される。
「それよりもジネットちゃん。申し訳ないんだけど、ヤシロはちょっと借りていくよ」
「え? どちらへ?」
「更衣室さ」
「更衣室……? どなたかのメイク直しですか?」
「ううん。『直し』じゃなくて『メイクアップ』かな。いまだすっぴんのままみたいだからね」
『だからね』と言いながら、エステラが俺の顔を覗き込み、にやりと笑う。
……背筋に、いやな悪寒が走った。
「どうしてわざわざ『男女兼用更衣室』なんかを作ったと思う?」
「お前、何を企んで…………まさか、リカルドもグルか?」
「エステラよ、こちらも確保したぞ」
「おいっ、なんだよ、ルシア・スアレス!? 俺は審査委員長だぞ!」
ルシアによってリカルドが捕縛されている。
……あいつも被害者か。
「なぁに、いつまで経っても女性の美に対する思いに理解を示さないそなたに、実際体験してもらおうと思ってな。完璧でない状態で人前に出ることの不安感と、戦いの前には少しの手抜かりもなく美を極めたいと思う女心というものをな」
「言っている意味が分からねぇぞ、ルシア・スアレス!」
「だから体験させてやると言っているのだ。感謝してもかまわんぞ」
「いててて! てめっ、離せ! おい、エステラ! お前からも何か言って――」
「リカルド。君……性懲りもなくボクにブーブークッションを仕掛けようとしたんだって?」
「…………テメェ、どこでそれを?」
きっ!
――と、俺を睨むリカルドだが、俺は知らん。
おおかたマグダかロレッタがしゃべったのだろう。
あの時、周りには結構いろんなヤツがいたからな。迂闊なんだよ、お前は。
「リカルドのアホに制裁が必要なのは分かった。だが、なんで俺まで? 俺は理解のある方で――」
「何かにつけて露出露出、おっぱいおっぱいと騒ぐ不届き者に教えてあげるんだよ。無遠慮にじろじろ見られるっていうのが、どんな気持ちなのかをね」
「………………いや、そこまで連呼してはいないんじゃないかなぁ、俺」
「エクスカリパイが、なんだって?」
ん~……言い逃れ、出来なそう☆
「ちぃっ! かまってられるか! オオバ! 振りほどいて逃げるぞ!」
「少々不本意ではあるが、今だけは協力してやるぜ、リカルド!」
「無駄な抵抗はしない方が身のためだよ、お二人さん」
エステラが小粋なウィンクを寄越し、俺とリカルドの上に巨大な影が覆いかぶさってきた。
「悪足掻きはよすんだね、リカルド、ダ~リン☆」
「「メ、メドラは卑怯だろ……」」
メドラの背後にはデリアにノーマ、面白がってるルシアにナタリア、心配そうながらもちょっとわくわくしちゃってる感が隠しきれていないミリィ、そして妙に気合いの入っているネフェリーと腕まくりしているイメルダがいた。
……逃亡、不可能じゃねぇか、こんなの。
「私から、逃げられると思ってるのかなぁ~☆」
いや、お前からは逃げられるよ、マーシャ。
マーシャだけなら速攻逃げてたんだけどなぁ……
「さぁ、行こうか二人とも。……と~っても可愛くオシャレさせてあげるから★」
邪悪。
今のエステラのスマイルは、それ以外に形容しがたい禍々しさに満ちていた。
「あ、あのっ、エステラさん!」
そう!
そうだよ!
こういう時に「可哀想です!」って庇ってくれる存在がいるじゃないか!
そう、その者の名はジネット!
慈悲と慈愛と大きなおっぱいで形成された優しさの権化、ジネットだ!
さぁ、ジネット!
この悪魔のごとき非道な仕打ちを糾弾し、俺を窮地から救い出してくれ!
「わたしも、きっとおそらくロレッタさんも、お手伝いしたいですので、少し時間をいただけませんか!? せめて『ミス元気娘』のコンテストが終わるまでは!」
って、こら。
お前もそっち側かーい!
……いや、そんな気はしていたけどな。
だから必要以上に持ち上げてこっち側に来るように祈ったってのに……あぁ、そうだった、ここの神は底意地が悪いんだった!
俺が頼めば頼むほど逆張りしてくるようなイヤ~な神だったよ、そういえば! ふん!
「分かったよ、ジネットちゃん。ヤシロは最後に取っておくことにするね」
「ちょっと待て……、オードブルや食前酒なんかもいるのか?」
「それはもちろん、盛り上げるために必要なだけね」
「…………お前はどんなおぞましいことを考えているんだ?」
「おぞましいなんてとんでもない。ボクたちはただ、美の共演を楽しみにしているんだよ。『ミスマスラオ』の戦いをね」
「なんだ、その1ワードで矛盾する不吉なネーミングは!?」
「あぁ、もう、うるさい☆ 皆の者、引っ立てぃ!」
「「「かしこまりー!」」」
「ちょーっと待てぇー、お前らー!」
こうして、俺たちは華やかに着飾った力自慢の女性たちに捕縛され連行されていった。――地獄へ。
「ヤシロさ~ん! コンテストが終わったら駆けつけますから、待っててくださいね~!」
嬉しそうに手を振るジネットとマグダ。
来んでいいわい!
そうしてやって来た地獄、冥府、掃きだめ、吹きだまり。
「ま、待ってッス! オ、オイラ、こんな話聞いてないッスよ!?」
「俺もだよ! おい、どうなってんだ、ヤシロ!」
狼狽えるウーマロとモーマット。
その他、明らかにネタ要員として駆り出されたのであろう四十二区の顔見知りたち。
見知らぬ顔は、四十一区の弄られキャラたちなのだろう。
なんにせよ、狭い更衣室にオッサンが押し込められていて……汗臭い。
そんなオッサンの群れの前に、エステラとルシアが並び立つ。
「ではこれから、諸君には綺麗に変身してもらおうと思う!」
「「「いやいやいや! 望んでないし!」」」
「うむ、では領主命令だ」
「「「他所の区で!?」」」
傲慢な他区の領主による強制執行。
四十一区の人間にしてみればエステラは他区の領主だし、ルシアに至っては俺らにとっても他区の領主だ。
……なんでそんな自信満々にデカい顔してんだろうな、こいつらは。
「いい加減観念するさね、男らしくないねぇ」
「男らしくあるために抗ってるんッスよ!?」
「いい機会じゃないかぃ。自分が女になれば、マグダ以外の女性ともまともに会話出来るようになるかもしれないさよ?」
「それにしても代償が大き過ぎるッスよ!?」
「問答無用さね! まずはこのキツネから血祭りに上げるさよ!」
「『血祭り』って言っちゃってんじゃないッスか!? 本音がぽろりしたッスよね、今!?」
抵抗空しく、ウーマロはオシャレした女子たちに周りを囲まれ緊張で体が動かなくなり、あれよあれよと仕立て上げられていった、『美少女』に。
「あっはははははっ! き、綺麗じゃないかさっ、ぷくふふ! 美人さよ、ウーマ……ひぃ~ひひひひっ!」
「笑い過ぎッスよ!?」
「ねぇねぇ、でもさ。ちょっと綺麗じゃない、ウーマロさん?」
「ぅん、みりぃも、ねふぇりーさんと同じこと思った、ょ。うーまろさん、かわぃい、ょね?」
「ワタクシが本気を出したのですから、これくらいは当然ですわ!」
「はゎぁわわわっ、あ、あのっ、あんま顔を覗き込まないでッス!」
「「きゃ~、かわいい~」」
「からかわないでッス!」
照れるウーマロは、意外と女子人気を得ていた。
俺に言わせれば、唇とほっぺたを赤く塗られたウーマロ以外の何者でもないんだが。
「それじゃあ、次はモーマットだね」
「待てって! 俺はいいって!」
「モーマットさん」
抵抗するモーマットの耳に、ナタリアが悪魔の囁きを流し込む。
「……かつて、領主代行だった『お嬢様』をストーキングされていた時、無断で敷地内に踏み入ったことが二度ほどありましたよね?」
「どきぃ!? ……そ、そんなこと、あ、あった、っけ……か?」
「『お嬢様』が庭のベンチでまどろんでいる時に、寝顔を盗み見るために敷地へ侵入した不審者の話……『お嬢様』にはまだお話ししていないのですが……」
「『お嬢様』って言うのやめてくれるか!? なんか『エステラ』って言われるより『綺麗なものを穢した感』がすげぇするんだよ、なんでか!」
まぁ、「エステラの寝顔を盗み見た」より、「お嬢様の寝顔を盗み見た」って方が聞こえが悪いからな。的確に心の中のやましい部分を抉りに来るよな、ナタリアって。
……つか、モーマット。そんなことしてたのか。
なのに、エステラの正体は本人にバラされるまで気付かなかったのか。
お前、バカじゃねーの?
「ところで、モーマットさんには、この桜色の口紅が似合うかと思うのですが?」
「……もう、好きにしてくれ……」
モーマット、陥落。
そして女子たちがわっと群がって、物の数分で『モーマット子ちゃん』が誕生する。
……が。
「……微妙、ですわね」
「ウーマロん時みたいな感動がないさね」
「に、二度目だから……じゃ、なぃ、かな? ね? きっと、そうだょ……」
「いえ、ベースの魅力が足りないのですわ!」
「ちきしょー! 勝手に弄くって好き勝手言いやがって!」
「あはは! モーマット、ブッサイクだなぁ!」
「いっそ、デリアくらいの方が清々しいわ!」
これまた、唇とほっぺたを赤く塗られたワニだ。
俺にはウーマロとモーマットの違いが分からん。
どっちも「うわぁ……」以外の感想が持てない。
「ねぇねぇ、ヤシロ! 見てごらんよ!」
弾むようなエステラの声に振り返り、……振り返ったことを後悔した。
「リカルド子ちゃんだよ!」
「うわぁ……昼に脂っこい物食わなきゃよかった……」
「吐きそうになってんじゃねぇよ、オオバ!? そっちの連中より見られる顔だろうが!」
何ちょっと仕上がりに自信持っちゃってんだよ、このバカ領主は。ホント、乗せられやすいバカなんだから……
「なぁ、エステラ……お前、もしかしてこんなくだらないことのために、俺を関係者席に縛り付けてたのか?」
「そうだよ。それと、更衣室の安全確保のためにね」
やっぱりかチキショウ!
こんなことなら、ウーマロに賄賂を渡して更衣室の中に優雅に座って隠れられる秘密の小部屋でも作ってもらうんだった!
「なぁ、ウーマロ」
「なんッスか?」
「うぷっ! ……そんなけったいな顔でこっち見んな」
「呼んだから振り返ったんじゃないッスか!?」
くそ、「次回は秘密の小部屋を作ってね」ってジョークも言えやしない!
なんだこのカオスな空間!?
不細工しかいねぇじゃねぇか!
オシャレ女子の華やかさがかき消されるくらいの不細工濃度だよ!
「まぁ!」
「うそっ!」
「すご~い!」
そんな不細工空間に似つかわしくない黄色い声があがる。
何事かと思ったら、女子たちの注目を集めている美女がいた。
「あ、あの……こんな姿を見ないでください、英雄様」
「セロンか!?」
「はい……お恥ずかしながら」
お前っ、このっ、イケメンっ!
女装しても様になるとか、どーゆー了見だ!?
「おい、エステラ、ルシア! お前らの持ってる乳パッドを総動員してセロンをIカップにして辱めてやれ!」
「……なんでボクとルシアさんに言うのさ?」
「絶っ対持ってるから! それも大量に!」
「……よぉく分かった、カタクチイワシ。貴様には、ぎりっぎりのミニスカートを穿かせてやる」
ルシアが指を鳴らすとナタリアとギルベルタが速やかに現れ俺の腕を拘束し、一度男女兼用更衣室から連れ出される。
そのまま女子専用の更衣室に連れ込まれ、何が始まるのかと思ったら、待ち構えていたウクリネスにズボンを降ろされ、ちょっと刺激臭のするクリームを足と腕にたっぷり塗りたくられた。
ちょっと待って、ウクリネス。おばちゃんだからズボン下ろしてもセーフみたいなルールないからな?
なんでさも当たり前のように下ろして、もうすでに違うことで頭一杯みたいな顔してんの?
つか、なんだよこのクリームは……
「これはですね、レジーナさんと共同開発した除毛剤なんですよ。本日初お目見えした新商品なんです」
「そんなもんを俺で試すな!?」
「敏感肌のヤシロちゃんで肌荒れしなければ、この街の女性も安心して使えますからねぇ~」
「俺の肌、そんな繊細なポジションなの!? 女子より繊細な位置づけ!?」
「痛かったら言ってくださいね~」
「痛みの前に恥ずかしいんですけど!?」
「そ・こ・は、ガマンですよ☆」
「鬼ぃー! 立場が逆だったら即懺悔室のクセにー!」
「うふふ。役得ですね」
にこにこ顔のウクリネスにむだ毛を処理されている間、気を利かせたのかなんなのか、ナタリアとギルベルタは外に出ていた。
……っていうか、ギルベルタもオシャレしてたんだけど、コンテスト出てなかったよな、アイツ? 便乗しただけか? いや、別にいいんだけども。
そして、遠く、隣の男女兼用更衣室から聞こえる野太い悲鳴を聞きながら耐えること十数分……俺の四肢はつるすべぴっかぴかに仕上げられた。
うわぁ……小学生の頃を思い出す肌感……泣いていい?
「ヤシロちゃん、どこか痛いところはありますか?」
「あるとすれば、心……かな」
「じゃあ、商品化しても大丈夫ですね!」
人の話、聞いちゃいねぇ……このヒツジおばさん……商魂たくましくなっちゃってまぁ。
「では、メインディッシュの仕上げに参りましょう」
ドアを開け放ちナタリアとギルベルタが入ってきて、俺は再び男女兼用更衣室へと連れ戻される。
そこには、コンテストを終えたロレッタとパウラとレジーナ、応援を終えたジネットとマグダを追加した女子たちが待ち構えていた。
「さぁ、ヤシロ。キレイキレイしようね」
「俺の前に、まずは自分の心を綺麗にしたらどうだ、エステラ?」
「うんうん。後日検討するから文書で提出しておいて」
「検討する気ゼロじゃねぇか!」
「ボク、もしかしたら今がここ数ヶ月で一番楽しいかも」
「他人の不幸を楽しんでんじゃねぇよ!」
そうして、髪を洗われ、整えられ、メイクをされて、あり得ないようなミニスカのドレスを着せられ、「これでもかっ!」と乳パッドを詰め込まれ……
「……完成、『ヤシロ子ちゃん』」
マグダの宣言のとおり、この世に誕生してしまったわけだ。忌まわしい存在が。
あぁ、黒歴史ってこうして生まれるんだなぁ。
「……あぁ、もう。ここまで来りゃ開き直ってやる。笑いたきゃ笑え」
赤く塗られた口紅を歪めて、俺をこんな有様にしやがった連中をジロリと睨む。
……が、なんの音もしない。
「…………」
「…………」
「…………」
無言。
無音。
誰もが間の抜けた顔で俺を見て、ほけ~っとしている。
んだよ?
なんか言えよ。
お前らの仕出かした作品だろうが。
「……かわいい、です」
ん?
どうしたロレッタ?
脳が溶け始めたか?
ジネットを見る。
「はぅっ……」
…………目を逸らされた。
「おい、エステラ――」
「ちょっと待って! 今、ありかなしか、審査中だから」
いや、なしだろう!?
迷う余地もなく!
「カタクチイワシ」
「んだよ!」
「目を取り替えろ。そうすればもっと美人になる」
「そう! そうなんですよ、ルシアさん! 全体的に可愛く仕上がってるのに、ヤシロの隠しきれない目つきの悪さが可愛さを邪魔して素直に可愛いと思えないんですよね! ヤシロ、目がダメだ!」
「やかましいわ! この目は生まれつきだよ!」
つか、目元以外はメイクだなんだでごってごてに塗りたくっただろうが!
それで目を別物にしたら、それもう俺じゃねぇから!
「目つきさえ良くなれば可愛くなるのになぁ!」
「なりたかねぇんだよ、こっちはよぉ!」
「ヤシロ、笑おう! にっこり笑っていれば、目つきの悪さも多少は誤魔化せるよ!」
何を真剣に可愛く仕立て上げようとしてんだ!?
いい加減にしろよ。――と、文句を言おうとしたら、別の方向から「いい加減にしろ、エステラ」という声が飛んできた。
「なにさ、リカルド子ちゃん?」
「リカルド子ちゃんって言うな!」
リカルドが厳つい顔でエステラと俺の間に割って入ってくる。
背中で俺を庇うようにして立ち、エステラに苦言を呈する。
「無理矢理テメェの好みを押し付けようとすんじゃねぇよ」
同じ女装の被害者として、強引なやり方に不服を申し立てている。
……のかと思ったら、厳つい顔がこっちを向いた。
「こういう、スレた女ってのも、なかなか……その……な?」
「マグダー、鈍器ー!」
『な?』じゃねぇよ! こっち見んな目玉えぐり出すぞ!
……おぞましい。
こんな、悪ふざけとしか思えないくだらない企画、せいぜい最初の何人かの不細工面を見て笑った後は、「もういいって」って感じで寒ぅ~い空気が蔓延するに決まっている。
これだからイベント企画能力のない連中は……
いいか、会議室で盛り上がった企画ほど、現場ではスベるんだからな!?
面白いのはお前らの脳内にある間だけだから!
アウトプットした瞬間、それ、もう面白くないから!
もういっそのこと、このクッソ短いミニスカートの裾をパンツの中に挟み込んで『トイレの後スカート挟み込んでパンモロしちゃった女子』の出で立ちで舞台に上がってやろうか!?
…………くっそ! 発想がレジーナと同じな自分が憎いっ!
あ~ぁ、気が重い。
もう結果が見えてるってのに……
精々、ウーマロとモーマットで笑いを取って、唯一まともに見られるセロンが手堅く優勝して終わるだろう。
……と、思っていたのだが。
これがなんと大盛り上がりしてしまった。
「男でも、メイクと衣装でこんなに変わるの!?」と、会場にいた今回コンテストに参加しなかった女性たちが、なんでか分からないけれど妙な勇気をもらったらしく、笑いと感心と感嘆と感動が渦巻くそこそこ有意義なコンテストになってしまった。
……恒例化、しなきゃいいけど。
そうして、もう一つ。俺の予想を裏切る出来事が…………
「『ミスマスラオ』グランプリは、四十二区のヤシロ子ちゃんで~す!」
「一っ切、嬉しくねぇーから!」
「「「ツンデレ、かわいい~!」」」
「デレてねぇー!」
呪われればいい、こんな大会。
心底そう思った。
あとがき
はい!
というわけで、
『異世界詐欺師のなんちゃって経営術 無添加』
これにて終わ…………ってなくね!?Σ(゜д゜;)
あれっ!?
おかしい!?
なんか全然終わってない!
っていうか、ミスコンすら終わってないですよね、これ!?
あっれぇ~!?
ちゃんと計算して、
「そうだ! ハロウィンを二日続けて更新したら、100話目が11月30日更新になって、なんかさらに『ちょうどいい感』満載じゃね!? うっは! それ最高!」
とか思っていたのに!
物語の進度の計算、誤ったぁぁああ!
調整、下手か!?
本、何冊か出してますよね!?
決められたページ数に収めるスキル、身に付けましたよね!?
プロットの段階で「ここまでで○ページ必要」とか「あと○ぺージ増やすにはこれくらいのボリュームのエピソードが必要」とか、そーゆーの感覚で分かるようになってたはずですよね!?
あぁ、そういえば今回プロットも組んでなければ
文字数制限も一切ないところで好き勝手書いてたんだった!?
そりゃ鈍るよねぇ~!
っていうか、完全に忘れてますよね!?
やだっ、私もう、書籍書けない体になってる!?
自由って、時に怖いっ!!
え~……と、いうわけでして、
まぁ、何名かの方の予想通りといいますか、
「どーせそんなことだろうと思った」的なアレといいますか……
もう一話だけ延長です☆
というか、延長DEATH★
……すまねぇ、すまねぇ。
主人公が女装してヒロインがきゃーきゃー言うって、
2000年代にラノベ界隈で流行ったようなことをやりたくなってしまったばっかりに……
その割に、あんまきゃーきゃー言われてないしっ、ヤシロ子ちゃん!
そんなわけで!
ちょうど12月5日に
ちょうど101話で完結です!
ふふん!
計算通りさっ!
いや~まぁ~なんつ~の?
読者様の期待を裏切ってこその作家? みたいな?
型にはまらない自由な発想? 的な?
爆発してこその芸術? っていう…………
すみません、もう二度と偉そうなこと口にしません!
執筆論とか語ったりしません!
作家? そんな、恐れ多い!
私なんか、ただおしゃべりなだけで、あぁしゃべってはないので『おしゃべり』じゃないですね、書いてるので……そう、『お書き』!
私なんて、ただのオカキです。
結局、水着審査もないままにミスコンがほぼ終わり……
まさかのオッサンの女装で100話が終わるとか…………
おっぱい成分、不足してんじゃないのー!?
よし、こうしましょう!
水着のSSを書きましょう!
そうしましょう!
――陽だまり亭
エステラ「どうしてボクが水着のモデルに? ネフェリーとバルバラがやるんじゃなかったのかい?」
ヤシロ「そっちはそっちで進行中だ。お前には別の層向けの水着を試着してもらう」
エステラ「……別の層、ね」
ヤシロ「具体的には胸が真っ平――」
エステラ「おっと、ナイフが」(物々しい造形のナイフ「ごとり」)
ヤシロ「か、可愛いのをデザインしたから、ちょっと試してみてくれ」
エステラ「はぁ……しょうがないなぁ。今回だけだよ?」
ヤシロ「んじゃ、これを着てみてくれ」
エステラ「えっ!? こ、これって……ビキニ、だよね?」
ヤシロ「おう」
エステラ「いや、でも……ビキニは……」
ヤシロ「そういう女子が多いから、『胸の大きななんか気にせず可愛いビキニを着てバケイションをエンジョイしよう!』っていうキャンペーンをしたいんだよ。猛暑期は短い! だからこそ、思い切ってその一瞬を楽しむべきなんだ! 『胸の大きななんか気にせず可愛いビキニを着てバケイションをエンジョイしよう!』って! 『胸の大きななんか気にせず――』!」
エステラ「連呼するなぁ! ……ったく、こっちだって、着れるもんなら着たいけどさ……」
ヤシロ「それに、ジネットよりエステラの方がビキニには向いてるんだぞ」
エステラ「え……そ、そう、なの?」
ヤシロ「あぁ。絶対零れないしな! 絶っ対!」
エステラ「帰ろうかな」
ヤシロ「待て待て! 可愛いの作ったから! デザインはマジで可愛いから!」
エステラ「えぇー…………まぁ、確かにデザインは可愛いけどさぁ……」
ヤシロ「あと、腰に大きなリボンを付けるから、視線はそっちに向かうし」
エステラ「…………」
ヤシロ「エステラはウェストも細くて脚も綺麗だからきっと似合う!」
エステラ「……しょ、しょうがないなぁ。そこまで言うなら、着てあげるよ」
ヤシロ「(うん。チョロい)」
エステラ「何か言った?」
ヤシロ「ん~ん! 楽しみだなぁ~!」
エステラ「……じゃあ、着替えてくるけど…………二階への立ち入り禁止だからね?」
ヤシロ「分かってるよ、そこは、さすがに」
エステラ「ところでこれ、肩紐は?」
ヤシロ「これは、一本を背中で留めて、もう一本の紐を首で留める水着なんだよ」
エステラ「なるほど……じゃあ、着替えてくるから、……そこを動かないように!」
ヤシロ「へいへい」
――十分後
エステラ「ね、ねぇ、ヤシロ? これは、これで合ってるの?」
ヤシロ「エステラ……それ、ブラ逆」
エステラ「えぇっ!?」
ヤシロ「Aカップ水着逆付けなんてお約束をどこで覚えてきた!?」
エステラ「覚えてないよ、そんなお約束!」
ヤシロ「うわぁ、なんか懐かしい~」
エステラ「こんなものにノスタルジーを感じないでくれるかな!? 着替えてくる!」
ヤシロ「待て! 逆に、それで表に出てみよう!」
エステラ「出られるかぁ!」
新しい発想とは、既存の概念をぶち壊すことで生まれてくる……の、かもしれない。
……ふぅ。
これで本編で不足していたであろうおっぱい分も補え…………
エステラさんじゃ心許ないっ!?
シュンッ( ・_・)/―――― -(゜ロ゜)→サクーッ!
しかし、女性のおしゃれ着は難しいですね。
ミスコンに向けておしゃれ着を検索していて、
よく間違えないなぁってデザインが多いと感じました
肩を出す服や、紐みたいなパーツが多いから、
向きとか、腕を出すとことか間違いそうだなと……
よかった、男で。
男性用なら、おしゃれ着でも間違って着ることはほぼ無いですからね。
……まぁ、たま~に、
お風呂入る時に「えっ!? 今日一日パンツ前後ろ逆だった!?」って発覚する時がありますが……誰に見せるわけでもないからへーきです!
見てみたいという方はこちらの宛先までお便りを――
シュンッ( ・_・)/―――― -(゜ロ゜)→サクーッ!
最後までこんなノリでしたね、無添加(^^;
次回で本当に終わりです。
また新しいお話練ってきます。
とにかく、次回無添加本当にラスト!
乞うご期待!
……いや、期待しないくらいの軽ぅ~い気持ちでお待ちくださると有り難いです。
次回もよろしくお願いいたします。
宮地拓海




