無添加72話 利益のための損益
「ヤシロく~ん、機嫌直しなよ~☆」
天岩戸の如く固く閉ざされたドアからぞろぞろと受講生が出てくる。
みんな適度に汗をかいてすきっり爽やかな疲労感に満足げな顔をしている。
俺は一人ふて腐れて三角座りしてるけどな。
つーん。
三角座りのまま歩き回ってやる。
ちょこちょこちょこちょこちょこちょこちょこちょこちょこちょこ。
「気味の悪い動きをしないの!」
エステラに襟首を掴まれて半強制的に起立させられる。
「あれ、エステラ。やせた?」
「胸を見ながら言うな!」
いやぁ、俺の考案したエクササイズ、効果あるなぁ。……けっ。
「あんたがおかしなこと考えなきゃ追い出されなかったんだから、自業自得さね」
「おかしなことじゃない! 素晴らしいことだ!」
「あぁ、まったく反省してないんさね……」
ノーマが呆れたようにため息を吐くが、体操服&ブルマのせいでありがとう以外の感想が出てこない。
「ノーマ、ありがとう!」
「この服、殊の外思い入れが強いようさね……着る頻度下げなきゃいけないみたいさね」
なぜだ!?
俺から何もかもを奪うつもりか精霊神!?
この世には神も仏もないのか!?
「うんうん。割と元気そうでよかったねぇ☆」
「えぇ……そうかなぁ? 拗ねてて面倒くさいけど」
マーシャの水槽に腕を置いてエステラが眉を寄せる。
拗ねてねぇよ。ほんのちょこっとおへそを曲げてるだけだ。
「で、他のヤツは?」
四十一区の講師候補生たちはすでに全員出て行き、「遅くなる前に四十一区に戻りますね」と帰路に就いている。もう随分と空が暗くなっている。夜の訪れは間もなくだ。
にもかかわらず、四十二区の面々はまだ出てこない。
「あぁ……まぁ、中を見たら分かるよ」
困ったような顔で肩をすくめるエステラ。
促されてドアから教室の中を覗き込むと、床に倒れたジネットとベルティーナ、その横でへたり込んだままぷるぷる震えているモリーの姿が見えた。
「仲良し母娘殺人事件が起こってるみたいだけど!?」
なんらかの事情があって、ついカッとなって……みたいな現場になっている。
犯人はモリーか。
「謎はすべて解けた」
「謎なんかないんだよ」
四十一区の女性たちが気持ちのいい汗をかくようなエクササイズは、ジネットやベルティーナにとってトライアスロン級のヘビーな運動だったようで、ぴくりとも動けないのだそうだ。
「モリーは? そこまで体力がないわけじゃないだろう?」
「彼女は……ほら、一所懸命な性格だから」
あぁ、なんか分かる。
受講生は出来る範囲でいいって言われてるのに、講師の完璧な動きをマネしようと張り切ると自分の限界を超えてしまうことがある。その結果迎えるのは、今のモリーのように筋肉がぷるぷるして動けなくなる結末なわけだ。
……モリー。お前、ちょっとでも痩せようと無理しただろう?
デリアと同じ動きなんて、同じ獣人族でも相当な負荷になるはずだもんな。
「バルバラは?」
「あそこさね」
ノーマの指差す先には、「ほら、どうした! もっといける! 限界を超えろ!」と熱血指導しているデリアと、「んんんぬゎああああああ!」と野太い声を出して片足スクワットをしているバルバラがいた。
……なにやってんだよ。
「遅れて迷惑をかけた分、追加特訓するんだってさ」
「え、あれエクササイズなの? 俺の知ってるのと全然違うんだけど?」
おかしいなぁ、俺の教えたエクササイズは見た目にも女性らしさが漂う素敵体操のはずなんだけど……どこの傭兵育成施設だよ、ここ。
「ダイエットって、あんなコマンドーみたいな顔してするもんじゃないだろう……」
「あれくらい出来ないと、デリアと同じ動きは出来ないんだって」
「アタシでもやりたくないさね、あんな特訓」
エステラもノーマも呆れ顔である。
でも、ノーマはやらないだけで出来ないわけじゃないよな? 表情から察するに出来るよね、絶対?
つか体幹がすげぇな、バルバラ。
片足スクワットなんか絶対出来ねぇわ。
「それにしても、君も少しは分別があるようだね。その点は評価するよ」
不意にエステラに褒められて、俺は小首を傾げる。
分別?
「チラとでも覗こうものなら抉るか潰すかしようと思っていたんだけれど」
「主に目に使われる物騒な単語を並べてんじゃねぇよ」
エステラの場合冗談だと分かるからまだマシだけれども。
……ナタリアだったらやりかねないって怖さがあるよな。よかった主の方で。
「未練がましくドアの前でごちゃごちゃすることもなかったね。静かなものだったよ」
偉い偉いと、俺の頭をぽふぽふ叩くエステラ。
俺をコンビニ前に繋がれて飼い主の買い物を待っている犬みたいに扱うんじゃねぇよ。
あの買い物待ち犬って街の財産として扱われないのかなぁ? 見かける度に撫でたくなるけど他人の犬だし、途中で飼い主が帰ってきたらと思うと手が出せないんだよなぁ……
「何をしていたんだい? まさか、ずっと三角座り?」
「いや、ちょっとアッスントとな」
ここはニュータウンなので、ヒマなハムっ子が比較的すぐに捕まえられる。
まだ仕事には就けていないちびっ娘を捕まえて、ちょっとひとっ走りアッスントを呼んできてもらって、さっきまで打ち合わせをしていたのだ。
「どうして、大勢の女性が汗を流すような艶めかしい場所に呼び出すんですか……」と、妙にそわそわしていたなぁ、アッスントのヤツ。妄想がどこまでも広がってたんだろうなぁ、むっつりめ。
「アッスントはむっつりなんだ」
「君があけすけ過ぎるんだよ。アッスントくらいでちょうどいいんじゃないのかい?」
「専属おっぱいがいるくせに他所のおっぱいに目移りするなど、言語道断!」
「一途で素晴らしいと言うべきか、奥方を専属おっぱい呼ばわりする最低男と言うべきか判断に悩むところだね、君の意見は」
なぜだ?
アッスントは決まった相手がいるのに他のおっぱいにちょっとドキドキしてたんだぞ?
怒るべきところだろう!
ふざけるな!
欲張るな!
「お一人様1セットまで!」
「口を開く度に評価を落とすからそろそろ黙るといいよ。……で、アッスントとなんの話をしていたんだい?」
エステラの目つきが領主のそれになる。
隠し事を許さないというような凄みが瞳の中に紛れ込んでいる。
……別に隠すつもりはねぇよ。
「エステラ。お前にとってお菓子って言えば、なんだ?」
「え? ん~……そうだねぇ。今だと、やっぱりドーナツかな?」
ま、そうだろうな。
「他にはケーキとか、ハニーローストピーナッツとか、ポップコーンとか……」
「私、たい焼きが好き~☆」
「アタシはプリンが好きさねぇ」
俺もノーマの『ぷりんっ』が好……熱っづぃ!?
何も言ってないのに!? 思っただけなのに!?
「視線が正直過ぎるさね」
正直なのはいいことだって教わってきたのに……正直者が馬鹿を見るって、こういうことを言うんだろうなぁ……くすん。
それはともかく。
四十二区でお菓子と言えば、今こいつらが挙げたような物がほとんどだ。
もともと甘味の少ない街で、あったもんといえばハチミツと黒糖、あとは果物くらいで、その日の飯も満足に食えないヤツもいたような四十二区では嗜好品のお菓子が根付くようなことはなかった。
だから、陽だまり亭が始めて広げていった物が四十二区のお菓子の定番になっているのだ。
「ハロウィンってのは、ガキどもが街を練り歩いてお菓子をもらうイベントなんだ。お菓子が陽だまり亭にしかないようじゃ問題あるだろう?」
「ん~……確かに、それはそうかもしれないけれど。でも、ケーキなら他のお店にもあるだろう?」
「一軒一軒立ち寄ってケーキを食ってたら、一個二個で腹が膨れちまうだろう? もっと手軽な方がいいんだよ」
本当はクッキーみたいな物がいいんだが……小麦粉を使ってオーブンで焼くと『パン』になっちまうせいで準備が出来ない。
ノーマのコの字型オーブンがあればなんとかなるかもしれないが、それでも結局陽だまり亭でしか作れない。
「だからな、ドーナツの作り方を公開しようかと思ってな」
「えっ!? 他の飲食店にかい? ケーキみたいに?」
「飲食店にというか、もういっそ思い切って一般に」
「一般公開!?」
エステラが驚いて目を丸くしている。
俺としては飲食店だけでなく、そこらの奥様方でも簡単に作れるようにレシピを公開してやろうと思っている。
「子供好きの婆さんとか多いだろ? 自分の子が独り立ちしてるとガキに何か作ってやる機会ってそうそうないからな。こういうイベントなら近所のガキどもにお菓子を作ってやって、喜ばせてやれるんじゃないかと思ってな」
「どうしたのヤシロ!? なんか発想が物凄くいい人っぽいよ!? レシピの公開なんて、そんな利益の損失になりそうなこと、ヤシロが進んで行うなんて…………ヤシロしっかりして! 死んじゃダメだ!」
「しっかりするのはお前だ、バカたれ」
取り乱すエステラのデコをペコッと叩く。
レシピの公開は陽だまり亭でエステラに匂わせたはずだ。
ルシアがあんドーナツの製法を欲しがっているんじゃないかという話の流れで――
『けど、製法は渡せないでしょ?』
『ん~…………』
『「ん~……」って。え、なに? ドーナツの製法を広めるつもりなの?』
『なんでだよ?』
『だよねぇ。ヤシロがそんな他人に利益をみすみす明け渡すようなマネしないよねぇ』
あの時の『なんでだよ?』は、『なんでそんな驚いた顔してんだよ』って意味だったんだが、エステラには「そんなことするわけないだろう」という意味に聞こえたらしい。
俺的には、あの時からはすでに公開も選択肢の一つに入っていたのだ。
「ドーナツは本当に簡単なんだ。油の扱いに慣れてりゃ、そうそう失敗もしない。な、ノーマ?」
「まぁ、そうさねぇ。マグダたちが作ってるのをチラッと見てたけど、あれならアタシでも作れそうさね」
ノーマは今朝、陽だまり亭の厨房にコの字オーブンの設置をしていた。その隣ではマグダとロレッタが交代でドーナツの練習をしていたので、ノーマの目にも留まっていたのだろう。
「けど、どうして……? 本当にいいのかい?」
「まぁ、一応ジネットの意見を尊重するつもりではいるが」
陽だまり亭の店長はジネットだからな。現在独占状態であるドーナツのレシピを公開すれば売上は落ちるだろう。……以前からある輪っかのドーナツも、ずっと前から作り方教えろってやかましく言われているんだけど、今回誕生したあんドーナツやカレードーナツのレシピ公開はかなり大きな騒ぎになるだろう。
そんな騒動や利益減に繋がることを、俺の独断で進めるわけにはいかない。
「でもまぁ、絶対イヤとは言わないと思うけどな」
「まぁ、ジネットちゃんだからねぇ」
あいつなら、「いろんなお店で独自のドーナツが生まれると、もっと多くの人が喜んでくれますね」とか言うのだろう、どうせ。
そして、遠くない未来、パウラのところでソーセージを包んだドーナツ――アメリカンドッグとかが誕生するのだろう。……あ、無性に食いたくなってきた。パウラに作り方教えて食わせてもらおうかな。ソーセージは向こうの奢りっつうことで。
「あと、マシュマロとか水飴を使った飴細工とか、ハロウィンに向きそうなお菓子をいくつか広めていろんなところで作ってもらう予定なんだ」
「それらもみんなお菓子なのかい?」
「あぁ。見た目と感触が可愛くて、女子とガキどもに人気が出そうな感じのな」
「……それを、陽だまり亭で出すんじゃなくて、レシピを公開するのかい?」
「おう。飲食店の連中に教えて、大量に作らせる。で、余剰分を行商ギルドに買い取らせて、ハロウィン前に市場で売るんだ。そうすりゃ、料理の出来ないヤツでもハロウィンに参加出来るだろ?」
お菓子をもらいたいガキどもはもちろん、ガキにお菓子をあげたい大人も少なくない人数いるのだ。
店で買えるなら、料理下手なママさんもババ様も独身のオジサンもお菓子をあげる側で参加出来る。
……『ハビエル禁止』の看板を街のあちらこちらに立てる必要が出てくるかもしれないけどな。
「あと、お菓子をくれる家にはお揃いのハロウィンプレートを飾ってもらうことにしたんだ。参加する気のない家にガキどもが押しかけると迷惑になるし、ガキどもがトラブルに巻き込まれると困るから目印は必要だろ」
「ちょ、ちょっと待って!」
俺がアッスントと話していた内容を説明していると、エステラが手を突き出して俺の言葉を止めた。
「いろいろ考えてくれていることは分かったし、詳しくはあとで改めて聞かせてもらうけど、その前に驚きと戸惑いで君の話が頭に入ってこないんだ……」
胸を押さえ、大きく息を吸って、吐いて、戸惑いに揺れる瞳をこちらに向ける。
「なんか、ヤシロがいい人過ぎて怖い……」
「お前は俺にどうなってほしいんだよ?」
悪事を画策すれば全力で止めるくせに。
「おっぱいおっぱい言って騒いでいてくれると、呆れるけれど安心する」
「エステラ……それはもう完全に毒されているさね……その考えは改めるさよ」
「エステラって、要所要所で残念ちゃんだよねぇ~☆」
顔を見合わせて肩をすくめるノーマとマーシャ。
お前らも、特にノーマは人のこと言えないと思う。
「だって、ヤシロが自分の利益を犠牲にして子供たちや街の人のことを考えるなんて……精霊神様が嘘吐き大会を開催するくらいにあり得ないじゃないか!」
「そうだな。エステラがCカップのブラジャー売り場をうろうろするくらいあり得ないな」
「うるさいよ! ……あぁ、くそ! こんなアホなやりとりでちょっとほっとしてる自分が憎い!」
この娘はもう末期なんじゃないだろうか。
ま、俺のせいじゃないけど。絶対。
「勘違いするな、エステラ。そうした方が俺にとって利益があるだけだ」
「利益……? ドーナツの独占販売をふいにする損失を上回る利益が見込めるのかい?」
「あぁ。むしろ、先々のことを考えると不可欠な判断だと思ってる」
あんドーナツやカレードーナツが他の店でも売られるようになれば、陽だまり亭に買いに来る客はグッと減るだろう。今でさえ職場や家から遠いからと、買ってすぐに持って帰る客が多いのだ。近所の店で買えるならそっちに足が向かうのは容易に想像出来る。むしろそれが当たり前だ。
でも。
それでも。
俺はレシピを公開したいと思っている。
それが、何よりの利益を俺にもたらせると確信出来るから。
「まぁ、あれだ。経済は回っていた方がいいってこった。ウチだけでなんちゃってパンを独占してると、教会からの監視が厳しくなるかもしれないし、怪しいことはみんなでやった方が責任の所在が有耶無耶になるしな」
赤信号みんなで渡れば怖くない――ではないが、街全体であんドーナツを売っていれば、教会も狙いを絞ってクレームを入れにくいだろう。
「もしかしたら、お菓子を作るための店が出来るかもしれないぞ。飲食店として販売するんじゃなくて、作るだけ作って行商ギルドに卸して利益を得るような店がな」
そうなれば、一般家庭にもっとお菓子が広がっていくだろう。
そんな話をすると、アッスントは今回の企画に全面協力すると約束してくれた。
お菓子や飾り、ハロウィンプレートの準備と流通を請け負ってくれた。
「とりあえず、エステラはオバケ話のコンペの準備と、ウクリネスとの調整を頼むよ」
「ウクリネスとの調整? 衣装の発注ってことかい?」
「いや、一週間やそこらで街中のガキどもの衣装なんか作れるわけないから、作り方のアドバイス講座みたいな感じかな」
ハロウィンの衣装は、各自で工夫して作ってもらうつもりだ。
その方が、個性あふれるオバケが増えて面白くなるだろう。
「いくつかアイデアを提供するから、ウクリネスならこうやって作るって感じのサンプルを作らせておいてくれ。素人でも真似出来そうなレベルでな」
「家族で作ると盛り上がるかもね。父親は蚊帳の外になるかもしれないけれど」
「いやいや。家を飾り付けるのは父親の腕の見せ所だぞ。一家総出でやってもらえばいい」
ウーマロやベッコも動員して、飾り付けのアイデアやアドバイスを話してもらうのもいいだろう。
「方々から技術を無償提供させるんだね」
「当たり前だろう? こっちは大ヒット商品のレシピを公開するんだぞ? 他の連中にも身を切らせろっつの」
周りへの被害が広がり始めると、エステラが妙に安心したような表情を見せた。
他人が苦労するのがそんなに嬉しいのか? とんでもない領主だな。
「君が一人で不利益を背負い込むつもりじゃないことが分かって安心したよ」
「なら、連中から文句が出ないように領主の圧力で黙らせてくれよ」
「そんなことしなくても、彼らは協力をしてくれるよ。みんな、君が大好きみたいだからね」
くつくつと笑うエステラに、にんまりと笑みを浮かべるマーシャがにじり寄る。
「その『みんな』にエステラは入ってるのかなぁ? ヤシロ君のこと、大好きなのかな?」
「ボッ……ボクのは、ただの友人に対する、極一般的な好意だよ」
「そっかそっかぁ、好意あるんだぁ☆」
「沈めるよ……?」
「平気だけど?☆」
水槽の中の水をマーシャの顔にかけて、エステラは「ふん」とそっぽを向く。
マーシャがけたけたと楽しそうに笑っている。
「まぁ、各所に協力を要請する以上、領主としても協力を惜しむつもりはないよ。ボクに出来ることがあれば言ってくれていいよ」
「じゃあ、お金よろしく!」
「…………っ、まぁ、補助金くらいは、ね」
協力は惜しまないけど、お金はそこそこ惜しいらしい。
今回は行商ギルドが協賛してくれるし、そこまでの負担にはならないと思うぞ。
「三十五区にもちょっと金を出させればいい」
「ルシアさんに?」
「『あんドーナツを寄越せ』って夜に来るんだろう? レシピと交換に金を毟り取ってやれ」
「ははっ、領主の腕が試されそうだね、それは」
仮装行列は、結婚パレードの時の触角カチューシャに近しい物がある。
ルシアなら好感を持ってくれるだろう。当日招待してやれば、金くらいいくらでも出すさ。
「ヤシロさぁ~ん……」
教室の方から、死にかけの声が聞こえてくる。
デリアにしがみ付くようにしてふらふらと歩くジネットとベルティーナ。デリアは両側からしがみ付かれて、ちょっと困ったような顔をしている。
その後ろからは満身創痍っぽいモリーとバルバラが互いを支え合いながらよろよろと歩いてきている。
……ダイエットのエクササイズをしてた会場だよな、ここ? 格闘技とかしてたわけじゃなかったはずだよな、たしか。
「お待たせ、しまし、たぁ~……」
と、言いながら、まだ俺の前にはたどり着けていない。
俺、まだ待っている最中なう。
「ジネット。それじゃ料理は無理だな。夕飯は俺が作ろうか?」
「い、いえ! 大丈夫です。厨房に入れば、きっと元気になります!」
ジネットの予想では、夕方には肉や飯を食いに来る客が増えるということだった。
あんドーナツやカレードーナツを食った反動で米を食いたくなっていると考えれば、お好み焼きのような粉もので誤魔化すことは出来ないだろう。
かといって、ジネットが通常通りのパフォーマンスを発揮出来るとも思えないし……
「ねぇねぇ、ヤシロく~ん☆」
ちゃぷちゃぷと水音を立てて、マーシャが俺に手招きする。
「夕飯食べさせてくれるなら、スッペシャ~ルな食材をご提供しちゃうよ☆」
スッペシャ~ルか。そりゃあ期待が高まるな。
以前、エビチリのために車エビをくれたマーシャだ。スペシャルではなくスッペシャ~ルな食材ってのは、相当な自信作なのだろう。
「それじゃあ、夕飯に招待しようか。ジネットがこの有り様だから、俺の料理になるかもしれないけどな」
「平気平気☆ ヤシロ君の手料理もおいし~いし☆」
俺が了承すると、マーシャは水槽にもぐって床をごそごそとまさぐり始めた。
覗き込んでみると、水槽の床には小さな扉が付いていて、床下収納になっているようだった。
その中から網いっぱいに詰め込まれたカニが出てきた。
「じゃーん! カニでーす☆!」
「すげぇ! ズワイガニだっ!」
「さっすがヤシロ君っ! くっわし~い☆」
成人男性の頭くらいなら楽々と鷲掴みに出来そうな巨大なズワイガニが網の中にぎっしりと詰め込まれていた。
これは……美味そうだ!
「マーシャの出汁で漬け込んだカニかっ!」
「出汁は出てないよ~☆」
ピッピッと、海水を飛ばされる。
マーシャの抗議は濡れるからちょっと面倒くさい。あと微かに磯臭い。
「これ、もらっていいのか?」
「うんうん。美味しく食べて☆ で、美味しく食べさせて☆」
「よし、今日はカニ尽くしフェアをやるか!」
「いいねぇ☆ 賛成~!」
盛り上がる俺とマーシャ。
そんな俺たちの間に割り込んできた影が二つ。
「「ヤシロさん! これはどんなお料理になるんですか!?」」
似たもの母娘がまったく同じ言葉を、違う意図の元、まったく同時に口にした。
「お前ら、筋肉痛は?」
「治りました!」
「まだ来てません!」
ん~、惜しい。
ちょっと内容が違った。
まぁ、ジネットよりベルティーナの方が正解に近いだろうな。……明日の朝に泣くなよ。
「わたし、お料理したいです」
「私、お料理食べたいです」
言われなくても、よぉ~く分かってるよ。
「アタシは食べたことないさね。これは美味しいんかい?」
「美味しいよぉ~☆ お酒にも合うしね」
「へぇ……そうなんかぃ」
ノーマの目が微かに細められる。
値踏みするような目でカニを見て、どんなお酒に合うのかを想像しているようだ。あ、ちょっと唇を舐めた。
「手伝うさね!」
「素直に食いたいって言えよ」
「ボクは食べたい!」
「お前は素直だな。ナタリア呼んでこい。ハロウィンの相談もしたいし」
「あたいも食いに行っていいか?」
「ジネットが断るわけないだろう。あとモリーは今日泊まりだから、ちゃんと食っとけよ」
「はい。……一応、控えめにするつもりですけど」
はっはっはーっ。
モリー、それ、たぶん無理だぞ。
「こんなにたくさんあると、いろいろなお料理に使えそうですね」
「そうだなぁ」
わくわくとした目でジネットに見つめられ、パッと頭に浮かんだメニューを指折り挙げていく。
「まず茹でるだろ。あとは七輪で焼いて、カニしゃぶもいいなぁ。天ぷら、ソテー、炊き込みご飯、餡かけカニチャーハン、カニクリームコロッケ、甲羅みそ焼き……で、殻で出汁を取って味噌汁にでもするか」
「帰りましょう、ヤシロさん! 私たちの陽だまり亭へ!」
と、陽だまり亭在住ではないベルティーナが陽だまり亭の方向をビシッと指差す。
耳をすませば、秋の空の下で鳴くお腹の虫の音が聞こえてくる。風流でもなんでもないけどな。
「この甲羅でお出汁を取るんですか……。わたし、今からわくわくです!」
四十二区にはさほど入ってこなかった海鮮類。マーシャからのお裾分けでいくらか料理したことはあるが、これだけ大量のカニを前にジネットが大人しくしているなんて出来るわけがない。
あまり馴染みのない食材に気後れすることもなく、楽しそうにカニを見つめている。
そんなジネットを見て、改めて思う。
ハロウィンは何がなんでも成功させなきゃな。
もちろん、俺の利益のためにな。
あとがき
夏です。
夏バテには気を付けてください!
冷夏だからって油断は出来ませんよ!
湿気が多いと、むしむしして、むれむれになって、ちょっとむらむらしますからね!
湿気で食欲なくす方も多いと聞きます。
好きな食べ物だけでもいいので、毎日しっかりと、少しでも食事を取るよう心がけてください。
皆様、私を残して死んじゃダメですからね!
かくゆう私も夏バテしやすい系男子なもので、
今年も油断が出来ません。
夏バテすると、固形物が疎ましくなって
塩味を敬遠してしまい、
飲み物ばっかり飲んでしまうんです。
けど、飲み物では十分な栄養素が摂れない……
私の夏バテを防ぐには、
塩辛くなく、栄養素たっぷりの、
主食になるような液体が必要なんですが、そんなものあるわけが…………
はっ!?∑( ̄△ ̄ )
おっぱい!?
赤ちゃんの主食!
液体!
塩辛くない!
おまけに、是非進んでいただきたくなる逸品!!
パーフェクト!
まさにパーフェクトじゃないですか!
よぉ~し、今年の夏バテはこれで怖くない!
ただひとつ問題があるとすれば……
この夏は塀の中で過ごすことになっちゃうか・も・ネ☆
それはちょこっと困るので、
有給も残り少ないですし、
研修生も放っておけませんし、
なんとか合法の範囲で夏バテと戦いたいと思います。
よく
「土用の丑の日に『う』のつくものを食べるといい」
なんてことがよく言われています。
有名なのが、うなぎ。
でも、『う』がつけばうなぎでなくてもいいそうなんです。
梅干でも、梅ジャムでも、梅昆布茶でも
……梅しか出てこない……orz どうした私のボキャブラリー
『う』って何かありましたっけねぇ………………
( ̄- ̄ )< …………
(  ̄- ̄)< …………
(-_- )< …………
( -_-)< …………
(  ̄o ̄)< はっ!?
( ゜∀゜)o彡°< うっぱい!
……どこいった、私のボキャブラリー……orz
あっ!
『うどん』!
……ん~、いまいち精がつきそうな感じはしませんねぇ……
『ほうとう』
わっ!?
二回もついちゃった!
これきっとめっちゃ精がつきます!
『カレーライス(小)』
いや!
よく見てください!
カレーライス(しょ『う』)
ね!?
ついてるでしょう!
まぁ、カレーがいけるのであれば、
カツドゥン
親子ドゥン
ビーフストロガノフドゥン!
なんでもありですね!
こう考えると、
何を食べても夏バテを乗り切れそうな気がしてきます!
皆様も是非、
ご自分の最も好きなものを食べて、
この夏の夏バテに抗ってみてください。
私も最も好きなものをたくさん食べたいと思います!
最も好きなもの、それはもちろん――
( ゜∀゜)o彡°おpp
――ファンファンファン……ウゥー! ウゥー!
塀の中は、ちょっと涼しいです。
(本格的な夏を前に、ちょっとはしゃいでみちゃいました☆)
次回もよろしくお願いいたします。
宮地拓海




