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異世界詐欺師のなんちゃって経営術  作者: 宮地拓海
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399/854

無添加54話 最初の運営なんてそんなもん

「ヤシロ。緊急事態だよ」


 エステラが深刻な顔で言う。


「空が、真っ赤だ」


 エステラが指差した空は、食紅を垂らした水飴のように赤く染まっていた。

 もう、とうに夕方と呼べる時間だ。


「まさかこんなに時間が押すなんて……」


 当初、昼ちょい前から始めて夕方には終わるだろうと予想されていた区民運動会。

 しかし、蓋を開けてみれば最初のプログラムから順々に時間が押し続け、あと三競技も残しているのにもう夕方だ。


 運動会を満喫するためにと、今日一日仕事を休みにしているギルドも多い。

 さすがに、明日に延長というわけにはいかない。


「で、どうする、大会委員長?」

「最後までやるさ。ただ、次回への課題としてこの状況は克明に記しておかなければね」


 言って、大会委員長であるエステラは参加選手や来賓、会場にいる観客たちに説明を始めた。



 競技が思っている以上に進まず、大幅な遅れが生じているが、折角の第一回区民運動会なので最後までやりきりたい。

 けれど、明日からの生活もあるから、これより先は自由に帰ってもらって構わない。

 各チームの選手も、リーダーも、それを決して咎めないようお願いする。

 拙い運営になってしまった責任はすべて大会委員長である自分にある。

 その上で、出来ることなら一人でも多くの領民たちとこの記念すべき大会を最後までやりきりたいと、個人として願っている。



 と、そのような演説だった。


 俺も、まさかこんなに時間を食うとは思わなかったんだよなぁ。

 学校の運動会って、実績と経験によってうまいこと運営されてたんだなと実感したよ。

 あれもこれもと詰め込み過ぎた。

 怪我人も出ちまったし、運営面はもう一度徹底的な見直しが必要だな。

 ……次回があるならな。

 …………出来ることなら、次回は運営に携わらずにやり過ごしたいもんだが……さて、どうなることやら。


「我々も、ここで終わられたら自区へは戻れません」

「イネスさんの言うとおりです。活躍もせぬまま帰るなど、出来ません」


 他所からの参加者であるイネスとデボラも、運動会の完遂には賛成のようだ。

 こいつらは騙されて強引に参加させられたはずなんだが、いつのまにか自分の意志で競技に参加し、相応の責任を感じているようだ。


「わしもまだまだ戦えるのじゃ!」

「あはぁ、日が傾いてから見るリベカは、なんだか大人っぽく見えて……そそります!」


 日が傾いてもまだ元気があり余っているらしいリベカと、日が傾くにつれて症状が悪化していくソフィー。

 祭りの夜店でクラスの女子に会って、いつもと違う雰囲気にドキっ……みたいな感想なんだろうが、顔がなぁ……シスターに写真選考があるなら一次審査できっちりと落とされているであろう邪な笑みを浮かべている。


「ニッカ。暗くなったから足下気を付けるダゾ」

「もう、いつまでも子供扱いしないでデスヨ……そういえば……ずっと小さい頃から、カールは日が暮れると心配してそう言ってくれてたデスネ……ずっと、愛してくれていたデスネ……」

「ニッカ……」

「カール……」

「よし、よそでやれ! いや、ここにいて何もするな!」

「お兄ちゃん、邪魔しちゃ悪いですよ」


 バカ! ロレッタ、バカ!

 ここで邪魔しなきゃもっと悪いだろうが! 風紀的に!


「風紀の乱れはこの俺が許さん!」

「あんたが一番風紀を乱してるんさよ……」

「なぁ、マグダ。ふーきってなんだ? あたいに分かるように説明してくれ」

「……簡潔にまとめると、おっぱいじゃないこと」

「じゃあヤシロダメじゃん」

「マグダ、デリア、その認識はちょっと違うでしょ」

「何言ってんの、ネフェリー。マグダはともかく、デリアは合ってんじゃない?」


 ノーマにデリアにマグダにネフェリー、そしてパウラが好き勝手なことを言っている。

 なんかまともなこと言っている風を装ってはいるが、辺りが暗くなり始めてテンションが上がっているのが手に取るように分かる。

 この根っからのイベント好きどもめ。

『夕べの集い』とか大好きなんだろ? わくわくするもんな。


「ヤシぴっぴ。大将が許可してくれやがったですから、私も最後までトコトン付き合ってやるぜです!」

「モコカがその気なら、アーシも全力だぜ!」


 そんなわけで、白組の助っ人はみんな残ってくれるらしい。

 カブリエルとマルクス? 男に拒否権などない。三日三晩徹夜することになっても最後まで付き合ってもらう。


 だが、責任ある立場の人間はそうも言っていられないだろうな。


「つーわけだ、メドラ。無理して最後まで付き合わなくていいぞ」

「何言ってんだい、ダーリン。アタシもと・こ・と・ん、付き合うよ。あ、朝までだって……きゃっ!」

「あははー、リカルドバリアー」

「おぉい、こら、やめろ! 近距離はキツイ! 照れメドラを直視すると網膜がひりひりするんだよ! 押すな、バカ!」


 リカルドも最後まで付き合ってもらう。


「どーせヒマだろうし」

「忙しいわ、ボケ!」

「じゃあ帰るか?」

「残るわ!」


 寂しがり屋か!?

 あぁ、そうだそうだ。


「ルシア様。夜も更けて参りました。夜道は危険ですし、夜更かしはお肌にも悪い、どうぞ、お気になさらずお引き取りを」

「気味の悪い声を出すな、カタクチイワシ!? 鳥肌が立ってお肌ぷちゅぷちゅになったわ!」

「なんでぶつぶつをちょっと可愛く言った!?」

「か、かわっ、可愛いとか言うなぁ! 不埒者! 腐敗物!」


 誰が腐敗物だ。

 腐りかけが美味しいって? やかましいわ。


「不埒者はよかったなぁ、自分。もういっそのこと『ふらちん』って可愛らし~ぃあだ名にしたらどないや?」

「お前にそのあだ名で呼ばれるようになったら、二日と経たずにラ行がズレるだろうが」

「そんなことあらへんって~、ふるちん」

「もうズレた!? 予想通りなのに予想を上回ってきやがった!」


 レジーナもとりあえずは残るらしい。

 というか、日が傾き始めてちょっと元気が出てきたように見える。

 もっとも、挫いた足のこともあるし、もう競技には参加させないけどな。エステラにもその旨は伝えてある。


「英雄様~!」


 ウェンディが泣きながら駆けてくる。

 全身から眩い光を発しながら。

 ガキどもに「すっげぇ!」「強そう!」「こーごーしー!」などと言われ、追いかけられて。


「聞いてください、英雄様!」

「いや、聞かなくても分かるし、暗くなると危険だからガキどものそばにいてやってくれ」

「そんな……いえ、お子さんたちの安全のためでしたら……」

「ウェンディ。僕も君のそばにいさせてもらってもいいかな?」

「セロン!」

「さながら、僕は君という光に引き寄せられた一匹の蝶……」

「セロンったら……嬉しい」

「あん人ら、放っといたら子供らぁの前でチューくらいしてまいそうやな」

「ガキどもー! 避難しろー! そして非難してやれー!」


 ったく、所構わずいちゃいちゃと……


「ヤシロさ~ん」


 光る蛾に引き寄せられたという自称蝶を無言で足蹴にしているところへジネットがやって来て、「セロンさんが可哀想ですよ」とよく分からないことを言った。

 可哀想?

 幸せビーム出しまくりなのに?


「あのですね、運動会が夜までかかりそうですので、わたし……」

「あぁ、そうだな」


 ジネットは毎日朝早くから料理の仕込みを行っている。

 遅くまで運動会などやってはいられないのだろう。


「最後まで付き合う必要はないから、頃合いを見て帰っても……」

「いえ、お夕飯をご用意しようかと」


 働く気だー!?

 この人、こんな時まで労働する気でいるよー!?

 しかも、無償労働する気満々だよね!?


「実は、ナタリアさんに依頼されまして」

「領主の金か」

「はい。マーシャさんやアッスントさんも協力してくださるとのことで」

「アタシも、もちろん協力するよ。ウチの若いのに取って置きの熟成肉を持ってこさせるよ」


 メドラが言って、グラウンドの近くに待機していた大男に手で合図を送る。

 それで伝わったらしく、大男が物凄い勢いで走り去っていった。……四十一区に戻ったんだろうな。で、また戻ってくるんだろうな……メンドクセェことをやらされて、気の毒に。


「そういうわけですので、ヤシロさん」


 もう、料理がしたくてしたくて仕方ない。

 そんな顔でジネットが俺を見る。


「好きにしろよ。領主の金ならこっちの懐は痛まん。思いっきり贅沢してやれ」

「うふふ。そこは適度に。それでですね!」


 もう一段階、ジネットの表情が輝きを増す。

 ……何を期待してるんだ、その表情は?


「こういう時に打ってつけのお料理ってありませんか?」

「はぁ!?」

「ヤシロさんの故郷では、こういう時にどんなお料理を食べられるのかなって。実は凄く興味がありまして!」


 実はも何も、隠す気もないほど顔に出てるぞ。

 きょうみしんしんって、顔にひらがなで書いてある。


「運動会の後は、母親も疲れ切ってて外食か出来合いのもので済ませるのがセオリーだよ」

「えっ!? 作らないんですか!? こんな特別な日ですのに!?」


 お前くらいなんだよ、料理することでHPが回復する特異体質は。

 こいつはどんなユニークスキルを持っているんだろうな、マジで。


「でしたら、外で、みんなで食べると美味しいお料理とかご存じないですか?」

「外で食うなら、芋煮とか、カレーとか……」

「カレーを外で、ですか?」

「外で食うカレーは格別なんだぞ」

「分かりました! カレーを作ります!」


 こいつ。

 もう残りの競技に出るつもりないな?


 まぁ、残りの競技は結構荒っぽいからな。

 ジネットは出ない方がいいか。


「それで、芋煮というのは、お芋を煮込めばいいんですか?」

「いや、カレー作るなら芋煮は……」

「知りたいです! 特別な日ですから!」


 ……この娘のバイタリティ、どこから湧いてくるの?

 そこに栓をしてやりたい。


「芋煮ってのは……」


 東北ではお馴染みの芋煮会について、ざっくりと説明してやり、ついでにベーシックな芋煮のレシピを伝授した。

 これだけで、ジネットなら美味い芋煮を作ってくれるだろう。


「けれど、煮込み料理ばかりなのは気になりますね……」

「そんな何種類も用意したって、食いきれないだろ?」

「大丈夫ですよ、ヤシロさん。シスターがいます」

「はい。私がいます」

「「「ぼくらもいるー!」」」

「「「あたしらもー!」」」


 ベルティーナとガキどもがにこにこ顔で俺を取り囲んでいた。

 お前らがゾンビだったら、俺絶体絶命だったわ。

 びっくりするような高速移動してんじゃねぇよ。ちょっと心臓がきゅってなったわ。


「つっても、陽だまり亭で作ってここまで運ぶのだって、数が多けりゃ大変だろうに……」

「ですので、ここで作れるもので何かないですか?」


 ジネットの自信に満ちた表情。あれは、ナタリアなりエステラの許可がすでに下りていることの証左だな。

 グラウンドの一角で料理をしてもいいとお許しが出ているのだろう。


 外で、か……


「ヤシロさん、手巻き寿司はどうですか?」

「やめよう」


 こんな砂埃の舞う中に鮮魚の切り身なんか置いておけない。

 じゃあやっぱ、火を通すか。


「バーベキュー的な物にしておくか」


 狩猟ギルドと牛飼いを担ぎ上げれば競い合っていい肉を持ってきてくれそうだし。


「ヤシロ! あたいにいい考えがあるぞ!」

「ちゃんちゃん焼きか」

「ヤシロ、凄いな!? なんで分かったんだ!?」


 デリアがこうやって割って入ってきた時点で、それ以外にないだろうが。


「ノーマがいい鉄板用意してくれるって」

「ちゃんちゃん焼きの鉄板も、バーベキューの金網も、なんだって揃うさよ!」


 なんか、別の角度で張り切ってるヤツがいる。

 食材担当に調理担当、おまけに調理器具担当に食べ尽くし担当まで出揃って、そのどれもが腕まくりして鼻息を荒くしている。


 お前ら、好きだねぇ、飯が。


「じゃあ、ガキもいるし、早めに準備にかかってくれ」

「はい!」


 ぐっと拳を握って、出来もしない力こぶを作ろうと腕を曲げて、ジネットがやる気スイッチをオンにする。

 いや、こいつの場合ずっとオンになりっぱなしなんだろうけど。


 アッスントをはじめ、行商ギルドの連中が慌ただしく動き回り、デリアに指揮された川漁ギルドの連中が駆け足でグラウンドを飛び出していく。

 ウッセは、メドラが先に動いているから悠然と構えていたが、牛飼いの動きが活発になると反発するように行動を始めた。


 ノーマたち金物ギルドの面々も「あの油が落ちる鉄板にしましょ~よ~」「ヤシロちゃん考案の凹凸のあるヤツね!」「アレでお肉を焼くと、とってもヘルシー♪」「体重も減るし~♪」「お肉ダイエットね♪」とかあり得もしない願望を撒き散らしながら準備を始めた。


「おぉ、そうだ! メドラも一度本部に戻って準備をした方が――」

「アタシは次の競技に参加するからね。ダーリンのそばにずっといるよ。……うふっ」


 ちっ!

 メドラが四十一区に戻れば黄組の戦力はがた落ちなのに!


「……ヤシロが陽だまり亭に戻れば、メドラママもついて行くかも」

「そうですね! お兄ちゃんのそばにいるって言ってたですからね!」

「お前ら、俺を生け贄に捧げるんじゃねぇよ……」


 仮にそれでメドラが戦線を離脱したとして、陽だまり亭でメドラと二人っきりにされた俺はどうすりゃいいんだよ。

 食われちまうだろうが、確実に!


「ノーマにパウラも準備を……」

「さぁ、次の競技で逆転を狙うさよ、パウラ!」

「任せて! 気合い入りまくりなんだから!」


 ……ちぃっ!


 次の競技は狩猟ギルドにとってかなり有利な内容だから、なんとか連中を排除したいのに……

 しょうがない。

 ここは玉入れの時同様……


「デリア、ルシア。青組と黄組には狩猟ギルドとメドラがいる。俺たちと協力して――」

「悪いなヤシロ。さっきの障害物競走で赤組は黄組に逆転してさ、今すげぇ盛り上がってるんだ」


 得点ボードに視線を向けると、確かに総合得点で赤組が黄組を追い越していた。


「だからさ、今チーム内では『この調子で白組も追い抜け、青組にも逆転だ!』って感じになってんだよ」

「なん、だと……?」

「ほら」


 と、デリアが指差した先には拳を振り上げるルシアがいて。


「事を成す時に重要なのは勢いだ! 波に乗っている今こそ、逆転の好機! カタクチイワシをすり身にする気概で勝負に挑むのだ!」

「「「おぉー!」」」


 ……あんにゃろう。


「協力しないと、青組や黄組に点数を掻っ攫われちまうぞ」


 なにせ、次の競技は四チーム一斉参加の、点取り合戦なのだから。


「それでも、だ」


 しかし、デリアの意志は固かった。


「あたいらは、自分たちの力でどこまで出来るか勝負してみたいんだ。この先は協力はなしだぜ、ヤシロ!」


 なんとも男前な笑顔を向けてくるデリア。

 くそぅ……こういう場面で小狡く行動してくれりゃ操りやすいのに……良くも悪くも真っ直ぐ過ぎるんだよな、デリアは。

 こうなってはしょうがないな。


「了解だ……その代わり」


 協力が仰げないのであれば、赤組は排除するべき敵だ。


「こっから先は容赦しないからな?」

「おう! 真剣勝負だぜ、ヤシロ!」


 握った拳をこちらに向ける。

 一瞬悩んだが、こちらも拳を握ってぶつけておいた。

 後腐れを望んでいるわけではない。


 ただ、『正々堂々』って雰囲気が物凄く胃にもたれるだけだ。


 あぁ、くそ。

 全員の弱みを握って棄権させてやりたい。


 現在の総合得点は以下の通り。



  青組 3180ポイント

  黄組 2630ポイント

  白組 3030ポイント

  赤組 2730ポイント



 赤組との差は300ポイントあるが、ここから先はそれが平気で覆るような競技しかないんだよなぁ。

 下手をすれば次で逆転される可能性もある。


「くそ……、必勝方が見つからねぇ」


 少々焦って髪を掻き毟る。

 次の競技は、個の力と団結力のどちらもが必要とされる競技。

 故に、狩猟ギルドのいる青組が絶対的に有利な競技。



 次の競技は、『棒引き』だ。



 フィールドに五十本の棒が並べられる。

 棒の長さは3メートル。直径は20センチ。

 それを自軍の陣地に運び込めば一本につき50ポイントが加算される。つまり、合計2500ポイントの奪い合いだ。

 ハムっ子ゲットだぜに近しいルールではあるが、棒は逃げない。


 ぐるりと円を描くように放射線状に並べられた棒。

 それを取り合い、奪い合って一本でも多く自軍の陣地へと運び込む。

 個人の当たりの強さ、素早さ、狡猾さと、それらの人材を効率よく指揮し場を制する統率力が必要とされる、棒引きはそういう競技なのだ。


 なお、敵陣地から棒を奪う行為は反則。

 選手への攻撃も禁止。ただし、進行の妨害は危険なものを除いて許容される。


「ノーマがビキニでおっぱいをゆっさゆっさすれば、男の選手はほぼすべて無力化されることだろう」

「しないさよ!?」

「……と、言いつつも?」

「だから、しないって言ってるさよ、マグダ!」


 そんな妨害が、あればあったで楽しいのに。


 当初『棒倒し』をやろうかと案を挙げたのだが、「それでは狩猟ギルドにあまりに有利過ぎる」とエステラが反対したのだ。

 垂直に立てた棒。それを倒す者と守る者が衝突すれば『戦闘』に慣れている狩猟ギルドが技術的にも戦術的にも有利過ぎると。


 エステラは、大会委員長としてはとても平等な意見を言うのだ。

 それが、青組の優位性を阻害することになっても。


「とはいえ、棒引きも十分狩猟ギルドに有利だけどな」

「まぁまぁ。直接ぶつからずに点数を得る方法も考えられるじゃないか、棒引きの方が。棒倒しとは違ってね」


 俺の愚痴に、エステラが宥めるようなことを言う。

 確かに、狩人どもが守っている棒に飛びついて引き摺り倒すより、狩人の目を盗んで棒を運び込めば点数になる棒引きの方が、まだ微かに救いはありそうだけども……


「せめて、ウッセだけは斧で攻撃してもいいことにしてくれ」

「さすがに怪我するわ! お前が相手でもな!」

「大丈夫だ。斧が許可されたらマグダをけしかける」

「怪我どころじゃすまねぇな!? 死ぬな、確実に!」


 ウッセが吠える。

 難癖ばっかりつけてくるなこいつは。


「……ウッセ」

「なんだ、マグダ。呼び捨てにすんな」

「……もし、仮にウッセが死んだとして何か問題が?」

「おぉーい、大会委員! このアホのトラ娘にもう一回スポーツマンシップのなんたるかを教えてやってくれ!」

「……スポーツマンシップに則り、正々堂々と、ウッセを狩る」

「あーごめん、その前に基本的教育が必要だったわー!」


 教育の責任はお前にもあるだろうが。マグダが所属する組織の代表者なんだからよ。


「次の棒引きで俺たちの偉大さを思い知らせてやるぜ。精々楽しみにしておくんだな」


 悠々とした態度で青組陣地へ戻るウッセ。

 エステラも意味ありげな笑みを見せて自軍へと戻っていく。


 メドラだけでも手に負えないってのに、狩猟ギルドもやる気満々かよ。

 赤組の協力も得られないし……さて、どうしたもんか。


「オオバ。こうなりゃ下手な小細工はなしで正々堂々、真正面からぶつかって勝利をもぎ取ってやろうぜ。なぁに、四十一区領主のこの俺がついているんだ、大船に乗ったつもりでいるがいい!」

「マグダ、リカルドがついてるぞ」

「……やだ、ばっちぃ、取って」

「ばっちくねぇ! で、『ついてる』ってそうじゃねぇ!」

「じゃあお前一人でメドラを止めてこい」

「無理言うな」


 ほらみろ、バカリカルド。

 真正面からぶつかってどうにかなる相手じゃないから頭を使ってんだろうが。

 考えることをやめたら、人間はただの動物になっちまうぜ。


 何をどうしていいのか分からなくなって、思考が漠然としたまとまりのないものに埋め尽くされた時、人は焦って判断を誤るか、考えるのをやめてしまいがちだ。

 だが、思考を放棄出来ない時ってのは往々にして存在する。

 思考がとっ散らかってまとまらなくなった時は、数字を脳みそに叩き込んでやるといい。

 漠然としてしまうのは具体案がなく解決策の輪郭が明確でないからだ。数字は誤魔化しのきかない正確性を持っている。

「なんとなく売り上げをあげた~い」よりも、「今年度中に40%の売り上げ増を目指す」と明確な数字を打ち出した方が達成する確率は高い。


 人は、数字を生み出してここまで進化してきたのだ。


 というわけで、もう一度得点ボードを見る。

 今明確に示されている数字はアレくらいだからな。

 あとは、1本50ポイントの棒が50本で2500ポイント……


「……なるほど。そっちの路線で行く手もあるか」


 脳内にじわりと広がっていた焦りが少しだけ引いていく。

 しかし確実性には欠ける。一種の賭けだ。



 ……賭け、か。



 ……しょうがない。大事の前の小事。

 白組が優勝出来ないと、どう転んでも面倒事が舞い込んでくる。

 メドラと交換日記だの、ハム摩呂誘拐事件だの、想像するだけで面倒くさい。青組が勝ったってきっと何かが起こる。トレーシーによるエステラの誘拐……いや、クレアモナ家への嫁入りか? エステラが面倒を背負い込むのは別に構わんが、そのツケがこっちに回ってきては敵わない。

 なんとしても、予測される面倒事はここで未然に防がなくてはいけない。白組の優勝という分かりやすい結果を突きつけて。



 だから、……しょうがないのだ。

 腹を、決める。



「それじゃ、ダーリン。アタシも黄組へ帰らせてもらうよ」

「待て、メドラ」


 背を向けたメドラを呼び止める。


「俺と賭けをしないか?」


 勝率の低い賭けだ。

 おそらく、この賭け自体は俺の負けになる。

 だが、ここで小さく負けておくことで後の大きな勝利を手に出来るとするなら――



 最大限の利益を選ぶのが詐欺師って生き物なのさ。



「このタイミングでダーリンから持ち掛けられる賭けに乗るほど、アタシは世間とダーリンを知らないわけじゃないよ。悪いけど、その賭けには……」

「お前が勝ったら、俺に特別訓練を付けられる権利をくれてやろう」

「……ダーリンに? 訓練ってのは、狩人のかい?」

「あぁ。もちろん、俺が死なない程度の訓練にはしてもらうが」

「ダーリンと訓練ってのは楽しそうだけどね、それでも乗れないね。どうせならケーキデートとかの方が……」

「外壁の外の森での夜間訓練ってことでどうだ?」

「森での夜間訓練!? そ、そそそ、それって、いっぱ、ぱぱぱ、ぱく、ぱく、ふつつつかかかかでかい!?」

「おう」


 魔獣が跋扈する森の中で、魔獣も恐れるメドラと一泊二日。

 俺の命は風前の灯火だが……むしろメドラに魔獣をぶつけることで生存確率を高めることが出来る。そういう計算だ。

 さすがのメドラも、魔獣の前ではふざけないだろうし……と、思いたい。


「ふ、ふふふ……まったく。ほとほと口の巧い男だねぇ、ダーリンは」


「お泊まりデートだ、わっほーい!」というよりは「よくもまぁ、人の興味を惹くことを思いつけるもんだね」という感心した表情でメドラがこちらを向き直る。

 ったりめぇだろ。詐欺師だぞ、俺は。それも一流の。


「それじゃあ、聞かせてもらおうかい。その賭けの内容を」

「受けてくれるのか?」

「興味があるのさ。ダーリンが、一体どんな手でアタシに勝とうとしているのかってことにね」


 メドラは二つ勘違いしている。

 この賭けは勝つためにやるんじゃない。

 そして、今回勝負するのは、俺じゃない。



 俺は、白組優勝のために遅効性の猛毒を仕込むような策謀を巡らすのだった。







あとがき




杜の都仙台。

その印象は――



(*゜∀゜*)お魚、おーいしぃー!


いや、森は!?(゜Д゜ノ)ノ



どうも、

宮城親善大使(自称)の宮地です。


宮城へ行ってまいりました。

宮地in宮城です。

ほぼ、海にいました。

宮地in海です。……いや、海の中には行ってません。そばです。


今回お邪魔したのは




日本三景松島




美しかったぁ。

芭蕉が奥の細道で絶賛していたのが分かる気がします。


『奥の細道』。

奥側から見たら『向こうの末広がり』。

なんだかハッピーな感じです。

文学的趣は薄れてしまいましたが。



松島といえば、多くの方が思い浮かべるのが


『松島や ああ松島や 松島や』


という句ではないでしょうか。

でも実はこれ、

松尾芭蕉が詠んだものじゃないとか、

『ああ』じゃなくて『さて松島や』だとか、

最近ではいろいろと言われているようなのです。


つまりですね、

時間の流れの中でいろいろ伝聞の内容が変わってきてしまったと、

そういうことなんでしょうねぇ。


だから、もしかしたら、



関西ボーイ「松島や!」

関西ガール「え、松島なん?」

関西ボーイ「松島や!」



という会話形式の句だった可能性も、これ、否定出来ないわけですよね、うんうん。



「きっと松島っておっき~い島なんやろうなぁ~」

と思っていた関西ガール(ポニーテール)が、

実際の松島を見てみたら諸島で、「どれやろ~?」ときょろきょろしてたら

関西ボーイ(野球帽で地黒)に「これ全部が松島や!」って説明されて、


関西ガール「えぇー、これ全部が松島なん!? うそや~!」

関西ボーイ「嘘ちゃうわ! これが松島やっちゅうんじゃ、ぼけぇ!」

大学生B「きゃー!」

関西ガール「なんやの、今の悲鳴!?」

関西ボーイ「事件か!? 行くで!」

関西ガール「ちょっ、待ってやー!」

大学生C「大学生Aが……うそだろ……おい、起きろよA!]

関西ボーイ「おっと、待つんや。警察が来るまで、あんたら誰も遺体に触ったらアカンで」

大学生D「あんた、誰だよ?」

関西ボーイ「探偵や。で、あんたらの関係は?」

大学生E「高校のころの部活仲間だよ。毎年五人で松島に旅行に来てるんだ」

大学生B「昔は六人だったけどね……あの事故が起こるまでは」

大学生C「おい、やめろよ!」

関西ボーイ「詳しく、話聞かせてもらおうか」



――という情景が歌われていた句かもしれないんですよね。

歴史の流れの中で変わってしまっただけで、

もとをただせば、ね?



そんな、芭蕉があまりに美し過ぎて句を詠み忘れちゃったとまで言われている松島を見て、

お土産物屋さんを見て、

海産物をいただいてきました。


松島の名物は、牡蠣とアナゴ!



おぉう、宮島!? Σ( ̄口 ̄ノ)ノ



デジャヴかと思いましたよ。

というか、宮島に行った際、ツイッターで

「松島の名産も牡蠣とアナゴですよ~」と教えていただいて

「よし、行ってみよう!」と思ったわけですけども。


いえ、日本三景制覇という目標が先にあってのお話なんですけども。



ということはですよ、……ぷっ

残る日本三景の……ぷぷっ

京都、天橋立の名物なんかを調べた日には……ぅぷぷぷ!



『天橋立 名物』検索っと……ッターン!





『あさり丼』





頑張れよ、京都!?(ノ ̄ー ̄)ノ ┫:・'



いや、貝だけども!

惜しいけども!


でも知恵の餅はすっごく美味しそう……じゅる。


まぁ、天橋立まで牡蠣とアナゴだったら、

牡蠣とアナゴ三景になってしまいますからね。

いいと思います。独自色強くても。



でですね、

牡蠣ももちろん美味しかったんですが、

やっぱり海のそばだからなんですかね、

全部、でかい!


サザエ(小)が東京で見る(大)くらいのサイズだったり、

ホタテ焼きがビッグサイズで3つもついてきたり、

極めつけは「アサリ(大)!?」ってサイズのシジミ満載のシジミ汁。


視覚は「これアサリ汁!」と訴え、

味覚は「いや、確かにシジミ汁」と訴える。

パラレルな体験をいたしました。


シジミ、でかい。



松島の牡蠣は、季節的にもう終わっていたようで、

向こうで食べたのはどこかから持ってきた牡蠣なんだそうです。

そこは少し残念。


ですが、春の松島はお勧めです。

行った時期がよかったなぁとしみじみ思いました。

まず、桜が綺麗!

伊達政宗の像のすぐそばに大きな桜の木があって、

政宗公が桜を背負ってるんですよね。壮観でした。


しかも、

私が行く三日ほど前に宮城では雪が降ったようで

「桜に積もった雪」がSNS界隈でちょっとした話題になっていました。


まぁ、天気予報見て「嘘でしょ!?」って恐怖してたんですけども。

雪とか、雨とか、ちょっとつらいですし。

当日は気持ちのいい晴天でぽかぽか陽気でした。

日ごろの行いがいいからですね、きっと☆


か、もしくは、

お天気の神様もおっぱいが大好きで

同志と認めてくださってご贔屓にしていただいているとか!?



(」゜□゜)」< おっぱいが好きでよかったー!



なんにせよ、とても楽しく、癒される時間でした。


で、海辺で海産物という最高の贅沢をしてきたわけなんですが、

どのお店に行っても海老がないんですよ。


牡蠣、サザエ、ホタテ、イカ、牛タン、笹かま……


海老がない!?


海老は獲れないんでしょうか?

広島でも、密かに探していたんですよ、

海老の丸焼き。



やはり、海老の名産地に行くしかないんですかね。

でも、伊勢海老とか室内で厳かにいただく豪勢な感じじゃなくて、

車海老とか、バーベキューに出てきたら狂喜乱舞しちゃうようなレベルの豪勢さがよくて、

そういう海老ってどこで獲れるのかなぁ~って

近所のスーパーの冷凍海老のパッケージをひっくり返して見てみたら、



インドでしたね。



ん~……国外かぁ……

私、死ぬまで日本に閉じこもる予定なんですよねぇ。

海外、行ったことないですし、

出来ることなら日本を一歩たりとも出たくないというか、

日本でまだ見ていない素晴らしい場所がまだまだあるのに、もったいない

みたいな。


あと、海外のお土産物がことごとく口に合わない体質なもので……



国内で海老が美味しい場所と季節を探します!


次に宮地が訪れるのは、あなたの街かもしれません!





余談ですが、前回のあとがきの女子大生は、

会社でちょっとした職業体験をしていただいた方なんです。

読み返してみたら「女子大生と二人でライター使って何やってんだこいつ?」みたいな文章だったもので、念のため。


そんなわけで、

絶景を見て気合い十分!

運動会も残りわずか!


引き続きよろしくお願いいたします!

可能な限りまったりとっ!



次回もよろしくお願いいたします。

宮地拓海

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