無添加46話 午後一の応援合戦
「頑張る~のじゃ! 白組レッツゴー!」
「「れっちゅ、ごー!」」
「「「むはぁ~! かわぇえ~!」」」
現在、午後一発目のプログラム『応援合戦』が行われている。
リベカ率いる白組『かわいい隊』の不揃いながらも一所懸命さだけは妙に伝わってくる振り付けに、会場のオッサンオバサンどもが釘付けだ。
筋肉任せの暑苦しい演舞を行った青組や、はちきれん筋肉がより強調されてしまうふりふりの衣装で乙女たちが舞い踊った黄組の忌まわしい記憶はもうすっかり上書きされて、観客の脳内からは抹消されたことだろう。
今朝になって急遽参加が決まったリベカだったが、上手く妹たちを纏め上げてくれたらしい。
参加していない競技の待ち時間に振り付けを考えて、グラウンドのすみっこで練習してもらっていたのだが、いい塩梅で拙く、そこはかとなく纏まってみえる。
幼稚園のお遊戯会みたいなものだ。合唱に求められるのは美しいハーモニーではなく、元気いっぱい大きな声で歌うこと。こいつらの年齢ならバラバラでも見ていられる。むしろ、それくらいがちょうどいいのだ。
「オイラたちが準備していた演舞が消滅したッスね」
「あぁ。結構練習したんだけどなぁ、『農家と大工のアティチュード』」
「うっせぇなぁ。じゃあ、打ち上げの時にでも披露しろよ」
当然、白組も応援合戦の準備は行っていた。
が、どうせやるならウケるものの方がいい。
オッサンの完璧な演舞より、少女たちの拙いダンスの方が見ている側は楽しめる。
「ウッセやゴンスケみたいにヘコみたいのか?」
「いやぁ……正直、オイラもこっちの応援の方がよかったと思ってたところッス」
「俺もよぉ、『やる』ことにばっかり意識がいってて、『見せる』ことはすっかり忘れててなぁ……実は今すげぇホッとしてんだ」
がははと笑うモーマット。
応援合戦は、休憩明けの緩んだ心を運動会へと向き直らせるためのプログラムだ。
昼休憩後、いきなり全力で競い合うのはちょっとしんどいからな。こういうまったりしたものをワンクッション挟み込んで、残りの競技に尽力するのだ。
そういう性質上、応援合戦は全チームに50ポイントずつ加算されることになっている。
なのでテキトーでいいのだ。
まぁ、運動会といえば応援合戦はお約束みたいなもんだからな。一応入れておいたというところだ。
「れ~~~~っつぅ~……」
「「れっつー!」」
「ご~~~~、なのじゃ!」
「ごー!」
「なのじゃー!」
とはいえ、ちょっとは揃えろよ。
ばらっばらじゃねぇか。好き勝手が過ぎるぞチビッ娘ども!
そろそろ、『応援』というキーワードから連想出来る動きが尽きてきたんだろう。かわいい隊の動きがぎこちなくなってきた。即興でいつまでも出来るものじゃないからな。
「我が騎士~! やることなくなったのじゃ~!」
だからってはっきり言うなよ。
ほら、妹たちも「え? 終わったの?」みたいな顔で棒立ちになっちまってんじゃねぇか。
「選手が元気になることをしてやれ」
「元気…………皆の者、お昼寝するのじゃ!」
「そうじゃねぇよ! 見てて楽しくなったり、選手が喜びそうなことしてやるんだよ!」
「選手が喜びそうなこと……? とはなんじゃ?」
「あたし知ってるー!」
「あたしもー!」
平均年齢七歳のかわいい隊が集まって相談を始める。
今、一応本番中なんだけどな。
まぁ、そんな様もかわいく映っているようで、大人たちはニヨニヨした顔で見守っている。一応は温かい目、といっていい部類の視線だろう。
「あぁっ、拙い! でもそれがいいっ!」
一部、濁りきった目で見ている不埒な木こりギルドのギルド長もいるみたいだけどな。
「ヤシロさん。ワタクシの手がうっかり滑ってしまったら、後始末はよろしくお願いいたしますわね」
「よぉし、じゃあ手が滑る前に、手に持ってるその物騒なハンドアックスをどこかに置いてこい」
「木こりとハンドアックスは一心同体ですわ!」
「だとしても、森以外では携帯すんな!」
「ハンドアックスは顔の一部ですわ!」
「じゃあ、顔を握り締めてるのか、お前は!? いいから置いてこい!」
イメルダが俺のそばにいるということは、本気でハビエルの息の根を止める気はないのだろう。
だが同時に、俺のそばにいるということは、いざという時自分一人では衝動を抑えきれる自信がないので止めてほしいということでもあるのだろう。
ハビエル。自制しろ。……死ぬぞ。
「「「選手のみんなー!」」」
話し合いが終わったのか、かわいい隊の面々は「くるりん♪」とこちらへ向き直り、横一列に並ぶ。
拳を軽く握り、脇を締め、両腕を体の横にぴたりと添えている。
背負ったリュックサックの肩かけを持つような格好――言い換えれば、「えいえいおー!」をやる時のような腕の形だ。
こいつらがそうやって気勢を上げれば場は盛り上がるか。
妹たちは、大人たちのことをよく見ているんだな。どこで覚えてきたのやら。
「「「せーの!」」」
そんな掛け声と共に、リベカを含む平均年齢七歳のかわいい隊の少女たちが、両腕を側面から体の中心へ向かって押しつけるように動かした。
「「「むぎゅっ!」」」
「なにやってんの、お前ら!?」
「「「選手の元気が出ることー!」」」
「特に……ワタクシのすぐそばにいる方の元気が出る方法ですわね」
「待てイメルダ! 俺はあんな未発達は管轄外だ! どうせならお前がやれ!」
「やりませんわ!」
まったく。
未成年と呼ぶことすらおこがましいようなお子様どもがそんなことをしたところで、元気になるヤツなんざ――
「いやぁ~、無邪気でかわいいですねぇ、うへへ」
「まったく、おませさんというか、おしゃまさんというか、ふひひ」
「大人の真似事が楽しい時期なんでしょうなぁ、でゅふふ」
――結構いるな、おい!?
『可愛い』なんて言葉で誤魔化しつつ、鼻の下がでろ~んと伸びきっている大人の多いことっ!
……この街、もうダメなんじゃないだろうか。
「ホント……子供らは大人をよく見てるさね……じぃ~」
「まったく、誰に教わったんだろうね……じぃ~」
「ヤシロ様。無理せずはしゃいでいいんですよ?」
ノーマとエステラに非難の視線を向けられ、ナタリアに気を遣われた。
俺じゃねぇし、ナタリアの気遣いは見当違いだ!
「あんな小さいガキんちょは、俺のストライクゾーンじゃねぇんだよ」
「へぇ~。じゃあ、ヤシロのストライクゾーンはどのあたりなのさ?」
「DからKだ!」
「年齢じゃないのかい!?」
「Kって、ヤシロあんた……店長さんの二つ上じゃないかさ……いるんかい、そんな人間が……」
「そしておそらくヤシロ様でしたら、L以上の超爆乳を見つけたらストライクゾーンがぐんぐん広がっていくことでしょう」
ナタリア。鋭いな。
んなことよりも、あんな寄らない揺れない揺蕩わない乳になど、俺は興味ないのだ。
そう、『俺は』な。
「な~んか妙に大人しいなぁ、あいつ」とか思って視線を向けると――
「ワシはたった今から白組になる! 鉢巻も手に入れた!」
――ハビエルが白い鉢巻を頭に巻いて拳を突き上げていた。
ヤツの足元にはぐったりとしたウーマロが転がっている。どうやら鉢巻を強奪されたらしい。
「さぁ、かわいい隊のみんな! 同じチームのオジサンに応援っ、応援プリーズっ!」
「「「せ~の、むぎゅっ!」」」
「むはぁ~! オジサン、し・あ・わ・せっ!」
「おぉーっと、斧が滑りましたわっ!」
「イメルダ、殺意が露骨過ぎるっ!」
『区民運動会殺人事件~ロリっ娘は見ていた~』は、すんでのところで未遂に終わった。
が、容疑者は「あのヒゲ筋肉がはしゃぐ限り、第二第三の斧が滑りますわよ」と、意味深な言葉を残して去っていったため、まだ油断は出来ない。
ともあれ、白組の応援が終わったので、これ以上の悲劇は起こらないと信じよう。
「ハビエル、大丈夫だったか? 個人的には頚動脈切断されればいいと思ったけど」
「おぉ、すまんな、ヤシロ。なぁに、イメルダの癇癪はいつものことだから慣れて……お前サラッと酷いこと言うな!?」
「つーか、なんでお前が選手の応援席にいるんだよ。貴賓席へ帰れよ。隣で太陽光反射されて眩しいのは分かるけど」
「聞こえているよ、オオバくーん!」
貴賓席でデミリーが叫ぶ。
……あいつ、こういう時だけ無駄に耳がよくなるよな。
「どうだ、ヤシロ。ワシをチームに入れてみんか? メドラみたいに、ワシも支部の連中をちょっと揉んでやりたくなってなぁ」
「今さら過ぎるだろう? 支部長でよければ、俺が代わりに揉んでおいてやるから我慢しろよ」
「揉ませませんわよっ!?」
「お前よぉ……、父親の前でよくそんなこと言えるよなぁ、それも真面目な顔で」
だって、もしかしたら「じゃあ、頼む!」って言われるかもしれないじゃん!
俺は、そのわずかな可能性を否定したくはないのだ!
「というかだな、ハビエル。さすがにそれは難しいと思うぞ」
「そんなことはないだろう。リカルドだって途中参加したじゃないか」
「お荷物のリカルドと違って、お前の戦力はメドラ級だからな。他チームからのクレームは必至だ」
「そうですよ、ミスター・ハビエル! あなたが白組に入ることは青組チームリーダーとしても、大会委員長としても、さすがに看過出来ません! お荷物のリカルドならともかく!」
「我ら赤組も、チームリーダー代行のこのルシア・スアレスが反対を表明する! そこのお荷物ならともかく、貴様はダメだ!」
「だったらだったらネ~ェ、黄組も反対するのネェ~。お荷物の領主様はともかくネェ」
「貴様らいい加減にしろよ!? 特にオシナ! 貴様は俺の区の人間だろうが! 敬いの心を忘れんな!」
「アラアラぁ~。エステラちゃんなら、こういうの笑って許してくれるのにネェ」
「仕方ないよ、オシナ。ボクとリカルドじゃ、器の大きさが違うからね」
「テメェ、エステラ! 調子乗ってんじゃねぇぞ!」
「え、なんですか? 四十二区の催し物にどーーーーしても参加したくて、かーなーりー強引に割って入ってきた他所の区の領主様、どうかされましたか?」
「テメェ……オオバに会ってから日に日に性格が捻じ曲がっていってるよな、絶対」
こらこら。俺のせいにするんじゃない。
エステラはもともとひねた性格をしていたんだ。
むしろ、俺と出会って少し素直になったくらいだぞ。リカルドに面と向かって「ウザい」って言えるくらいにはな。ぷぷぷっ。
「まぁ、アタシはどっちでも構いやしないけどね。木こりが一人増えたところで、アタシが軽く捻ってやるさ」
メドラが腕を組んでハビエルの前に立ちはだかる。
……ってことは、それくらいハビエルが無視出来ない存在だってことだよな。自分が直接出て行かなきゃいけないくらいの。
「ふぅむ……」
メドラの顔を見て、ハビエルは肩をすくめた。
自分のわがままを通していい場面かどうかを悟ったのだろう。
ちょっと残念そうに、それでいてこちらに気を遣わせないように軽い口調で「へいへい、分かったよ」と参加を取りやめた。
「メドラに捻られちゃ、一年は斧が持てなくなるからな」
そんな冗談と共に、にかっと白い歯を見せる。
豪胆な笑みだ。
「まぁ、この次何かやるなら最初から参加させてくれよ。出来ればこの運動会みたいな、わくわくするような催し物によ」
手を振り貴賓席へと戻っていくハビエル。
その背中は少し寂しそうだが……
「もとを正せば、単純にウチのかわいい隊とお近付きになりたいスケベ心からの参加表明なので全然罪悪感が湧いてこない」
「ですわね。むしろ、悪の芽が潰え去ったと安心しましたわ」
バトルアックスを地面に突きたて、イメルダが長い息を漏らす。
……斧がグレードアップしてる……狩りなら森でやってくれ。狩猟ギルドの許可を取ってからな。
「で? お前は応援合戦に出ないのか?」
白組の次は赤組の番だ。
目立ちたがり屋のイメルダが、こんなにも注目される応援合戦に参加しないとは思わなかった。
「コンセプトが合いませんでしたの」
「コンセプト?」
「ワタクシの案では、このグラウンドに深紅のバラを敷き詰めて、その上で華麗に舞うイメルダ様Withそこら辺の人々、という案を出したのですが却下されまして」
「そりゃそうだ」
お前の独壇場じゃねぇか。なんだ『そこら辺の人々』って。雑にもほどがあるわ。
「七時間に及ぶ感動巨編でしたのに!」
「長ぇよ! よくぞ止めてくれたもんだよ、チームリーダー!」
運動ではあまり見せ場を作れないイメルダだ。芸術面で盛大にアピールしようとしていたんだろうな。
基礎体力はあるんだけど、どんくさいというか、どこか抜けているというか、純粋に残念な娘というか……イメルダお前、残念だな。
「採用された演目は、汗臭そうでワタクシ向きではありませんわ」
「汗臭そう?」
「そんなことはないであろう、イメルダよ」
不貞腐れるイメルダの向こうに、ルシアがひょっこり現れる。
「私は楽しみにしているぞ。きっと素晴らしいものになる。なにせ……ミリィたんも出るからな! むはー! わくわくと同時になぜかよだれも止まらん!」
「ギルベルター、連れて帰ってくれー」
「了解した、私は」
ずりずりと引き摺られていくルシア。
そうそう。デリアが着替えのために更衣室に行っていたから、さっきルシアが勝手にチームリーダー代行を名乗っていたのだ。
ベルティーナもいないし、ミリィもいない。
イメルダは、いろいろな雑務に追われるリーダー職には難色を示し、「ワタクシはリーダーというよりエースですわ!」ってタイプだし。
ルシアが代行で文句を言うヤツはいないわけだ。
……なんかアイツが四十二区に侵食してきているみたいで凄くヤダ。
「よぉし! 一発ブチかましてやろうぜ!」
「「「「わははぁ~い!」」」」
デリアの大声に呼応する小さいガキ連中のバカデカい声が聞こえてくる。
着替えが終わったらしく、更衣室のドアが開け放たれる。
赤組もチビッ子をメインに持ってきたようだな。――と、デリアたちの方を見て、目が点になった。
「デ、デリア……その服」
「おう! いいだろう、これ!」
自信たっぷりに胸を張ったデリアが着込んでいたのは、学ランだった。
しかも、第三ボタンまで開けて大きく胸をはだけており、そのはだけた胸元に見え隠れする細く白い布は……まさしく『さらし』っ!
「ありがとう!」
「おっ、おぅ? な、なんか分かんねぇけど、どういたしましてだ」
なにこれ!?
夢?
え、俺何か知らないうちに世界のために貢献した? 誰が寄越してくれたご褒美?
「ふっふっふーっ。驚いたかヤシロ」
「いや、感動した!」
「いや、驚いただろ?」
「ううん、泣きそう!」
「な、泣くなよ。男だろ!」
「男だからこそ泣きそうなんだよ!」
「お、おぅ……?」
デリアのこんな姿が見られるなんて……いやもうカッコつけるのはやめよう!
学ラン巨乳、しかもさらし晒しちゃいましたバージョンが生で見られるなんて!
今日はなんていい日なんだ!
……でも、どこから学ランなんて発想が…………あっ!?
「気が付いたか、ヤシロ!」
「これ、もしかして……ウチの?」
そう。
デリアが着ている服装は、もともと白組でやるはずだった『農家と大工のアティチュード』で着用予定だった衣装と全く同じなのだ。
応援合戦といえば学ラン!
学ランといえば硬派!
硬派といえばさらしとリーゼント!
というわけで、ウーマロとモーマットに学ラン&さらしを着させようと思っていたのだが……その衣装がまんまパクられている。
「ウクリネスに聞いたんだよ。『ヤシロはどんな衣装着るんだ』って」
「おい、ウクリネス!」
デリアたちの着替えを手伝っていたのであろう、赤組応援団の中に紛れていたウクリネスを引っ張ってくる。
「お前、商売人として情報漏洩は一番やっちゃダメなことだろうが!」
「えぇ、もちろん承知してますよ。……でもね?」
手の甲を口元に添えて、ウクリネスがこそっと耳打ちしてくる。
「情報を漏らした方が、ヤシロちゃんは喜んでくれると思って」
「ウクリネス……お前なぁ…………」
ウクリネスの肩を両手で掴み、真正面から顔を見つめてはっきりと告げる。
「ほんっと、天才だな!」
「ありがとうございます♪」
素晴らしいよ、ウクリネス!
この男くさい衣装は、美少女が着てこそ価値がある!
そこに気が付くなんて、こいつ元日本人なんじゃねぇのか!?
しかも、デリアのさらし! その巻き方の妙よ!
ぎゅっと締めつけておっぱいを潰すのではなく、適度に締めつけてむぎゅっと感を演出しつつもふわっと包み込み、肉感たっぷりなシルエットを美しく演出しているこの巻き方っ! 絶対ウクリネスによるものだ!
こいつ、神の申し子なんじゃないだろうか……拝んでおこう。
「お子様たちも、可愛いでしょう?」
「「「わ~い!」」」
諸手を挙げてはしゃぎまわる幼い少女たち。
デリアと同じく、学ランの第三ボタンまでをあけてさらしを露出させている。まだ『恥じらい』なんて言葉も知らないような無邪気な少女たちのこういう姿は実に微笑ましい。
こういう姿を邪な目で見るヤツは滅びればいいとさえ思ってしまうほど、こいつらは無邪気に笑っている。
「おぉーと、デビルアックスがぁ…………滑りました、わっ!」
ものっすごい助走をつけてイメルダが禍々しい斧を投擲する。
貴賓席が大パニックだ。……外交問題になるわ。まぁ、責任を全部ハビエルに押しつければいいか。
「お前ら、恥ずかしくはないか?」
「「「かっこいいー!」」」
ならよし。
いいんだいいんだ。これくらいのガキんちょは周りの目なんか気にしないで本能の赴くままに遊び回れば。
それを守ったり正したりするのは周りの大人の役目だ。
「まだ仕留められませんわね……どなたか、滑りやすい斧を持ってきてくださいまし!」
なにその物騒な斧。
親子喧嘩は他所でやってくれ。
まぁつまり、ガキはガキで好きにやればいいのさ。……俺は絶対関わらないけどな! メンドクサイから!
ガキどもを脅かす悪い大人は、怒れる木こりお嬢様みたいな人が排除してくれることだろう。うん。
「なぁ、ヤシロ。何が恥ずかしいんだ?」
「お前は何も恥ずかしくないぞ、デリア! むしろ最高だ!」
「さ、さいこう……か? あ、あたいがか!?」
「むはー! がんばるぞー!」と両腕を振り上げるデリア。
いいね!
いいよ、その動き!
すごくいい!
「あぁっ! 元気出るなぁ!」
「他所のチームの者が、我がチームの応援で元気になるな! 向こうを向いていろ、カタクチイワシ!」
ルシアにぐりんと体を強制反転させられる。
と、視線の先には学ランを身に纏った美少女と美女が。
「ぁう……ぁの…………」
「どう、でしょうか?」
ミリィとベルティーナが、ぶかぶかの学ランを着て、恥ずかしそうに胸元を押さえていた。
さらし!?
……では、なかった。
第一ボタンまでしっかりと留められている。
「ベルティーナ。第三ボタンまで開け……」
「この下は体操服ですよ」
……そうか。さらしじゃないのか。
「あの……変、ですか?」
普段は身に着けない真っ黒な衣装で、不安げにこちらを窺ってくるベルティーナ。
変かどうかなんて聞くまでもない。
「すごく似合っていて妙に可愛いぞ」
「か、可愛いだなんて……お世辞が過ぎますよ」
いやいや、ベルティーナ!
おそらくウクリネスの仕込みであろうそのぶかぶかの学ラン。袖が余りまくっているのなんかたまらなく魅力的だぞ。
「この服を着ていると、私でもデリアさんのように勇ましく見えますか?」
勇ましいだなんてとんでもない。
今のお前は、突然彼氏の部屋に泊まることになって着替えがないから男物の服を着て「ぶかぶかぁ……ふふ」って嬉し恥ずかしはにかんでいる初々しい彼女みたいに見えるぞ。
「ちょっと袖口をくんくんってしてもらっていいか?」
「袖口をですか? ……くんくん。……ふふ、嗅ぎ慣れない匂いがしますね」
「最高!」
「ふぇっ!? な、何がですか?」
その表情、その言葉のチョイス!
ベルティーナ。お前はやれば出来る娘だなぁ。うんうん。
そしてミリィは……
「もうちょっとお姉さんになると、サイズ合うようになるからな」
「みりぃ、もう大人だもん……!」
その拗ねた感じ! 狙ってやってるならお前は天才だ! なかなか出来るものじゃない!
なんつーの? こう、憧れの先輩の制服をさ、冗談で着せてもらって、「わ~い」とかはしゃぎながらも内心ドッキドキで、こっそり匂いとか嗅いじゃう妹系後輩女子、的な?
「ミリィ。『おっきぃ~』って言いながら袖口をぷらぷら揺らしてみてくれ」
「ぇ? ……ぇっと、こぅ、かな? ぉ……『ぉっき~ぃ』」
「連れて帰る!」
「ぅぇえ!? だ、だめ、だょぅ……!」
なんで!? こんなに可愛いのに!?
……あぁ、可愛いからか。
ミリィが部屋にいたら引きこもりになっちゃいそうだな。子猫を保護した時みたいな感じで。目が離せない、的な。
「うわぁ~、元気出るなぁ~!」
「だから、我がチームの応援で勝手に元気になるなと言っておるのだ! 眼球が腐れ落ちろ、カタクチイワシ!」
再び、ルシアの手によって強制的に反転させられる。
前方にさらし巨乳。後方に萌え袖。
なにここ? 極楽浄土?
「どーだヤシロ! 赤組の作戦は!」
「作戦ってのは、学ランか? 最高だ!」
「そうじゃなくて、あたいの考えたすっげぇ作戦だよ!」
デリアの考えた作戦とは……?
「その名も、『ヤシロの真似して大勝利作戦』だ!」
「俺の真似してどうすんだよ……」
「だって、ヤシロがやること真似したらうまいこといくだろ?」
それで、ウチが当初やろうとしていた学ランでの応援をパクり、かわいい隊が盛り上がったので急遽ガキどもを入れたというわけか。……ん? だとしたら、ガキどもの衣装はいつ手配したんだ?
という疑問をぶつけてみると。
「子供らは最初から参加する予定だったぞ。シスターがどうしてもって」
なるほど。
ベルティーナなら、小さいガキが参加出来そうで、且つ勝敗に関係ないプログラムならそうしてほしいと言うだろうな。
チームリーダーが子供好きのデリアなら、すんなり受け入れられるだろう。
じゃあ、何がウチの真似なんだ?
学ランだけか?
「ウチも、ヤシロんとこを真似して、オッサンを全員解雇したぞ!」
チラッと赤組の方を見ると、学ランを着込んだ川漁ギルドと木こりギルドのオッサンたちが固まって体育座りをしていた。
……わぁ、バッサリだなぁ。
「……あとで、お披露目させてやれな? 折角練習したんだし」
「そうか? うん。ヤシロがそう言うなら、そうする!」
まったく。
デリアはウチと敵対関係にあるってこと忘れてんじゃないのか?
玉入れで共闘したからなぁ。
「いいか、ヤシロ! あたいたちはヤシロの真似をして、ヤシロたちに勝つ!」
「なんか違和感ないかその発言!?」
俺の真似をしてたら俺には勝てないと思うんだが……いや、デリアなら有無を言わさぬパワーで強引に勝ちをもぎ取るか……
ずるい。
「んじゃ、ヤシロ! あたいたち頑張って応援してくるから、応援しててくれよな!」
「応援のエンドレスループか!?」
「はわゎ、今、言おうと思ったのにー」
足元でハム摩呂がわなわな震えていた。
……なんだよ、言おうと思ってたって。別にいいだろうが俺が先に言っても。思いついちまったんだし。………………悪かったよ。悪かったからズボンの裾ぎゅっと掴んでうるうるした目で見上げてくるな。
「これじゃーまるで、応援の応酬だなー」
「はっ!?」
ヒントになるワードを与えてやると、ハム摩呂は「ぴこーん!」と頭上で豆電球が点灯したような顔をして、大きく息を吸い込んだ。
「応援の、往復ビンタやー!」
……うん。
俺がイメージしてたのとはちょっと違うかなぁ。こう、ラリーとか、そのまま応酬とか……いや、まぁなんでもいいんだけどよ。本人が満足そうならそれで。
そうして、デリア率いる学ラン美女軍団(大半がお子様少女)の応援が始まった。
デリア……は、きっと振り付けとか考えられないだろうから、オメロあたりが考えたのであろう、川での漁を模したダンスは観客に好評を博した。
なんか、ソーラン節を思い出したなぁ。小学校の頃踊らされたわぁ。
今度やる時は、創作ダンスとか、応援歌とか、そんなもんを取り入れても面白いかもしれないなぁ……なんてことを思った。
ん?
フォークダンス?
あんな風紀が乱れそうなもの、取り入れませんけど何か!?
……フォークダンスをきっかけに進展するカップルなんぞ、この街には必要ないのだ。あぁ、必要などないのだよ! ふん!
あとがき
いつもありがとうございます。
無くなりませんねぇ、振り込め詐欺。
いえ、そんなニュースを見まして。
エッチなサイトを見ていると突然
『おっぱい見放題プランにご登録いただきありがとうございます!』
みたいな、ちょっと思い当たる節がありそうな文字が突然表示されて
どきぃ!Σ(゜д゜;)
としてしまう、なんてこと、よくあると思います。
……え? 私ですか? だ、大丈夫ですよ、やましいことなんて、全然……ぴ~ぴ~♪
物凄く単純な手口なのに、いまだに引っかかる人があとを絶たないんですね。
皆様、騙されないでくださいね!
対策は大きく二つ!
対策其の1
・不安になったら人に相談する! 恥ずかしがらずに!
私「あのさぁ、母。『おっぱい大全集~こんなおっぱい見たことない!~』ってサイトを見てたら勝手に登録されてお金要求されたんだけど、これ無視して大丈夫かな?」
母「無視出来ないほど大丈夫じゃないっぽい、ウチの息子!」
このように!
恥ずかしがらずに!
対策其の2
・怪しいサイトを開いたり、怪しい広告をクリックしない!
私「えっ!? 『やわふわ求肥おっぱい』!? なにその和風なときめく感じ!?(クリック『ぽちー!』)」
PC画面「残念、詐欺でしたー!」
私「なんて巧妙!?」
こんなことにならないように!
……しくしく。警告画面が消えない……しくしく。
あと、電話。
オレオレ詐欺。まだまだ被害に遭われる方が多いようです。皆様、「えっ!?」という事態が起こった際は、難しくても一度落ち着いて、電話を切ってかけ直すようにしましょう。
大きく深呼吸。
それだけで防げる詐欺がありますので。
私の知り合いには「俺だけど」って電話してくる人いないので
私は大丈夫そうですけどね。
詐欺師(美女)「もしもし、Eカップだけど」
私「すぐ振り込みます!」
声って、
思い込んでしまうと全然似てなくても気が付けないそうなので。
よくよく考えたら、声が全然違った、なんてこともザラだそうで。
十分にお気を付けください。
そもそも、
電話してきてくれる友人知人がいなければ、オレオレ詐欺には引っかかりませんよ☆
わっほい、私最強~♪
……しくしく。
私は普段、
見たことのない番号からの電話には出ない。
その際、留守電にメッセージを残さない人には掛け直さない(重要な案件なら留守電に残すはずなので)。
家にいても、予定にない訪問者には対応しない。
ということを徹底しています。
最近物騒ですからねぇ。
私が見ず知らずの人と接する機会なんて……
感想欄くらいですね。
はっ!?
感想欄にオレオレ感想詐欺が来たら引っ掛かっちゃうかも!?
----------
投稿者: あ・た・し [2019年 03月 09日 08時 01分] 20歳~22歳 女性 Eカップ
一言
車で事故っちゃいました(ぷるん)
お金振り込んでください(ぷるん)
助けると思って(ぷるん)
お願いします(ぷるぷるぷる)
宮地拓海 [2019年 03月 09日 08時 01分]
>あ・た・し様
すぐ振り込みます!
銀行口座と住所と電話番号と夜寝る時は着ける派か外す派かを教えてください!
削除する
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----------
……うむ。
これは騙されてしまいますね。
人の良心に付け込むなんて、ふてぇヤロウだ! ぷんぷん!
優しさは尊いことですが、
ご自身と、あなたを心配してくれている大切な方のためにも、
ほんの少しでも『疑ってみる』心をお持ちください。
悪いヤツほど狡猾で、善人のフリが上手いものです。
お年寄りだけでなく、若い世代でも詐欺にかかる被害者は大勢います。
皆様、詐欺には十分お気を付けください。
――と、詐欺師をテーマにした作品を書いている者として、一言注意喚起をさせていただきました。
……ここ最近、詐欺師要素皆無ですけどね!
というか、ここ最近おっぱいと、いちゃいちゃと、おっぱいしか書いてない!?
う~む、
詐欺より平和だから、ま、いっか☆
私「あ、何このサイト? なになに……『水を弾く“つるん”“ぷりん”白玉おっぱい』!?(クリック『ぽちー!』)」
PC画面「残念、詐欺でしたー!」
私「なんて巧妙!?」
……しくしく。警告画面が消えない……しくしく。
次回もよろしくお願いいたします。
宮地拓海




