無添加29話 最初の競技・徒競走
「がんばってくださ~い!」
口の両側に手を添えて大声で声援を送るジネット。
トラックでは現在、十二歳未満による80メートル走が行われている。
「やったです! チームこそ違えど、ウチの妹が一番です!」
「……お前んとこの弟妹しかいなかったろ、今のレース」
ヒューイット家の足の速さは桁違いなので、ハムっ子たちはなるべく各チームに振り分けられたハムっ子同士で競わせている。でなければ、ハムっ子が一位を独占してしまうからな。
「一所懸命に走る姿って、カッコいいですね」
珍しく興奮気味に、ジネットが俺の袖を引いて「見てください見てください」とトラックを指差している。
こいつも、スポーツを見ると興奮するんだなぁ。
この前に行なわれた『かけっこ(七歳未満の部・25メートル走)』には、教会や他の地区のちんまいガキどもがわらわらと出場し、それなりに時間はかかったが無事にレースは終わった。
ちっさい足でちょこちょこ走る姿に、会場中がめろめろになっていた。
残念ながら、テレサはまだ参加出来なかったが、その代わりにとばかりに、シェリルが元気いっぱいに参加して、見事に一番を取っていた。
ヤップロックがネフェリー両親の喜びの舞も顔負けな小踊りを踊っていた。……人種ごとに伝統の踊りとかあるんじゃないだろうな?
そして、『徒競走(十二歳未満の部・80メートル)』も、次のレースが最終ということになる。
白組からは、リベカが参加する。ここまでの白組はあまり成績が振るわないので、なんとか一位をゲットしてもらいたいところだ。
トットも参加したのだが、健闘虚しく三位という結果に終わっていた。狩猟と木こりの息子どもが速くてなぁ……アレは無理だ。
一応、ガキどもの戯れレベルの競争でも点数は発生している。ポイントこそ少ないが、最初のこの誤差レベルの差が後々に響くなんてことが往々にしてあるのだ。油断は出来ない。
「リベカぁ~! 頑張って~!」
ソフィーが自作のリベカ手拭いを広げて声援を送っている。
……アイドルの追っかけか、お前は。
「え? これですか? アッスントさんに教えていただいたんです。こういったものに工場の名前などを書いて関係各所に配るといい宣伝になると」
要するに、陽だまり亭でやっていた宣伝Tシャツのパクリだ。
あぁいや、違うな。あいつの場合は去年の猛暑期に教えてやった『団扇を使った宣伝方法』の派生か。
「……で、工場のことは書かずにリベカの名前を書いたのか」
「麹工場といえばリベカです! これ以外に書くことなどありません!」
『リベカ☆らぶりぃ~』と、きらきらした文字で書かれた手ぬぐいは、どう見てもアイドルのライブグッズにしか見えなかった。
とりあえず、俺が取引先からこれをもらったらノーバウンドでゴミ箱へ放り込むな。
「リベカは足が速いので、きっと一番になります! ヤシロさんも、ノドボトケが飛び出るくらいに応援してください!」
「飛び出てたまるか」
飛び出たら飛び出たで気持ち悪がるくせに。
しかし、リベカの一番は黄色信号だな……
なぜなら――
「ハム摩呂たぁぁあ~ん! 私のために勝つのだぞぉおお!」
「はしゃぎ過ぎ思う、ルシア様……」
「ハァァァアアム摩呂たぁぁあああ~~ん!」
「あと三秒で実力を行使する、私は、心を鬼にして――ゼロ」
「どふっ! …………ぎ、ギルベルタ……せめて、カウントダウンは声に出してするべきだ……いつ経過したのか分からんかったぞ、三秒……」
「話しているうちに経っていた、三秒は」
どこぞのアホ領主が、他の区の領主や四十二区の領民が大勢いる中で痴態をさらしている……あいつもう、本性を隠すの諦めたのかな?
……とまぁ、そんな痴態を見ても分かるように、このレースにはハム摩呂がいる。
青組と黄組は普通のお子様なので無視しても構わないんだが……ハム摩呂かぁ……
「ハム摩呂は他のハムっ子とぶつかってほしかったぜ……」
「実は……各競技とも、ウチの弟妹の出場人数に制限がかかっているです」
「人数が多いですからね。出たくても出られないご弟妹は可哀想ですが……」
「……赤組は、ここで確実にポイントを稼ぎに来た」
そう。
赤組の連中、ハムっ子だらけのレースでワザとハムっ子を避けて、最後のレースにハム摩呂をぶつけてきやがったのだ。
徒競走は肩慣らし的な位置づけなので獲得ポイントは多くない。
とはいえ、一位は10ポイントで、二位が8ポイント、三位が5ポイントで、最下位は2ポイントとなっている。
何位になるか分からないハムっ子だらけのレースを一つ放棄して確実に一位を取る方が獲得ポイントが多くなる確率が高いのだ。
選手が全部ハムっ子なら、最悪最下位になることもある。
それよりも確実な10ポイントを……か。
……絶対ルシアの入れ知恵だよな、これは。
デリアがそんな細かい計算をしてくるはずがないからな。
「ふぉおお! 滅多にないような、大舞台やー!」
若干緊張している様子のハム摩呂。
そのまま緊張して出トチってくれれば勝機はあるのだが……あいつ、本番には強い、っていうか、やれと言われたことはきっちり成果を出すからなぁ。
「手前味噌でなんですけど……ウチの弟に勝つのはちょっと難しいです」
「大丈夫ですよ。一番でなくても、頑張ることが素晴らしいことですから」
「……援護射撃が禁止なのがつらい」
と、陽だまり亭チームは敗戦ムード一色だ。
マグダが外からハム摩呂を撃ち倒すのも禁止らしいし、仕方ないか。
「何を言っているのですか! リベカは勝ちます! だって、あんなに可愛いのですから!」
「そうだぜ! やる前から諦めるようなこと言うなよ! ロレッタ! お前もスゴ姉同盟の一員だろう!? 一緒に応援するんだよ!」
ソフィーとバルバラはハム摩呂のスピードを知らないせいか、リベカの勝利を信じている様子だ。
「英雄! 勝てるよな!?」
そう言われてもなぁ…………
「なんとかしろよ! 仲間だろ!?」
なんとかって……まぁ、やれるだけのことはやってやるか。
上手くいく保証はないが。
「リベカ……聞こえているな?」
他の組の連中には気付かれないように、スタート位置に着くリベカに向かって小声で話しかける。
リベカは耳のいいウサギ人族の中でも天才と呼ばれる少女だ。この程度の距離はないものと同じ、どんな囁きも聞き漏らすことはない。
「俺たちは全員お前の勝利を確信している。だから、何が起こっても気にせずゴールに向かって突っ走れ。出来るな、可愛い隊長?」
そう言うと、リベカがビシッとVサインをこちらに突きつけてきた。
よし。じゃあ、お次は……
「全員集合。秘策を授ける」
白組の選手を呼び集め作戦を告げる。
「これはあくまで作戦だ。決して妨害工作ではない」
そんな前置きをしてから――
「ハム摩呂は、今日は敵チームだが普段は俺たちの仲間だ。だから、精一杯声援を送ってやろうじゃないか。みんなハム摩呂のこと大好きだろ?」
「なっ!? リベカの応援を放棄して敵に声援を送ると言うのですか!? そんなの、リベカが可哀想じゃないですか!」
当然のようにソフィーが反対する。
こいつはリベカの応援に夢中で、意識をこっちに向けていなかったから、さっきの囁きを聞いていなかったのだろう。なので。
「そうだな。確かにその通りだ。なので、『頑張れ』はやめておいて、名前だけ呼んでやろう。日頃仲良くやっている同じ区の仲間として」
「あぁ……なるほどッス」
「……理解した」
「へ? どういうことです?」
ロレッタはピンと来なかったようだが、マグダに耳打ちされて合点がいった様子だ。
「アーシは敵の応援なんかしねぇからな!」
「無論、私もです! 私はリベカの……リベカだけの応援をします!」
「それならそれでいいさ。こっちはこっちで好きにやるから」
「そうですね。ハム摩呂さんはよく陽だまり亭のお手伝いをしてくださっていますし、声援を送ってあげると喜んでくださいますよね」
完全なる善意でジネットまでもが作戦に参加してくれることになった。
さぁて……上手くいくかな……
そして、運命の鐘の音が鳴り響く――
「位置について、よぉ~い……」
――ッカーン!
と、ピストル代わりの鐘が抜けるような金属音を響かせて、選手が一斉に走り出す。
「「「「ハム摩呂ぉぉおおー!」」」」
「はむまろ?」
「……ハム摩呂ぉ~」
「はむまろ?」
「ハム摩呂さぁ~ん!」
「はむまろ?」
かかったぁ!
ものすっごい、何回もかかったぁああ!
「おぉおい! 何やってんだよ!? 止まるな! 走れ、ハム摩呂!」
「はむまろ?」
デリアの指示もハム摩呂には逆効果だったようだ。
「よっしゃ、行けぇ、リベカぁ!」
「……駆け抜けろ、風のように」
「そのままぶっちぎるでぇぇえす!」
「え? あっ、リベカさんも、頑張ってくださぁ~い!」
ハム摩呂がスタート地点に立ち止まってきょとんとしている間に、リベカがぶっちぎりの一番でゴールする。
「ほぅ!? 絵にかいたような、出遅れやー!」
二番手と三番手がコースの半分を越えたあたりで、ようやくハム摩呂が走り出し……そのまま二着でゴールする。
お前……速過ぎだろ。あいつだけ1000メートルくらいのハンデがあってもいいんじゃないか?
よかった、まともに戦わずに済んで。
「貴っ様ぁ、カタクチイワシ! 卑怯な!」
「いやいや。俺たちは普段から仲のいいハム摩呂の応援もしようと思ってだな。な、ジネット?」
「はい。とても仲良しですので」
「ぐぬぬ……ジネぷーまで利用しおって…………っ!」
さすがルシアだ。
俺が何を目的として、何をどうやったのかが一瞬で分かったらしい。
ジネットには微塵も悪気がないってこともな。だからこそ、強く言えないのだろう。
「貴様……私とハム摩呂たんの婚姻がどうなってもいいというのか!?」
「むしろ積極的にぶち壊してやるよ、この変質者め」
「ふん! 所詮、徒競走は点数の低い肩慣らしに過ぎぬ! この後の競技で他を圧倒し、我が赤組が優勝してくれるわ!」
「それで優勝出来なかったら『精霊の審判』かけるぞ?」
「バカモノ! 開会宣言でエステラが『今日この場における発言に「精霊の審判」をかけてはいけない』というルールを宣言しておっただろうが!」
「絶対勝つ!」みたいな発言は士気を高めるために必要だから、そういう発言はみんなで大目に見ましょうね~、という紳士協定が結ばれているのだ。
むろん、そんなことは百も承知だ。
「けど、お前区民じゃないからなぁ」
「近い将来そうなる可能性が限りなく高いであろうが!」
「あの、ルシアさん……やめてくださいね、割と真面目に……」
激昂するルシアのもとに、大会の責任者であるエステラが駆けつける。
虎視眈々と未成年ボーイの嫁の座を狙っている変質者に、エステラの表情筋がぴくぴく震えている。
「ヤシロも。あまりに露骨な妨害工作はしないように」
「いや、俺たちは純粋に応援を……」
「それで誤魔化せる人間が、ここに何人いると思う?」
……まぁ、純粋に信じてくれるのはジネットくらいかなぁ。
「自分の知名度を理解するんだね」
そんな言葉で釘を刺して、エステラは青組陣地へと戻っていく。
ふん。
勝つための策略は『有り』だろうが。
ルールに反しない範囲でならな。
……まぁ、スポーツマンシップってのには反するかもしれないけれど。
「しゃーない。真面目にやるか」
「その発言に『精霊の審判』をかけてやろうか? カタクチイワシ」
「いいから陣地へ帰れよ」
アホな領主を追い払い、次のプログラムの準備を始める。
次は十五歳未満の200メートル走だ。
年齢的に100メートルでもいいかと思ったんだが、獣人族が多いため日本の小学校と比べて距離が長くなっている。
獣人族でなくとも、この街のガキどもは体力が有り余っているからな。200メートルくらい余裕だろうという意見が多かった。
……まぁ、その弊害で俺が参加するオーバー15の徒競走は800メートルになったんだけどな。徒競走の距離じゃねぇだろ、800。長距離じゃねぇか。トラック一周だぞ? 俺はアスリートじゃねぇっつの。
張り切り屋が多いからなぁ、四十二区は。仕方がないことなのだろう。
「……勝利を、我がチームに」
意気揚々とマグダが自軍の陣地を後にする。
『赤モヤ』は禁止されているが、マグダならまぁなんとかしてくれるだろう。
ハムっ子たちは同じレースに固まるのであまり脅威はないが、代わりに確実に勝てるという確証もない。陽だまり亭二号店と七号店の売り子をしている妹たちが出場するが、勝負は時の運だろう。
あとは、モーマットのところの見習いが何人か出場することになっているのだが……こいつらは望み薄だ。
「我が騎士よ! 見るのじゃ! 一等賞の記念メダルじゃ!」
「おう、頑張ったな」
「リベカさん、素敵でしたよ」
「にへへ~」
リベカが首から記念メダルをぶら下げて戻ってきた。
俺とジネットに褒められて嬉しそうだ。
このメダルは、ノーマが張り切って作ってくれたもので、一位の選手全員に贈呈される記念品となっている。
俺が、小学校の頃はそういうのがあって無性に欲しかったんだよなぁ~、なんて話をしたのを聞いて夜なべして作ってくれたそうだ。
「子供らは、そういうのが好きなもんだからねぇ。あれば喜ぶだろぅ?」って。
どんだけ好きなんだよ、子供とイベント。
「位置について、よぉ~い……」
――ッカーン!
レースが開始され、各チームの応援席と観客席から声援が飛ぶ。
ふと隣を見ると……
「ぁかぐみ~! がんばってぇ~!」
ミリィが懸命に声を張り上げていた。
「ミリィ? 参加しないのか?」
「ぇ……ぁの、てんとうむしさん、みりぃ、もう十五歳、だょ?」
「気のせいだ!」
「違うょ!? みりぃ、もう今年で成人だからね!?」
なんということでしょう……
ミリィが十五歳に……
この後のオーバー15の大人たちに混ざって徒競走に参加するのだという。
「ミリィは徒競走よりかけっこの方が似合うのに!」
「みりぃ、もう大人だょ!」
認めない!
俺は絶対認めない!
ミリィはまだ青少年保護法とかで守られるべき対象なのだ!
「じねっとさんも言ってあげて、てんとうむしさんに。『みりぃはもう大人だょ』って」
「…………え? あ、そ、そうですね」
「ジネット、お前も今一瞬忘れてたろう? ミリィが成人してるってこと」
「そ、そんなことはっ…………ちょっとだけ」
「ひどぃよぅ、じねっとさんまでぇ~!」
仕方ないんだよ、ミリィ。
なにせ、人間の情報というものは八割近くを視覚から得ているのだから。
「あの、リベカさんを見ていたので、……つい」
「りべかちゃんと一緒なの、みりぃ!?」
リベカの「わしは大人じゃ!」と、ミリィの「みりぃ、もう成人だよ」は同じか否か……
「同じだな!」
「違ぅよ!? みりぃは、社会的にも大人なんだょ!? ね、ろれったさん?」
「大丈夫です! ミリリっちょは未成年のままでも通用するです!」
「通用とかじゃなぃのぉ!」
両腕をぶんぶん振って抗議してくるミリィ。
そうだよなぁ、こんなに可愛らしい生き物が大人なわけないよなぁ。
思わず自軍の陣地に拉致しかけたところで、ひょ~いっと、ミリィが掻っ攫われていった。
「ミリィたんに絡むな、敵! ぺっ!」
今日は一段と敵意剥き出しのルシアがミリィを抱え上げて俺から引き離す。
お前なぁ……
「今の『ぺっ!』は、俺じゃなくてモーマットだったら喜ばれていたところだぞ!」
「なに勝手なこと言ってんだ、ヤシロ!? 喜ばねぇよ!」
「…………ぅわぁ……」
「いやいや、三十五区の領主様!? あんたも知ってますよね、ヤシロがどーゆー男か!? 真に受けないでくれますかねぇ!?」
「…………ないな……マーたんのとこの半魚人と同じくらい、ないな」
「なんかとばっちりでえらい非難されてねぇか、俺!?」
ルシアがしかめっ面のまま赤組の陣地の中心部へと下がっていく。
そうか、モーマットはキャルビンと同じカテゴリーなのか。
「ぷぷぷっ!」
「笑ってんじゃねぇよ、ヤシロ!? お前のせいだからな!」
獣人族でも、ルシアはあまり男に興味を示さない。
ルシアが食いついた男は、ハム摩呂くらいなものだ。
それどころか、ジネットのことは気に入っているようだし、あいつは獣特徴マニアではあるが、それ以上に『可愛いもの』が好きなのだろうな。
なので、獣特徴が色濃く出ているモーマットやキャルビンでも、生理的嫌悪感を覚えるのだ。
「生理的嫌悪感をな」
「うるせぇよ、ヤシロ!」
モーマットが妙にダメージを受けている。
巨乳好きのくせにBカップのルシアに嫌われたことにへこむとか……
「お前は、おっぱいならなんでもいいのか!?」
「お前ぇと一緒にすんな!」
「うるさいよ、白組ー! ちゃんと応援して!」
青組からヤジが飛んでくる。
エステラのヤツめ、関係ないのに口を挟んできやがって……
「今おっぱいの話をしてるから!」
「それがどーした!?」
だから、関係のないヤツは口を挟むなと……っと、あのナイフはよく飛ぶやつだ。黙ろう。
「……モーマットが『おっぱいとは無縁のヤツは黙ってろ』みたいな顔するから」
「してねぇわ!」
「応援しろよ、英雄!」
今度は自軍に怒られた。
バルバラが俺の頭を両手で掴んでトラックの方へと向かせ、固定する。
痛い痛い痛い!
だから、お前は力加減を覚えろっつうのに!
トラックを見ると、妹たちがスタートラインに立っていた。
十歳から十二歳までのちょっとお姉さんチームの妹たちだ。
年少組みたいに「ぅははーい!」とはしておらず、少し落ち着いた雰囲気を纏っている。
「ヒューイット家の底力」
「「「みせてやるー!」」」
「いや、お前ら全員ヒューイット家だろうが」
ただ、最年長がロレッタだからな……成長したところでってのは、正直あるんだよな。
「がんばってくださ~い!」
「「「「は~い!」」」」
ジネットの声援に、全妹が返事をする。
……あいつらの場合、名前で区別とか出来ないからなぁ。
「誰が勝っても嬉しいですね」
「いやいや。白組を応援しろよ」
「でも、先週まで二号店の売り子をしてくれていた妹さんもいますし、ほら、青組の。黄組の妹さんは先月、赤組の妹さんは厨房の大掃除の時に――」
「え、ジネット……見分けられるの?」
「はい。さすがに全員とはいきませんが、陽だまり亭で一緒にお仕事してくださった方はなんとなく」
すげぇ……
俺にはみんな同じ顔に見えるんだが……
そういえば、個々にファンが付いているヤツがいるって言ってたな。
客の中にも、妹たちを見分けられるヤツがいるのか……
「年を取れば、それぞれに特徴が分かりやすくなっていくですから、この年代の妹たちは見分けるのが比較的簡単ですよ」
「確かにそうですね。ロレッタさんは、妹さんたちの中に入ってもすぐ見つけられますし」
「それはそうです! なんたって長女ですから!」
確かに、それは一理ある。
性格もそれぞれ特徴が出てくるし、口調も結構違う。
髪型も違うし、顔つきも違う、かもしれない。
が、一覧を見せられて「だ~れだ?」とかやられたら絶対分かんない自信がある。
描き分けの出来てない漫画家の描いたクラスメイト一覧みたいな感じだ。物語の中では、話の流れで誰なんだなってのは分かるんだが……グッズとかになられるとお手上げだ。
「……誤差」
「ウチの弟妹に酷いですよ、お兄ちゃん!?」
ロレッタが憤るが、俺の目にはみんな同じ顔に映るのだ。
おっさんが人数の多いアイドルグループのメンバーを見分けられないようにな!
……誰がオッサンだ!? 失敬な。
「位置について、よぉ~い……」
――ッカーン!
そんな話をしているうちにレースが始まる。
先頭を行くのは赤組の妹。白組は二番手だ。
……速い。
あっという間に勝負は決まっ……と、思ったら赤組の妹がゴール手前で転んだ。
「あっ!?」
思わず声を漏らしてジネットが身を乗り出す。
妹はすぐに立ち上がりゴールしたが、妹たちのレースでは一瞬のロスが命取りになる。赤組の妹は最下位となってしまった。
「わたし、怪我の手当てをしてきます!」
言うが早いか、ジネットは陣地から飛び出して、怪我をした妹のもとへと走っていく。
…………遅っ!
妹たちのレースを見た後だけに、余計に遅く感じる。
あぁ、もう。
「俺も行ってくる」
たたっと駆けていって、ジネットを追い抜き妹のもとへと向かう。
「手伝いに来てくれたんかぁ? 助かるわぁ」
救護テントから薬箱を持ってレジーナが歩いてくる。
……走れや。
「妹さん、大丈夫ですか?」
「うん。平気ー! 唾付けとけば治るよ」
爛漫に笑う妹。
だが、擦り剥いた膝がじゅくっとしていて痛そうだ。
「消毒して絆創膏を貼っておこうな」
「平気だよ? こういう怪我、家でもよくするし」
「それでもだ。ちゃんと手当てをして、ジネットとレジーナを安心させてやってくれ」
「店長さんと薬屋さんを?」
きょろきょろと二人の顔を交互に見て、妹はニコッと笑う。
「なんか、大事にされててくすぐったいねー」
薄く頬を染めて嬉しそうに肩を揺らす。
こういう仕草は、ちょっとロレッタに似ているかもしれないな。
「ありがとうね、お兄ちゃん」
「……そっちの二人に言ってやれ」
たまたま一番近くにいたから、俺が妹の手当てをしてやっているが、薬を持ってきたのはレジーナだし、一番心配しているのはジネットだ。俺なんかただのついでみたいなもんだ。
「自分、ホンマ上手やなぁ」
俺の処置を見て、レジーナが感心したような声を漏らす。
「未成年少女の生足いじらせたら天下一品やな!」
「他の表現は思いつかなかったのか!?」
「よっ、テクニシャン!」
「消毒液ぶっかけるぞ!」
そして浄化されてしまえ!
俺が消毒を終えると、ジネットが薬を塗り、レジーナが器用に包帯を巻いた。
少し大げさに見えるが、この後も砂埃の舞うグラウンドで走り回るならしっかりとガードした方がいいという判断だったようだ。
上手いこと膝の曲げ伸ばしの妨げにならない巻き方をしていた。その辺はさすがだな。
「えへへ……一番取るより嬉しかったかもー!」
手当てをしてもらって、甘やかされた気持ちになったのか、ジネットに抱きついてもきゅもきゅ頭をこすりつける妹。
楽しそうだな、そのアトラクション。何分待ち?
トラックの中で手当てを行っていた間も、レースは順調に消化されていた。
レジーナがいそいそと救護テント――というか、日陰に帰る後ろ姿を見送ってから俺たちもその場を離れる。
「あっ、ちょっと待ってください!」
トラックを横断しようとした俺たちを、エステラのとこの給仕が止める。
「もうレースが始まるので、終わるまで待ってください」
見れば、選手がもう位置についていた。
これが終わるまではコースを横断するなということらしい。
「位置について、よぉ~い……」
――ッカーン!
ジネットと並んでトラックの中からレースを眺める。
「すごい迫力ですね、内側から見ると」
今日はまだなんの競技にも参加していないジネットは、これが初めてなのだ。トラックの内側から見るレースが。
「なんだか、胸がドキドキします」
「え? どれどれ?」
「もう……言うと思いました」
伸ばした手の甲をつねられ、優しく叱られる。
だって、それはもはや「言え」ってフリだろうよ。
「まさか、わたしがこのような大会に参加するなんて……」
速まる心臓を抑えるように、組んだ両手を胸に押しつける。
……沈むなぁ。埋まるよねぇ。
「わたし、今日は精一杯頑張りたい気分なんです。……まぁ、運動は苦手なんですけど」
本当に、今日のジネットはテンションが高い。
頬が薄く紅潮して、楽しそうによく笑う。
本当に珍しくて……
そんな顔を見られてよかったな、とか、思ってしまった。
「……『おっぱい万歩計競争』をプログラムに入れておけばよかった」
「ヤシロさんっ」
精一杯頑張るジネットを見てみたかった……と、そんなおふざけでお茶を濁す。
まぁ、なんつうか、あれだな……
運動音痴が張り切ると怪我をするから、今日一日はジネットから目が離せないかもしれないな……なんて。
「……ヤシロ。店長」
トラックの中でレースを見ていると、マグダが声をかけてきた。
この次が十五歳未満のラストレースのようだ。
「……必ず勝つ」
「おう。期待しているぞ」
「……任せて」
「応援していますからね」
「……うん」
短い言葉を交わして、マグダが選手待機列へと戻っていく。
どこかぎこちない後ろ姿に、ジネットがくすりと笑みをこぼす。
「緊張、されているんですね」
「みたいだな。珍しい」
「マグダさんは、結構あがり症な方だと思いますけど?」
「そうか?」
「はい。いつも緊張を悟られないようにされていますけど。毎朝、開店前にも少し緊張されているようですし」
そうだったのか。
だとするなら、俺はすっかり騙されていたということになるが…………俺の前ではあんまりそんな素振りは見せてないんだけどなぁ。
「ヤシロさんがいる時は、あまり緊張されないみたいですけどね」
最後にそんなことを言って、ここ一番の笑顔を俺に向けてくる。
マグダの意外な一面を知った俺の驚く顔を見て満足そうな様子だ。それぞれに知らない一面があるもんだな、まだ結構。
俺も、マグダだけの前で見せる顔やロレッタの前だけで見せる仕草なんかがあるのかもしれないな。自覚がないだけで。
ジネットの前でだけって表情は…………まぁ、あるんじゃねぇの、多少は。よく分かんねぇけど。
そうして、いよいよラストレースが始まるのだが……
「モリー!?」
青組にモリーがいた。
四十区砂糖工場の実質的最高責任者であり、ニート兼ストーカーのメイクタヌキパーシーの妹。……なんで参加してんだ?
「モリー! 兄ちゃんの将来のためにも、一等を取って青組に貢献してくれー!」
「……兄ちゃん、うるさい…………恥ずかしいなぁ」
あぁ……パーシーに頼み込まれたんだな、きっと。
「将来のためって、どういうことなの? パーシー君?」
「ネッ、ネネネ、ネフェリーさん!? そ、それは、その、あのっ、あれっす! 四十二区との関係をいい感じにしといた方がいい感じっつーか、そーゆー感じのあれっす! はい!」
「そっか。じゃあ、勝ってエステラの好感度上げておかなきゃね」
「(領主さんじゃなくて、オレはあなたに……っ!)……そ、っすね。あはは」
……ヘタレ。
「ヘタレッスねぇ……」
ウーマロも乾いた視線を向けている。
パーシーを知っているヤツの中で、ネフェリー以外の全員がそのヘタレさ加減に呆れていることだろう。
「ふふ。パーシーさん、モリーさんの応援に力が入ってますね」
あぁ、ここにも一人、呆れてないヤツがいた。
「モリーさんって、足が速いんでしょうか?」
結局、次のレースの準備が始まってしまい応援席へ戻れなくなった俺たちは、ラストレースもトラックの中から観戦していくことになった。
「さぁな。獣人族の身体能力は極端だからな」
ネフェリーたちはさほど身体能力は高くない。
一方でマグダやデリアみたいな連中もいる。
果たして……
「位置について、よぉ~い……」
――ッカーン!
開始の鐘が鳴り響き、選手が一斉に走り出す。
突風のような勢いでマグダが駆け抜けていく。
『赤モヤ』無しでも、マグダの身体能力は四十二区トップクラスだ。
だが――
「速いっ!?」
驚いたことに、モリーはマグダの速度にぴたりとついていった。
微かに出遅れたようで、マグダの50センチほど後方を恐ろしい速度で追いかけている。
予想外の強敵に、背筋が一瞬冷える。
「マグダっ、行けぇ!」
思わず声が出てしまい、その直後、ほんの一瞬マグダの速度が跳ねあがった。
そしてそのままゴールテープを切る。
「……ほっ」
なんだか妙に安心して息を吐く。
で、気付いたのだが、俺は息を止めていたらしい。
手に汗握るというヤツか。……はは、マジで手汗かいてる。
「…………はふぅ……緊張しました」
隣で、ジネットがへたぁ~っと、座り込んでしまった。
ここまで緊迫した勝負を見せられると、見ている方にも力が入ってしまうのだな、と、改めて実感させられた。
「はぁ……はぁ…………やっぱり、速過ぎる……よ、マグダちゃん…………はぁっ……はぁっ……」
ゴールライン横で、モリーが膝に手をついて肩で呼吸をしている。
相当無理をした様子で、呼吸が激しい。
「大丈夫ですか、モリーさん?」
「はい…………なん……とか………………はぁ……はぁ」
あまりの疲弊ぶりに、ジネットが不安そうな顔で声をかける。
今にも倒れそうだ。
「あんなニートのためにここまで全力で……いい妹だな、モリーは」
「ヤシロさん、パーシーさんはニートでは……」
いやいや、パーシーの職業は『ニート』だろ?
でなきゃ『ストーカー』か。
「兄ちゃんの……ためというか…………」
幾分落ち着いたようで、胸で大きく息を吸い込んでゆっくりと吐き出した後、体を起こして顎を伝う汗を腕で拭う。
おぉ……スポーツ少女みたいだ。すごくキラキラして見える。
「私がちゃんと監視してないと、絶対羽目を外しまくりますから……兄ちゃん」
なるほどな。
ホント、出来た妹だなぁ、この娘は。
「……ヤシロ」
モリーの呼吸が整ったところで、マグダが俺たちのもとへとやって来る。
首から勝利のメダルをぶら下げて。
「……勝利は我が手に」
「よく頑張ったな」
「……店長も、見ていた?」
「はい、お二人ともすごく速くて驚きました」
「……当然」
するとマグダは誇らしげな無表情でモリーの肩を抱き寄せる。
「……密かに特訓を施した。モリーは、マグダの弟子」
「そんなことしてたのか!?」
「……マグダくらいになると、他区から指導を頼まれるもの」
いつの間に……
マグダのスプリント講座とか、始まっちゃう感じか?
「私がお願いしたんです。兄ちゃんが区民運動会の話を聞きつけて、ずっと浮かれていたから」
「……仕事の合間に速く走るコツと呼吸法を伝授した」
「兄ちゃん、絶対四十二区のみなさんに――特にニワトリさんのいるチームにご迷惑かけちゃうから、妹の私が少しでもフォロー出来るように、戦力にならなきゃって……」
そんな理由で、この数日でマグダ流走法をマスターしちゃうお前がすげぇよ、モリー。
……あと、ネフェリーのこと名前で呼ばないんだな。面と向かった時は「ネフェリーさん」って言ってた気がするから…………そこはかとなくわだかまってそうだな、モリーの中で。
「モリーちゃ~ん!」
と、向こうからニワトリが駆けてくる。飛びそうな勢いで。
だから、お前の突進は真正面から見たら怖いんだって、ネフェリー!
「すごい、すごい! モリーちゃんって、足速いんだね! 私、感動しちゃったぁ!」
「でも、二番なので……」
「そんなことない! 十分だよ! すっごくカッコよかったよ!」
「あの……どうも……」
きゃーきゃー言いながらモリーに抱きつくネフェリー。
モリーはどうしていいのか分からず、されるがまま、小さな体を揺さぶられている。
ただ、照れながらも少しだけ嬉しそうな顔をしていた。
小さい頃に両親を亡くして、バカ兄貴と二人きりだったんだもんな。
こういう温もりに飢えているんだろう。
「もう! モリーちゃん、妹にしたい!」
「どっふぅぅぅううううううーーーーーーーーーーーー!」
なんか、遠くでタヌキが鼻血を吹きながら倒れた。
よし、放っておこう。いや、埋めよう。
「ナタリアー! ばっちぃからさぁ――」
「はい。埋めておきます」
「あの、モリーさん……お兄さんが……」
「あ、大丈夫です。放っておいてください」
テキパキと、ナタリアがヨゴレモノを片付けていく様をジネットがおろおろと見ているが、モリーは慣れたもので、さら~っと流していた。
……ネフェリー、お前、罪作りだよなぁ。
「ヤシロ。青組は、目立った選手はいないけど、バランスはいいのよ。負けないからね!」
モリーを抱きしめながら、ネフェリーが俺に宣戦布告を突きつてくる。
と、思ったらトサカがぷるぷる震えて――
「もし、優勝したら、さ……その、ヤシロが…………ご褒美、くれる……んでしょ?」
まだそんな噂が……
一応、優勝者が好きなヤツを嫁や婿にもらえるなんてルールはないと、開会宣言に盛り込まれていたんだが……ご褒美の方は根強く残っていやがるようだ。
「さぁ、それは優勝したチームだけが知ることだな」
「ふふ……そっか。じゃ、絶対優勝して確認しなきゃね! 行こっ、モリーちゃん!」
「あ、はい。……失礼します!」
ネフェリーに腕を引かれながら、傾く体で俺たちに頭を下げて立ち去るモリー。
なんであの兄貴に育てられてあんないい娘になったんだろうなぁ。反面教師か。
「……反面教師」
「マグダさん。悪いですよ」
「……みたいな顔を、ヤシロがしていた」
「ヤシロさんはそんなこと……ねぇ?」
「マグダ、お前……俺の心が読めるのか?」
「ヤシロさん。……もう」
いや、だって。
兄貴の方は汚物として土に埋められてるわけだし。月と汚物じゃねぇかよ、あの兄妹。
「では、わたしたちも戻りましょう」
「……次は店長とヤシロの番」
「あぁ、そうだな…………めんどくせぇ」
いろいろと後が怖いから、優勝しなければいけないのだが……俺は単純に運動が好きじゃない。
走って汗を流すとか、ちょっとよく分からない。
出来たら競技には参加せずに、俺は応援席で指示だけ出していたいんだがなぁ。
「……ヤシロは、白組の先鋒」
「え、一番なのか?」
「……後ろの方は、走るのが得意な人間が集まりやすい」
「確かに」
自信のあるヤツが後ろの方にエントリーしている可能性は高い。
第一レースは様子見。そんな振り分けをしているはずだ。
なら、ここで出る方が勝率は上がるか。
「なら、派手に決めてくるぜ」
徒競走のラストは、オーバー15。大人部門だ。
「ゼルマル来い、ゼルマル来い、ゼルマル来い、ゼルマル来てゴール前でポックリいけ!」
「勝手なことを抜かすな、陽だまりの穀潰しがぁ!」
ゼルマルが応戦席からデカい声を寄越してくる。
……ちっ、あいつは参加しないのか。
サクサクと進行するために、各競技の間にはさほど時間を用意していない。
すぐさまオーバー15徒競走の第一レースが始まる。
「ヤシロさん。頑張ってくださいね」
「おう! 飛び跳ねて応援してくれ!」
「それしたらお兄ちゃん見るのに忙しくて走らなくなるです! 店長さんはなるべく動かず応援するです」
応援席から選手待機列にやって来たロレッタが余計なことを言う。
黙っていればジネットは気が付かなかったに違いないのに……!
仕方なく、俺はスタートラインに立つ。
何か効果があるのかは分からないが、一応足の筋を伸ばしておく。
「ふふん。まさか、こんなに早く君を負かす機会が訪れるとはね」
俺の前にエステラがやって来る。
え……お前、第一レースなの?
「君なら、様子見をしがちな第一レースにエントリーするだろうと思って、あえてここにエントリーしたんだよ。読み通りだったようだね」
「エントリーさせたのはマグダだけどな」
そうか、エステラか……
うん。これで一位はなくなったな。
「けど、お前が相手でよかったよ」
「ほぅ。それは、ボクに勝てるという思い上がりによる発言かな?」
「いや。お前は揺れないから前から見なくても大丈夫だし」
「アキレス腱を斬るよ!?」
お前、これから走ろうとしてる人間になんつうことを……
「なんだ。やっぱりヤシロは第一レースか」
「読みは当たったようさね」
「えっ!?」
振り返ると、デリアとノーマがいた。
ブルマな上にぶるんぶるんで!
「ブルマとぶるんぶるん!」
「なに言ってんだ、ヤシロ?」
「……ただの発作さね」
なんてこった!?
ノーマとデリアのレースは特等席でじっくり観戦しようと思っていたのに!
「お腹痛い! 棄権する!」
「いいから位置につきたまえ!」
「いやだ! 離せエステラ! 絶対俺が最下位じゃん!」
「ヤシロ、負けるのが悔しいんだな? けど、あたいは容赦しないぞ!」
「いや……後ろからじゃ見えないからダダこねてるんさよ……」
くそぅ! くそぅ!
こんな不幸があってたまるか!
絶対、俺以外の男連中はデリアとノーマのぶるんぶるんに釘付けになるじゃん!
俺だけ堪能出来ないなんて不公平だ!
「前を走るブルマでも堪能するんだね。君が、ボクたちの速度についてこられるならね」
こいつらの速度について行くなんて不可能だ。
スタートと同時に豆粒くらいの小ささになるに決まってる!
……こうなったら。
「……ハミパンしたら網膜に焼きつけて、一生忘れないから……俺、一生忘れないからなっ!」
「なんの脅しだい、それは!?」
「バ、バカ、ヤシロ……そんなの、見るなよなぁ……!」
「く……ヤシロが後ろにいるのが、不安で仕方ないさね……」
全員が俺の方を向き、後ろ手にお尻を隠す。
だからそれを後ろから見たかったっつうの!
くそぅ……本当なら、隣のレーンなんかじゃなくて特等席で…………特等席?
特等席って、どこだ?
そんなもん決まってる。真正面だ。
ってことは………………そうか!
「……絶対に一番になってやる」
そうだ。
俺は一番になるんだ――
「お前ら! 全力で勝負しろ!」
「おぉ! もちろんだぜ! あたいの全速力を見せてやる!」
「なんだか知らないけれど、やる気になったようさね」
「ヤシロ……ふふ。柄にもなく真剣な目をしちゃって」
そうして、運営スタッフであるエステラ邸の給仕に促されて俺たちは位置につく。
目の前には、長く延びるコース。
斜め前にはクラウチングスタートの体勢のノーマ……のお尻。
「おぉう……」
「集中するんさよ!」
デリアは俺の後方。
エステラは遥か前方。
よし、集中するか。
これから始まる長い戦いへの期待感を胸に、俺はその時を待つ。
とくん、とくん……と、自分の心臓の音が聞こえる。
微かな興奮状態。
心地よい緊張感。
そして、いよいよその時が訪れる――
「位置について、よぉ~い……」
――ッカーン!
鐘の音と共に、選手が一斉に走り出す!
……俺以外は!
「えぇぇえええ!?」
「ちょっ、ヤシロさん! 何してるんッスか!? 走ってッス!」
自軍の選手が騒ぐが、俺はそれらを一切合切無視する。
そして、じっと、じぃぃ~っと見つめる。
全力で駆ける美女たちの……弾むおっぱいをっ!
「ナイスバウンドッ☆」
「お兄ちゃん! 走ってです! 負けちゃうですよ!?」
バカだなぁロレッタ。
どっちにしてもあの三人に勝てるはずないだろう。
つか、本気で速いな。
あいつら、800メートルを50メートル走かって速度で駆け抜けていく。いや、それよりも速いな。
あっという間に二つ目の直線を走り切る。
ここで少しエステラが離されてきたが、ノーマに続いてデリアが最後のカーブを曲がりきる。
そして、そこからが最後の直線!
そう!
ここで振り返れば、俺の真正面から二人の巨乳美女がラストスパートをかけてこちらに向かって走ってくるのだ! 全力で! 盛大に揺らして!
「特等席、ゲットだぜっ!」
これほどの特等席があるだろうか!? いやない!
デリアとノーマは互いに勝ちを譲るまいと必死に走っている。なんて無防備なバウンド! 素晴らしい!
そして、スタミナの差なのか、根性か、デリアが最後の5メートルでノーマを抜き去り一位でゴールラインを越えた。
「よっしゃぁあああああ! あたいが一番だぁぁあ!」
「くっ! ぬかったさね!」
「じゃ! 行ってくる!」
「「ヤシロっ!?」」
なんか、物凄く驚いている二人に見送られ、俺は長い長い800メートルを走り始めた。
俺は棄権なんかしていない。ほんのちょっと、盛大に出トチっただけだ。
スタートのタイミングって難しいよねぇ。
徒競走は最下位でもポイントが入る。
そのポイントはしっかりともらっておく。
でも、どんなに頑張っても絶対に勝てないメンバーだったので、ちょこっと幸せな時間を会場のメンズどもと共有していたのだ。
俺が最初のカーブに差しかかるかどうかというところでエステラがゴールしたらしく、俺の最下位が確定した。
けれど気にしない。
俺は今、幸せを胸いっぱいに詰め込んで走っているのだ。
ほら、足取りも軽やかだろ?
というわけで、普通の、平均的な高校生男子レベルのタイムで800メートルを走り切り、会場中の視線を一身に集めて、俺は悠々とゴールラインを越えた。
うん。残念な結果だったけれど最後まで諦めずに頑張った。
一所懸命流した汗って、素敵だよね☆
「「ヤシロさん……」」
ゴールラインで、ジネットとベルティーナが俺を出迎えてくれた。
最下位になりながらも健闘した俺を褒めてくれるのかと思ったのだが……
「「懺悔してください」」
「ちょっ!? 待て待て! ちゃんと走ったじゃねぇか! 一切手を抜かずに! ほら見て、汗! この綺麗な青春の汗!」
俺の脳と心は今、先ほどの荒ぶるおっぱいに埋め尽くされている。
それも、なんだか思春期の頃のようで、広い意味で言えば青春だ。
「青春の汗はかけがえのない美しい結晶だろ!?」
どんなに訴えても、俺の両腕をがっしりと拘束したジネットとベルティーナの耳には届かない。心には響かない。
なぜだ!?
俺は宣言通り、「派手に決めた」だろ!? 最後みんな俺に注目してたし!
それに「一番」にもなったろ!? 会場内の誰よりもいい席であの爆揺れを堪能して「一番」幸せを噛みしめていたじゃないか!
嘘だと思うなら『精霊の審判』をかけてみるといい! 精霊神だって俺の言い分を認めてくれるはずだ!
俺は、あの瞬間紛れもなく『一番』であったと!
――と、そんな俺の主張はまるっと黙殺され、ウーマロがグラウンドのすみっこに作ったのだという教会の出張所にて懺悔させられることになったのであった。
なんでこんなもん作ってんだよ……俺が何か仕出かすと思った? あぁ、予想通りだね! けっ!
俺の懺悔に付き合っていたジネットは参加レースに間に合わず、ラストレースにエントリーすることになり、張り切るメドラやナタリア・ギルベルタの給仕長コンビと一緒に走ることになって、安定の最下位を獲得していた。
けれど、違う視点で見ればジネット、お前が一番だったぜ!
まぁ、後半600メートルほどは徒歩だったけども。
温かい声援で迎えられてたなぁ……俺の時とは違って。……けっ。
あとがき
全力でおっぱい!
そんなお話でした☆
うむ、後悔はしていない!
むしろやりきりましたっ!!
というところで、少しだけ吐き出させてくださいまし……
感想返し、短くてすみません。
反省宮地です。
実は、まぁ、
いろいろありまして……
危うく更新が止まるところでした。
が、
なんとか踏ん張って更新です!
で、
感想返し、短くてすみません。
心が荒んだら、また旅に出ます。
来年は癒やしの年にしたいと思います。
とか思わせぶりなこと書くと気になりますよね。
でも愚痴とか言うのってちょっとアレかなって。
じゃあ黙ってろよって話なんですが……吐き出さなきゃやってられなくて……
だって、何も言わないと、
宮地さん怠けてるだけみたいでしょ?
なので、かる~く愚痴るね☆
今年出るはずだった本、出ません☆
春と秋にあった企画が二つともなくなっちゃった☆
一年間、ただ働きさっ☆
……強く生きます。
いえ、
もっと静かにフェードアウトするのかと思ってたんですが、
Amazonやhonto他、ネット書店で
【刊行中止】って殊の外大々的に出ちゃったもので、
ちゃんと弁明しておかないと
「パクリか?」
「著作権違反か?」
「犯罪か? 捕まったか?」
とか思われたらやだなって。
全部違います。
理由は言えませんが、いろいろ歯車が噛み合わなかっただけです。
詳しくは話せません、すみません。
気持ち悪いですよね。モヤッとしますよね。
でもすみません。
ただ、
パクってないし著作権の侵害もしてないし、まだ捕まってません。
それだけは信じてください。
そして、ちょこっとヘコんでんだなぁ~って。
ちょっと更新ペースが落ちたり感想返しが短くなったりするかもしれませんが、
なるべく頑張ります。
で、いっぱい旅してきます。
とりあえず、
瀬戸大橋からの香川県と
出雲大社へ電車での旅(飛行機で行くよりも困難な道のり)と
後楽園&倉敷&イナバ化粧品店を巡る岡山の旅
あたりは行ってみたいなぁ~と思ってるんです。
尾道で時を駆けるのもいいですねっ!
松本に行ったらですね、
じもてぃ~(地元民)の方が何名かTwitterにコメントくださいまして。
皆様の地元にお邪魔するのも楽しいかなぁ~とか思ったり。
ただまぁ、
きっと皆様の中の宮地さんは超絶美形の爽やか好青年でイメージされているでしょうから、
本物をお見せするわけにはいかないんですけども。
がっかりするどころか、ぽっくり逝きますよ!? 残念過ぎて!
ですので、かる~くニアミスくらいがちょうどいいんです、きっと。
宮地さんが旅の目的地にする場所の条件
・動物にエサがあげられる
・高いところに登れる
・ご飯が美味しい
これです!
特に動物! これが重要です!
どこかいい場所があったら教えてくださいね。
乗馬とか!
乳搾りとか! ……いえ、ウシですよ、ウシ!
ウシ以外の乳搾りが出来る場所なんて…………こっそり教えてください。
いつか、いろいろなところへお邪魔出来ればいいなぁ~と思っています☆(お金、そんなにないんですけどねっ!)
というわけで、愚痴ったので元気出ました!
ここからはいつものあとがきです!
本屋に……入れませんっ! 心臓が、軋むように……痛い……っ!
あぁ、引き摺っちゃった!?
トラウマとか披露してる場合じゃないんですってば!
あとがきあとがき!
おっぱい! そう、おっぱいの話!
それも、物凄い巨乳か、幼女の育ちかけの…………いえ、捕まってませんよ!? まだ! かろうじて!
まぁ、更新が止まったら
「……あぁ、ついに」
と、思っておいてください。
あぁそうそう、
旅に行く度に、幼女が向こうから、『向こうから』寄ってくる性質が、
どうやら私には備わっているようです。『向こうから』ですよ!
秩父では、送迎バスで幼女が隣の席に座り、
今回松本では、ハトのエサ置き場で幼女と戯れました。
いやぁ、物凄い数のハトが群がってまして、
エサ置き場に。
ヤツら、分かってるんですね、そこにエサがあるって。
で、お金を入れてエサを取り出すんですが、
お財布を出した途端、ハトが肩に、腕に、頭に停まるんです!
ハト「ん? 買うんでしょ? ほろっほー」
ってな感じで!
ハト「こうやって、肩に停まると嬉しいんでしょ? ほろっふ~」
って!
で、幼女がエサあげたいのに、ハトの勢いが凄過ぎて、
幼女「こわ~い!」
って、エサ売り場の前で立ち往生してまして。
これはあれだ、
大人である私がお手本を見せてあげよう、と。
お財布出し~の。
ハト「「「バサバサバサッ、ほろっほー」」」
お金入れ~の。
ハト「「「早く買いなよ、ほろっふ~」」」
エサ取り出し~の。
ハト「「「うらぁぁああ、よこせごるぅぁあああああ!」」」
痛い痛い痛い! 指を突くな! 顔の横で羽ばさばさするな!
幼女「今がチャンスだ! ほろっほー!」
とまぁ、私の尊い犠牲により、幼女は無事ハトのエサをゲット出来たのでした。
私は羽まみれになりましたけどね!
でも、その幼女が、
幼女「ありがとー!」
って言ってくれたので、オールオッケーです!
可愛いなぁ、子供! 健全な気持ちで!
け・ん・ぜ・ん・な、気持ちで!
で、その幼女、
弟と一緒にエサをあげていたんですが、
ハトが弟の頭に停まった途端、
指差して「うっきゃっきゃっきゃっきゃ!」って、爆笑。
幼女「ハトが、頭にっうきゃきゃきゃ! 頭に……うきゃきゃきゃ! ハト……うきゃきゃきゃ……頭……きゃっきゃっきゃっきゃっ……ハたまっ! きゃははははは!」
あんなに怖がってたのに、
他人事だと大爆笑なんですねぇ……小悪魔ちゃんめ☆
そういえば、別の場所でですが、
幼女「トカゲの捕まえ方知ってる? こうだよ! ほら!」
って、レオパードゲッコーを鷲掴みで見せつけてきた娘もいましたっけ……
度胸、あるなぁ。
ちなみに私、爬虫類も大好きです。
可愛いです(*^_^*)
『異世界ムツゴロウ』とか書こうかと思うくらいに。
むちゅごりょーさん「あ~、よしよしよし! 火山コカトリスは、こうして毒の爪で人間を威嚇してくるんですねぇ~、可愛いですねぇ~」
火山コカトリス「(ぐさっ! ぐさっ!)(……こいつ、毒が効かねぇ!?)」
収録後、よ~く見ると指先とかちょっと石化してるんだけど、ちょっとくらい気にしない。それよりも可愛いが優先。
そんなむちゅごりょーさんのお話。
……うん。たぶん肖像権的にNGですね。
私の知っている動物知識をご披露したかったんですが……
たとえばですね。
【ニホン中学生男子】は、
片思いの女の子のことを思って「俺の愛は永遠だから」とか語るんですが、
前の席の女子の透けブラが気になって仕方がないんですねぇ~。可愛いですねぇ~。
さらに、全然ストライクゾーンから外れまくってるオバサンであっても、目の前でスカートが捲れると思わず「がっ!」と見ちゃって、その直後に「なんで見たんだ、俺ぇぇええ!?」と、自己嫌悪に陥っちゃうんですねぇ。でも、『スカートの中身』への好奇心が勝っちゃうんですねぇ~。すごいですねぇ~。
部活の遠征でバスに乗ってちょっと遠出した帰り道、自転車でならギリ行ける距離だなぁ~くらいのバイパス沿いに大量の『大人の絵本』を発見すると、夜中集まってくるんですねぇ~。示し合わせたわけじゃないんですが、ほとんどの【ニホン中学生男子】が集まってくるんですねぇ~。これは、カブトムシが樹液に集まるのと同じような習性なんですねぇ~。蚊がメスのフェロモンに群がって蚊柱を作るようなものなんですねぇ~。つまり、【ニホン大人のぼっきゅっぼんな女性】は、写真でもフェロモンを出しているんですねぇ。すごいですねぇ~。
みたいな、ね!
動物って、面白いですよね☆
これを読んで、「へん! オレっちは全然そんなことねーぜ! ばーろー!」と思っている中学生男子!
……あと三年もすれば、君たちも素直に「おっぱーい!(ノシ゜▽゜)ノシ」と叫べるようになるのさ。
サナギが蝶になるようにね。
つまりそれが、変態(←生物学的な意味の方の)ってヤツさ!
幼虫たん「ままぁ、おっぱ~い! おっぱ~い!」
サナギぼぅい「ふん。別に俺はそーゆーの、きょーみねーし」
チョウチョ紳士「おっぱぁぁああ~い!( ゜∀゜)o彡°」
それが、成長ってヤツさ☆
そんな、青少年少女たちに向けた、ためになるお話を書きたかったのですが……
肖像権がなぁ~
残念だなぁ~
どんな動物の話をしても、毎回おっぱいで落とせる自信があるのにっ!
まぁ、しばらく新作はやめて、
細々と詐欺師を書こうと思います。
セルフ癒しのため、
本当に山も谷もないお話が続きますが、
懲りずにお付き合いいただけると幸いです。
…………谷間はあるよ☆
今後ともよろしくお願い致します。
宮地拓海




