222話 『宴』の準備8
「あ、帰ってきたね」
あちらこちらを歩き回って、陽だまり亭へ戻ると、エステラがいた。
「おぉ、エステラ。久しぶりだなぁ」
「は? 昨日会ったじゃないか」
はて、そうだったか?
なんとなく、一ヶ月ぶりくらいな気分なんだが。
「それはそうと、ついに出来たんだってね、たい焼き」
「おう。なかなかの逸品になったぞ。な?」
「はい。自信作です」
陽だまり亭風たい焼きは、ジネットも太鼓判の美味さだ。
エステラも、話だけ聞いて気になっていたのだろう。仕事を片付けて飛んできたらしい。
「……じゃじゃーん。たい焼き、やいちゃいました」
マグダが、『甘栗むいちゃいました』的な雰囲気で皿に載ったたい焼きを持って厨房から出てくる。
……焼いちゃったのか。
「……エステラ。試食を」
「あ、ボクはジネットちゃんが作ったヤツをいただくから、それはウーマロにでも食べさせてあげるといいよ」
「……同じ材料を使っているから、味に大差はない……………………(はず)」
物凄~く小さい声で(はず)って言ったな、今。
「マグダさんが焼いたんですか? 凄いです」
「……ふふん」
「まだ教えてもいないのに、勝手なことを……」
ジネットは褒めているが、俺は感心していない。
人に提供するのはきちんとマスターしてからにしてもらいたい。
「でもまぁ、エステラならいいか」
「やめてくれるかい、そのリカルドやウーマロと同じような扱い」
甚くご不満な様子で、エステラが頬杖をついて俺を睨んでくる。
そのカテゴリーを嫌がるってことは、あいつらのことを凄く低く見積もっているという証拠だぞ? まったく、知り合いに対して酷いヤツだ。可哀想だとは思わないのかねぇ。
もし俺だったら……俺があいつらと同じカテゴリーに入れられたら………………
「本っっっっっっっっっっ当に申し訳なかった!」
「そこまで本気に謝罪しなきゃいけないような扱いをしたと認識しているとしたら、彼らを物凄~~~~く低く見ているということだよね。酷いヤツだな、君は。可哀想だとは思わないのかい?」
「いや、全っ然」
「奇遇だね。ボクもなぜか、彼らに対してはあまりそういう感情が湧かないんだ」
「もう、酷いですよ、お二人とも」
ジネットが俺とエステラを同時に叱る。
「ぷぷぷっ、叱られてやんの」
「君もだということをお忘れなく」
「俺はもう慣れている!」
「慣れないでくれるかな、そういうのに」
そんな話をしている間中、ずっとマグダがエステラを見つめていた。たい焼き(?)の載った皿を持ったまま。
「……食ってやれよ」
「最初はまともな物がいいんだよ、ボクは」
「俺は徹頭徹尾まともな物がいいぞ」
「それはボクもそうだよ」
じぃ~~~~~~っと見つめるマグダ。
こいつもなかなかしぶといよな。
「では、わたしがいただきましょうかね」
そう言って手を伸ばすジネット。――の腕を、エステラがガシッと掴んだ。
「やめた方がいいよ、ジネットちゃん」
「え……っと、でも」
「なぜなら、さっきマグダが厨房の中で『…………あっ』って言っていたからね」
「おい、マグダ。お前、なに仕出かした?」
「……ぴゅーぴゅー」
「吹けてねぇよ、口笛」
それにしても、よく気が付いたもんだな、厨房の中のマグダの呟きなんて。
普通聞こえねぇぞ。…………執念、かな。どんだけ食いたかったんだよ、たい焼き。
「ふなぁー!?」
その時、突然厨房からロレッタの悲鳴が聞こえた。
俺たちは顔を見合わせ、どうするべきかと視線で合図を送り合う。
と、そうこうしていると、ロレッタが素知らぬ顔で厨房から出てきた。手には、たい焼きの載った皿を持って。
「「「ロレッタ、何をやらかした?」」」
「はぅっ!? お兄ちゃんにエステラさんにマグダっちょ、き、決めつけはよくないですよ!」
いや、確実に何か仕出かしただろう、今の悲鳴は。
「まぁ……だいたい見当はつくけどな」
嘆息しつつ、俺はマグダとロレッタ、それぞれが持つ皿に載ったたい焼きを一尾ずつ手に取り、ひっくり返す。
裏面が真っ黒焦げだった。
「火加減を間違えたな?」
「じ、時間は覚えていたですよ!?」
「……そう。時間は店長とまったく同じだった」
本来弱火のところを強火で同じ時間だけ焼けば、そりゃ黒焦げにもなるわ。
おそらく、最初は慎重に焼いていたのに、片面の焼き色が綺麗だったから「あ、余裕~」とか思って油断したんだろう。ありがちだ。
そしておそらく、こいつらはどっちも最初から強火で焼いている。最初の片面はちょこちょこ確認していたから焦げなかっただけだ。
その証拠に、中が生焼けだ。
「……材料は同じ」
「そうです! 同じです!」
「うん、やっぱりジネットちゃんって凄いんだね。改めて実感したよ」
同じ材料でも、作り手によって料理は感動にも絶望にもなるんだな。
「ジネット。焼いてきてやれ」
「はい。少し待っていてくださいね」
嬉しそうに厨房へと駆けていくジネット。
どうして作るのがそんなに嬉しいのかねぇ。面倒くさくなることはないんだろうか?
「……これは、しかたない」
「ですね」
「……じゃあ、これは」
「ウーマロさんとトルベック工務店の大工さんにお裾分けです」
残飯処理じゃねぇか。
まぁ、ウーマロならマジで美味そうに食うんだろうけどな。
あぁ、そういえば、大工どもの中にはロレッタのファンが多いんだっけ?
チョロいなぁ、この街の男どもは。
「それで、どこに行ってたんだい?」
「いろいろだ」
ホント、いろんなところに行ってきた……って思えるくらいには疲れたな。
なんでか、精神面の方が。
「今日はなんだか空いてるなって思ったら、トルベック工務店の大工たちが見当たらないね」
「あいつらは今、屋台の制作で忙しいんだよ」
二十四区で簡単に組み立てられる屋台を新しく作っているらしい。
俺が発注した遊具は、まだ材料が揃っていないからそっちは後回しだ。
「その代わりというのか……」
エステラの視線が向かう先には――
「注文はなんさね? あ、それならこっちの定食の方がいろいろついてお得さね。でも、ケーキ食べたいならこっちにしてお腹に余裕を持たせておくといいさね。別腹とはいえ、満腹で食べるよりある程度空いてた方が美味しく感じられるからねぇ」
――ノーマがテキパキとウェイトレスの仕事をこなしていた。
「何してるの、ノーマ? 確か、抱えてる仕事の量が物凄いことになってた気がするんだけど?」
「まぁ、いろいろあってな。あいつは今、金物ギルドに帰れない身なんだ」
金物ギルドにいると、文字通り倒れるまで働くからなぁ。
ここにいて休息出来るならそれに越したことはない。……と思ったのだが、働いてるなぁ、誰よりも。
「なぁ。もしかして、この街って『休む』って言葉ないのか?」
「あるよ。ボクが四番目に好きな言葉だよ」
「あぁ。『乳』『成長』『誤差』に次ぐ四番目な」
「そんなトップスリーなもんか」
なんだ、違うのか。
「じゃあ、トップスリーはなんなんだよ」
「『愛』『仲間』『平和』だよ」
その次が『休む』で、本当にいいのか?
疲れ溜まってんじゃないのか? 休め、な?
「ふぅ~、これでようやく一段落さね」
なんだか、勤続十年のフロアチーフのような雰囲気を纏ってノーマが息を吐く。
お前が回してるのかよ、ここのフロア。なんにでも適応するよな、ノーマは。チアリーダーとか、アイドルマイスターとか。
「あ、ヤシロ。戻ってたんかい?」
「この狭さでよく気付かずにいられたもんだな」
「アタシは、仕事をやってる時は一心不乱なんさよ」
だからのめり込むんだよ、お前は。
臨時お手伝いさん用のエプロンを翻して、こちらへやって来るノーマ。
何気に、何を着せても似合うんだよな。可愛いエプロンも割烹着も、どっちも見事に着こなしてしまう。
新妻も小料理屋の女将さんも見事にこなしてしまうポテンシャルの高さを垣間見せる。
「頼まれてたお使い、午前中に済ませておいたさよ」
「おぉ、悪いな。助かるよ」
「夕方には顔を出すって言ってたから、そろそろ来るんじゃないかぃねぇ」
タイミングもばっちりだ。
「誰を呼んだんだい?」
「ん? ネフェリーだ」
「……と、いうことは、卵か…………ふんふん」
アゴに指を添えて、エステラが卵を使った料理でも思い浮かべていそうな顔をする。
だが、残念だな。今回俺が欲しいのは卵ではない。
と、そんな話をしていると、待っていたかのようなタイミングでネフェリーが店に入ってきた。
「やっほ~。呼ばれたから来たよ~」
仕事終わりなのか、心持ちスッキリとした表情をしている。
いつも見る作業着とは違って、実にガーリーなファッションを身に纏い、ちょっと背伸びした女の子感満載だ。
「ウクリネスの新作か?」
「あ、分かる?」
「似合ってるぞ」
「えへへ~、さすがヤシロね。褒めポイントを心得てるなぁ」
楽しむためのファッションを満喫しているネフェリー。
喜び方にも余裕が感じられる。
服を自慢したくてたまらないのだろうな。
「……これが無自覚だから始末に負えない」
「お兄ちゃん、いつか刺されなければいいですけど……」
「まぁ、大丈夫なんじゃない、ヤシロなら……刺されても」
後方で何やらこそこそ話す連中がやかましいが、あえて無視する。
別に口説こうとかポイント稼ごうとか思ってねぇっつうの。
「それで、私に何か話があるんだよね?」
「いや。新しい料理を作ったから食わねぇかなぁと思ってな」
「ホント!? ドーナツの時は出遅れちゃったから悔しい思いをしたんだよぉ」
仕事と重なってドーナツデビューが遅れたことをいまだに悔やんでいるらしい。
パウラあたりに自慢でもされたのだろう。
「なんさね。ネフェリーに試食させるために呼んだんかぃ?」
「……ヤシロはたまにネフェリーに親切になる」
「言われてみれば、特別扱いされてることが多い気がするです」
「付き合いも古い方だしね、ヤシロとネフェリーは」
女子たちの視線が温度を下げていく。
……なんか、ロクデナシを見るような目で見られてるんだが?
「ちょっ、……も、もう! 変なこと言わないでよ。私とヤシロはなんでもないし、全然、そんなんじゃないんだから! ね、ねぇ?」
「あぁ、うん。そーだな」
全然そんなんじゃないというか……出会った当初から俺の中では不動のニワトリ枠だぞ、お前は。
……つか、なんでかネフェリーを狙ってる説が根強く囁かれてるよな、俺。前から。
ちょっと日本が懐かしくなるからかな?
キンチョーの夏。日本の夏。
「まぁ、ネフェリーはゆっくりしててくれ」
「う、うん。じゃあ、そうさせてもらうね。……えっと、わ、私、ジネットに挨拶してくる」
ノーマたちにやいのやいの言われて、ネフェリーがこの場から逃げ出した。
そういうところも、女の子らしいんだよなぁ。昭和の漫画に出てきそうな感じで。
……ただ、顔はどこまでもニワトリなんだけど。
「じゃ、そろそろ本命に入ってもらおうかな」
ネフェリーが厨房に入ったのを確認して、店のドアを開ける。と、そこに案の定パーシーがいた。
「待ってたぞ」
「な、なんでオレがここにいると分かったんだよ、あんちゃん!?」
分からいでか。
つか、お前を釣るためにネフェリーを呼んだんだっつの。
「あぁ、パーシーに用があったんさね」
「……ネフェリーはエサ」
「百発百中で釣れるです」
「チョロいよね、パーシーも」
「なんか、オレに対する扱い酷いんじゃね? 相変わらずよぉ!」
正しく認識しているだけだ。
おのれの行動を今一度顧みるといい。
まぁ。パーシーのストーカー気質が今さら改善されることなんかないだろうから、そこら辺は追及しないでおく。時間の無駄だからな。
「でだ、パーシー。頼みたいことがあってな」
「こんな扱い受けた後じゃ、素直に聞きたくねぇし」
「ネフェリーと同じおやつを食べたくないか? 二人で一緒に。お揃いで」
「なんでも言ってくれし! 全力で力を貸すっつぅの!」
「……チョロ」
こらエステラ。
折角パーシーがやる気になってるんだから、事実をぽそっと呟くんじゃない。
「で、頼みってなんだし?」
「砂糖工場の責任者を紹介してくれ」
「オレだよ!」
「いや、妹の方に話があるんだが、忙しそうだからな。仲介を……」
「オレが責任者! 最高権力者! アレ、オレの工場!」
「従業員が認めてなくても?」
「う……うるせぇな…………気にしてっこと突っ込むなし……」
気にしてるなら、認めてもらえるように仕事に励めよ。汚名を返上する気がないのか、お前は?
「んじゃあ、汚名返上の機会を与えてやろう」
俺が発注したものを見事に納品してみせれば、世間のお前を見る目も変わってくるだろう。
「今ある砂糖よりも、もう少し粒が大きな砂糖を作ってくれ」
「あぁ、ザラメのことか?」
なぬ?
「上白糖を作る過程で、『もっと純度上げれんじゃね?』って思って試してみたら、デカい結晶の砂糖が出来てさぁ。何かに使えんだろうなって思って商品化進めてたんだよ、ちょうど今」
「で、その砂糖の名前は、なんだって?」
「ザラメっつぅんだ。オレが付けたんだぜ、マジイケてね?」
これも『強制翻訳魔法』の仕業か。
『強制翻訳魔法』が「同じ物」と認識したってこと、だよな、これは。
「パーシーが、仕事をしていたなんて……」
「ちょっ!? そこ驚くとこじゃねーし、マジで!」
驚くっつの!
いっつもいっつもネフェリーの背後から覗き見みたいなことしてるくせに、いつ働いてんだよ。
「ザラメならすぐ用意出来っけど、いる?」
「とりあえず1kg用意してくれたら、ネフェリーにお前の技術の凄さを伝えてやるよ」
「7t持ってくる!」
「そんないらねぇわ!」
単位を変えるな。
しかし、ザラメが誕生していたとは…………これがパーシーの手柄でさえなければ、もっと素直に喜べたものを……っ!
「お前はホント空気読めねぇよな。でかしたぞ」
「褒めるなら最初から最後まで褒め通せし!」
微かな悔しさを感じつつも、ザラメが手に入って安心した。
最悪は飴玉でも使おうかと思っていたところだったからな。
あとは、ノーマんとこのムキムキどもが頑張ってくれれば……
「はぁ~い、ヤシロちゃ~ん! おげんこ~?」
「たった今、すこぶる具合が悪くなったところだ」
噂をすれば、ではないが…………いいタイミングで出てくるんじゃねぇよ、金物ギルドのムキムキ軍団。心臓に悪いだろうが。
タイミングを外して出てきたらぶっ飛ばすけれど。
「注文されてた物、一応形にはなったわよ~」
「ちゃんと出来てるか確認してほしくて持ってきたわよ~」
「そ・れ・か・ら。ノーマちゃんとの仲が進展したか聞きに来たわよ~」
「「「わよ~」」」
「うるさいさね! おかしな顔でおかしなこと言ってんじゃないさね!」
店の前に群がるムキムキどもを、ノーマが懐から出した煙管でぴしぴし叩いている。
おいおい、ノーマ。……火を入れればもっと攻撃力上がるだろ? 熱しろよ、もっと。
「で、何を持ってきたんさね?」
「まずはねぇ、コ・レ」
と、オッサン――確か、ゴンスケだっけ?――が取り出したのは、円柱の鉄だった。
長さ10センチで直径が4センチ程度だ。
「『ころ』か?」
「そうそう♪ ベアリングの中に入れたのと同じ『ころ』よ~。精一杯均等にしたつもりだけど、どうかしら?」
渡された『ころ』をテーブルに置いて、指で押して転がす。
厳密に言えば、いろいろ問題点はあるが……
「まぁいいだろう。そこまでの精度は求めてねぇし」
「よかったぁ~! ホント、難しいのねぇ、円を作るって」
この円柱の『ころ』を大小二つの筒の間に入れて、回転を助けるベアリングとする。
作る物は遊具だから、自然とベアリングのサイズもデカくなり、比例して『ころ』も大きくなる。
ガタガタ音がするかもしれないが、どうせガキどもが乗って大はしゃぎする物だ。気にするほどのこともないだろう。
「ふ~ん……」
と、蚊帳の外に置かれたノーマが剣呑な目で『ころ』を見つめて、指でそれを転がす。
「ちょっと歪なんじゃないんかぃねぇ……真っ直ぐ転がらないさね」
「も~ぅ、ノーマちゃん。小姑みたいよぉ~」
「そんなことないさね。アタシはただ、金物ギルドの一員として、中途半端な仕事を同僚にやられると迷惑だから……あ、ここに小さい傷が付いてるさね。どういう風に扱ってるのか、聞いてみたいもんさねぇ~」
小姑だ。
小姑がいる。
そうか。ノーマを蚊帳の外に置くと、こんな風に拗ねられるのか。
今後の参考にさせてもらおう。ノーマには適度な仕事を。それを忘れないようにしよう。
「ベアリングの動作確認はあとでさせてもらうよ」
「それじゃ~、次のやつね。こっちはすっごい自信あるのよ~」
濃~い髭にびっしりと埋め尽くされた口周りを緩めて、ゴンスケは他のムキムキにアイコンタクトを送る。
……ウィンクとかやめろ。ここは飲食店だぞ? オッサンのウィンクとか、不衛生だろうが。
「じゃじゃ~ん☆」
と、ムキムキが機械を持ち込んでくる。
それより、なんでかな。
「じゃじゃーん」って、さっきマグダが言った時は可愛かったのに、オッサンが言うと殺意が湧くのは。
「ヤシロ。あれはなんなんだい?」
「あぁ、あれか? 心が乙女のムキムキオッサンだ」
「それじゃないよ!? そっちは知ってるから!」
質問に答えてやったのに怒り出すエステラ。
じゃあ何が聞きたいんだよ?
「あの機械は何をするものなのかって聞いているんだよ」
「あれはな、ザラメを入れることで……ネフェリーが『えっ、お砂糖ってこんなことも出来るの? すご~い!』って感激しまくる機械だ」
「あんちゃん、ちょっと待っててくれ! すぐにザラメを持って戻ってくる! 三十分、いや、十二分で戻っから!」
言うが早いか、パーシーは物凄い速度で店を飛び出していった。
十二分ってことは……あいつ、四十二区内に砂糖置き場を確保してやがるな。いつか移住してくる気なんだろうな、きっと。
「ねぇ。今、パーシーの声がしなかった?」
厨房から顔を出したネフェリー。
手にはしっかりとたい焼きが握られている。
「あっ! あれがたい焼きかい!? ボクも食べたい!」
「「「「「アタシたちも~!」」」」」
「あんたらは少し遠慮するさね!」
あっという間にたい焼きに群がる乙女(?)たち。
いいのかエステラ。お前、なんかそのカテゴリーに含まれてるぞ、今。
きゃあきゃあと姦しく、「可愛い~!」だの「甘~い」だの「幸せ~」だのと騒ぐ乙女(?)たち。
エステラも満足そうにたい焼きを頬張っている。
だがな……断言してやる。
お前たちはこの後、今以上の感動を味わうことになる。
俺が発注した二つの物が揃った時にな。
まず、一つ目は俺が発注したこの機械。
高さが120センチ程度の大きな長方形の箱で、中心部には大きな桶が取り付けられている。その桶の中央には『熱伝導率が高くて高温に耐えられる金属を筒状に加工した物』がセットされている。
外枠には大きめのハンドルなんかがついていて、こいつを回すと、桶の中央にある『熱伝導率が高くて高温に耐えられる金属を筒状に加工した物』が回転する仕組みになっている。
その『熱伝導率が高くて高温に耐えられる金属を筒状に加工した物』の下には、強力な炎を維持出来る櫓を置き、下から高温で熱せるようにしてある。
こいつに俺が発注した二つ目の材料『ザラメ』を入れれば出来上がるってわけさ。
そう――
綿菓子がな!
「……ヤシロが笑っている」
「この顔は、『うっしゃっしゃ! また一儲けさせてもらいまっせー』って時の顔です!」
「この機械が、何か凄い物を生み出すんさね!?」
「それは楽しみだね。ね、ジネットちゃん」
「はい。そうですね。……うふふ。楽しそうですね、ヤシロさん」
そして、ネフェリーに褒めてほしい一心で四十二区を爆走していたパーシーは、本当に十二分ほどで戻ってきた。気持ち早いくらいだ。
それじゃ、作りますかね……ふわふわの、夢のようなお菓子をな!
ありがとう、ありがとう。
本当にありがとうございます。
前回のあとがきに対し、温かいお言葉をたくさんいただきまして、
心がふんわり軽くなりました。
もう少し日常回(という名の道具集め)が続いた後、二十四区へ向かいます。
ですので、どうか皆様、
水着ギャルのついでくらいに、お待ちくださいませ。
さて、
前回は触れることも出来ませんでしたが、
レビューをいただきました!
前回、「感想は次回!」とすら言えずにすみませんでした。
お待たせしたぶん、頑張っちゃいますよ!
2017/05/29 09:30の方!
まずタイトルに注目! 『おっぱい詐欺師』……って、それはエステラのことでしょうか!?
……いや、エステラは素直にぺったんこなので、詐欺ではないですかね……むむむ。
という感じで、出始めからテンポよく(おっぱいの話が)展開していき、「おっぱい」というワードだらけにも拘らず、きちんと作風も理解出来る、面白い構成になっていました。
まとめの中に笑いと問いかけと作品紹介がギュッと詰め込まれているので勢いがあって一気に読み切れる、そんな面白みに溢れるレビューでした。どうもありがとうございました!
おぉ……う。
いえ、まさか、ここまで来るとは……
本当は、もっともっと前に、
「もう、こんなにいただけたのだから十分過ぎますよね」と思っていたのですが……
78件です!
ここまでくると、やっぱり欲が出てしまいますよね。
キリのいい数字。
大台。
皆様が大好きなあの数字――
そう、81件!
まさかの81(ぱい)件の姿がおぼろげに見えてまいりました!
こ、こんなことが実際に起こり得るなんて……
思えば、遠くへ来たものですねぇ。
何度も言っておりますが、
何度でも言いますが、
本当に、皆様のおかげです。ありがとうございます!
さてさて、
こういうお話をですね、お家のノパソ様でカタカタ書き続けておりますと、
最近のノパソ様は大変利発でいらっしゃって、
学習能力が凄まじいんですね。
「ちち」は、ほぼ100%「乳」に変換されるようになりました。
「ちちおや」でも「乳」「親」と変換されるレベルです。
あと、変換予測で、「お」っていれるだけで「おっぱい」が候補に挙がってくるほどです。
まぁ、そんなパソコンは、きっとここをご覧の皆様のお宅にもあることでしょう。
予測変換が「おっぱい」「ちっぱい」「ぺろぺろ」「ぺたぺた」「くんかくんか」「はぁぁぁあん、マグダたんマジ天使ッス」みたいな言葉で埋め尽くされていることでしょう。
でも、最近、ついに、
本体まで「そーゆー」学習をしてしまったようです。
本体。そう、宮地さん、こと、私です。
実はですね、
新シリーズをちょこっと書いていたんですが、
その中で「胸倉を掴む」って入力したかったんですね。
ところが、この体、マイボディー、マイパーフェクトボディーがですね、
ブラインドタッチをようやく覚えたこの私の体がですね、
『胸ブラを掴む』
と、タイプしやがりまして。
もう、完全に痴漢です。
胸とブラを掴んでますからね。
おそらくですが、一回ブラを外して、右手におっぱい、左手にブラジャーを掴んで、
電車の中とかでですかねぇ、
「捕ったどー!」とか、叫んじゃってるんでしょうねぇ。
完全に変態です。
ちょっと左手の人差し指が張り切り過ぎたんでしょうね。
二段目の「G」を押せばいいのに、斜め下の「B」まで行っちゃったんですね。
その結果、「胸倉」が「胸ブラ」に。
そして、漢字変換さんがキレーに「胸ブラ」に変換してくれちゃったんですね。日々の学習のたまものでしょうね。
誤字チェックで読み直してる時に気付いて「この主人公何してんの!?」って思いましたよ。えぇ、思いましたとも。
あ、そうそう。
新シリーズが近々始まります。準備が出来次第。
この準備で、全然ネット内お散歩が出来ませんでした……Twitterとか放置です。
またしばらくバタバタするでしょうが、書いてみたかったお話なので、
もしよろしければそちらの方も覗いてみてくださいね。
『異世界詐欺師~』は変わらずこのペースで続けたいと思います。
続けたいと『思います』……思ってはいます、よ。はい。
とにかく、がんばります!
――陽だまり亭・二階の客間・深夜
ロレッタ「うぅ……今日は昼過ぎからずっとお客さんが多くて、夜になっても全然客足が途絶えずに、かといって座席が全部埋まるほどではない、微妙に忙しくて微妙に暇な感じがダラダラ続いて、『さぁ、もうすぐ閉店です』って時間になってモーマットさんが嬉しそうな顔で駆け込んできて『ウチのギルドの若いヤツにガキが生まれたんだ!』とか、『なんでウチに自慢しに来るんですかねぇ』って報告をしに来て、『あぁ、お兄ちゃんに知らせたかったんですねぇ。なんだかんだ、お兄ちゃんのこと好きですもんねぇモーマットさん』みたいな一応の納得を得たまではよかったものの、そこからその新米パパとか呼んじゃって、お酒もないのに酒盛りみたいな賑やかさの宴会が始まっちゃって、そしたら店長さんは案の定『他ならぬモーマットさんのお祝い事ですから、今日は延長で』って、閉店時間を過ぎても食事とかばんばん提供しちゃって、『ロレッタさんは先に上がっていただいても構いませんよ』とかあの笑顔で言われたですけど、もはや陽だまり亭はあたしなくしては語れないってくらいにロレッタちゃんゾーンが出来上がっちゃってるですからあたしだけが先に帰るとかあり得ないわけで、要するに最後までお付き合いする所存だったがために、『じゃあ今夜はお泊まりで』と極自然な流れでそうなったはいいんですが、作った料理が多い分閉店作業も多くて、ようやく眠れる~とベッドに入ってみたものの、すっごく小腹がすいて小一時間くらい寝返りを打ち続けてみたものの一切眠れなくて、罪悪感に苛まれながらも、厨房に何かつまめる物とか食べ残しがないかを漁りに来てしまったです。こっそりと。……見つかるわけにはいかないです。こんな意地汚い場面を……なので足音を立てずに階段を降りるです」
ヤシロ「長ぇよ、お前のモノローグ」
ロレッタ「にょにょ!? お兄ちゃん!?」
ヤシロ「つまみ食いくらい静かに行けないのか、お前は?」
ロレッタ「つ、つつつ、つまみ食いとはひ、ひひひ、人聞きがわわわわわ……」
ヤシロ「あんだけ饒舌にしゃべれるお前が、そこまでドモるか?」
ロレッタ「うぅ……心の疚しさがつい表面に出てしまったです……」
ヤシロ「まぁ、今日は忙しかったからなぁ……無駄に。気持ちは分からんではないぞ。だがな、店の商品に手を付けるのは感心しないな。『これくらいいいだろう』が積み重なると、損害は膨らみ続け、やがて取り返しがつかないところまでいってしまいかねない」
ロレッタ「はい……です。ごめんです、お兄ちゃ……………………なんです、その手に持ってる卵は?」
ヤシロ「生みたて新鮮な生卵だが?」
ロレッタ「お兄ちゃんもつまみ食いする気満々です! しかも、食材まですでに手に入れて! あたしより用意周到です! 小悪党です!」
ヤシロ「バカモノ! これは中庭で飼っている『むねにく(ニワトリの名前)』の卵だ! こいつは商品じゃねぇ。元手もタダだしな」
ロレッタ「そんなの屁理屈です! そして、その名前は店長さんに二秒で却下されてたはずです!」
ヤシロ「バカモノ! 二秒で却下されたのは『おっぱい丸』の方だ。『むねにく』は三十秒ほど考えた後却下されたんだよ」
ロレッタ「却下されてるじゃないですか、結局!」
ヤシロ「まぁ、いつまでも中庭に突っ立っててもしかたない。一緒に来るなら卵を食わせてやろう」
ロレッタ「ホントです!? わ~い、嬉しいです」
ヤシロ「んじゃ、厨房のドアを『ガチャー』っと……」
マグダ「……いらっしゃいませ」
ヤシロ「ふぉう!? マグダ…………い、いたのか…………心臓が飛び出るかと思ったぞ」
マグダ「……二人が何をしに来たのかくらい、マグダには分かっている」
ロレッタ「……うっ、さすがマグダっちょ。なんでもお見通しです……」
マグダ「……二人とも、つまみ食いは控えるべき……もっしゃもっしゃ」
ロレッタ「ほっぺたぱんぱんで説得力ないですよ!?」
マグダ「……マグダは、育ち盛りだから」
ロレッタ「お店の物に手を付けると、お兄ちゃんが怖いですよ」
マグダ「……平気。これは中庭で栽培していたキャベツだから商品ではない。元手はタダ」
ロレッタ「言い訳がお兄ちゃんとまったく一緒ですよ!?」
マグダ「……今日の中途半端な忙しさは、眠気よりも空腹を誘発する」
ヤシロ「確かに。どうせなら死ぬほど忙しい方が、体も疲れてぐっすり眠れるんだよな」
マグダ「……今日の疲労は、気疲れ」
ロレッタ「でも、楽しかったです。みなさん、凄く笑顔だったですし」
マグダ「……楽しかったという点に関しては、反論の余地はない」
ヤシロ「じゃあ、三人で何か食うか?」
ロレッタ「今あるのはキャベツと卵です。何が出来るです?」
マグダ「……『生キャベツ~生卵をかけて~』」
ロレッタ「どっちも生です!? 生々しさが半端ないです!」
マグダ「……生キャベツと半熟タマゴ」
ロレッタ「ちょっとだけ火が通ったです!?」
ヤシロ「まぁ、適当に何か作ってやるよ」
ジネット「あら? みなさん、お揃いでどうかしたんですか?」
ロレッタ「店長さん!?」
マグダ「……この時間に起きているなんて、珍しい」
ヤシロ「悪い。騒がしかったか?」
ジネット「いいえ。あの……えへへ、ちょっとお腹が空いてしまいまして」
マグダ・ロレッタ「「つまみ食いはダメ」ですよ」
ヤシロ「どの口が言ってんだ」
マグダ「……商品に手を出すことは推奨出来ない」
ロレッタ「『これくらいいいだろう』が積み重なると、損害は膨らみ続け、やがて取り返しがつかないところまでいってしまいかねないです」
ヤシロ「いや、だからどの口が……」
ジネット「確かに、おっしゃる通りですね。では、つまみ食いはやめて、みなさんでお夜食の賄いをいただきましょう」
マグダ・ロレッタ「「まかない?」」
ジネット「はい。賄い料理は従業員の正当な権利ですので」
マグダ「……そういうことなら」
ロレッタ「はい。仕方ないです!」
マグダ・ロレッタ「「ぅわ~い!」」
ヤシロ「おーおー、はしゃいじゃって、まぁ」
ジネット「ヤシロさん。何か食べたい物はありますか?」
ヤシロ「そうだな……じゃ、玉子粥でも」
ジネット「はい」
――あぁ、お夜食が食べたい。そんな夜に書いてみました。ウチにもジネットが欲しいです。
次回もよろしくお願いいたします。
宮地拓海




