179話 二十七区領主の館
二十七区の名産品はコーヒー豆だ。
かつては、この街にはコーヒーが存在しないなんて勘違いをしていたのだが、実は「あるところにはある」のだと結構あとになって聞かされたコーヒー。
その「あるところ」というのが、この二十七区だったわけだ。
ハビエルが馬車を貸してくれたおかげで、予定より随分早く二十七区に到着した。
領主との待ち合わせは正午だ。まだ一時間くらい時間がある。
そんなわけで、俺たちは二十七区の喫茶店を訪れた。
一度飲んでみたくなったのだ、本場のコーヒーを。免税証明書もあるし、店に入る度に余計な豆を押しつけられたとしても大丈夫。恐れるものはない。
コーヒーの名産地ともなれば、コーヒーには並々ならぬ情熱を注いでいるに違いない。
楽しみだ。
――と、思っていたのだが。
「ごぶっふっ!」
「ぅわあっ!?」
「…………砂利の味がする……」
「もぅ、ヤシロ。汚いよ」
口に入れた瞬間、泥みたいな臭いと、心持ちざらつく不愉快な舌触りが口いっぱいに広がって、思わず吐き出してしまった。
明らかに豆が多い。おまけに焙煎もムラがあって、焦げた臭いもするし、生豆のえぐみも存分に発揮されている。
雑なコーヒーは泥水に等しい。
「……名産地だからってあぐらかいてんじゃねぇのか」
「おそらく、大量に余るコーヒー豆を使いきろうとした結果なんだろうね」
「単純に、数が多いために、コーヒー豆の扱いが雑になっているだけなのかもしれませんね」
俺の吐き出したコーヒーを拭きながらエステラとナタリアがそんな推論を立てる。
「ほら、これで口の周りを拭いて」
そう言いながらエステラが布巾を渡してくれる。
惜しいな。これ、テーブルを拭く前に渡してくれてればお前の株も上がったのに。
「お茶受けまでコーヒー豆なのですね」
と、ナタリアが小皿に載ったコーヒー豆を指でつまむ。
十二分にローストして、ハチミツで甘くコーティングされている。
……とはいえ、食べれば苦い。
「苦いもんに苦いお茶受け付けてんじゃねぇっての」
まぁ、飲んでるのがコーヒーだから、『お茶受け』ってのがあってるのかは微妙だがな。
「……もう出よう」
どうせ、何を頼んでも豆が出てくるのだ。
コーヒーが不味い時点で、この喫茶店に滞在する意味などない。
四十二区以外では、コーヒーゼリーはもちろん、アイスコーヒーも存在していない。
ならばせめて、ブレンドにくらい心血を注いでもらいたいものだ。本場がこのクオリティじゃ、他の区に広がっていかないわけだ。
店を出る際に、箱詰めされたコーヒー豆を渡された。
持って帰ってロレッタの練習用にでもさせよう。この店のマスターより、ロレッタの方がはるかに美味いコーヒーを入れる。
ジネットとは、比べてもらえる土俵にすら上がれていない。もしジネットがこの街にいれば、多少はコーヒーの地位も上がっていただろうに。
「もしかして、ジネットの祖父さんって、二十七区の出身だったりしたのかな?」
馬車に乗り込む際、ふとそんなことを思った。
「さぁ、どうかな。ボクもお祖父さんのことはあまり詳しく聞いてないんだよね」
祖父さんが生きていた頃は、エステラもまだ子供で領主の仕事に首を突っ込んではいなかった時期だろう。
領民の出自には、興味もなかったんだろうな。遊ぶことが人生のすべてみたいなもんだしな、ガキってのは。
「しょうがないよな。その頃はまだ小さかっただろうし」
「そうですね。エステラ様がまだまだ小さかった頃のことですから」
「ヤシロ、ナタリア。なんで二人とも、胸を押さえて話してるのかな? 小さかったのは年齢の話だよね?」
馬車の中で、一人カリカリするエステラ。
まったく、こんなことで怒るなんて……小さいヤツだ。ぺたぺた。
「こっちを見ながら無言で自分の胸をぺたぺた押さえるのやめてくれるかな!?」
一睨みされて、仕方なく進行方向へと向き直る。
と、向かいの席のナタリアが目に入った。……いつの間にか、花束を三つももらっていた。
二十七区でも、ナタリアフィーバーは健在らしい。
けれど、あまり嬉しそうには見えず、困ったような顔をしている。
元来、前に出るタイプの人間ではないから、戸惑いも多いのだろう。
見も知らない相手に好意を向けられることに慣れているヤツはそうそういないからな。
「あぁ……エステラ様を差し置いて私ばかり……困りましたねぇ」
「うるさいな。今だけだよ、ブームは」
……と、こういう余計な一言は忘れず挟み込んではくるのだが。
それにしたって、困惑からくる照れ隠しみたいな意味合いが多分に含まれていそうだがな。
そっかそっか、照れてるのかナタリアは。
「モテモテだな、ナタリアは」
「……えぇ、まぁ。そのようですね」
こちらから攻めてやると、一瞬言葉に詰まり、そして憎々しげに軽く睨まれた。
「ヤシロ様も、花束の一つも贈ってみてはいかがですか?」
「リターンがないものに投資は出来ねぇな」
「あるかもしれませんよ、大きなリターンが」
花束を贈って得られるリターンってのは、ちょっと荷が重過ぎて遠慮しておきたい気分だな。
とはいえ、ナタリアが微妙な表情を見せていることでエステラがちょっと嬉しそうな顔してるのはどうなんだと思うけどな。
仲良くしろよ、お前らは。
「じゃあ、代わりにボクが花束を贈ってあげるよ」
「いえ、結構です。ぺったんこが伝染りそうですので」
「伝染らないよ!? ……誰がぺったんこか!?」
あぁ、なんかもう板に付いてきたな、この流れ。持ちギャグにして各区を巡業でもすればいい。外貨を稼いでこいよ、領主と給仕長で。
「御者には、なるべくゆっくりとした速度で館に向かうよう指示しておきました」
喫茶店で時間を潰せなかったせいで、まだまだ時間に余裕がありまくる状況だ。
なので、ここで少しでも時間を稼ごうというわけだ。
……だって、あの喫茶店居心地悪かったんだもんよ。
「ところで、この区の領主について、何か情報はないのか?」
会う前に情報を仕入れておくのは、交渉術の基本だ。
あまり面識がないにせよ、領主という立場上何かしら聞こえてくる噂くらいはあるだろう。
「あくまで噂程度の情報でしかないんだけどね」
と、前置きをして、エステラは表情を曇らせて言う。
「ここの領主は、一部の貴族から『癇癪姫』と揶揄されているらしいんだ」
「『癇癪姫』…………?」
以前、二十九区の領主に呼び出された際、俺たちは一度二十七区の領主を見ている。
その時は落ち着き払った大人しい印象だったのだが……『癇癪姫』とは。
「そんなにヒステリックなのか?」
「噂では、ね」
癇癪持ちとは交渉がしづらいんだよなぁ……
上手く言いくるめて「YES」と言わせることは簡単なんだが、そういう連中は後になって「アレは無しだ!」って癇癪起こすことがほとんどなのだ。
『精霊の審判』があるから、「アレは無し」とはいかないのだろうが……なんにせよ、後味の悪い交渉にしかならない気がしてならない。
「まともな領主はいないのかよ……」
「ヤシロ。君の隣を見てごらん」
「…………窓、だな」
「逆だよ。こっちを見るの!」
「…………壁、だな」
「誰が壁か!? まともな領主がこんなにそばにいるだろう!? ほら、もっとよく見るといいよ!」
エステラは領民想いの領主ではあるが、まともかどうかは保留したいところだな。……しょっちゅう人にナイフを向けるからな。まぁ、向けられているのは俺ばっかりだけどな。
『癇癪姫』と呼ばれる厄介な女領主。
そいつが、わざわざランチにエステラを招待した。
おまけ程度に「お連れの方も是非ご同席ください」と書かれていたらしいが…………何か裏がある気がしてならない。
エステラを取り込んで何かを画策しているのか……はたまた、それすらも『BU』の指示によるものなのか……
「新人で、しかも女性だからね。無理して威厳を出そうとしているだけなんじゃないかって気がしないでもないけどね」
領主は舐められたら終わり。
そんな思いから、エステラは男っぽい服を着て、自分を『ボク』と呼んでいた。
最近はあまり気にしないようになってきているようだが。
同じように、二十七区の領主が「男に負けたくない」と思っていたとしても、不思議ではないな。
ルシアほどのオーラがあれば、性別など関係なく誰とでも対等にやりあえるのだろうが、あんなオーラを纏ってる女がそう何人もいるとは思えない。っていうか、いてほしくない。おっかないからな。
あのレベルとなると……領主の姉であるマーゥルや、三十五区の虫人族の象徴ともいえるシラハ、そして、狩猟ギルドをその腕一本で纏め上げているメドラくらいのもんだ。
あ、あと、ベルティーナも似たようなオーラを纏っているな。
どいつもこいつも一筋縄ではいかない厄介な相手ばかりだ。
それを思えば、癇癪持ちくらいは可愛いものかもしれないな……と、なんとも後ろ向きな開き直りをし始めた頃、馬車はゆっくりと停車した。
領主の館に到着したようだ。
まだ、約束の時間には早い。
「どうする? 早く着いたらまたイヤミの一つも聞かされるんだろ?」
「けどまぁ、このまま館の前にこんな大きな馬車を停めておくわけにもいかないしね」
ややげんなりとした表情ながらも、エステラはきりっと眉を持ち上げて外交モードの顔になる。
エステラが動き出すと同時に、ナタリアも給仕長モードになり、速やかに馬車のドアを開ける。
先に降りてエステラの降車をサポートするためだ。
……だが。
「お待ちしておりました、クレアモナ様とお連れの皆様方」
馬車のドアを開けると、そこに一人の少女が立っていた。
深々と礼をし、そして背筋を伸ばして真っ直ぐにこちらに顔を向ける。
静かな佇まいでこちらを見つめるその少女は、やや緊張した面持ちで微かな笑みをその幼げな顔に湛えていた。
どこか頼りなさげな雰囲気を纏うその少女は、俺と同じくらいの年齢に見えた。
新米給仕だろうか。
「出迎えありがとう。みんなを代表して感謝を述べさせてもらうよ」
エステラが言い、ナタリアは無言で馬車を降りる。
出迎えの給仕が場所を開け、空いたスペースに俺、エステラの順で降り立つ。
降りる際、ナタリアが軽くサポートをしてくれる。こうすることで、上位にいる人物が誰なのかを明確に知らせているのだ。
サポートするナタリアより俺が上で、最後に降りたエステラが最上位ということになる。
まぁ、面倒くさい決まりごとだが、こういうところはきちっとやっておかないとな。
俺たちが降り立つと、給仕は改めて深々と頭を下げた。
「改めまして、ようこそおいでくださいました。私は、二十七区領主トレーシー・マッカリー様にお仕えする給仕長、ネネ・グラナータと申します」
こいつが給仕長!?
思わず、言葉を失ってしまった。
これまで見てきた給仕長は、体に染みついた給仕長オーラが迸っているような連中ばかりだったから…………そいつらと比べると、このネネという少女はなんとも頼りない。
「驚かれましたか? そうですよね、私のような者が給仕長を任されているなどと……トレーシー様の名に傷を付けかねませんよね……」
驚きが露骨に顔に出ていたのだろう。ネネは俯き、瞳にうっすらと涙を浮かべて、言い訳をするように早口で言葉を重ねた。
いや、そこまで卑屈にならなくても……
「どうか、私のことは『ボロ雑巾』とお呼びくださいっ」
「いや、卑屈になり過ぎだろ!?」
さすがにつっこんでしまった。
どこの世界に、領主の給仕長を『ボロ雑巾』呼ばわりするヤツがいるんだ。
「ところでボロ雑巾さん」
「呼ぶんじゃねぇよ!」
いや、ナタリアなら絶対呼ぶと思ったけど!
ほらみろ、まさか本当に呼ばれるとは思ってなかったネネが結構素でショック受けてんじゃねぇか。冗談通じないタイプだろ、どう見ても。毒を吐くなら相手を選べよな。
「形式上であれ、我が主はご招待いただいたものと認識しております」
「は、はい! 是非ランチをご一緒にと、お招きさせていただきました」
「で、あるならば、最低限の歓待を期待したいと思います」
「それはもちろんです! 歓迎いたします」
「でしたら、もっと胸を張ってください」
「……え?」
美しい彫刻のような、乱れを知らない真っ直ぐな姿勢で、ナタリアはネネに言う。
すっと腕を持ち上げ、ネネの胸元を指さす。
「美しい姿勢で、堂々と胸を張り、誇らしげな笑みを浮かべて、エステラ様を案内してください。あなたになら、それが出来るはずです。そうですよね、給仕長さん」
「…………」
ネネが目と口をまん丸にする。
ナタリアの言葉は厳しくも、ネネに足りない部分を教え正すものだった。同じ給仕長として、この頼りないネネを激励したかったのかもしれない。
ナタリアの言葉を聞いて、ネネの頬が赤く色づいていく。
驚いて固まっていた表情がゆっくりと和らいでいき、雪解けの後に咲く花のように愛らしく微笑みを浮かべる。
「…………はいっ! ご案内、させていただきます」
大きく首肯して、自信なさげに曲がっていた背筋をピンと伸ばし、大きく胸を張る。
…………ちょこ~ん。Bか。
「給仕長史上、最小おっぱいだな」
「きゃぅっ!?」
張った胸を隠すように、また背中を曲げるネネ。両腕で自身を抱くように胸元を隠す。
「ヤシロ…………他所様の給仕長に平然とセクハラを働くのをやめてくれないかな? 外交問題に発展したら全責任を負わせるからね?」
「すまん。『精霊の審判』のせいで、正直者になっちまったんだ」
「嘘を吐いちゃいけないだけで、思ったことをそのまま口に出す必要はないんだよ!」
「けど、お前よりかは大きいぞ」
「余計なことを口にするなと言ってるんだよ!?」
エステラが二十七区の給仕長を庇っている。
これをきっかけに四十二区と二十七区は友好な関係を築けるかもしれないな。
おぉっ。俺、すげぇ役に立ってんじゃん。
「すまないね。彼の言うことは気にしなくていいから」
「い、いえ、あ、ああ、あのっ、貧相なものをお見せしてしまって申し訳ありません!」
「……うん。そう言われると、なんでかボクの心が痛むから、それくらいにしてくれるかな」
「こんな、あってないような膨らみで申し訳ありませんっ!」
「やめて……泣くよ?」
Aの前でBを卑下するネネ。
外交的に大きな溝が誕生した瞬間かもしれない。
「ネネさん」
痛むのか、胸を押さえるエステラの前にナタリアが立ち、ネネと対峙する。
領主の苦しみを和らげようと、ネネに一言物申すのだろうか。
「おもしろいっ!」
「下がって、ナタリア!」
……な、ワケないよな。ナタリアに限って。
そんなわけで、何が原因だったかはすでに忘却の彼方ではあるが、エステラが無駄にダメージを受けたところで俺たちは館へと案内された。
馬車は、ネネの指示により丁重に厩へと運ばれていった。
この感じは三十五区に行った時と似ているな。
歓迎されていると思っていいのだろうか。
しかし、歓迎される理由がない。
造りのしっかりとした大きなドアをくぐり、長い廊下を進む。
高い天井とそれを支える太い柱は、思わず声を漏らしてしまうほどに圧巻で、ついつい上を見上げてしまった。
白い壁と赤い絨毯が目に鮮やかで、外周区との違いを見せつけるような内装だ。
……ま、無理してでも豪華に作らせてるってところはあるんだろうけどな。負けず嫌いの『BU』だから。
「エステラ。お前ん家もこれくらい豪華に建て替えろよ」
「落ち着かないよ、こんな家……」
貧乏性が染み付いているのだろう。
きっとエステラは、部屋が広くなってもすみっこに座ってしまうに違いない。「すみっこが落ち着く~」とか言ってすみっこ暮らしを始めてしまうのだろう。
「こういう家に住めるってのも、才能の一つかもしれねぇな」
「そうかもね」
俺の冗談にエステラが苦笑いを浮かべる。
確かに、俺もこんなデカい家は御免だな。全然落ち着かねぇ。
家ってのはやっぱり、「あぁ、帰ってきた」ってホッとする、落ち着いた空間であるべきだよな。
「給仕が多いですね」
俺とエステラが家のデカさにばかり気を取られる中、ナタリアだけは別のことに意識を向けていた。
給仕の数。確かに、長い廊下の至るところに給仕がいて、俺たちが通る度に頭を下げてくれている。
とはいえ、そんなに多いってほどのことだろうか?
「この大きさの廊下が清潔に保たれています。掃除をする人員がきちんと確保されている証拠でしょう」
「あ、なるほど」
今この場にいなくとも、建物を見ればどれくらいの人員が必要か、またきちんと満足の行くレベルで維持されているか、給仕長には分かるのだろう。
「もっとも、見栄を張るために無理をしている可能性は否定出来ませんが」
誰かを招待した時だけ人を集めて大掃除をする。そんな可能性もあるというわけだ。
……しかしなんだな。人の家に来る度に部屋の隅々まで見て相手の経済状況なんかを推測するのが癖になっている俺と、ほとんど同じかそれ以上に、ナタリアは厳しい目でいろいろ見てんだな。
交渉相手の情報はどんな些細なことでも欲しい。その理由が『金儲け』か『主の威厳を守るため』かの差はあるけどな。
「こちらです」
廊下の突き当たりに、他よりも豪奢で堅牢なドアが見える。
その手前のドアが開かれ、そちらへと招き入れられる。そこは、広い応接室で落ち着いた調度品がゆったりとした時間を感じさせてくれる居心地の良さそうな空間だった。
「向こうのドアがおそらく食堂で、こちらはその控え室といったところでしょう」
そっとナタリアが俺に耳打ちする。
向こうが会場で、こっちが控え室。披露宴なんかをやるホテルがこんな感じの造りになっているな。
ここで領主を待てってわけか。
「それでは、しばしお待ちください。すぐに準備を致しますので」
ぺこりと頭を下げてネネが踵を返す。
背筋は伸び、泣きそうだった表情も随分柔らかくなっている。
エステラが思っていたよりもとっつきやすい人物で安心でもしたのだろう。
変な緊張も解れたようだし、こりゃ、食事の席は和やかなムードになりそうだな。
と、出て行くネネの背中を見つめながら思っていたのだが……
「ネネッ! 貴様、今までどこにいた!? 私の呼び鈴が聞こえなかったのかっ!?」
館中に轟くような怒声に思わず肩が跳ねた。
「……今のは?」
エステラが不安げな表情を浮かべる。
今のが、おそらく……
「『癇癪姫』……」
「でしょうね」
俺の意見に、ナタリアも賛同する。
これは……和やかなムードなんてもんじゃない。
一気に緊張が高まり、俺たちは互いに顔を見合わせた。
どういった心持ちでいればいいのかすら考えがまとまらないうちに、廊下が騒がしくなった。
バドァーーン! ……という、大砲のようなドアの開閉音が轟き、ドダバタバタドタッ! ……と、ジンベイザメが体育館でもんどりうっているような足音が近付いてきて、ピタリ…………と、ドアの前で止まった。
……なんだよ、もう。今度は何が起こるんだよ?
奇妙な静寂に、心臓が軋みをあげる。
ごくり……と、誰かが唾を飲み込む音が聞こえた。
俺たち三人が揃って息を殺し見つめる中、ゆっくりとドアが開く。
「ようこそ、我が館へ――」
ドアが開き切る前に、その前に立つ美しい女性が清流のような声音で歓迎の言葉を述べる。
煌びやかなドレスを身に纏い、整った顔に大人びた笑みを湛えている。
こいつが、二十七区の領主、トレーシー・マッカリーか。確かに、『BU』の連中の中にいたヤツだ。
「招きに応じていただき感謝します、エステラ・クレアモナ様。そしてお連れの皆様。歓迎いたします」
落ち着いた物腰に、品のある声としゃべり方。
……なのだが、眉間に物凄くしわが寄っている。
ビックリするくらいのしかめっ面だ。
全然歓迎してねぇじゃねぇか!?
トレーシーは、狩人のような鋭い視線をエステラに向け、すぐさま逸らす。
うわぁ……感じ悪ぃ。あからさまに無視するつもりなんじゃねぇのか。
「え、えっと……」
ありありと醸し出される『非歓迎オーラ』に、エステラの笑顔が強張る。
招待されて来てみればこの対応。
そりゃ困惑もするよな。
しかし、招かれた以上、礼をもって接するのが常識ある人間の態度だ。
エステラはすっと背筋を伸ばし、もう一度笑顔を作り直してから、トレーシーへ挨拶をする。
「こ、この度はお招きいただ……」
「はぁぁぁ…………」
ため息つきやがったぁああ!?
エステラの挨拶を遮って、ものすげぇデカいため息を。
しかも、腕を組んで体を背けた。
組んだ腕に力が入り、眉間には先ほどよりも深いしわが刻まれる。噛み千切りそうなほど唇を噛み締め、『苦渋』という文字が浮かび上がってきそうなほどの苦々しい表情を見せる。
そんなに嫌なのかよ、エステラと話をするのが。
ナタリアの呼吸が変わる。
エステラに対する無礼を、こいつは決して許さない。…………まぁ、こいつ自身が随分と無礼を働いてはいるのだが、それはどれも笑って許される範囲でだ。
ここまであからさまな無礼を見過ごすほど、クレアモナ家の給仕長は優しくない。
……そして、俺も結構気分が悪いなと、感じている。
俺とナタリア。二人が揃って息を吸う。
どっちが先に口を開くかは、その時の空気次第だ。
――と、思っているのを察したのか、エステラが俺たちに目配せをしてくる。
「いいから、大人しくしていろ」とでも言いたげな目で。
全身で『拒絶』を示すトレーシーに対し、エステラはもう一度朗らかな笑顔を浮かべて言葉を向ける。
「お招きいただき、ありがとうございます。お会い出来て光栄です、トレーシー・マッカリー様」
瞬間――世界が鳴動した。
……どっくん……どっくん…………
トレーシーの両目が「カッ!」と開き、体がぶるぶると振動を始める。
そして、わなわなと震える手がトレーシーの口元へと運ばれた……その時っ!
「……ごふっ!」
トレーシーが盛大に吐血した。
「ひっ!?」
エステラが短い悲鳴を上げる。
が、次の瞬間にはトレーシーに駆け寄り、心配そうに声をかけていた。
「大丈夫ですか、トレーシー様!?」
「…………む、むり……です」
真っ赤に染まった両手が、トレーシーの口元からゆっくりと離れていく。
口のまわりにもべったりとついた赤い血液…………それは、今も尚流れ続けており……
「エステラ様が素敵過ぎて、私、死んでしまいそうです」
「……………………え?」
両方の瞳をキラッキラに輝かせてエステラを見つめるトレーシーは、恋する乙女のように頬を赤く染め、熱っぽいため息とともに愛おしげにエステラの名を呼んだ。
「エステラ様………………萌え」
エステラの足元からつむじにかけて、寒気が駆け抜けていったのを、俺は視認した。
そして、今も尚、トレーシーを赤く染める血液は流れ続けている…………鼻から…………あれ、鼻血だ。この領主、エステラに名前を呼ばれて、鼻血を噴きやがったのだ。
要するに、アレだ。
二十七区の領主、トレーシー・マッカリーは――エステラが大好きなのだ。病的なほどに。
ぱーいおーつ、かいでー!
…………あ、すみません。つい母国語が。
ご来訪ありがとうございます!
めっきり寒くなってきましたね。
皆様、風邪など引いて「巨乳美女におかゆをふーふーして食べさせてもらうんだ」みたいな野望を抱いたりしないようお気を付けください。そうそういませんのね、おかゆをふーふーしてくれる巨乳美女は。
まぁ……よくて母親、ないし祖母。面倒見のいい美少女幼馴染というのは都市伝説らしいので、過度な期待は心に受けるダメージを大きくするだけですよ。
それはそうと、美少女な幼馴染を『美幼馴染』とかって言い方しないんですかね?
美母、美婆、美ッグマック……
世の中に美しいものがもっと増えれば、私は嬉しい…………いや、美ッグマックは別にいいか。
というわけで、(どういうわけかは聞かない方向で!)
レビューをいただきましたっ!
平積みの情報、嬉しかったですっ!
平積みは嬉しいなぁ~。そんな素敵な書店さんを心から応援いたしますっ!
( ・ノ。・) コソッ(言ってくだされば、サインくらいいくらでもお送りしますよ、編集様の許可を取って……to書店員様)(←営業活動)
そんな素敵情報をくださった2016年 10月 27日 22時 08分の方!
溢れ出るおっぱい愛が文章にまで溢れ出している、おっぱいワンダーランドな仕上がりになっておりました。
こういうレビューは楽しくていいですね。読む人が「あ、そういう話なのね」と、作品の空気をちゃんと把握して入ってこられる、親切な導入だと言えるのではないでしょうか。
最初数話の重い話も、「でもゆくゆくはおっぱいなんでしょ」と思えば乗り越えられる。おっぱいはいつでもみんなを待っている! そう思わせてくれる、「パワフル」で「ぱいフル」なエネルギー溢れるレビューでした!
ありがとうございますっ!
そしてついに49件です!
私のおっぱい奥義の数と同数です。
ヒャッハーさん「テ、テメェは、おっぱい神拳の宮地っ!?」
私「喰らうがいい……四十九あるおっぱい奥義の一つっ! 『真空・横乳揺らし』っ!」
ヒャッハーさん「ぎゃああああああっ!? 横乳が、横乳がぷるぷるしてるぅぅうう!」(←実は巨乳美女)
……そうですか、レビュー数はいつの間にか、一子相伝の最強拳法に肩を並べるまでになりましたか…………思えば遠くまで来たものです。
え? 他のおっぱい奥義も見たい、ですって?
ふっ、いいだろう。ただし…………巨乳になっても後悔するなよっ!(ぷーるぷるぷるぷるぷるっ!)
……すみません、あまりに勢いのいいおっぱいレビューをいただいたもので、負けじとおっぱい全開のお返しになってしまいました。
我は、おっぱいで負けるわけにはいかぬのだ……っ!(←拳をグッと握り締めながら)
といったところで、(どういったところかは聞かない方向で!)
お知らせです。
本日は、予約更新です!(事後報告!)
急遽入った用事のため、私、家にいないのです。
ちょっと関西方面で大きなおっぱいのお祭りが……あ、いえ、なんでもないです。
おそらく、きちんと更新されていることでしょう。
前回は重版と三巻発売のお話に終始してしまいましたが、今回は比較的関係のない話を多めにしていこうと思います。
まぁ、「多め」ということは、多少は話すんですけどねっ!
口絵(←表紙開けてすぐのカラーページのことです)を見せていただきました。
これが、もう………………私の少ない語彙では表現しきれないくらいに素晴らしくて…………何が素晴らしいって……もう………………立体感が。
皆様に、これだけはお伝えしておきましょう…………『異世界詐欺師のなんちゃって経営術』三巻は……
パイスラが、凄いですっ!
カラーでドン! です!
お手にとっていただいた暁には、是非ガン見してください。
影の付き方、服のしわの寄り方が絶妙で、見事なパイスラがそこに顕現しておるのですっ!
これはもう、皆様の「わっほ~い!」まで、あと一ヶ月――ということです!
誰のパイスラかは……揉んでのお楽し……もとい、見てのお楽しみです。
と、いつもはこの辺でSSのお時間なんですが、今回はちょっとSSはお休みです。
全国のSSファンとSS大好き作者(←私)には申し訳ないです。(まったくだぷんぷん!)
実は、風邪を引きまして。
あ、違いますよ。心配してほしいとか構ってほしいとかそういうんじゃないですからね…………ちらっ。
まぁ、現在(28日)ちょこっとしんどいだけで、更新日には元気になっているでしょう。
前倒しであとがき、書いてます!
というのものですね、
インフルエンザの予防接種を受けまして…………ちょっとしたインフルエンザに……えぇ、凄く薄められているはずのウィルスに、負けまして……
去年の今頃も予防接種を受けまして。
その時は、…………大敗しました。熱が出て、関節が痛んで、肩と頭が重くて立ち上がるのがつらいという、完全なインフルエンザ(プチ)の症状が出まくりでした。
思うんですけど、もうちょっとウィルス弱らせておいてもいいんじゃないですかね?
レベルの高いハンターが「これくらいのモンスターなら余裕だろ」って、自分基準で考えて新人ハンターが瞬殺されちゃうような構図は、先進国日本の医療機関としていかがなものかと、ワタクシなどはそのように思うわけですよ、はい。
新人ハンターには、もう死にかけているスライムを寄越して、一発当たれば経験値だけもらえる――みたいな激甘イージーモードでいいんじゃないでしょうか。
私、ベルトロールアクションゲームのイージーモードでフルぼっこにされるような人間ですよ?
ウィルスも、「いや、それ予防接種にならないだろう」くらいの瀕死でないと負けますって!
そんな去年を思えば、今回は軽めでしたね。
熱は出てませんし。
関節は痛いですけど。
ただ、なんなんでしょうかね。予防接種を受けた直後から、抗いがたい眠気に襲われて……間違って麻酔打たれたのかと思いましたよ。
思わず、近くに蝶ネクタイの小学生がいないか探しちゃいましたもの。私の声で推理されちゃうんじゃないかって。
私の声の蝶ネクタイ小学生「……分かったんですよ、犯人がねっ!」(私、いびき「くかー」)
というわけで、大事を取って早め早めに更新の準備をしておる次第です。
(こういうおしゃべりは書けても、SSはちょっと頭使うので(使ってるんです)、アレでも)今回はお休みです)
今回、ちゃんと面白いこと書けているでしょうか……もっとおっぱいの話した方がいいのかな!?(←風邪を引くといろいろ不安になる、「やだ、弱ってる男子ってちょっと可愛いっ」とかいう感じのアレ)
というわけで、皆様!
インフルエンザがはやっておりますので(お前の中でだけな!)、
お体にはお気を付けください!(お前がなっ!)
そんなわけで――
――レジーナの店
レジーナ「……ぅちゅん!」
ヤシロ「意外なほど可愛いくしゃみだな」
レジーナ「なんや……来たんか? ごめんなぁ、今日ウチ、絶不調やねん……」
ヤシロ「薬剤師が風邪引いてどうすんだよ……」
レジーナ「そんなもん、薬剤師かてたまには風邪引くし、坊さんかてたまにはエロいこと考えてムラムラしよるわっ!」
ヤシロ「何と同列に語ってんだよ……」
レジーナ「あぁ……アカン……世界がふにゃふにゃでおっぱいの上にでも乗ってるみたいや……」
ヤシロ「ちょっと羨ましいな、おい!?」
レジーナ「ほなら変わってんかぁ……ちょっと、キツイわぁ……」
ヤシロ「薬をもらいに来ただけなんだが……しょうがねぇな。飯でも作ってやろうか?」
レジーナ「ほなら……庭にかまど作るさかい、ちょっと待っとって……」
ヤシロ「いや、キッチン使わせろよ!?」
レジーナ「ウチの家は、男子禁制なんや!」
ヤシロ「女子も入れるつもりねぇだろ、お前……」
レジーナ「気持ちだけ貰ぅとくわ……」
ヤシロ「あぁ、じゃあ、あとでおかゆとハチミツ大根届けてやるよ」
レジーナ「はちみつだいこん?」
ヤシロ「のどの痛みに効くんだ。簡単なもんだから遠慮すんな」
レジーナ「なんや……自分に優しぃされると、背中こそばいな」
ヤシロ「やかましいわ。ちょっとくらい看病してやるから、さっさと治せよ」
レジーナ「看病いうたら……『俺に伝染して、早く良くなれよ』って、ベロチューするやつかいな?」
ヤシロ「どこの国の看病だ!?」
レジーナ「歯……磨いとくな」
ヤシロ「磨かんでいいわ! じゃあ、一旦帰るから、大人しくしてろよ!」
レジーナ「うん。静かな踊り踊っとく」
ヤシロ「踊んな! ……ったく」
――ヤシロ、出て行く
レジーナ「……アホやなぁ…………自分にそんなんされたら……違う意味で熱上がってまうわ……」(机に突っ伏し、うにうにと体をくねらせる)
――陽だまり亭
ロレッタ「……はっしょーい!」
ヤシロ「……もうちょっと、可愛げのあるくしゃみは出来んのか?」
ロレッタ「ぐじゅ……あ、お兄ちゃん……今あたし、風邪引いてるから、近寄らない方がいいですよ」
ヤシロ「ならまず、このフロアから出て行け」
ロレッタ「帰れってことですか!? 寂しいですよぉ!」
ヤシロ「……ったく。俺の部屋行って横になってろ」
ロレッタ「お兄ちゃんのベッド使っていいですか!?」
ヤシロ「あぁ、帰ってきたら看病してやるから」
ロレッタ「かっ、看病ってっ!? ……ベ、ベロチュー、です、よね?」
ヤシロ「お前、レジーナのとこでその風邪もらってきたろ!?」
――風邪は伝染るので、皆様十分お気を付け下さ………………はぁあ!? お休みと言ったはずなのに、気が付いたらSS書いてたっ!?
これが、無意識…………恐ろしい。
そんな感じで、今日もお付き合いありがとうございました。
次回もよろしくお願いいたします。
宮地拓海




