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異世界詐欺師のなんちゃって経営術  作者: 宮地拓海
第二幕

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176話 お出迎えとソラマメ

「カタクチイワシ、送っていってやろう。ソラマメも大量にあるし、みな疲れているだろうし、ウェンたんともう少し長く一緒にいたいしな」

「最後のが本音だろう、お前」


 ガタゴトと揺れる馬車の中、ルシアが小鼻を膨らませいて恩着せがましく言う。

 この後、しばらくウェンディたちには会えなくなると踏んで、ギリギリまで粘るつもりなのだろう。まぁ、こっちは楽が出来るからありがたいけどな。


 真っ先に陽だまり亭へと向かい、その後セロンとウェンディを送り届けて、ルシアたちは三十五区へ帰るという。陽だまり亭には寄っていかないらしい。

 まぁ、早く帰らないと真夜中になっちまうからな。


「ソラマメの積み下ろし、ボクも手伝うよ」


 一方のエステラは陽だまり亭に寄っていく気満々だ。

 小腹でも空いているのだろう。

 かく言う俺も、マーゥルの家であれだけ食ったにもかかわらず小腹が空いている。

 出先で食うと安心感の差からなのか、帰宅後に腹が減ることが多い。

 日本のオッサンどもが、飲み会のあとに家でお茶漬けを食いたがる気持ちが、今なら少し分かるな。


「ナタリアも寄っていくか?」

「そうですね……」


 エステラが身軽な時でも、ナタリアは何かと仕事を抱えていることが多い。

 なので念のために尋ねてみたのだが……


「四十二区には、あの情報紙の影響が及んでいないため、私はモッテモテではないんですよね…………行く意味が見出せませんね」

「芸能人きどりか!?」


 ちやほやされなきゃ行きたくないとか、たわけたことを抜かすな。


「しかし、今日は精神的にも肉体的にも少々疲労してしまいました。店長さんにお会いして、癒されたい気分です」


 エステラに付いての遠征。

 それも、相手は領主の姉である貴族だ。

 ナタリアはずっと気を張っていたのかもしれないな。主に恥をかかせないように。主の身に危険が及ばないように。


 なんだかんだと、ナタリアは頼りになる給仕長なのだ。


「店長さんにお会いして、あのぽぃんぽぃんの枕で一眠りしたいです」

「あのぽぃんぽぃんは枕じゃねぇよ! けど、今度俺にも貸して!」

「では、順番で」

「君たち、陽だまり亭への出入りを禁止するよ? 領主権限で」


 人が心の疲れを癒そうとしているというのに、妨害工作とは何事だ!? 領主が聞いて呆れるぜ!


 そうこうしているうちに、よく見慣れた風景が窓の外を流れていき、馬車は陽だまり亭へとたどり着いた。


「おかえりなさい。みなさん、お疲れ様です」


 馬車の音を聞きつけてか、陽だまり亭の前にはジネットを始め、従業員がずらりと並んでいた。

 マグダに、ロレッタ、デリアにノーマにウーマロだ。


「……お前ら、仕事しろよ」

「違うんだよ、ヤシロ! ドーナツが飛ぶように売れてな、あたいたちも帰るに帰れなかったんだよ! な、ノーマ?」

「ホント、大変だったさね」


 とんとんと、腰を叩くノーマ。


「重そうだな。揉んでやろうか?」

「重そうな箇所と、揉んでほしいであろう箇所は別なように見えるんだけど?」


 バカモノ。重そうな箇所と揉みたい箇所は同じだろうが。


 しかし、こいつらは律義にも陽だまり亭に残って手伝いをしてくれてたわけだ。労ってやるくらいはしないとな。


「というわけで、ウーマロ。ソラマメを食料庫に運んでおいてくれ」

「なんでッスか!?」

「手伝ってくれたこいつらを酷使は出来ないだろうが!」

「オイラはお客ッスよ!?」

「何言ってんだよウーマロ。お前は、たとえ客でも、こき使われる側の人間だろ?」

「そんな『側』に立った記憶ないッスけども!?」


 なんだかんだと理由を付けてはサボろうとするウーマロにソラマメを運ばせる。

 その間に、俺はマグダを呼び寄せる。


「マグダ。すまんがハニーポップコーンを用意してくれないか?」

「……それなら、ストックがある」

「じゃあ、それをくれ」

「……進呈する」


 綺麗に梱包されたハニーポップコーンを受け取り、馬車へと戻る。

 ナタリアがアレだけ疲れてたんだ、きっとこいつもくたくただろう。


「ギルベルタ。これをやろう」

「私にか、友達のヤシロ?」

「頑張ったご褒美だ」


 疲れた時には甘い物が効くからな。

 帰り道で摘まめばいいさ。


「…………嬉しい」


 ポップコーンの袋を見つめ、ぽつりとギルベルタが呟く。

 もしかしたら、誰かに何かをもらうなんてことは、そうそうないのかもしれない。


 黙ってじっと、じぃ~っとポップコーンの袋を見つめるギルベルタ。

 表情が乏しいから分かりにくいが、きっと喜んでくれているのだろう。


「ここの子になる、私はっ!」

「うん、喜んでくれてるのは分かったから、一回落ち着け。な?」


 ちょっと、喜ばせ過ぎたようだ。

 ルシアから、とてつもない殺気のこもった視線を向けられている。……怖い怖い。


「必ずまた来る、私は、ここに。また遊んでほしい思う、私は、友達のヤシロ!」

「え、なに。遊びの一環だったのか、今日の遠征……」


 遊ぶなら、タイミングを選んでくれな。


「それでは英雄様、領主様。失礼いたします」

「本日は、いろいろとありがとうございました」


 馬車の中でセロンとウェンディが頭を下げる。

 あいつら疲れないのかな、あんな肩っ苦しい性格してて。


「カタクチイワシ」


 馬車が出発する間際、ルシアが窓から顔を出して俺を呼んだ。


「怖い夢を見て泣け」


 そして、それだけ言い残して、馬車は走り去っていった。

 ……何がしたかったんだよ、あいつは。


 つか、あいつも怖い夢とか見て泣くのかね。そういう言葉が出てくるってことは、少なからずそういう経験があって、それがつらいと認識してるってことだろうしな。


 馬車が見えなくなって、ようやく一日の仕事が終わった、そんな気がした。


「んじゃ、あたいらも帰るな」

「今日はぐっすり眠れそうさね」

「あぁ、ご苦労だったな。今度ケーキでも御馳走するよ」

「おっ! またデートか!?」

「期待してるさね」


 いや……別に二人きりってつもりで言ったわけじゃないんだが……むしろ、お前らが二人で食ってくれよ。


「ヤシロー、また『檸檬』に行こうなー!」


 などと、陽だまり亭の利益にならない発言を残して去っていくデリア。絶対陽だまり亭のケーキを食わせてやる。


「ほいじゃ、アタシも……」

「あ、ノーマは少し待ってくれ」


 帰ろうとするノーマを呼びとめ、ソラマメ運搬を終えたウーマロを待つ。


「終わったッスよ~」

「遅い!」

「もうちょっと労いの言葉が欲しいッス!」


 何を贅沢な。

 労いの言葉はやれないが、代わりにいい話をしてやろう。


「ウーマロ、ノーマ。明日、イメルダを連れてここに来てくれないか? 頼みたいものがあるんだ」

「やるッス!」

「任せるさね!」


 早いっ! 早いよ、決断するのが!

 お前ら大丈夫か? 『精霊の審判』があること忘れてないよな?

「やる」って言った後、「やっぱやりたくない」って言ったらカエルにされるんだぞ?

 どんだけ安請け合いしてんだよ。


「何を作るかは明日、改めて説明するから」

「なんだかオイラ、わくわくしてきたッス」

「大工と共同作業ってことは、結構大がかりな物を作るんさね。腕が鳴るさよ」


 こいつらは、こっちが不安になるくらい都合のいい職人になっちまったなぁ……

 絶対ジネットのせいだ。

 お人好しが感染したんだろうな、うん。


 お人好しの末期患者二人を見送り、陽だまり亭は閉店した。

 とはいえ、店内にはエステラとナタリアがいる。ロレッタも残っている。


「実はですね、店長さんが物凄い物を作ったんですよ!」


 俺たちを店に招き入れるなり、ロレッタがドヤ顔でそんなことを言う。

 マグダも心なしかそわそわしているし、ジネットに至っては照れ笑いを浮かべつつもそこはかとない自信を窺わせている。


 なんだ? 何を作ったって言うんだ?


「あの、以前ヤシロさんに教わった『コンソメスープ』なんですが……」


 四十二区の流通が正常化し、物価が安定したあたりで、俺はジネットにコンソメを教えておいた。

 もともとブイヨンは作れていたから、もう一歩踏み込んで手の込んだスープを作れるようになってもらったのだ。コンソメは、美味いからな。


「アレを使って、ソラマメの新しい料理を考えてみたんです」


 ジネットのそんな言葉に合わせるように、マグダとロレッタが俺たちの前に皿を運んでくる。

 鮮やかな浅緑のスープが入った深い皿。

 こいつは……


「ソラマメのポタージュスープか」

「はい。疲れた時に食べて、元気になっていただきたいと思いまして。美味しく出来たと思いますので、是非召し上がってください」


 スプーンですくって口へ運ぶ。

 それは紛れもなくソラマメのポタージュで、疲れた体に甘みと温もりが広がっていく気がした。これは、疲れも吹っ飛ぶ美味さだ。


 こいつを、自力で編み出したというのなら大したものだ。

 口当たりもまろやかで、何度も裏ごししたのだろうことが窺える。

 ジネットは、デリアたちがくたくたになるくらい忙しかった日中に、時間を作ってこいつを編み出したのか。ドーナツを作るのは、全部ジネット任せだったってのに。


「美味いよ、ジネット。最高だ」


 素直に称賛を送ると、ジネットの表情がぱぁっと明るくなる。


「ホント、凄く美味しいよ」

「これは、何度となく食べたくなる味ですね」


 エステラもナタリアも気に入ったようで、口へ運ぶスピードがまったく落ちない。

 その様を見て、ジネットはもじもじと体をくねらせている。隠しようもないほどに笑みが溢れて、顔中の筋肉がふにゃんふにゃんになっている。

 ジネットは何気に、料理を褒められるのが大好きなのだ。

 祖父さんに褒められていた頃のまま、それは今でも変わっていないらしい。


 ジネットオリジナルのこのスープは、もしかしたら、日本で口にしたポタージュとは少し異なるのかもしれない。しかし、味は決して劣っておらず、むしろこちらが優勢なくらいだ。

 マーゥルの家であれだけ食ってきたにもかかわらず、俺たちは一杯のスープをぺろりと平らげてしまった。


「これなら、どんなにソラマメが大量にあったって、あっという間に使い切っちゃいそうだね」


 ソラマメのポタージュの味に、エステラが確信を持って言う。

 俺も同じ気持ちだ。この味ならヒットは間違いなしだ。

 ……こりゃあ、豆板醤とあわせて、ソラマメ不足が深刻になるかもしれないな…………なんて思っていたのだが。どうもジネットの表情が暗い。というか、浮かない顔をしている。……やや、困り顔?


「どうしたんだ、ジネット? 浮かない顔と大きなおっぱいをして」

「む、胸は関係ないですっ!」


 いかん……疲れてるからかな。言葉が脳の検問を経ずに口から零れ落ちていく。

 うん、疲れのせいだ。俺は悪くない。


「実はですね……」

「……ソラマメのポタージュは、そこまでヒットしない」


 浮かない表情のわけを言いかけたジネットを遮るように、マグダが胸を張って前へと進み出る。


「…………」

「…………」

「…………」

「…………」


 マグダと俺の睨み合いが続き……


「……『大きなおっぱいをして』とは、聞かない?」

「うん、聞かない、かな」


 してないしね。

 う~ん、なんで不服そうな顔をしているのか、俺には皆目見当がつかないんだが。

 とりあえず教えてくれるかな、ソラマメのポタージュがヒットしないと言い切れるそのわけを。


「あたしも、マグダっちょの意見に賛成です」


 マグダと同じように胸を張り、マグダの隣に並び立つロレッタ。


「どうした、ロレッタ。普通のおっぱいをして」

「『普通』言わないでです!」

「マグダのパクリか」

「確かにマネはしたですけど、人聞き悪いですよ!?」

「……マグダの劣化版」

「さらっと酷いですね、マグダっちょ!?」


 そんな、マネっ娘ロレッタが、マグダと共に厨房へと駆け込む。

 その様子を、ジネットはなんとも申し訳なさそうな表情で見つめ、俺と目が合うと慌てて視線を逸らしたりしていた。…………なにしでかしたんだ、こいつ?


「お待たせしたです!」

「……刮目せよ」


 小鼻を膨らませて戻ってきた二人は、それぞれ盆を持っていた。盆の上には皿が三つずつ載っており、ロレッタの方の皿には少し黄身がかったクリーム色のスープが、マグダの方の皿にはオレンジ色のスープがよそわれていた。


「こっちが、サツマイモのポタージュです!」

「……こちらが、カボチャのポタージュ」

「「召し上がれ」ですっ!」


 差し出されたスープをスプーンですくい、エステラはカボチャのポタージュを、ナタリアはサツマイモのポタージュを啜る。

 そして、同時に「くわっ!」っと両目を見開く。


「「美味しいっ!」」


 そして、ジネットはガクリと肩を落とした。


「凄く美味しいよ、これ!」

「自然な甘みと、奥深い味わい……これこそ、スープの世界の革命児と呼ぶに相応しいスープ・オブ・スープですねっ!」


 ナタリアまでもが大興奮だ。

 ロレッタとマグダが満足そうに頷き、ジネットだけは申し訳なさそうに顔を背けている。


 まぁ、この二つを生み出したのも間違いなくジネットなのだろうが、顔を背けている理由は、おそらく…………


「ソラマメの評判が良かったから、他の材料でも作れないかと試した結果、シャレにならないくらい美味い物が出来てしまって、大喜びでマグダとロレッタに食べさせたところ、すっげぇ大評判で、瞬く間にそこら辺にいた連中を虜にしていってしまったと。そして、その光景を満足げに見つめ、ある瞬間にふと気が付いたわけだ…………これがあると、ソラマメのポタージュがかすんでしまう……と」

「………………はい」

「事実、みんながカボチャとサツマイモに夢中になって、ソラマメのポタージュの売れ行きが落ちた、というより完全にストップした……ってところか?」

「お察しのとおりです……」


 ちょ~っと調子に乗っちゃったのかな、ジネットさん?

 美味しいって言われるの、大好きだもんな。

 より美味しいものを作って、もっともっと喜んでほしかったんだよな。

 その目論見は大成功だ。


 でもな。


「ソラマメの消費量落ちてんじゃねぇか!」

「すみません、すみません! 当初の目的をすっかり失念してしまいました!」


 どうすんだよ!?

 ソラマメのポタージュは、確かに美味い! メチャクチャ美味い!

 だが、カボチャとサツマイモは卑怯だろ!? あんなもん、老若男女誰もが好きな甘さじゃねぇか、勝てねぇよ!


 ついさっき、「何度となく食べたくなる味」とか言ってたナタリアが、おぉ~っと、カボチャをお代わりしやがった!


「ソラマメのポタージュが……減らないんです……」


 しくしくと、大粒の涙を零すジネット。

 ……すげぇ無駄遣いだな、その綺麗な涙。もっと違う場所で流せば絵にもなろうに。


「みなさん、ソラマメを! ソラマメのポタージュを召し上がりませんか!?」

「ジネットちゃん」


 ジネットの涙を見て、エステラが空いたお皿を差し出す。…………視線を逸らして。


「……サ、サツマイモのポタージュを」

「ぅにゃぁ~っ!」


 なんだか分からない感情が爆発して、なんだか分からない奇声を発するジネット。

 これは、飲食業が犯しやすい初歩的なミスだ。


 Aという商品の他に、サービス満点のBという商品を用意すると、Aの方がまったく売れなくなってしまう。

 そういうことをしたい場合は、Aに使用する素材をBにも使用して在庫を残さないようにする努力が必要なのだ。


 例えば、かき氷なら『抹茶→抹茶小豆→白玉抹茶小豆→白玉抹茶小豆練乳』というように、元となる商品のバージョンアップ商品を提供すれば、売れ行き如何にかかわらず素材を無駄にすることはない。


 だが、今回のような場合、売れ残る商品の素材は大量に余ってしまうことになる。


 仮に、値段を操作して、売れ行きの悪くなりそうなソラマメのポタージュを安く設定すれば、「ソラマメは安物」というイメージがついて余計に売れなくなってしまう。

 折角ポタージュスープというオシャレな料理なのにもかかわらず「貧乏くさい料理」というイメージが付いてしまうのは避けなければいけない。


 では、カボチャとサツマイモを高くすれば…………単純にそっちが売れなくなる。というか、「金をかなり出さないとまともな物が食べられない」というイメージが付いてしまう。

 カレー屋で、ノーマルはルーと飯のみで他はトッピング――なんてお店に抱くイメージに近しい。「結局、数千円かけなきゃ満足いくものにならないんだろう?」というイメージだ。

 そうなると厄介で、安いものやプレーンは注文されにくくなる。

「それを食べるなら、同じ値段で他のを食べるよ」という心理が働いてしまうからだ。


 カレーのようにクセになる料理ならともかく、「他の料理の邪魔をしない」というポジションのスープでは、あえて注文する理由が希薄になってしまう。


 出来のいい後輩のせいで、パイオニアが霞んでしまう。

 インフレ傾向にあるバトル漫画の最初のライバルや、属性別キャラが大量投入されるハーレム漫画のメインヒロインが陥りがちな罠だ。

 ……需要を探すのが、難しくなった。


「ど、どど、どうしましょう、ヤシロさん……わたし、まさかこんなことになるとは思わずに……」


 よかれと思って開発した新メニューが、本当に売りたい商品の邪魔をする。

 ……ジネットよ。もう、諦めろ。


「以前ウーマロが持ってきてた、スイートコーンを使っても美味いぞ」

「コーンポタージュスープ!? 美味しそうだね、それは!」

「私も興味がありますね! エステラ様、四十二区の領主として支援をしてみては?」

「あたし、それ食べてみたいです!」

「……店長、試作を」

「ヤシロさん、ヤシロさん!? どうして追い打ちをかけるようなことを!?」


 もう、ここまで来たら「ソラマメのポタージュでソラマメを大量消費」っていう発想を捨てて、数あるポタージュの中の一つという位置づけにしてしまった方がいい。

 ここは食堂なんだ。美味いものを客に提供してやればいい。

 なに。ソラマメの甘みが好きだってヤツだって大勢いるさ。カボチャやサツマイモよりソラマメがいいってヤツはな。

 ただ、爆発的ヒットは、しないかもしれないけどな。


「……マグダ、ウーマロにおねだりする」

「マグダっちょ、頑張ってですっ!」

「いや待て! マグダが言うと、ウーマロは三十区のトウモロコシを買い占めかねない……あいつは上限を知らない変態だからな。アッスントに頼め」

「……しかし、アッスントにはおねだりが通用しない」

「金払おうか!? 全部もらっちゃおうってスタンスみたいだけどさ!」


 なんだ? 可愛いは正義か?

 わがままも許されちゃうのか? 怖いねぇ、美少女って!


「あの、ヤシロさん……」


 うな垂れたまま、ジネットがすすすと近寄ってくる。


「すみません。折角ソラマメをたくさん使える案を思い付いたのに、わたしのせいで……」

「何言ってんだよ」


 そこまで落ち込むようなことではない。

 まぁ、確かに。ソラマメのポタージュが売れてくれりゃ大量消費は出来たかもしれないが……


「お前の『おかげ』で、ソラマメの可能性が広がったんだろ。もっと胸を張れよ」

「ヤシロさん……はいっ」


 実際、ジネットの作ったソラマメのポタージュは美味いのだ。

 そんなへこんだ表情をする理由などどこにもない。

 だから、胸を張れ。


「そして、おっぱいをドーンと……っ!」

「懺悔してくださいっ」


 張ればいいのにっ! ドーンと! こう、ドドーンとっ!


 と、そんなことをしていると……


「ヤシロさんはいらっしゃいますかっ!?」


 陽だまり亭のドアを乱暴に開けて、アッスントが飛び込んできた。


「すまん、もう閉店なんだ」

「あぁっ! ヤシロさん! よかった!」


 くそ。「帰れ」というギャグをスルーされてしまった。

 アッスントが、物凄く嬉しそうな顔で俺にすり寄ってくる。


「ソラマメ! ソラマメを定期的に大量入手出来るところはありますか!? 心当たりは!? お知り合いに関係者は!?」

「熱い熱い熱い! ちょっとは落ち着けよ!」


 血走った目をして、唾をまき散らしながらぐいぐい迫ってくる。

 この時間帯に、ここまで熱いオッサンはキツイ。摘まみ出したい。


「すみません。朗報があるんです!」

「離婚したのか?」

「それのどこが朗報ですか!? 今なお夫婦円満ですよ!」


 ちっ……


「麹の神が、豆板醤の件を了承してくださいましたよ!」

「あぁ、前に言ってた凄い職人か?」

「はい! 味噌の製造法を生み出した一族の末裔で、現在、オールブルームナンバーワンの腕前を持つと言われている方なんです!」


 アッスントがここまで持ち上げるのだから、相当凄い人物なのだろう。

 味噌とか醤油は、豊かな食生活には欠かせないからな。行商ギルドとしても丁重に扱わなければいけない相手なのだろう。


「本来なら、行商ギルドの幹部クラスでないとアポイントも受け付けてもらえないのですが……ねじ込みましたよっ!」

「……冒険したんだな」


 危険な賭けを比較的避けて通るタイプのアッスントが、かなり無茶をしてきたらしい。

 それで、このテンションというわけか。


「豆板醤に興味を示されて、『試作をしたいからソラマメを大量に手配してほしい』と! ですが、ソラマメは市場にあまり出回らない素材でして……そこで、ヤシロさん! どこか、ソラマメを大量に保有している人物、または組織をご存じありませんか!?」

「ご存じだぞ」

「本当ですかっ!?」


 流通してないっつうか、売れないから自分たちでガスガス処分してんだけどな……

 マーゥルに話を通せば、まとまった量を融通してくれるだろう。


 ……ウーマロたちに作らせたいものもあるし……ちょっといろいろ急ぎ足で片付けなきゃいけないかもな。


「とりあえず、ウチにある物をいくつか持っていってくれて構わないぞ」

「それは助かりますっ!」


 ちょうど大量に増えて、大量消費の手段を失ったところだ。持っていってもらおう。


「豆板醤! 絶対成功させましょう!」


 アッスントが燃えている。焼き豚だ。


「しっかり頼むぞ、チャーシュー!」

「誰がチャーシューですか!?」


 ぷひっ、と鼻を鳴らすアッスント。

 しかし、ほっと安堵の表情を見せる。


「気難しい方で、少しでも意に沿わないと仕事を投げ出してしまうそうなんです」

「子供かよ」

「滅多なことは言わないでくださいっ! 豆板醤の未来がかかっているんですよ!?」


 ……こいつ、豆板醤教にでも入信したのか? すげぇ真剣じゃん。


「とにかく、これで一安心です。大量入手の経路も確保出来るならしておきたいですね」


 アッスントがここまでやる気に燃えているのだ。ソラマメの大量消費は目途が立ったと思って間違いないだろう。


「……アッスント」


 こちらの話が一段落したところで、マグダがアッスントの前に立つ。

 静かな視線でアッスントを見上げ、そしておもむろに、軽く握った両手の拳をアゴのそばに構え、こてんと小首を傾げた。


「……マグダ、スイートコーンが欲しい、にゃん」

「え…………っと、なんですか、これは?」


 マグダ、チャレンジャーだな!?

 アッスントに、まさかのおねだりとは。

 まぁ、案の定一切効き目ないみたいだけど。


「…………にゃん?」


 めげないな!?

 そんなにスイートコーンが欲しいか!?


「アッスントさん。よろしければこれをどうぞ」


 ジネットが、温かいソラマメのポタージュを持ってきてアッスントのそばのテーブルに載せる。

 豆板醤の話が好転していると知り、心なしか嬉しそうだ。

 もしかしたら、ソラマメが大量消費される目途が立ったから、かもしれないけれど。


「おぉ……これは美味しいですね。これは、なんのスープなんですか?」

「はい。ソラマメのポタージュです」

「ソラマメッ!?」


 ガタッとテーブルを鳴らし、アッスントが皿の中を覗き込む。


「あぁ、もったいない! 今現在、ソラマメは一粒残さず豆板醤に回したいというのに…………ジネットさん! このスープ、制作を中止していただくわけにはいきませんか!? 損害は私が補填いたしますので!」

「あ、あの、いえっ、損害だなんて……」

「補填してもらおうじゃないか!」

「え、ヤシロさん、でも……」

「……ヤシロの意見に、マグダも賛成」

「マグダさんも!?」


 おろおろするジネットを俺とマグダで黙らせる。

 どっちみち、売れ行きの不安な料理だ。アッスントに補填させた方が得になりそうではないか。


 だが、マグダは違う考えのもと、行動していたようで……


「……アッスント。ソラマメのポタージュを止めるためには、代替品が必須」

「そ、それはなんなのですか!?」

「……スイートコーン」

「確かに……スイートコーンでこのスープを作れば、美味しいかもしれませんね…………分かりました! 私が責任を持ってスイートコーンを仕入れてきましょう! ですので、代わりにここにあるソラマメはすべてこちらへ譲ってください!」


 ……マグダの思惑、まんまと成功。


「……いぇい」


 ご満悦でVサインを見せるマグダ。

 ……お前、逞しくなったな。



 というわけで、折角誕生したソラマメのポタージュは一時生産中止となり、代わりに、コーン、カボチャ、サツマイモのポタージュスープが陽だまり亭の新メニューとして誕生した。


 言うまでもないかもしれないが……コーンポタージュスープは、すげぇ大人気となった。







秋ですねっ!


最近は喫茶店で原稿のチェックとかしている、宮地です。

デキる男を演出中ですっ。

ピザトースト、んまーぃ!


もっしゃもっしゃ……どうも、もっきゅもっきゅ……デキる男、ちゅるるるるっ……宮地でもっちゅもっちゅ。



さて、そんな感じで、あとがき、はーじまーるよー!

子供たち「ぅわ~い!」

奥様たち「あらあら、あの子たちったら」



またしても、レビューをいただきました!

嬉しいっ!


ついに48です! シワです!

九九なら32ですっ! …………減った!?


と、若干高めのテンションで、2016年 10月 12日 21時 00分の方っ!


講談師のような、勢いと引きつける力の強い語り口調、そして、絶妙なくすぐり感から一気に読める面白いレビューでした。

静岡……懐かしいネタですね。その節は本当に、静岡の皆様にはご迷惑を……あと群馬の皆様にも申し訳ない……

一話の頃のヤシロの戸惑いや不安みたいなものを感じさせ、それが後の展開に期待を持たせるうまい構成になっていて、まるで映画の予告編を見ているようなわくわくする気持ちにさせられました。ラストにオチも効いていて読んだ後に満足感のある楽しい仕上がりになっていました。


愛と涙とおっぱいのつまった楽しいレビューでした、ありがとうございますっ!



それにしても懐かしいです……


当時私「前作が全面おっぱい推しだったから、今作はおっぱい控えめにしよう(決意!)」


……あの決意は一体なんだったのか。

でもまぁ、ジネットとエステラが出てきたら、そりゃあいじりますよね、おっぱい!

どんな作家さんだって、「格差社会かっ!?」くらいのツッコミはしますよね、そりゃあ!


うむ、仕方ない。私、悪くない。



さて、実は。

おぼろげにですが、ようやく三巻の完成形が見えてきまして――といっても、まだまだ作業は残っているのですが、心持ち一段落した気分です(心だけね!)。

なので、そろそろ恒例の全プレ企画の立案に乗り出したりしています。


今回は何をプレゼントにしようかなぁ……と、日々おっぱいのことを考えるついでに頭を悩ませています。(一番悩ましいのは魅惑的なあの二つの膨らみだけどねっ!)


内容も、応募者数も、「前回を超えよう!」を合言葉に、何か面白い物が出来ないか考え中です!

皆様、ご期待ください! そして、是非ご参加をっ!!



そんな感じで、三巻に関しましても、もうちょっとしたら、何かしらの情報をお伝え出来そうな予感です。それまではハロウィンを満喫しつつ、季節の変わり目に風邪など引かないよう、あ、でもハロウィンのコスプレでは思いっきり羽目を外しちゃってもいいかもしれませんよ、ミイラとか! 裸包帯とか! 巨乳包帯とかっ!!! ……な、感じでもう少しお待ちください。


そういえば、編集様(←才女)にお会いした際、ハロウィンのお菓子を渡しつつ、


「トリック・オア・トリート! お菓子をあげるからイタズラさせてください!」


と言ったら、華麗にスルーされてしまいました。

英語、間違っていたからですかね? 「トリック・トレード・トリート」とかなら通じたんでしょうか?


そういえば、

あとがきなどで編集様のことを、若干ナタリアっぽい性格で書いていますが、

ここら辺はかなり誇張されていますので鵜呑みにはしないでくださいね。

本当は笑顔の似合う、どっちかって言うとネフェリーのような方です。…………コケー!

いや、もしかしたらロレッタっぽいかも……頑張り屋さんでいつも一所懸命なので。…………フツー!


まぁ、でも、「トリック・オア・トリート」はスルーされましたけどねっ。



というわけで、偶然にもロレッタの話が出てきましたので(あからさまに無理矢理ねじ込んだように見えるけれど、私が偶然と言えば偶然なんだからねっ!)、今回はロレッタのSSを!



――陽だまり亭


ロレッタ「お兄ちゃん。ちょっといいですか?」

ヤシロ「あ、ごめん。今ちょっと暇だから『何して暇つぶししようかなぁ~』って考えてるとこなんだ。後にしてくれ」

ロレッタ「暇ならあたしの話聞いてです!」

ヤシロ「なんだよ。雨の日に調子に乗って道のど真ん中まで出て来たはいいけど、雨が上がって『やべっ、早く土の中戻らなきゃ干からびちまう!』って焦ってるミミズみたいな顔して」

ロレッタ「どんな顔です!? 確かに、道の真ん中で干からびてるヤツたまに見るですけど! って、そもそも、ミミズには顔ないです!」

ヤシロ「あっはっは。よし、楽しかったぞ、ロレッタ。仕事に戻れ」

ロレッタ「あたしの話、全然終わってないですよ!?」

ヤシロ「どうしても話したいのか?」

ロレッタ「どうしても話したいです!」

ヤシロ「しょうがねぇなぁ……四日だけだぞ?」

ロレッタ「そんなにかからないですよ!? 思った以上に時間取ってくれてビックリですけど!」

ヤシロ「んで、なんだ?」

ロレッタ「お兄ちゃんにはいつもお世話になっているですから、何かで感謝の気持ちを伝えたいと思ったです」

ヤシロ「その結果が、さっきの漫才というわけか?」

ロレッタ「漫才にしたのはお兄ちゃんですよ!?」

ヤシロ「感謝なんぞいらんぞ。くれるなら金でくれ」

ロレッタ「感謝しにくくなるような発言やめてです!」

ヤシロ「俺は別に……お前らが楽しそうにしててくれりゃあ、感謝とか要らねぇけどな」

ロレッタ「お兄ちゃん…………………………ムムお婆さんと似たようなこと言ってるです」

ヤシロ「誰がババアに似てるか!? んで、結局何がしたいんだよ?」

ロレッタ「あのですね、感謝の気持ちを伝えたくて、あたし、お兄ちゃんが喜びそうな物を作ってきたです!」

ヤシロ「パイ拓か?」

ロレッタ「なんですか、パイ拓って!? とめどなく卑猥な響きですけども!」

ヤシロ「おっぱいにインクをたっぷりつけて、紙に『むぎゅっ』っと」

ロレッタ「語感のまんま卑猥なものだったです!? そんな物作れないですよ!」

ヤシロ「お前はエステラか!?」

ロレッタ「失礼ですよ!? おっぱいがないから作れないわけじゃないです!」

エステラ「……よし分かった。君ら二人とも、ちょっと表に出てもらおうか」

ロレッタ「にゃぁあ!? エステラさん!?」

ヤシロ「なんだ、エステラ。お前もパイ拓作ってきたのか?」

エステラ「そんなわけないだろう!?」

ヤシロ「だよなぁ~」

エステラ「『作れない』んじゃなくて『作らないん』だよ!?」

ヤシロ「『精霊の……』……っ!」

エステラ「決闘だ! 表に出てもらおうか!?」

ロレッタ「あ、あの! まだあたしとの話が終わってないですから、後にしてほしいです!」

エステラ「話って?」

ロレッタ「お兄ちゃんに感謝の気持ちを伝えようとしてるです」

エステラ「する必要ないよ、もったいない!」

ロレッタ「今だけ切り取ればそうかもですけど! これまで散々お世話になりっぱなしですから」

エステラ「それで…………パイ拓を?」

ロレッタ「しっかりしてです、エステラさん!? そんなわけないってことに気が付いてほしいです!」

ヤシロ「じゃあ、何拓だ?」

ロレッタ「『拓』じゃないです! これです!」


――ロレッタ、ヤシロに紙の束を渡す。紙には『ロレッタちゃん回数券』と書かれている


ヤシロ「…………なんだこれは?」

ロレッタ「『ロレッタちゃん回数券』です!」

ヤシロ「どう使えばいいんだ?」

ロレッタ「あたしに何かしてほしいことがある時に使うです! あたしがお兄ちゃんのお役に立ってあげるです!」

ヤシロ「…………」

エステラ「ほら、ヤシロ。ちゃんと喜んであげなよ。折角作ってくれたんだから」

ヤシロ「俺の故郷では、五~六歳くらいのガキが思いつきそうな発想だな」

ロレッタ「ふにょ!? で、でも、あたしは五~六歳の子供より役に立つです!」

ヤシロ「それじゃあ、早速使わせてもらっていいか?」

ロレッタ「はいです! 十枚綴りなので計画的に使ってほしいです!」

ヤシロ「んじゃあこの券を一枚使って、モノマネ百連発を頼む」

ロレッタ「………………え?」

エステラ「おっ。面白そうだね。ボクも見ていい?」

ヤシロ「おう、見ろ見ろ。さぁ、ロレッタ。楽しませてくれ!」

ロレッタ「は、はぅ……で、でも、お兄ちゃんがそれを望むなら……」

ヤシロ「十枚あるから、十セットやってもらうか?」

ロレッタ「あたしの心がボッキボキに折れまくるですよ!?」

ヤシロ「じゃあ、とりあえず、エステラのモノマネからいってみようか!」

ロレッタ「え、えっと…………『ヘイ、パイ拓お待ちー!』」

エステラ「言ったことないから、それ!」


――ロレッタは健闘を見せるが、二十二個目の『オメロ』でギブアップしたのでした。

――余談ですが…………残りの九枚を、ヤシロはなかなか使わず大切にしまっていましたとさ。



ロレッタが普通に活躍する『異世界詐欺師のなんちゃって経営術#3』!

お楽しみにっ!


次回もよろしくお願いいたします。

宮地拓海

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