幕間 ベールクリフの決意
幕間だから短い、2000文字くらい。
次男だろうと公爵家の権力ヤバイので、普通にやっても生きられます。
書くであろう話の数を数えるたびに増える現象
ちなみに幕間は二日に一度の更新とは関係ないです。
走り回ったベールクリフは、息を荒くし、肩を上下しながら道端のベンチへと倒れこむように座った。
そんな彼を追いかけてくる二人の姿を視界の端に見つけ、ベールクリフは二人へと視線を向ける。
彼らも息を荒くしていた、アイリスはフラフラとベンチへと寄りかかって、もう限界のようだ。
「……ゴホッゴホッ、なんで、求婚みたいなこと、言ったんだ?」
息を整えることもせずに、レイドがベールクリフへと先ほどの言葉の真意を問う。
言われると思っていたのだろう、ベールクリフは考える素振りもせずにすぐに答えた。
「初めてだったんだ」
「初めて?ってなによ?」
彼の答えに、アイリスは少し落ち着いてきた息を深呼吸で整えながら問いただす。
「俺を公爵家の次男として見ない人が、だよ。二人は良い友達だけど、やっぱ最初は公爵家の子供ってのがあっただろ?」
「……まぁな」
「否定しないわよ?今は関係ないわ、没落しようが友達だし」
「俺も最初だけだ、今は違うからな」
力強く強調する彼らに、ベールクリフは嬉しそうに微笑んだ。
「まぁ、俺も『仲良くしてやるか』なんて思ってたんだけどな、今じゃそんなもの関係なく一緒に居る」
彼の言葉に、三人は同時に笑い合う。
「……でもさ、リーリャ……さんは、最初から関係なかった、最初から俺たちを変えようとしていた、それはわかるだろう?」
二人とも理解していた。
貴族の顔色を窺うだけなら自分で適当に魔物を倒すかして、『彼らが倒しました』そう言えば良い、この補修はそこまで確認はしないだろう。
どうでもいいなら、何もされない。
彼らは、彼女によって背を押されたことは理解した。
それをあちらがどう思っているかはわからない、だけど事実三人はリーリャに一歩を踏み出させられた。
「俺はさ、子供の頃から漠然とだけど、俺の家は偉いってことはわかっていた。父上にパーティに連れて行かれたことがある、俺はそこで父上をボゥッと見ていたんだ、なんとなく分かったんだ、皆父上に媚びていた」
だから俺は偉いんだと思った、そうベールクリフは続けた。
父上が偉い、みんな俺に対してもゴマをする、だから俺も偉い。
馬鹿だった、俺は馬鹿な子供から一歩も動いてなかった。
「極め付けに俺は甘やかされて来た、みんな俺のことをすごいといっていた、兄上はいつも厳しくされて、叱られていた、だから俺は兄上よりすごいと思った、俺は特別なんだと思っていた、あぁ、あぁわかってる、俺は特別なんかじゃない、心のどこかでわかっていた、わかっていたんだ!」
泣きそうな声で、吐き出すようにベールクリフは頭を抱えて言い放つ。
それをとめようかと二人は思った、しかし動けなかった。
目の前に居るのが自分であるように感じた。
彼らもまた、家を継ぐ必要の無いためか、甘やかされて生きてきた。
「俺は家にとっては予備みたいなもんだ、兄上は健康体だ、事故でも起こらない限りは俺が継ぐことはない、俺は家にとって『特別』ではない、だから厳しくしなかった、理解していた、俺は……俺は思い上がっていた、いや、違う、俺は逃げていたんだ、努力して、その結果で、自分が特別ではないと知ることから、だから俺は何もやらなかった!未来に、特別という存在を見せ付けられる未来が怖かった!思考停止して!殻に閉じこもって!ガタガタ震えて!」
ベールクリフは思い出す、リーリャの姿を。
あの、とてつもない力を。
与えられたものではない、彼女が自分の手で手に入れた『特別』を。
「妬ましかった、羨ましかった、――美しかった」
とんでもない魔物だった、それを軽々と倒しきった。
四肢を切り裂く彼女は、今思い出しても恐ろしい。
でも、それ以上に美しくて、夜空に光る星のような、月のような、そんな存在だと思った。
「だから、俺はなりたかった、特別に、彼女の特別に」
ふっと湧き出した、それは雲のような存在だった。
時を経てそれは濃密になり、心の中で大きな存在感を放っていた。
「彼女のことはわからない、あったばかりだ、性格なんてさっぱりだけど、だけど、彼女が欲しい、いや好きだ!だから!」
腕を振り上げて、拳を作り、ベンチへと振り下ろす。
打撃音が響き渡り、木々の枝の上にとまっていた鳥たちが飛び立っていく。
ベールクリフは立ち上がり、二人を真っ直ぐに見た。
「俺は現実を見る、強くなる、努力する、俺は凡人だろう、才能があろうとなかろうと、上には上が居る、でもな、俺はもう止まらない、今まで篭りきっていたのは一生分だ、休息はもう十分だ!」
――俺は、『特別』になるぞ!俺の力を持って!
そう宣言する彼に、二人は笑みを浮かべた。
そして強く強く頷いた。
「やろうか」
「やりましょう」
「よぉしそうと決まればランニングだ!」
「それはやだ」
「うん嫌よ」
「何故!?」
「お前……テンションあがりすぎてハイになってるだろ、俺全身殴られて吐いたんだよ」
「私一度肩脱臼したんだけど」
「走れるじゃないか!」
「……リーリャさんはお前に恋心を持っていない、だから彼女に恋心を抱かせるために会議をしようか」
「いいアイディアだ!よし、そうと決まればカフェにいくか!」
「……やろうなんていったけど、少し後悔しているわ」
「僕もだよ」
ハァ~と大きくため息をつく、しかし表情は少し晴れやかだった。
「行こうか」
「そうね」
そして二人はベールクリフの背を追った。
本を読みながら紙へとペンを走らせる。
「教官らしくメイドらしく……」
リーリャは明日の訓練内容を考えていた。
とはいえども、訓練内容は大雑把に決まっている。
紙には『殺気に慣れる』『基本的な戦闘スタイルを安定させる』『基礎訓練』の二つだけ決まっている。
長期間ならまだしも、筋肉トレーニングや持久力トレーニングをやるのは付け焼刃だ、必要ではあるが、それに傾倒することは絶対にダメ。
じゃあどうするかと言えば、現状の能力を底上げしつつ、自分の戦闘スタイルを安定させ、魔物に会っても恐れないようになる。
つまりは脅えて怯まない、スキを作らない、戦闘に慣れさせるの3点を行う。
その訓練方法は既に決定していた。
ならば何を考えているのか。
メイドと教官の両立である。
不毛だ。
「むむむ……」
『すごいメイドとして有能だな!』
『よっ!メイドマスター!』
『ものすごいメイドの能力ね!メイドの鏡だわ!』
「えへへ……」
口元がニヤけている。
当然のごとくベールクリフの想いは一切伝わっていなかった。
「メイドの未来がすぐそこに……」
数多くの料理店に弟子入りし
母や業者の方に掃除について教わり
簿記やスケジュール管理を読み漁り、実践し
努力の成果が現れるときが――来た!と思っているのは実際のところリーリャだけだ。
――姫騎士リーリャはメイドになれそうです(成れない)




