逆転の発想
「貴方が今回の面接を受ける方でよろしいでしょうか?」
「はい」
少しばかり年齢を重ねたメイドさんが出迎える。
豪華な屋敷から少し離れた使用人用の屋敷にて、リーリャと彼女は向い合って座っていた。
「では身分を証明できるものをお願いします」
そう言われて用意してきたものを取り出す。
ギルドカード、冒険者ギルドに所属し、その階級を示すものだ。
ランクによって色が異なり、EとDは銅、Cは黄色、Bは青、Aは赤、Sは白になる。
「はい、ギルドカードです!」
「はい、受け取りました、冒険者の方がメイドなんて珍しいですねぇ、えぇっとランクは――えっ?白……?」
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「お断りされました」
「ま、まぁ予想はできるでしょう?」
朝早くに貴族の屋敷へ面接にいったら至極丁寧に震える声で言われた。
『申し訳ございませんが無理です』と完全に突き放された。
あまりにショックで泣きそうになりながら、我を忘れてフラフラと歩き続けては泣きながら素振りを夕方までし続けた。
もう帰ろう、そう考えて帰り道にギルド前で見知った顔を見つけ、リーリャは話をすることにした。
「最強のメイドの最強の部分は達成したんですけどねー」
「まぁ、メイドで最強になるなんて物好き貴方ぐらいでしょうけどねぇ」
ユレイド・フォン・ヒュースマン、貴族の三女であり、色々なことがあり冒険者となったAランカーだ。
胸元を大きく開いた黒のドレスと紫のローブを着込みサラリと長い金髪と妖艶な雰囲気が特徴的な魔法使い。
リーリャとはハロルドとの繋がりで知り合った仲だ。
「Sランク……まぁ私はハロルドさんしか知りませんけど、良い人ですよ?そんなに怖がらなくてもいいじゃないですか」
「Sランクが全員ハロルドみたいな性格してるわけじゃないわぁ、世界には個々によって成り立っているのよぉ」
よく知れば恐れるほどのものではないかどうかぐらい分かるとは思うけどねぇ、そう言ったあとに懐かしそうに話し始める。
「ハロルドは動物好きでねぇ、まぁアーリーを嫁にしてる時点で察してると思うけど、猫の前じゃ孫大好きなお爺さんって感じなのよねぇ、いなくなった時なんて泣きながら金貨1000枚を報酬にしてたわぁ」
まぁ色々と問題があったけどねぇと楽しそうに笑いながら話すユレイド。
ハロルドの過去が暴露されていく、本人が居たら全力でユレイドを止めにかかるだろう。
「なのにSランクをみたらドラゴンが現れたと言わんばかりに逃げますからね」
何故彼女がSランクの現状を知らなかったのか。
それは関わってきた相手がハロルドの知り合いであり、そしてこの支部にはSランカーはハロルドしかいないからだ。
彼の妻であるアーリー、元仲間のユレイド、そして彼から紹介された鍛冶屋といったSランカーに慣れた人間とばかり関わってきた。
「まぁ、私としては一点に絞るべきだと思うのよねぇ、でもSランカーよ?アーリーが嬉しそうに言っていたし、辞めてほしくはないわねぇ」
とはいっても、Sランクだとまたこんなことが起こるだろうし、意気消沈するリーリャちゃんも元気づけたいし――何かないだろうか、ユレイドはゆっくりと頭の回転を始める。
「メイド中心、冒険者片手間ぐらいなら――といいたいところだけどぉ、冒険者となるとSランクと二つ名は付いてまわるのよねぇ、さっき言ったみたいに確実に知られることになるのよぉ」
メイドになる、この願いは夢の中では最も頂点に立つ願い。
しかしそれに全てを失っても良いのかと問われるとそれはない。
母と祖父母、村の皆は父のわからない私を愛してくれた。
ギルドのみんなは突然来た私を助けてくれた。
好意を踏みにじるならば他の道を行く、リーリャはそう考える。
「ま、考えられる方法はあるわよぉ?」
「本当ですか!?」
リーリャは暗くなっていた顔をパッと明るくしてユレイドを見る。
彼女は楽しげに長いもみ上げを弄りながら微笑む。
「そうねぇ……教える対価としては一緒にクエストをやるか――経験値を見てもらって、レベルが上がりやすい方法を選んでもらうか、かしら」
「お任せください!」
レベルの存在についてはハロルド・アーリー・ユレイドの三人が知り、信じてくれている。
時たまアドバイスの対価として能力を使っているような状態だ。
「ま、口約束程度でいいわよぉ?、それじゃあ方法を提示するわねぇ」
「はい!」
メモとペンを取り出し、構える。
「『貴族と関わるクエスト』これを受ける……、そうねぇ、自分についてよくわかってもらえる任務であればあるほどいいわねぇ」
ふむふむ、とメモ帳に書き込んでいく。
リーリャは普通に聞けば全てを覚える能力はあるが、万全を喫するためにメモ帳は持ち歩くようにしていた。
それには相手の自分に対する心象を良くするという理由もある。
「できれば『貴族に教える』そして『冒険者を嘗めている』、後者はSランカーで怖がらない相手ということねぇ」
冒険者に対する貴族の反応は大きく二つに分かれる。
『恐れる』か『蔑む』か。
恐れるものは少なからず荒事に対して関わり合いがある人間だ。
その中でも蔑むものもいるが、深く見ると恐れから来るものだ。
騎士家系や護衛を勤める家系などに多い。
そして蔑む、これはギルドと国の繋がりによるものだ。
ギルドは国家権力が基本的には通用しない、自然災害による協力要請は断ることはできないが、戦争への強制従軍、貴族の私兵に無理矢理するようなことはできない。
そのために気に食わないと考えるものが多い。
「わかりました!」
「これぐらいねぇ、じゃあ私はクエストがあるからぁ、また次回、いっしょに訓練しましょ?」
「はい!ありがとうございました!」
去っていくユレイドへと礼をする、手を振って去っていく彼女を見送った後に頭を上げて、依頼を探さなければと受付のほうを見る。
集まっていた冒険者たちは既に捌かれたようで、疎らだ。
今なら大丈夫だろう、そう思い依頼書が張られた場所へと近づくと、目の前に二枚の紙が現れた。
受け取り、見ると依頼書のようだ。
「話は聞かせてもらったし、片手間に整理させてもらったわ」
「あ……ありがとう、アーリーさん」
「まぁ貴族への教練が依頼内容だと人気ないからね、やってくれるなら万々歳よ」
そういって二枚を見る。
一枚は
・戦闘
一人の貴族と剣で戦う依頼内容だ。
ボコボコにして弱者であることを知らしめて欲しいらしい。
戦う本人からの依頼だ。
期間は一日。
もう一枚は
・貴族子息の補修の補助
依頼内容は、訓練と護衛。
訓練期間は一週間、その後ダンジョンへと潜り、戦闘を10回以上。
相手は三人。
「期間も長いし、相手は三人だし、下のほうを選びます」
「それじゃあギルド身分証と依頼の紙を受け取ります」
そういって依頼書の番号を紙に書き、そこに身分証を載せる。
身分証は紙へと投影され、その紙は小さく折りたたまれると、机の後ろにある光を放つ球へと放り込まれた。
「受領完了と、行くのは明日、ウェルヘイナ学院本棟三階、生徒相談室ね、これ生徒についての簡単な情報よ」
受領完了証明と、相手の学院での学年や学科という基本的な情報が書かれた紙をもらう。
今のところやってきたクエストはほぼ全てが戦闘系で、他者を訓練するということはやったことがない、リーリャはどうしようかと考えて一つ思いつく。
「わかりました!本を買って勉強したいと思います!」
「本?あぁ訓練だし、そういう関連のものね」
「はい!じゃあ今日は帰りますね」
「はい、お疲れ様」
そういって去っていくリーリャへと手を振った。
「円滑に進むといいのだけど」
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本を小脇に抱え、家への帰り道を行く。
本を買った後というものは、とてもワクワクする。
それは何が現れるのかわからない、そんな世界が待っているということが目の前にあるからだと思う。
家は大きめの一軒家だ、母と祖父母がいつ来ることになっても問題がないようにと考えてだ。
洗濯物を取り込み、畳んだものをクローゼットへとしまった後、仕込んでおいた晩御飯の料理を始める。
それが終わってからだ。
「ふぅおいしかった」
ご飯を食べ終わり、満足感のまま机においておいた本を取る。
椅子へと向かい、座って本を開く。
題名は『誰でもわかる恐怖と畏怖による効率的な訓練方法』だ。
五冊ほど似たようなものがあったために、パラパラと中身を見たのだが、心理的な効果と共に効率的な訓練方法も書いてあるのでこれだ!と思い買ってしまった。
「ふむふむ」
本をひと通り読んでいく、精神論による訓練効率、心理学を使ってうまく相手に行動させる方法、筋肉や持久力の作り方。
基本経験値が多い訓練をやるという選択をして、脳がやめたいといっても続ければ強くなる、こんな方法をできるのは私ぐらいかな。
「訓練方針は……」
メモ帳を取り出し、書き込んでいく。
まとめると
・畏怖と恐怖を感じさせる
・反抗心を出させる
・飴と鞭を使い分ける
・経験値を見て、効率の良い訓練をする
・限界を超えさせる。
大雑把過ぎるがこのくらいだろうか。
なんだろうか、怖がられないようにと考えたのに怖がられるのが訓練なのか、矛盾というか、穴を掘って埋めているような喪失感を感じる。
「く、訓練だし、やれるだけやらないと!」
自分に言い聞かせるように言ってみる。
さて、明日のためにも早く寝ようか、そう思考を切り替えて、お風呂に行こうと服をクローゼットから取り出す。
お風呂は基本お金持ち専用であるが、お金が無くても一部の人は入れる。
水と火、二つの魔法が使えればだ。
もちろん魔法道具でも入れる。
といっても高いので結局お金持ち専用になるけども。
「『水よ、風呂釜を満たせ』『火よ、湯を沸かせ』」
――魔法を覚えてよかったなぁと思うことは、お風呂が簡単に入れることだ。
明日のことを考えて、のんびりはいることにした。
ーーー
次の日、ウェルヘイナ学院の正門の前へと、予定の一時間前に到着。
ウェルヘイナは王都から馬車で四十分ほど、走れば二分で付く距離だ。
いつもよりも速い鼓動を深呼吸をして沈める。
二分もすれば静かにできる。
受付で受領完了証明を手渡し、入校許可証を受け取り、一通り見てまわることにした。
パンフレットを開いて地理を理解しよう、そう思ったときだった。
「こんにちは、この時期に訪問とは珍しいですね?どこかの貴族様にご用事ですか?」
声をかけられると、リーリャと同じ銀髪の青年が立っていた。
体格は良いが、どこにでもいる好青年といった雰囲気――いや、そういった雰囲気を作り出している青年だ。
笑顔はかなり自然体である、作ったものだとわかるものは少ないだろう。
「いえ、訓練任務を承った冒険者になります」
そういってギルドカードを手渡しする。
カードをみてピクリとも笑顔から変化しない。
違和感が溜まって行く。
「失礼致しました、私の名前はアルフレッドと申します、この学院の6年生――つまりは最上級生になります」
「リーリャと申します、……さすがにこの場所ではメイド服だと目立ちますかね」
「まぁ、そうですね……」
少し後悔する、メイド服は己の道を再確認する意味ではあるが、配慮が足りなかったようだ。
明日はメイド服が使えない場合を見越して買っておいた予備を着ることにしよう。
「ふむ、嫌な気持ちにさせるかもしれませんが一つ聞いてよろしいでしょうか」
「構いませんが、何でしょう?」
「それはよかった」
では、と一呼吸置いてアルフレッドは笑みを深める。
何と無く、嫌な感じがした。
「貴方のお父さん、気になりませんか?」
「……貴方は何者ですか」
「おや疑問に疑問を投げかけるのは関心できませんが」
「……昔は、ですが。今は特には興味はありません」
胸中では疑問が飛び回る。
最たるものは
『何故私に父がいないことを知っているのか』だ。
しかしリーリャは声の抑揚、汗、表情をコントロールし、平坦に答える。
「そうですか、それは残念です」
「何故、今その問を投げかけたのでしょうか」
「それは何れわかりますよ、わかる流れへと貴方が乗ったら」
「――流れ?」
「夢を叶えたいというのなら、激流に流されないことを心へ刻んでください」
――なんだというのか。
彼は、今から私の身に何が起こるというのか。
小さなころに母へと問いただしたことがある、『私のお父さんはどんな人なの?』と、その場の空気が凍り、困ったような顔をした母がいて、困らせたくなくて気がつけば問いただすことはなくなった。
「私の、お父さん……?」
青年との出会いは、私の心へと引っかかりを残していった。
グラマー炎使い、……特に考えてなかったのに、女性の炎使いってそういうイメージありますよね、ゼロの使い魔ってすごい。




