Sランク冒険者とは
――洞窟内部に咆哮が響き渡った。
貴族の屋敷ほどの大きさ、砲撃をものともしない紅い鱗に覆われた体を持つ紅龍。
吐き出される息吹は鉄を溶かし、威力は城を地図から消滅させる、その上吐いた炎は三日三晩燃え盛り、周辺を侵食していく。
現れた場合は国が軍を動かさなければ止めることは不可能とされ、戦闘が行われた場合、その周辺が荒野へと変貌し、死体の山が積みあがることは必然とされている。
このような『国が全力を持って相手取らなければ滅びる』そんな存在のことを人々は『逃れられないもの』として『自然災害』と呼んでいる。
……そんな化け物へと相対する少女が居た。
腰まである美しい銀髪、透き通るような白い肌、優しげな容姿。
剣など持ったことが無い、ましてや目の前の化け物と戦えるとは思えない。
しかし彼女は脅えることも無く、逃げ出すことも無く、目の前へと一歩踏み出し、腰に差した剣を引き抜き突撃する。
対する龍は尾を横なぎに振るった。
少女がまるで塵のように吹き飛ばされる未来しか予想できなかった、龍もそんな光景を脳に描いていたであろう。
その結果は、龍が最後まで振り切った後に知ることとなった。
少女に当たったであろう部分から先、それが全て消失していた。
龍は少女が居るであろう部分を見る。
尾は当たった、――"当たっただけ"である。
消えた部分の尾は、彼女の手にあった。
己の肉体の数十倍はあるであろうそれを片手で軽々と持ち上げ、横に投げ捨てる。
そして再び突撃を再開する。
――龍は理解した、この少女は己を殺し得る存在だと。
しかし『はいそうですか』と殺されるやつは居ない、息吹を口内へと貯める、隙間から炎が漏れ出した。
吐き出す――その瞬間だ、彼女の口が動いた。
「『風よ――剣に纏え』」
龍は己の息吹の威力に絶対に自信があった。
――だというのに、何なのだろうか、この結果は。
城を消滅させる一撃は、二十にもなっていないであろう少女の一撃に軽々と超えられ、貫かれ、そして霧散した。
そのことを理解する暇も無かった。
己の思考を無視して視線が下へ下へと落ちているのだ。
その時理解した、龍は敗北したのだと、首を落とされたのだと。
落下した後、薄れ行く意識の中で最後の力を振り絞り、龍は少女を見る。
憎しみではない、称えているのだ、この一人で己を殺した少女を。
地面へと降り立った少女は剣を横に古い、血を払い落とした。
そして鞘へと収め、メイド服を軽く叩いて汚れを落とす。
傷一つ無く、汗一つ無く、事も無かったといわんばかりの軽い口調で
「よし、クエストクリアーっと!」
彼女は言い放った。
Sランク冒険者『姫騎士』リーリャは、絶命した龍へと視線を向ける。
お目当てのものを手に入れるためだ。
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冒険者ギルド、セイク王国王都支部受付嬢『アーリー』。
猫耳の彼女は、誰一人として居ない静かな支部にて暇をもてあましていると、来客を知らせる鈴の音が響き渡った。
「あ、いらっしゃ――おっと、何これ?」
いらっしゃいと最後まで言う暇も無く、大きな箱が視界一杯に現れたので受け取った。
箱を見つめた後に、入ってきた人物を見る。
「あ、リーリャちゃんね」
「アーリーさん、クエストクリアーしましたよ!」
誇らしげに胸を張るリーリャへと笑顔を浮かべながら、何のクエストだったかなぁと記憶を探る、思い出し――とたんに顔が青くなる。
「――もしかして、龍の心臓かしら」
箱から心臓のような鼓動が聞こえる。
龍は首を落とすか、心臓を破壊しない限り死なないと思ってしまうほどに生命力の高い生物だ。
そのために昔はアンデットの種族に入れられていたこともある。
そして心臓は高い魔力を持っており、欲しがるものは多い。
リーリャはそれを採ってくるクエストを受けていたはずだ。
「うん」
軽い返事だった、慌てて箱をカウンター下の隙間へと隠すと、出会ってからまだ少ししか経っていないというのに、疲労困憊な表情で、アーリーは咎めるようにリーリャへと言い放つ。
「あのね、いつも言ってるでしょう?高級なものは直接依頼主に手渡してくださいって」
「……あの貴族さん胸とか足とか凝視してくる」
あぁ、色魔のアーニールド伯爵だったなと思い出し、そう思うのも仕方が無いと同情心が沸く。
しかし心を鬼にしろアーリー、毎回こうなると負担が大きいし、彼女を見て不公平だと言ってくる輩もいる。
「その気持ちはわからなくもない、でも龍の心臓の値段がいくらわかってるの?」
「金貨五十万枚だったかな?」
「えぇ、そのぐらいね、貴族の屋敷が2、3は建つわ、そうなると当然盗んでやろうという輩もいるのよ、ギルドは信頼を売っているのも事実、そんなギルドが輸送途中で盗まれました、なんてことがあれば信用ガタ落ちになっちゃうのよ、だから採集クエスト関係は、対象の分類がS、もしくはAの場合依頼主に直接手渡して、依頼主がギルドへと通知を送ることでクエストクリアーとしているのよ」
「うぅ……」
正論に次ぐ正論、ぐぅの音も出ない様子のリーリャ。
そんな彼女に反省の色が見えたので、アーリーは小さくため息をついた。
「今回ばかりは旦那のケツ蹴り上げて持っていかせるけど、次回はちゃんとしてね?毎回ちゃんとしてるリーリャちゃんだからの特例だから、次は無いわよ?」
「はい」
「うん、素直でよろしい、とりあえず通知が着たらクリアーとするから、明日か明後日になるかしら、報酬は金貨80万枚、いつも通り半分はお母さんに渡す口座に入れておくわ」
「これでお母さんの口座は金貨1020万枚です!1000万枚超えたので親孝行に何か買おうと思います!」
「うん、全部使って買わないでね、親御さんすごいことになるから」
泡を噴いて倒れるであろう顔も見たことが無いリーリャの母と祖父母へと心の中で手を合わせる。
「あ、もうすぐ時間だ」
「あら、何か用事でもあるの?」
「バイトだよ、お願いして働けるようにしてもらったんだ!」
元気良くリーリャが去っていく、それを手を振って見送るアーリー。
「……ハロルド」
リーリャの姿が消えた瞬間、低い声になり背後へと声をかける。
いつのまにか後ろには、強靭な体躯とオールバックにした短い髪の毛が特徴的な男が現れていた。
「……Sランクに成り立てだからわかってねぇんだろうな」
「でしょうね、止めてきなさい」
「旦那に働かせすぎやしないか?」
「ギルドの運営、依頼の受付、管理、――支部長の仕事は嫁の仕事かしら?」
「……いってきます」
「よろしい!」
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冒険者ギルドとは、その名のとおり冒険者が集まるギルドのことを指す。
ランク付けは5つ、S、A、B、C、D、Eと分かれている。
強さとしてはD,E級がゴブリンといった低位の魔物を倒せることができ、B,C級がバジリスクといった中位の魔物を倒すことができる。
そしてA級――このランクの昇格は、ドラゴンのような上位の幻獣を倒せることが必須となる。
ドラゴンならば種族内のものなら低位でも良い、食物連鎖の頂点に君臨する彼らを倒し、その証拠を持って帰れば昇格することができる。
問題はSランクである、二つ名を持たされるランクだ。
このランクに上がる基準は無い、というよりもこのランクに上がる奴らは強さでは測れない、『異常』『理解不能』そんな存在だ。
フェンリルを殴ったら破裂した、ドラゴンは傷一つなく倒せます、ゴブリンと相対したら目と目が合っただけで死にました。
最低で『自然災害』よりも圧倒的に強い存在なのだ、どこをどう基準をつければいいのかさっぱりとわからない。
そんな奴らの宝庫なためか、Aランクでさえも、隣にSランクが居たら泣いて土下座して逃走するレベルだ。
ちょっと怒らせたら上半身吹き飛んで死ぬ、何をすることが起爆スイッチを入れることなのかわからない爆弾が目の前に存在する、しかも威力はわからない、最低でも一人死ぬ、最高ならどこまでも、そうたとえれば分かりやすいだろうか。
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「あぁ~今日も疲れたなぁ」
「今日のクエストはかなり面倒だったからな」
二人の低ランカーは暗い夜道を歩いている。
向かい先は酒場、安くて旨い、そして量も多い、彼らのような冒険者では最高の酒場だ。
「あったあった、さて――ん?なんか静かだな、定休日か?」
「いや、普通に営業中って書いてあるが?」
いつもなら店の前で店内の賑やかな笑い声が聞こえてくるというのに、声の一つすら、物音の一つすら聞こえてこないほどに静かだ。
「今日に限って人がいなくて貸切状態とか?」
「ハッそりゃいい!好き放題騒げるな!」
笑いながら店内へと続く扉を開ける。
扉に括り付けられた鈴がカランカランと鳴り響き、いつも通り店内を見回し、席が空いていな
「いらっしゃいませ!二名様ですか?」
「うぉぁあっ!?」
「?、どうかなされましたか?」
「い、いやなんでもない」
まるで瞬間移動したかのようにメイド服の少女が現れて驚いた。
――いやいや、そんなわけがあるか、俺が気づかなかっただけだ。
メイド服の少女は、まるで童話のお姫様のように美しく華奢だった。
そんな超高速移動なんてできるわけがない。
「あぁ、二名だ」
「俺、帰る」
「……は?酒の一杯も飲んでないのに帰るのかよ!?」
馬鹿なことを言う相方のクルツへと振り向く。
――物凄く顔が真っ青なやつがいた。
「どうかなされました?」
「ヒィエッ!なななななんでもないですぅ!ごめんなさい許しくださいッ!」
「た、体調でも悪いのかよ?分かった、酒はいい、飯を軽く食ってさっさと帰るか?」
「いや、あの俺は帰」
「お席はこちらです!」
「はいィ!行きます!ごめんなさい!」
……何だか様子の可笑しいクルツを不審に思いながらも、席へと向かう。
到着する間に周辺を見回す、誰もいないかと思えばいつも通り満員に近いじゃないか。
だというのに、なんだこの空気は?葬式会場かここは。
席へと座り、メニューを開く、クルツは消化にいいものを頼んで直ぐに帰すか。
――たまには一人酒もいいかもしれない、そう思いながらチラッと先ほどのメイドを見る。
可憐な容姿と癒される笑顔、彼女を眺めながらの酒は中々に美味そうだ。
「おい……おい!」
「ん、なんだ?決まったのか?」
「気づかないのかよ!あの……あの方のこと」
「ハァ?どっかのお姫様だったりするのか?」
シオンの言葉に、クルツはありえないものを見るような視線を向ける。
その視線に少々苛立ち「だったらあの店員さんがなんだってんだよ!」と声を荒げて問いただす。
「あ、ありゃ姫騎「お決まりでしょうか?」ヒィィィ!決まってなくてごめんなさい!」
「……何謝ってんだお前?すいません、こいつ今ちょっとおかしいんですよ」
「いえ、呼ばれた気がした来たのですが、間違った私が悪いんです!」
「いやホント俺がクズなだけなんで!俺が死ぬべきなんで!」
「お前何言ってんだ!?あ、あぁもう!俺ビール、あとはこれと、これ!後こいつは鶏がら塩雑炊で!」
「はい、かしこまりました!」
クルツの狂いっぷりに、この場を流そうと適当に選んで注文をする。
去っていった店員を見送り、クルツを睨み付ける。
「てめぇ落ち着けよ!さっきまで普通だっただろうが!」
「ド、ドラゴン目の前にして落ち着けるわけないだろうが!!」
「はぁ?だからあの娘がなんだってんだよ?」
「あれはな!姫騎「お待たせしました!」シプリガプスゥッ!?」
「お、おぉ早いね」
「メイドは無駄なく業務を遂行し、最大限の喜びを感じさせる努力を怠りません!」
「うん、ありがとうね」
「それではごゆっくり!」
礼儀正しく一礼して去っていく彼女を見送る、料理はいつもより一段とおいしそうに見えた。
……彼女が持ってきてくれたからだろうか。
匂いと見た目が食欲を刺激する、ごくりと無意識に唾を飲む。
クルツの言葉など頭の中にはもう無く、置いてあるフォークを握り締めて料理を刺して口に運ぶ。
「お、おい!」
一口、その瞬間言いようの無い幸福感が広がった。
美味い、美味いなんてものじゃない。
語彙能力が低く、例える言葉が見つからない自分が嫌になる。
天にも昇る美味さ、ただそれだけしか言いようが無かった。
「美味い……!」
いつのまにか涙を流していた、全て食ってしまうのが勿体無い、そう思えてしまうほどの味に ゴォォンッ!
――ゴォォン?
爆弾が爆発したような轟音、舞い上がる煙。
そして煙から人影が見える、何者だと店内全ての人間が構え、凝視した。
「せ、『殲滅者』ハロルド!?」
『殲滅者』ハロルド、王都支部の頂点にして化け物集団Sランカーの冒険者の一人。
クルツは自分の全身から血の気が引いていくような感覚が起こった。
やべぇ、Sランカーなんぞと係わり合いになりたくねぇと、逃げ道を探していると、そんな雰囲気から浮いた存在が視界に現れた。
「いらっしゃいませ!」
メイドの彼女だった。
Sランク冒険者を目の前にして一切脅えることなく、笑顔で接客を開始している。
どうにかして引き剥がさねば……!シオンは額に汗が噴出すのを感じながら、一歩を踏み出した。
「いらっしゃいませじゃねェェェ!」
その勇気は今散った。
ハロルドの怒気に当てられて漏らしかけた。
「カウンター席とテーブル席どちらがよろしいでしょうか!」
「どっちにも座らんわ!」
「おタバコお吸いになられるでしょうか!」
「とにかくSランク冒険者がバイトなんかしてんじゃねぇって言いに来たんだよォ!!」
「許可はとっています!お願いしたら頷いてくれましたよ!壊れたおもちゃみたいでした!」
「そりゃビビッてたんだよ!Sランカーのお願いは脅迫と違わねぇんだよ!?」
「料理修行もできて一時間で銀貨一枚!一石二鳥じゃないですか!」
「一日で金貨10万枚稼ぐやつが銀貨一枚で喜んでんじゃねぇよ!?」
そして固まった、目の前のコントのような光景に、だ。
「これも立派なメイド修行です!」
「修行だか何だか知らねぇがな!人様に迷惑かけてんじゃねぇんだよ!支部にこいや!こってり説教してやる!」
「ふぅ、わかりました」
そういってメイドの少女は店内へと「すいませんが今日はこれであがります」と声をかけた、内部からは「ハ、ハイィィ!」という脅えたような声が聞こえてくる。
……店長である。
「戦略的撤退です!」
次の瞬間、少女の姿は消えた。
――瞬間移動って見間違いじゃなかったのか。
「あ、てめぇ!?……すまん金貨20枚置いていくから修理に当ててくれ、足りなかったら支部に請求よろしくな!」
そういってハロルドは外へと飛び出していった。
嵐のように過ぎ去っていく彼ら――遠方からの爆発音は聞こえ無いことにしよう。
シオンはクルツへ視線を向けて、彼らが去っていった方向へと指を向ける。
「『姫騎士』リーリャか?」
「やっとわかったか……」
店内にため息が共鳴する。
今日も王都は平和です。
名前リーリャ
年齢16
レベル897(作品中最強の存在であるアーローンの英雄さんは1000くらい)
次のレベルまで
102992 / 10280669020
筋力50680
魔力83296
速度100120
運 10290
賢さ119260
スキル(最大値100)
料理 98
給仕 82
掃除 90
礼儀作法 88
サバイバル 68
剣術98
魔法
火系 38
水系 92
風系 82
土系 6(才能なし)
雷系 88
氷系 80
光系 98
闇系 0(素養なし)
基本魔法 70
魔法は平均30が一般的な魔法使い
装備:龍牙剣・メイド服
あざとい男の娘を出したい




