共闘
この世界の地図は、そのまんま世界地図みればいいだけです。
「リーリャぁぁぁ!?」
ハロルドは、白い髪を風にたなびかせながら、くるくると回って落ちていくリーリャを見た。すぐに駆け出そうとして、止まった。
黒い龍へと視線を向ける、特に溜めもなく、軽々とあの威力を放った、城へと落ちて行ったであろうリーリャを見る、これで城に攻撃されれば、中に居る人々も、そしてリーリャも死ぬだろうとは、容易に考えられた。
「ハンニバル、行ってくるぞ」
「あぁ、……生きて帰れ」
「当然だ」ニヤリと笑みを浮かべて、ハロルドは力を込めて、地面を踏みつけた。跳んでいくハロルドを見て、ハンニバルは周囲の騎士を見た。
皆、焦りと絶望がにじみ出ている、そんな彼らをみて、ハンニバルはふっと小さく笑った。
そして腹へと力を込めた。
「ハロルドが黒い龍をひきつけている!俺らの敵は、アンノウンだ!中にいる騎士たち呼んでこい!」
「……団長、勝てるんでしょうか……?」
「勝てないから逃げるのか、お前は?天の上で、勝てるわけがなかったからと言い訳をして、愛し、信頼した人々が殺されている光景を眺めるのか?天に来たやつらに、言い訳をするのか?選べ!勝利するかもしれないと考えて、走り続け、祖先・子孫に誇れるようになるか、負けるからとここで剣を捨てて、後悔し続けるか!」
騎士たちの顔がハッとした、彼らは現実を見ている、しかし、ハンニバルの言ったことも、また現実だった。
「さぁ、生き抜くぞ、今回は終わったら、かなり大きな給料をくれるそうだからな、全部吐き出して、酒を飲むぞ!いい酒場がある!マスターとも知り合いだ!貸し切りにして、町中も巻き込んで馬鹿騒ぎをするぞ!!」
剣を引き抜いて、切っ先を天へと向けた。
ハンニバルは周囲を見回した、騎士たちは笑みを浮かべて、こくりと頷いた。
「――了解ッ!」と口ぐちに言い放ち、騎士たちは剣を引き抜き、構えた。
スキピオは、幸いとして、落下地点が植木の場所だったために、骨は折れることなく、擦り傷程度で収まっている、半分茂みに埋まった体を抜いて、体を起き上がり、周囲を見回した。
落ちた場所は、吹き飛ばされた個所からは、そこまで遠くはなかった。
「リーリャさん、居ますか!?」
声を大にして、リーリャの声を呼んだ、返答は……無かった。
ズキッと、頭が痛む、スキピオは頭を押さえながら、歩き続け、黒い龍をまっすぐと見た。
「――泥沼どころか、毒沼ですね」
ハハッと笑い、ゆっくりと立ち上がる、騎士たちの死体をチラリと見た。
「――グレット、マーダー、ラッシュヘルト――はぁ、これが終わったら、墓を、盛大に葬式を」
スキピオには、光が宿った、それは、消えることはなく、先ほどよりも大きく、絶望に酔う程度に、彼の心は弱くはなかった。
「副団長!大丈夫ですか!?」
「ハースですか、大丈夫ですよ、龍騎士隊に、あの黒い龍の意識を引き続けてもらうことはできますか?」
「えぇ、龍騎士隊は、先ほど戻ってきたばかりなので、健在なので、できるとは思いますが――」
「貴方の言いたいことはわかります、勝てるのか、ですか?」
スキピオは、ハースの顔に張り付いていた恐怖から、言葉を読み取り、問いかけた。
「いいえ」
しかし、帰ってきたのは否定だった。
「どうやって、あれを倒しますか?怖いですよ、怖い、とても怖い、でも、……俺、死にたくないんです、だから、倒す方法を、教えてください」
スキピオには、ひきつる騎士の顔と、泣きそうな声が聞こえた。
其れを聞いて、スキピオは、ゆっくりと目をつぶり、
「――第四騎士団に配属して、本当に良かった」
微笑んだ。そのまま横目でジロリと黒い龍を視界に納めた。
「おそらく、ハロルドさん……つまり、逆位置にいる冒険者さんが、攻撃をしかけるでしょう、それを龍騎士隊は補助してください、あとは――リーリャさんを探しましょう」
「はっ!」
敬礼をした後に、周囲に命令を伝達していく、その時だ。
黒い龍が、再び砲撃を装填した――
「調子のってんじゃ――ねェェッ!」
ハロルドが装てんしたところに、顔面に一撃、ぐにゃりと顔が崩れ、黒い龍の顔面が吹き飛んだ。
「うおおおお!?」
風圧に押し流され、ハロルドも吹き飛んだ。空中で体勢を立て直し、大地に足から着地をして、前を見る、近場で見ると、城壁を超える大きさに、見るだけで圧倒された。
ぐにゃり、と吹き飛んだ頭が、修復されていき、遠目から見ただけではあるが、先ほどと変わりない姿へと再生した。
「紅龍か――いやはや、やはり龍の心臓がキーだったか」
見た目は完全に巨大な紅龍、自然災害と呼ばれる存在を、アンノウン化したものだということは、一目瞭然だった。
「さて――やるだけやるかァッ!!」
凶悪な笑みを浮かべて、ハロルドはナイフを引き抜いた。
そのまま、走り出していく、こちらを敵と認識した黒い龍は、こちらへと殴りかかった、それを飛んで避けると、黒い龍の口に、真っ黒な光が発生した。
「――馬鹿の一つ覚えかッ!!」
背後を見る、直線状は空、撃っても被害がでることはなかった。
吐き出される息吹を、ナイフに力を込めて、一閃した。
ハロルドの固有能力を発動した。
二つに斬り裂かれた光線は、ハロルドを避けて飛んで行った、背後を見ずに、黒い龍へと威圧する、その時だった。
「―――?」
黒い龍の動きが停止した、まるで怯えたようだった。
「――知恵がある、のか?」
突如、背後にはばたく音が聞こえた、振り向くと、龍騎士の軍団がこちらへと向かってきていた。
一番前に、隊長であるアーレスは、ハロルドへと声をかけた。
「フォローする!」
「――よろしく頼む!」
地面へと着地し、攻撃を仕掛ける、その時には、既に龍に怯んでいる様子はなく、こちらへと動き出していた。
「はっ、図体もでかい上に、動きも速い!」
黒い龍はハロルドに攻撃をしかけた、それを掻い潜り、一閃、まるでバターを斬っているかのように、分厚い鱗は切断されていった。
「硬くはない――」
ぐにゅん、と掻い潜った腕が、揺れた。そしてそこから、大量の触手が発生した。
触手たちは、ハロルドを捕まえんと動き出していった。
「チィッ!」
その触手を、ナイフで斬り落とす、黒い龍は、この程度では無理だと理解したのか、周辺の体から、さらに触手を作り出した。
「――キモイわッ!」
苛立ちながら、魔力を右腕に溜めて、振りぬき、一掃した。
だが、さらに触手が発生していく、数にものを言わせて、こちらを捕えようとしていた。
(やべぇ……)
少しずつ追い詰められている現状に、冷や汗を掻いた。
どうすればいい、と打破する方法を考えていく、しかし、力任せでは、さらに増やされるだけだ――その時、触手が停止し、龍がうめき声をあげた。
触手の群れから、飛んで離れて、何があったのかと周囲を見回すと、アーレス率いる龍騎士隊が、黒い龍の眼球へと、息吹を放っているのが見えた。
異常な強さを持つといえど、むき出しの眼球は痛みを感じるようだ。
「よし――さらに攻撃をしかけるぞ!」
思考を切り替えようとした、龍へと視線を向ける――黒い光が、現れた。
対象は、一直線に城を見ていた。
ハロルドは舌打ちをし、城と龍との間へと飛び、ナイフの切っ先を、黒い龍へと向けた。
龍騎士隊は眼球へと息吹を放つ、しかし、止まりはしなかった。
放たれる黒い光線、それを斬り裂くハロルド、黒い光線は、城をすり抜け、後方の山へと着弾し――山が消えた。
(ギリギリィッ!)
ハロルドは内心ホッとしながら、いかにして城への攻撃をできなくさせるかを考え――
さらに、黒い龍の口の、光線がたまったのを見た。
(――こ、こいつッ!?)
全力で、城を消し飛ばそうとしてやがる、落ち行く体をもがき、なんとかとどまろうとするが、重力には逆らえなかった。
落下する体、放たれる光線――そして、それは――防がれた。
上がる土煙は、ハロルドの視界を覆い、何も見えはしない、何が起こったのだと呆然とするハロルドは、防いだ存在を、なんとか探そうと見まわした。
「――足を引っ張ることだけは一人前か、貴様……」
ハロルドに、知っている声が聞こえた。
しかし、ありえない、と同時に思った。
「……ルーカス、か?」
「『風よ、吹き飛ばせ』」
土煙が吹き飛び、すべてが露わとなる、言った通りに、ルーカスと共に、エーリカ、メルロス、ミストレーナの三人がそこに現れていた。
「なんで、お前……?」
「……城を吹き飛ばされてはダメだ、あそこは、アーグリードの願いがある」
「願い……?」
苛立ちも最高潮に到達したのだろう、憎しみのこもった視線を、黒い龍にぶつけ、その瞬間、黒い龍は後方に吹き飛ばされていった。
地面へと叩きつけられ、黒い龍はうめき声をあげた。
「あぁ、不純物が混じりやがって!操作できないだろうがァッ!」
怒りにまかせ、膨大な魔力を吹き出すルーカス、唖然とするハロルドに、エーリカがゆっくりと近づいてきた。
「……手を貸すってことよ」
「……あぁ、すげぇな、百人力だ」
「百人で収まるわけがないだろう!」
「……例えよ?」
「メルロスちゃん☆バァァァッカだよねェェェ!!」
「私はバカじゃない!」
この状況下でコントを始める彼女らを横目に、ハロルドは笑みを浮かべた。
「さぁ、ボッコボッコにしようか!」
「――さて、と、時間もありそうだし、ひとつだけ言っておこう、リーリャが見聞きした情報しか得られないからな、ハッキリと言えないが――この事件は帝国が関与していた、ルーカスのやつは、おそらくは動かしていると思っていて、動かせていない」
リーリャ……いや、アーグリードは遠くの戦闘を感知しながら、そう言い放った。
中庭がザワつきはじめる、「帝国?」「戦争か……?」などと不安げな声が飛び交った。
しかし、グリフグレイは動揺せず、淡々と述べた。
「ルーカス……貴方の隣に居た、亜人ですか」
グリフグレイの言葉に、さらに周囲がザワついた。
「あぁ、伝わってはいるのか、伝記に存在しないから、忘れさられたのかと、少し不安だったが……」
「亜人を許容すれば、帝国が必ず圧力をかける、最悪戦争ではないか、という考えから、ベネヴィア様が、隠し通すことを決めました」
「――そうか、ベネヴィアはやはり最高の妻だ、俺――いや、アーグリードが死んだ時、国内は揺れただろうな、その時の国は、俺に摑まった状態だった」
「――はい、そう伝わっております」
アーグリードは、ゆっくりと頷いて、腕を組んだ。
「今のこの国は、英雄にしがみつかなければならないほどに脆弱な存在ではないようだ、騎士たちをみて、そう思った、まぁちょこっと、あれだが」
「申し訳ない」
どこからか声があがった、視線を向けると、人ごみを掻きわけて、アーニールド伯爵が現れた。
「アーグリード殿」
「一々訂正するのも面倒だ、聞こう、何だろうか?」
「……この戦いは、どこにいけば、勝利なのですか」
淡々とした問いかけに、アーグリードは真顔で頷いた。
「――天の一族の踊った台座で、再び舞う」
「それは、どこに?」
「俺の記憶は、ひとつしかわからない、帝国の城の地下だ」
「ねぇ、お母さん、この髪邪魔だよぉ」
ミオが、煩わしそうに髪の毛をかきあげて、髪をとかしてくれている母へと言い放った。
その言葉の通り、ミオの髪は長い、腰どころか、立っていれば爪先よりも長くなり、さらには床に広がってしまっていた。
母であるエナは、苦笑いを返し、ミオの頭を軽くなでた。
「ごめんね、里を護る役目を持つ、私たちは、成人を迎えるまで、髪を伸ばし続けなければいけないのよ」
「えぇー」と不満そうな声を出すミオ、エナはもう一度「ごめんね」と言った。そう言われてしまうと、ミオは何も言えなくなってしまう。
そのまま、梳かされるのをじっと待っていると、部屋へと誰かが入ってきた、頭を動かさずに目だけ動かし、そちらへと視線を向けると、
「おばあちゃん?どうしたの?」
ミオの祖母である、エンが現れた、腰を悪くし、めったに出歩くことはないというのに、今日に限って外に出てきた、それが不思議で、問いかける。
エンは嬉しそうにニコリと笑い、ミオに対面して座った。
「良い夢が見れたんでね」
「どんな夢?」
問いかけると、エンは身ぶり手ぶりをしながら説明をしていった。
「金色の翼をもった女性が、黒い霧を祓う夢さ、私はそれを、空を飛ぶ白鳥となって、ずっと眺めていた、きっと、もうすぐ黒い霧が祓われるのかもしれないね」
その言葉を聞いて、ミオはパァッと目を輝かせた。
「本当に?本では、ものすごく大きな湖や、真っ赤に燃えるマグマっていうやつがあるって書いていたけど、それ、見れるの?」
「うん、うん、見られるよ」
「うん、楽しみだなぁ!大きな湖で泳いで、たくさん遊ぶんだ!」




