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天の一族

最初はギャグ小説だった――


訓練は終わった、母に断りを入れて、部屋に入らないように行っておいた。

全ての項目を達成したことを確認して、リーリャは眼を瞑る。うやつだ、自分のやれることを思い出し、そしてそれが使えるようにするためだ。ルーカスが戦闘が可能になるには、あと数日といったところ、それまでに能力を上げる――なんて、無謀なことはしない。

今から能力を上げようとしても、付け焼刃、何かを得ようとすれば、逆にもろくなってしまう可能性がある、そう考えた。

ならば、どうする。

思い出せ

瞑想といばいい、剣の使い方を。忘れてしまった使い方を、知らない使い方を。

そして、相手を思い出す、覚えている・思い出した・思いついた、その三つから勝てる方法を編み出せばいいのだ。

リーリャはその場に座る、床に正座をすると、直にルーカスの姿を思い出して言った。最初は霞がかった姿だが、すぐにはっきりとした姿となった。

能力を使用して、見えたステータスを思い出していく。

力――あぁ、この数値だ。

魔力、うんうん、これだ。

そう考えて、見ていくと、一つの数値の前で立ち止まる。

違和感があった、速さという項目だ。

数値は、リーリャよりも遅かった。遅いというのに、終始翻弄されていた記憶しかなかった。

何故か、答えは一つしかない、


(――固有能力)


リーリャの眼には、固有能力を映し出すには、少し時間が必要だ。戦闘中となると、映し出すために必要な時間を取ることは難しい。

そのために、固有能力は不明だ。しかし、予測はできた。

加速、もしくは時間停止、触れている間には起こらなかったことを考えると、この2点がすぐさま浮かんできた。

リーリャはその攻撃に対して、どう動くかを考える。




時刻は夜中といっても良いほどの時間となる。

リーリャは思考に没頭して、時間を忘れていた。しかし体内時間は正確のようで、うつら、うつらと少しずつ船を漕ぎ始めた。

そして、いつのまにか、すやすやと静かに寝息を立てて、夢の世界へと沈んでいった。


――これは夢だ、そう理解するのは素早かった。目の前に金髪の絹のように美しい髪を持つ、翼の生えた少女が居た。

しかし、先日の夢とは違っていた。

頭からは血を流し、服は破れ、顔色は真っ青で、痛々しい姿だった。それでも、顔を時節歪めながら、台座へと近づき、踊りを始めた。


「『――♪』」


その歌は、日常的に使っている言語ではない、精霊言語だった。

所々に知らない精霊言語が混じり、ちゃんとした歌の意味はわからなかった。

心を奪われてしまうほどに、美しい踊りだった。

その瞬間、ごぽりと台座から、黒い何かがあわ立った。それを見た瞬間、まるで台所に潜む、黒い魔物――ゴキブリを見たときのように、反射的に全身に不快感が駆け巡った。

台座へと視線を移った、カタカタと揺れている、しかし、そんなことはないかのように、少女は歌と踊りを止めなかった。

そして、少女は光のベールのようなものを纏った。そのベールは天へと昇り、分裂し、光の粒子となって、どこかへと飛んでいく。

それを見上げ、少女へと視線を移す、ふらりと倒れるその姿が見えた。思わず近づく――いや、自動的に近づいていた。

誰の腕が少女を抱いた、倒れた少女は、苦しそうだが、必死になって笑顔を作っていた。胸を締め付けられるような悲しみが、リーリャを襲った。


「『ありがとう』」


少女の声、鈴の音のような、響きのある声が聞こえた。

その瞬間、世界は、見知った天井へと変わった。数分ほど、眼を見開いたまま動くことはできなかった。

二度目だ、もはや偶然見た夢とはいえなかった。体の中に響く音が、大きくなり、早くなっているのを感じた。これは必然だ。

だというのなら、この夢は私に何を伝えたいのだろうか、疑問に思った。

何故少女は、怪我を負っていたのだろうか、そして少女を見ていた視点――あれは、確実に誰かの視界だ。

昨日のように、衣服がぐっしょりと濡れるほどの汗は掻いていないが、奥歯に物が挟まったような、どこか不安定な、違和感のある感覚がリーリャの中から抜けない。


「……あれ」


頬に触れると、ぬるりとした感触が、手から伝わる。

拭って、見てみると、透明なものだった。


「なんで、泣いてるんだろう」



-------------------------



「……という夢をみたんです」


二日にかけての夢の内容を、ギルドで説明をした。

意外にもハロルドはギルドに居て、アーリーと二人で説明を聞いた。

しかし、夢というのもあってか、二人は半信半疑といった様子だ。


「翼の生えた少女、っていうと、亜人の神しか知らないんだが」


「あら、ハロルド知ってる――不思議じゃないわね、ハロルドなら」


「……おう、色々とその言い方に納得はいかねぇが、知ってる、『天の一族』ってやつだろ?」


この大陸の民は、共通の神というものがない。

大陸に住まう人のはじまりは、漂流者であった、そこに神父といった専門職をする人物がいなかったために、別の大陸には宗教があったはずなのだが、それは名のみがあり、教えも何も、教えるものが居ないので、歴史の中で消えていってしまったらしい。そのために、この大陸は、王国ではアーグリード、帝国では皇帝など、その国によって、信仰が形作られている。

しかし、亜人の神とは。

当然いるであろうということは、予測できた。精霊言語による歌、そして『天の一族』という精霊言語で作られた名称、何か関連がありそうな気がした。


「どんな一族なんですか?」


問いかける、二人は見合った。


「……良く知らないのね」


「あぁ、知っていることといえば、さっき言ったとおり、翼の生えた女性、まぁ女神を祀る宗教だな、帝国では宗教弾圧が酷いもんだし、この大陸内部では帝国に反抗できるのがこの王国くらいだろ?火種はないほうがいいからな、他国でも、殺しはしないが、弾圧対象にはなってる」


「……そう、ですか」


少しでも手がかりになれば、そう思ったが、それは叶わなかった。肩を落としたが、すぐに思考を切り替えることにする。

悲しい顔をしたって、何か変わるわけではない、動かなければ。

そう考えて、リーリャは二人へと一礼をする。


「まて」


歩き始めたリーリャへと、ハロルドが声をかける。足を止めて振り向くと、ハロルドは片方の人差し指を立てていた。


「明日、明後日は王城に居てくれ」


「ハロルド!?」


アーリーがはじかれたように首を回し、ハロルドへと視線を向ける。

それはつまり、王と会うことになるのではないかと、アーリーは心配した。


「……敵は、内外共に存在する、そして要であろう、ルーカスは明日、もしくは明後日に来ると思われる」


「ベールクリフたちは」


「五人もだ」


「狙われているのは――」


自分が狙われる立場であることを、既に理解していた。

ハロルドの言葉から、五人も狙われるということを予測できた。

恐ろしいほどに冷静に分析されていく、言葉の全てから情報が読み取れる。

リーリャは、元から鋭い。しかし学というものがない、というのに、軍事関係、政治的な争いなども分析されていく、それが夢による影響だということは、心の憶測で感じていた。

自分が塗りつぶされていく感覚、不気味なものだ。しかし、それが今はとても頼もしかった。


「おそらく、お前と五人だ、そもそも五人が人質として狙われるかもしれない、マリアさんも王城で、防衛に努める」


「訓練は、伸ばして良いでしょうか」


「ああ、当然だ。……リーリャ」


「なんでしょうか」


「――何があろうとも、お前はリーリャだ」


「ありがとう、ございます」


ハロルドの言葉の意味が、一瞬理解できなかった。しかし理解したとき、搾り出された言葉はかすれていた。涙が流れそうだった。

ダムのように、心の中でせき止められていた感情が、決壊しかけた。

押しとどめなければいけない、自分が換わり行く恐怖も、意味の分からない夢も、恐ろしくて仕方が無い、生まれについては怒りはない、ぶつけられる人が居ない。


「明日、会いましょう」


「あぁ」


からんからん、と乾いた鈴の音色が響いた。

リーリャの背中を見ながら、アーリーは神妙な顔をして、ハロルドを見た。


「お願い」


「あぁ」


アーリーは思い出していた、初めてあったリーリャの姿を。

冒険者ギルド、前支部長であり、ハロルドの師は、豪快な人だった、それは亜人を軽々と受け入れるほどだった。しかし、やはり亜人は冷ややかな、侮蔑の視線をぶつけられていた。そこで現れた、雪を思わせる、美しい少女の姿を思い出した。

視線が怖かった。しかし少女は、笑って、アーリーの手をギュッと握り締めてくれた。

アーリーの今を作り出した、六人のうちの一人、それがリーリャだ。



---------------------------------



流れる涙を感じてはいけない、走り続けながらも、脳裏には冷静に自分の感情を分析指定いた。

起きたときの涙は、この先に対する涙だった。リーリャは恐ろしかったのだ、いきなり己の生まれを知って、それが今を壊していった。


(恐らく、内部に居る敵は、一番の脅威として私を見ているはずだ)


Sランク冒険者、人の枠組みを大きく乗り越えた存在。殺せない存在。

幾重の時間をかけたとしても、殺せると断言できない存在が、絶好の神輿なのだ。

国の内部により、国を破壊できるほどのものを使う、それが何を意味するかは、簡単に理解できる。

王を殺したとしても、国をのっとったとしても、王側の貴族たちは、リーリャを知れば祀り上げるだろう。

眼を持っている、アーグリードの力を、理由としては、これほどに巨大なものはないだろう。

便利だと思っていた能力は、村で生まれ、人に恵まれ、メイドになる、なんて小さな夢を持っていた少女にとって、鼠に鉄球をつけるようなものだ、大きすぎる、目の前の現実に、泣き出したくなるほどに。


(私は死なない)


死んでたまるものか!心の中で、そう叫んだ。

目の前には急速に近づく学院の影、そこへとゆっくりと降り立ち、受付へと小走りで近づいた。





「あれ?リーリャさん」


「五人ですか」


ウェルヘイナ学院に到着し、図書館利用の申請をした後に、向っていると、ばったりベールクリフたちと出会った。


「何か調べ者ですか?」


目ざとく、ベールクリフはリーリャの持つ、認証カードを見て、図書館に行くのだと知り、問いかけた。

「えぇ」とリーリャは頷いた。


「朝食を食べて、暇な時間なので、俺は手伝いますよ?」


「別にそこは俺達、でいいと思うわよ?」


「俺達手伝います、っていったらアイリスが渋るに金貨一枚」


「賭けが成立しないわね」


レイドの言葉に、ステラが微笑しながら言葉を返す。

それを聞き、アイリスは「私はすごく優しいわよ!ね!?」と少し離れて苦笑いをし続ける、エリーへと矛先を向ける。


「……優しい、ですッ!」


「ものすごく言わされてるな?」


返答は棒読み、これにはリーリャも苦笑いが隠しきれなかった。


「あぁもう!いくらでも手伝ってあげるわよ!」


全ての反応に対して、顔を赤くして、怒り出すアイリス。

「いくわよ!」とそのままドスドスと、オークのように、大またで図書館へと歩き出していった。

それを追いかける形で、リーリャが歩き出すと、他の4人も一緒になって歩き出した。


「それで、リーリャさんは何を探すつもりなので?」


「……『天の一族』についてです」


「えぇと『天』……」


ベールクリフが言葉に詰まる、一族の精霊言語については知らないようだ。


「一族、『一族』、天の一族、『天の一族』です」


「すえら・ふぇけーら?」


「エリーは魔法を使わないのだから、必要は無いわよ」


「まぁ、素養が無かったですからね」


「精霊言語は、覚えておいて損はないと思いますが」


「うっ」


精霊言語=魔法、といっても過言ではない、精霊言語を理解すれば、何の魔法かということは、直に分かる。


「い、いえ、自分でもわからないんですが」


「うん?」


「……なんていうか、相手の次の手が見えることがありまして――で……その、これを極めれば、覚えなくていいかなぁと」


「え?……図書館に行きましょう、座ったら少し見せてくれる?」」


「見?えぇ、それは構いませんが」


考えてみる、そういった動きは感じなかったわけではなかった。思い出してみれば、稀にそんな動きがあったような――なかったような、漠然としすぎて、判断に困る、能力差の所為だ。

――とにかく見れば分かる、そう考えて、リーリャは少し足早に歩く、それに続く形で、全員も自然と足早となった。




「……うぅ」


真っ直ぐと見つめるリーリャ、その視線が突き刺さっているエリーは、おもわずうめき声を上げた。

痛いわけではない、感覚は無い、しいて言えば視線が痛かった。

五分を超えた辺りで、リーリャはふぅと一息を付いた。


「固有能力ですね」


「え?あの、おかしな人に多いという」


――一般的な固有能力保持者への偏見だ。

手のひらを額に当てて、リーリャは小さくため息を付く。


「固有能力は、意外にも多くの人が持っています、それが使える状態である人は少ないです」


固有能力は"持っている"だけで使えるわけではない。自転車を例えると、分かりやすい、最初から乗れる人は少ないのだ。何かの拍子で、少しだけ使えることはあったとしても、自由に使うにはそれなりの努力が必要だ。

リーリャでさえも、眼を初めて使ったのは偶然だ。

なんだろう?と使おうとし続けた結果、コツという形で、使えるようになった。


「予知、それも戦闘特化の能力、使えることができれば、大幅に強くなると思います」


「へぇ、すごいわね、エリー」


「えぇ……まぁ使えない状態ですが」


「ちなみに知らない状態の人についてはわからないので、ベールクリフたちの能力については探れません」


固有能力についての情報は時間がかかる上に、知らなければ情報として出てこない、この眼もそこまで万能ではない。

ちらりと、こちらの会話が気になっている様子の、三人へと視線を向ける。

眼が合った瞬間に、眼を逸らされた。固有能力について気になるのだろう。


「まぁ、そんなわけで、予兆があったとすれば別ですが、エリー以外の固有能力についてはわかるか微妙です」


三人は、少し肩を落とした。


「あと、みなさん、明日は王城に来るようにと」


「……え?」


流れるようにリーリャが放つと、直にベールクリフがこちらへと視線を向けて、その後に他四人も視線がこちらへと向かった。


「え?なんでよ?」


「冒険者が束縛されるような任務が行われます、Sランク、できれば二人とも、と。恐らくは明日ほどに兵士が来ると思われます。まぁ理由は、すごい危機が来ますよとしかいえないです」


――あとは、兵士が判断するでしょう、完全に丸投げした。


「とりあえず、危機についても言わないほうがいいです。ステラさんとエリーは、立場上色々とありますが、悪いようにはしない、というよりも、礼節を弁えて迎えられると思いますので、不安にならなくてもいい……まぁ、無理でしょうけど」


そういってリーリャは話を切る、質問を受け付けるために、周囲を見回したが、何も言葉は返ってこなかった。

首を突っ込めば何がでてくるかわかりはしない、ということを理解している様子だった。


「では、お願いします」


そういってリーリャは軽く礼をして、調べ者を再開した。




---------------------------------------


白い病室、小さな窓が開いている、薬の臭いが充満しているところの、一つだけ置かれたベッドの上で、ルーカスは寝ていた。


「……動く」


腕に巻かれた包帯を、寝ている状態で見る。腕を軽く動かし、手を握ったり開いたりを繰り返す。普通に動いた。


「魔法で治せたけど……まぁ問題ないようで」


声がする方向に視線を移す、ベッドの右横に、エーリカが木の椅子に座って、こちらを見ていた。


「戦いは」


「できるでしょうね、でも明日以降になるは、万全を喫するなら、明後日」


「できれば早い方がいいな、あの二人の能力を受け継いでいるとしたら、既に万全の状態だ、強くなる時間を与えてはいけない」


「……は?あの傷よ、三日は動けないんじゃないかしら?」


「それを可能とする能力が備わっている可能性が高いな、恐らくは先祖還りというやつだ、それも両方――リーリャの容姿は、ベネヴィアとアーグリードを足して二で割ったようなものだ」


「二つの固有能力、ね」


「稀ではあるが、ないわけではない」


そう断言して、ベッドから起き上がる、普通に歩けることができ、ある程度は大丈夫だということは理解する。

それから、手首を回したりと、体の様子見をしていると、勢い良くドアが開け放たれる。


「……おや、宰相殿」


「アーニールドを殺せっ!」


「なんでしょうか、入ってくるなり、物騒な」


脂汗のような、粘つく汗を顔一杯に掻いて、宰相と呼ばれた男は、飛ぶ唾も抑えることなく、まくし立てていく。


「あの男、俺を探っていやがった!龍の心臓を依頼した時点で、こちらを疑っていやがった!」


「ならば既に、殺しても無駄なところにいるのでは?」


「ぐっ……」


探りを入れられていたのは一週間以上前ということになる。

それだけの時間を与えたのだ、ありとあらゆる可能性を、考えているだろう、そうなると、一人殺しただけでは済まない。


「まぁまもなく動き出すので、用意する時間は取らせませんが……貴方の動きを考えましょう、二択あります、行方をくらませるか、何事もなかったかのよう戻るか」


「捕まる可能性があるんだ!俺は行方をくらませて貰う!」


そういって踵を返し、大またでドカドカと、喧しくドアから外へと出て行った。


「……騒々しい男は嫌いだわ」


冷ややかな眼をしてドアを見つめ、エーリカは呟いた。


「正当な理由のない、裏切りなんてものをする、そんな輩は、大体がそんなものだ」


ルーカスは苦い顔をした。

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