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世界

就職終えても、論文書いても、多忙なんですけど。

「……」


沈黙が痛かった。自爆を放ってから既に一時間がたち、ある程度の情報のやり取りをした後に、何かを考えるようにハロルドは、顎を人差し指と親指で撫でている。怒る内容の吟味だろうか、とリーリャは内心びくついていると、ユレイドは呆れたような声で横槍を入れる。


「言うかどうか、でしょ?」


言うかどうかとは何のことだろうか、と疑問に思っていると、頭の中でコツンと、何かにぶつかった。それを何だ何だとみて「あっ」と思わず口ずさむ、ハロルドとユレイドの視線がリーリャに向いた。

帰ってからというもの、色々なことがあってスッポリと忘れていたことだ。

ポケットの中からアーニールドから手渡された紙を取り出し、ハロルドへと突きつける、突きつけられたほうは、少し不思議そうにした後に受け取った。


「アーニールドさんからです」


「あの筋肉エロ親父からか」


「だとしたらハロルドは、亜人趣味のエロ親父ね」


ユレイドの茶々に「うるせ」と小さく返答して、ハロルドは手紙を開いて、顔を思い切り顰めた。


「どうかしたんですか?」


そんな顔をされると気にならないわけもなく、問いかけると、首を左右に振って「これはまだ、憶測だから言えん」と言った後に手紙を懐へとしまった。そして何かを考えた後にはぁと今まで聞いたことのないほどに深い深いため息を付いて、後頭部をガリガリと搔いた。

「ハゲるわよぉ」という茶々に「俺はハゲても良い男だ!」という意味のわからない返答をする。ハロルドとユレイドの会話は、聞いたことはあるが、いつもこんな会話だった。

決心した顔をすると、ハロルドはリーリャをまっすぐと見つめて、突然人差し指を突き出した。


「お前の父ちゃん国王な」


「はぁ」


「おう」


「……はぁ」


「……おう」


「……?笑いどころどこですか?」


「嘘じゃねぇんだよ」


「あの亜人の話を聞いてる限り、あれだしねぇ」


「お前の力は、アーグリードから受け継いだ力だ」


「……えっ、マジですか?」


言われたことをギャグではない、と理解するまでには二分かかった。

リーリャの中では、まるで水に浮いた

油のように、形にはなっていない。


「それでぇ、あの亜人は『アーグリードを継ぐ者』って言ってたわよぉ」


まるで大砲をぶち込まれたような衝撃が、何度も何度もリーリャへと衝突する。そして沈黙して、周囲を見回す。顔でわかった、嘘ではない。

そうなるとお母さんの言いたそうな顔を思い出す、母はこれを言いたかったのだと、理解した。


「あーその、えぇと、どっちでもいいんですけど」


頭の中で、信じる・信じないと書かれた天秤がゆらゆらと動いている。信じられないというか、現実味がない。

しかし、今否定しても、マリアの言葉が待っていることを知っている。


「……誰か、付いてきてください」


現実を突きつけられて、逃げられない。なら誰かいっしょにいてください……という意味だった。



-------------------------



「知ってしまったのね」


マリアが真剣な表情をして問いかける、リーリャは素直に「うん」と頷いた。さすがに二度目となると、混乱も一周回って落ち着き払っていた。


「ハロルドの言葉をそのまま言うと『国王もたぶん知ってる』らしいですわ」


何時もの間延びした声ではなく、ハキハキとした言葉、外向きの言葉遣いだった。

その言葉を聞いてマリアははかなげな笑みを浮かべた、リーリャの嫌いな笑顔だった。


「そう、あの人が……」


「ま、まぁ私メイドになるから、国王の娘とか、関係ないってことにはならないと思うけど、関わらないようにするよ?」


「それは私達も気をつけますし、国王陛下も、いままでで考えるに、リーリャが、政争の渦中に入ることをよしとしてませんわ」


「そうね、ユレイドさん、でいいかしら?よろしくお願いできるかしら」


「えぇ、このユレイド・フォン・ヒュースマン、友達を護ることに手は抜きませんわ」


ニコリと笑みを浮かべると、マリアは笑顔を輝かせる。

それがリーリャと似ていたもので、(あぁ、親子だわ)とユレイドは少し寂しさを感じながらも、頷いた。

そこで、話はお開きだった。

リーリャの家族の問題、完結したとは言いがたいが、リーリャから巻き起こることはないだろう――そう考えた。

しかし、それは大きな間違いだった。

ユレイドとマリアが話をしているのを眺めながら、違和感を感じて胸の辺りへと手を当てる。

感覚、幻覚のようなものだろうか、まるで中で何かが動いているような。

思い出せば、それはハロルドから教えられたときから始まっているような。

カチ、カチ、と時計のように規則的に鳴り響くそれは、目覚まし時計を感じさせた。

何かを目指すかのように、それは始まっていた。



そして、極め付けばリーリャの夢だった。

その日から夢がおかしくなった、いつもは知り合いが出てきたのだが、その日ベッドで眠ると、良く分からない光景が流れ出す。

上が黒で、下が淡く青い光を放つ、球体があった。

黒は、黄色の光が散りばめられて、中心には大きな太陽が見えた。

それが空だと、誰が見てもわかった。ならば、下はなんだろうか。

青白い場所、真下に茶色と緑があった、土?木?これが大陸だと、いつも歩いている場所のように感じられるが、そうとは限らない。

おかしいのだ、これが住む大陸とすれば、周辺は海だ。

大陸からは外にでることができない、海流の問題だ、それを切り抜ける技術もない、しかしこの大陸の始まりは、漂流した一隻の船から始まるらしい、そしてそれは、他の大陸があるという意味でもある。

現に周辺には大陸があった――真っ黒な、影に覆われた大陸が。

それを見るたびに、リーリャは体がないというのに、ぶわりと鳥肌が立った。

その瞬間、世界はカチリと切り替わった。


「――すまなかった、ベネヴィア」


温かみのある男性の声が頭に響いた、目の前には、真っ白な寝台に眠る男と、それを見る女、そして青年。

男女は中年くらいの年齢で、青年が息子であるといったとしても、十分な年齢に見えた。


「もう少し、時間が有ればよかった、俺は英雄でもなんでもない、ただ、俺は」


男は悲しそうに感情を吐露していた。

泣きそうなその表情に、思わずリーリャが悲しくなってしまいそうだった。

その時、乾いた音が響いた。

女性が、男性の頬を張った音だった。


「アーグリード、後悔をして死ぬのはやめなさい」


その名前を聞いたとき、アーグリードとベネヴィア、つまり建国の王とその妻であると理解した。


「貴方は、最後まで夢を見せなさい、最後まで夢を走り続けなさい、現実を見せるのは私の役目だと、結婚する前に言ったでしょう」


「――あぁ、そうだ、そうだった」


アーグリードから涙がこぼれだす、そして拭い去ると、直に涙は止まった。


「私はどういわれようとも良いのです、貴方が笑顔を浮かべ、この国の民が笑顔であれば、私は何を言われようとも、その足で立っていられるでしょう、だから――だから、最後まで私に見せてください、貴方の夢を、貴方の歩いてきた道は、すばらしいものであったという、誇りを」


「――父上、私は、父と母を誇りに思うでしょう、たとえ何を言われようとも、それは変わらないでしょう、アーグリード……いえ、この私に流れる血については子孫へと語り継ぎましょう、時が来るまで、歪まぬように」


(時とは、何)言葉の節々に疑問が湧き出してきた。

しかし質問に答える人物は居ない、これは夢であり、過去ではあるかはわからないが、目の前で決められた芝居を繰り広げているようなものだ。

呆然として眺めていると、再び世界が切り替わる。

戦場だ、雄たけびが広がり、金属音が響き渡る。

アーグリードと、何者かの騎士が戦っている。

そして切り替わり続ける、それは加速していく。

それはもどかしい時間だった、疑問だけ湧き出し、それに答えてはくれない。物語は断片的なもので、答えを得るには不十分だった。

途中で見知った顔が現れた、紫色の肌、銀色の肌、ハロルドとユレイドが『ルーカス』と呼んだ男だった。

アーグリードとベネヴィア、その周りの騎士たちに、訓練され、苦しいけれど楽しそうに笑っていた。

再び切り替わる、アーグリードの物語だろう、そう考えたが、間違いだった。

そこには、今まで見た顔ぶれは一人も居なかった。


翼の生えた少女が、装飾された、台形の台座の上で、舞を踊っていた。




「――はぁ、はぁ」


ベッド上で、大粒の汗をかきながら、リーリャは荒い息を整える。

カチ、カチという音が強くなっていた。まるで時が近づいたといわんばかりだ。

ぐっしょりと濡れた衣服が不快だった。己の中で何かが起こっているということも不快だった。

しかし怒ることも、暴れることもなく、リーリャは静かに自分の手のひらを見る。


「……強くなろう」


そしてこれを終わらせよう。それで何事もなく日常が始まる。

それで私はメイドになる、最強のメイドで、最高の主を、この国を変えてくれる、そんな人物を。


「お風呂、入ろう」



----------------------------------



ハンニバル・ベルシーカー。

王家近衛第四騎士団、団長。年齢は30にも満たず。

第四騎士団の評判は、貴族と平民とでは極端に違うが、根っこは同じだ。

それはハンニバルの性格そのものが、その騎士団に顕著に現れているためだ。

王家近衛騎士団、エリート中のエリートだ、誰もが煌びやかなものを考えるが、第四騎士団は泥を被る、ぐちゃぐちゃになる、名誉も誇りもない。

彼の戦い方は、奇襲・罠・連携、罠にはめて全員でたこ殴りする。弱いわけではない、というか、この国の中で剣の腕前は最上級だ。

仕事に対しては真摯だ、寝る間も惜しんで仕事に着手する、そのために信頼は厚い。しかし休暇中は正直微妙だ、木陰で昼寝するわ、市場に言って買い食いするわ、酒を驕りまくって平民とはしゃぐわ、騎士としては正直おかしい振る舞いだらけだ。

しかし騎士団はかなり強い、騎士と軍隊をあわせても抜きん出るほどに。

そのために、大いに目立つ。

民からは『かっこいいけど騎士としてどうなの?』

貴族からは『騎士としての振る舞いではない、不快だ』といわれている。

――そんな男の前に、ハロルドは立っていった。

ハンニバルは葉巻を吸っていた、全開にした窓の近くの立ち姿は、異様なほどに似合っている、30にもなっていない男の風格ではない。


「……んで、何で呼んだ」


「あぁ、すまんな、葉巻を吸うときは、集中しないとむせるんだよ」


重厚な声を響かせて、ハンニバルは葉巻の火を消した。


「葉巻とか、吸うの苦手なんだからやめればいいだろうが」


「貰いものなんだよ、ユゼルのな」


ユゼルは、酒飲み仲間の一人であり、小さな個人商店を営んでいる。

珍しいものが手に入ったといって、数本いつものお礼として手渡された。


「勿体ないだろ、折角のものだ、無碍にしちゃいけないしな」


「お前本当に貴族かよ」


「貴族だよ、騎士団長だ、しかしお前早いな、昼前っていったのにまだ朝と昼の中間あたりだ、余裕をもって葉巻を吸い、余裕を持って換気するはずだったんだがな、まぁいい、風呂代とクリーニング代をよこそう」


アーリーに気遣っているのだろう、葉巻の匂いに敏感で、あまり好んで居ないはずだ。……亜人に気遣う、貴族らしくないところだらけだ。


「いらんいらん、俺も早く着すぎたし、後でやらなきゃいけないこともあるから、それぐらいには匂いも取れてる」


「そうか?まぁ洗うくらいはしておけ」


「あーそれで、何か用か?」


「あぁ、もうすぐだということを言おうかと思ってな」


「もうすぐ?」


「アーニールドの手紙を読んだんだろ?それは俺の情報でな」


「……そうか」


いつも通り鼻のきくやつだ、そう思いながら話を聞く。


「三日後あたりだ、ことを起こすのは」


「宰相が城の中にいる敵、でいいのか?」


「正確には、元、だ。……まぁそれだけじゃないだろうけどな、アンノウンか、強いんだろうな」


「――強いな、騎士一人じゃあどうあがいても殺せないだろうな」


「あぁ、そうだなぁ!」


笑みを浮かべる、楽しそうにハンニバルは笑い始めた。


「はははは!いい戦いだ、良い戦いが始まる」


(……悪い癖がでてきた)ハロルドは内心呆れる。

ハンニバルは、強い奴を策略で殺すことに快楽を覚えるたちだった。

……余り良い趣味ではない。


「さて、元・宰相をマークし、何かやるようなら、できればその前に殺す、物的証拠を持って殺す、止められなかったらSランカーに任せる、そのアンノウンってやつは任せろ」


「大丈夫か?」


「冒険者、特にお前とリーリャはやべぇが、騎士は嘗めるな、誇りやらと重たい重りを担いでるが、アイツらは本気になったらやる、そういうやつだ」


「あぁ、わかった」


ハロルドは笑みを浮かべて頷いた。


「じゃあ退出してくれ、残りを堪能しないとな」


ニヤリと凶悪な笑みを浮かべて、ハンニバルは話は終わりだといわんばかりに、火をもみ消した葉巻へと、再び火をつけた。

読み返したら、誤字ばっかりだ!時期を見て直します。

就職するまでには、一章、一章だけでも。

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