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敗北は

リーリャ の だいばくはつ !




「本部に連絡、『自然災害』認定するように、と、これでいいの?ハロルド」


「あぁ、SランカーがAランカー引き連れて喧嘩売ってきてるって比喩もしとけ」


「そう考えるとこの状況、本当にヤバいわね、騎士団とかにも連絡つけておく?ハンニバルさんとか」


「いや、王城にも連絡するし、その時にでも耳に入るだろう、アイツが楽しそうに騎士引き連れて、えげつない攻撃を仕掛けるのが眼に見えるな」


ガリガリと頭を搔いて、顔をゆがませながら思考する。

やることだらけだ、たいした情報も得られなかった――といっても、綿密な計画の下、日にちをかけてやったことではないために、そこまでの苛立ちは起きなかった。

ハロルドは報告書に書くことを大雑把にまとめて、情報を思い出し続ける。


「ユレイドのやつにも協力要請しないとなぁ、そういやアイツどうしたんだ?」


「実家のほうに戻ってるって言ってたわよ、どうやら縁談云々で色々といわれてるーって」


「いつ帰ってくるんだ?」


「さっさと帰ってくるって言ってたし、今日あたりじゃないかしら――」




------------------



(四人、か)


その光景をみて、リーリャは小さくため息を付いた。

相手の力量は少なくとも――あの、紫色の肌の人は危険だ。

彼が来たことで状況は一変した、そういっても過言ではないだろう。

ゴクリと喉が自然と鳴った。


「……仲間が危険にさらされると理解すれば、行くかと思ったが」


「基本、信頼してますから」


リーリャは笑みを浮かべつつも、固有能力を使用し、眼を変化させる。

相手の能力を見極める、不利な戦闘では最も必要なことだ。


(――ッ!?)


見極めることはできた。

ただ、それが目の前の存在の強さを露とし、そして――


「……何故、お前がその眼を持っている」


相手に敵対心を抱かせた、理由のわからないリーリャはその様子に混乱する。

次の瞬間だ、リーリャは目前の拳を視認した。


「え――ルーカス!?」


エーリカが驚いた表情をして、拳と剣がぶつかり合う光景を見る。

ハロルドが来る可能性のある状況下だ、何故今戦闘するという選択肢を取るのか。

しかし、対するルーカスは何も答えなかった。

ぐっと力を込めたかと思うと、空気がパチンとはじける音が響き渡る。

リーリャは剣から伝わる力が増大したことに驚き、そのまま弾かれ後方へと飛んだ。


回転しながら着地をした瞬間、既にルーカスはリーリャの目の前へとたどり着いていた。

拳は闇の――衣のような何かが纏っている。

それが酷く恐ろしいものに、リーリャは感じた。

しかし


(逃げ、ないッ!)


剣から手を離し、その拳を思い切り受け止める。

すると、リーリャは体の中で何かがはじけ飛ぶ感覚と共に、意識が消滅していくのを感じた。

しかし、それは既に、過去ではあるが、何度も通った道だった。

もう、慣れた。


「なッ!?」


膝を曲げ、バネのようにして飛び上がる。

ロケットのように頭突きをぶつける。

頭頂部にじんわりとした痛みと、握っている拳が引っ張られる感覚。

それでも、外さない。

吹き飛ぶ相手を後方へと飛んで引き寄せ、そのままドロップキックを相手に浴びせる。

そのときに手を離し、相手は後方へと吹き飛んでいった。

――が

リーリャは吹き飛んだはずの相手を目の前に見た。


「――え?」


腹部に激痛。

まるで内臓全てが飛び出してくるような、激しい吐き気。

地面へ激突し、背中と腰にも鈍器で殴られたような痛みが走る。


「カ――ッハ」


おなかへとめり込む拳を、反射的にリーリャは腕で抱いた。

骨どころか内臓が壊されているだろう、ほっとけば死ぬ、痛みで意識が吹き飛びかけた、腕を動かしているだけだというのに、何度も意識が飛びかける。

大量の血が競りあがり、口の中に鉄の味が広がった。


(力量、違う、勝てない)


既に結果は見えている、が――それは負けるという意味ではない。

ルーカスはリーリャへと捕まれている拳と逆に、闇の衣を纏わせる。

殴るというわけではなさそうだった、ゆっくりと振り下ろす。

殺すつもりはない?

それとも、この程度で死ぬと思われているのか。


「――メイドモード」


かすれる声で放った言葉は魔法ではない、鎧を変換する言葉。

リーリャから魔力が噴出し、そして常時その魔力を通していた鎧の魔力が湧き出した。


「――まさか」


――そのまさかだ。


「『爆発せよ』」


次の瞬間、世界が白に染まった。








いつでも逃げられるようにしていた、エーリカの三人は、逃げることができるように後方へといたのだが、ミストレーナが魔力を感知した瞬間に裂け目を作り出したことにより、衝撃をもろに食らった。

――ミストレーナだけが。

手を伸ばそうとした右腕が肩まで消滅し、上半身の殆どの肉がはじけとび、全身から血を噴出す。

亜人は生命力が高い、そのためにまだ生きてはいるが、ほっとけば数分で死にいたるだろう。

後方の木々が余波だけで消滅していることから、その威力がうかがい知れる。


「メルロス、ミストを回復させて、私は行くから」


「う、うん」


血溜りに倒れ付すミストレーナを横目で見て、ルーカスのもとへとエーリカは飛び出した。






エーリカが見たのは、巨大な大穴、とはいっても街への被害は土煙程度だろう、そしてその中心に居るのは、全身が夥しい血を流すルーカスと、全身があらぬ方向に向いた――なんだろうか、昔見た――あぁ、焼き豚のような感じだ、全身が黒く焦げ、茶色く変色している人間、先ほど見た綺麗な銀髪も所々に焼けてチリチリになっている。


「大丈夫なの……?」


そうルーカスへと問いかけると、既に意識も途切れかかっているであろうというのに、瞳は爛々と輝いていた。


「ハハ、ハハハハハ!すごい、すごいぞ、完全に思い出した、あの馬鹿を、馬鹿野郎のアーグリードを!」


「ルーカス?」


「こいつはすごい!時を越えて生まれ変わったようだ!」


「……リーリャだったかしら、強いことは分かるけど」


――というより、頭おかしいでしょうというのがエーリカの正直な心だ。

自爆する、もはや正常な思考ではできないだろう、不死の一族であるエーリカでさえも、やるときは躊躇するだろう。


「――こいつを連れて行く」


「……え?」


「こいつは――アーグリードを継ぐ者だ」


「へぇ、すごいわねぇ、……それでぇ?」


興味深そうに頷く、会話の三人目。

バッと振り向く二人に、ユレイドはニッコリと笑みを浮かべて、手を振って答えた。


「……何者だ」


「ユレイド・フォン・ヒュースマンと申しますわ、貴方のお名前、教えてくださる?」


「……ルーカス」


「まぁ、いいお名前ですこと、……どうかされたので?あぁ、わからなくて困っているのでしょうねぇ、『何故こいつは、気づかれずにここにいたのか?』って、答えは簡単ですわぁ、『爆発した辺りから近くにいた』というだけですもの、少しばかり一つの物事に集中しすぎじゃありません?程度が知れますわぁ」


「挑発なら相手を見てからのほうがいいと思うのだが」


「そうですわねぇ、でもね、友達がこんな状態になっても皮肉の一つはいいたいものですわぁ、当然リーリャにも後々本気でビンタしますわ、それが……大人であり友達のすべきことですもの」


――それで、と言葉を続ける。


「――言葉を返しましょう、状況を見てから言って見なさい、私は時間稼ぎをすればいいのよ、この音を聞けばハロルドはかけつけてくる、それぐらいわかるわよね?そこのルーカス、でよろしいわね?そちらの彼は気絶しかけ、吸血鬼は――それ拘束具でしょう?時間稼ぎは、十分だと思うわ、寧ろ、倒せてしまいそうなほどに」


ニッコリと、内側にどす黒い何かを感じさせる笑みを浮かべながらユレイドはコテンと首を横に傾げ


「それでも、やりたいというのなら『炎よ、渦巻け』」


赤い炎ではない、白い炎だった、それがユレイドの周辺を渦巻き、立ち上る。


「どうぞ、選択肢は与えるわよ?」


威圧し、脅迫する。帰れ、と。

異常なまでの熱気を感じさせる中心部のユレイドは涼しげにしている。


「……退くぞ」


「えぇ」


ユレイドは去っていく彼らを消えるまで見続ける。

消えた後、沈黙したところをため息を付いて、その場にへたりこむ。


「万全のときには会いたくないわねぇ……」


そういってそのまま這いながらリーリャへと近づく。

真っ黒に焦げているリーリャを見て、「うっわぁ」と遠慮の無い声をあげた後に、手を翳す。


「『対象を癒せ』……って、結構元気そうねぇ」


眼をパッチリと開けて、ユレイドをまっすぐと見るリーリャがそこにいた。


「……回復のための魔力だけは残しておきましたから、もうからっぽです、なのでビンタだけはやめてください」


「いいわよぉ、拳骨に変えるだけだし」


「……ごめんなさい、ありがとうございます」


「どういたしまして、甘いものおごりなさいよねぇ、太らなくて高くておいしいもんがいいわぁ」


「作るなら、できますけど」


「私のメイドにならない?」


「国変えてくれます?」


「三女にできないわよぉ」


「じゃあ、時々ごはん作るだけならお世話します」


「嫁に来ないかしらぁ?」


「私には同性愛の趣味はないですから……」


「ふふふ、私にもないわぁ」


「あはははは!……まだこれ終わってないんですよねぇ」


「……でしょうねぇ」


二人のため息が共鳴し、響き渡った。


「おっと、魔力ね」


思い出したようにユレイドはリーリャへと近づき、魔力を差し出す。

すると、魔石が形を成し、メイド服が形成される。


「……すーすーします」


「そういえば下着もはじけ飛んだのよねぇ、大人の階段のぼっちゃったかしらぁ?」


「親父くさいです」


アホな会話はハロルドが来るまで続いた。






「あ、あと」


「何かしら」


「最初のうわぁはさすがに傷つきました」

「なんだこの大穴……ってリーリャとユレイドじゃねぇか……何があったんだ?」


「ルーカス、あぁ亜人とリーリャが殺しあったのよぉ」


「最初の一撃で剣が相手の皮膚に傷を一つつけなかったようなので、肉弾戦になりましたけど、あれは最初にハロルドさんに会った依頼の衝撃でした」


「あん?あの野郎と殺しあったのか」


「あら?知っているのぉ?」


「さっき会った、重要参考人全員パーだっつの」


吐き捨てるようにハロルドが言い放つ。


「こっちはリーリャちゃんが自爆して退かせたわよ」


「……自爆ッ!?この大穴リーリャの自爆かよ!?」


「いや、さすがに死なない程度でしたけど、死ぬかと思いましたよ、骨と皮は治りましたけど、まだ内蔵とか治ってませんし」


「おいこらぁ!女の子は体を大切にしろよ!」


照れるように、照れることではないことを言い放つリーリャにハロルドがツッコミを入れる。


「帰ったらご飯食べなきゃ栄養失調で死にますねぇ」


「あーリーリャ、もしかしてエーリカやメルロスとかいたのか?」


「居ましたよ?」


「うん?エーリカとかメルロスとかって、さっき居た吸血鬼かしらぁ?」


会話へとユレイドが横槍という形で疑問を投げかける、ハロルドは頷いた。


「ハロルド……重要参考人、小さな部屋で尋問……逃げられてよかったわねぇ……」


「てめぇもかよッ!?俺はYes亜人Noタッチの紳士な男だ!」


「私達と仲間の時代にアーリーへとアプローチを掛け捲った男にいえる言葉なのかしらぁ?」


「え、え、ちょっと興味深いんですが」


その会話にずいずいとリーリャが近づいていく。

そんな彼女の様子に、ユレイドは微笑ましそうに笑みを浮かべると、人差し指を立てて提案をする。


「そうねぇ、今度ご飯食べに行きましょう?そのときに教えてあげるわぁ」


「おいこらぁ!ユレイド、お前なぁ、俺を焚きつけたのはお前だろう!……ゴホンゴホンッ!」


「業とらしい咳で話題をそらせると思っているのかしらぁ?」


「うっさいわ!あぁもう、兎に角俺の失態をお前がなくそうとしてこうなったことなんだ、お前がどう考えようとも結果的にそうなった、飯は俺がおごる、まぁ俺は今から忙しいから後日領収書をくれ」


「あら、太っ腹、もうすぐ中年だしねぇ」


「俺は年をとっても師匠みたくムキムキだよ!とりあえず軽く質問をしてからになるから、一旦ギルドのほうにな」


「あ、はい」


そうリーリャが答えてから、一つ思い出した。


「そういえばお母さん来てるので、食べに行くとしたらお母さんのものも入ってしまうんですが」


「あら、久しぶりの親子水入らずねぇ、ついていくのはやめておきましょう」


「ユレイドのも奢ってやるから勝手に食え、……高いのはやめろよ?アーリーが威嚇しながら突撃してくるぞ」


「あら、久しぶりに喧嘩したいところねぇ」


「本当にやめろよ?」


「あ、お世話になった人として紹介したいですし、三人と一緒に食事できたらいいですね」


リーリャが嬉し恥ずかしといった感じで、提案してくる。


「あぁーなんか恥ずかしいんだよなぁ……」


「私は特に問題ないけどぉ」


口々に返答した後に、ハロルドはハッと気づいた。


(……リーリャの母親ってことは王様が愛した女性ってことだよな、あの様子じゃ女好きってわけじゃあなさそうだし)


話を聞くべきだろうかと考え、質問内容を考えてみる。

――が、特に質問することがなかった。


「(ま、いいか)さて、さっさと帰るぞ」


「そうねぇ、はぁ先が思いやられるわぁ」


「明日も教官しなきゃですし、疲れを取らないと……」


「俺は先のことを考えると共に、報告書やらなんやらの書類地獄だよ……」


口々とため息と共に彼らは歩き出した。


「ちなみにレベルは936でした」


「……マジかよ」

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