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奪還

戦闘ばっかりだなぁ

――人々が円となり、中心へと石を投げる。

罵詈雑言を並べ立て、中心へと侮蔑の視線を向ける。

その中心に居るのは、小さな少年だった。しかし普通ではない、肌は紫色、髪色は銀だ、亜人だというには十分の身体的特徴だった。


その少年の瞳には、何も映し出していない、全くの虚空。

光を灯さず、まるで――希望なんて無い、そういっているようだった。

額に石がぶつかり、紫の血がツツッと流れ出した、それでも少年は微動だにせず、道路へと倒れこむ。

そのときだった、投石が止まったのは。

彼へと向けられていた言葉すら一瞬で止まった。

少年は、その時初めて感情が揺れ動いた。

疑問に思ったのだ、まるで時間が止まったかのように沈黙する世界を。


「大丈夫か?」


ハッとして弾かれたように声がした方向を見る。

そこにいたのは、ライトブラウンの髪色をした、鍛え上げられた肉体の男だった。

その男は、少年へと手を差し伸べていた。


「――なんで」


少年は、疑わしそうな、視線を男に向けて、問いかける。

何故、自分を助けたのか、と。

男はそんな問いに、笑顔を返した。


「俺の国では罪の無い子供に石を投げる光景は許さないだけだ」


精霊言語を言い放ち、少年の傷を癒したかと思うと、男は少年の頭に手を置いて、軽く撫でる。

手のひらはゴツゴツとしているが、不快ではなかった。


「おい、両親はどうした?」


「……いない」


「じゃあ俺と来るか?」


「……いいの?」


「大臣連中はうるさいだろうけどな、俺のことをさっさと死ねと思っている連中の言葉なんぞに耳は貸さん!」


ハッハッハ!と豪快に男は笑う。


「おじさ「お兄さん」……お兄さんは、誰なの?」


「俺か?俺は――」




----------------------------



ギルドの奥にある、小さな部屋に机と椅子だけ持ってきて、メルロスとエーリカを座らせる。

二人は空腹だったようなので、リーリャが簡単にできる料理をつくり、それを持ってきた。

一時期は、自白剤か何かが入っているのではないか、と不安げだったが、リーリャが目の前で食べてみると、おずおずとメルロスが食べた。

その後は、嬉しそうに食べる二人を見て、リーリャは微笑んでいた。

――が。


「リーリャ、お前は帰れ」


そうハロルドに言い放たれて、その真剣な表情になんとも言えずに渋々と帰ることにした。

首を突っ込みたくは無いが、ハロルドの力になれればいい、そうリーリャは思っているのだが、今回ばかりはそうはやれないようだ。

家へと歩き続けていると、家の前に誰かがいるのを見つけた。

誰だろうか、そう考えて目を凝らすと、ライトブラウンの髪色が見て取れた。


「……あれ?」


歩いていた足取りが早くなり、遂には強く踏みつけて、大砲のように飛んでいく。

そして家の前でストンッと着地すると、その人物を真っ直ぐと見た。


「お母さん!?」


「久しぶり、リーリャ」


その人物は、リーリャの母親であるマリアだった。

マリアは手をヒラヒラと、こちらへと振りながら、笑顔でリーリャを出迎えた。





「大きくなったわね、すごく美人さんになって……」


「もう、恥ずかしいからやめてよお母さん」


リビングへと通して、マリアを椅子へと座らせた後に、紅茶を淹れて戻ってくる。

机の上へと紅茶を静かに置いた後、対面する形で椅子へと腰掛ける。


「……というか日常でメイド服なの?」


「メイドアピールしたいからね!私冒険者だけどメイドになるって!」


「夢を否定はしないけど、最強のメイドはねぇ……」


「うん、ちょっとメイドになりにくくなっちゃってる」


「まぁそうなるでしょうね、でもがんばるというのはいいことよ、リーリャから、がんばったってところは、お母さんすごくわかる」


「えへへ……」


嬉しそうにリーリャは顔を綻ばせる。

そして何かを思いついたようで、突然席を立ち上がる。


「ちょっとまってて!」


そういってリーリャはリビングから出て、自分の部屋へと向かった。

そして金庫を開けて、中から通帳を持ち出してリビングへと戻る。

それをマリアへと差し出した。


「あら、通帳?貯めてるの?」


「半分がお母さんとおばあちゃん、おじいちゃんへのもので、あと半分が私のってしてるの」


「へぇ、そうなの、別にお金なんていいのよ?」


「ううん、私がお返ししたいの」


そういって通帳を差し出す、マリアは少しオズオズとしながら通帳を受け取る。


(そういえば、半分ってことは、これと同額がリーリャのお給料ってことよね?お返しってことで切り詰めていたとしたら怒らないと、親のためにって子供が困るのは嬉しくないし)


そう考えてチラリと通帳を見て――


「ボハァッ!?」


「お母さん!?」


思い切り、マリアが噴出した。

そんな彼女を見て、思わずリーリャが立ち上がり、布巾を片手に持ちながら近づき、テーブルを吹きながら、背中を叩く。

マリアは、むせ続けながら、通帳を目を丸くしてみる。

金貨――1020万枚、そうハッキリと書かれていた。


「え、えええええっと、うん、お金に困っていないようで何よりね……」


「?、うん困ってないけど」


(いやいやいや、この金額ということは、即ちかなり危ないことをしているってことよね、この早さでSランクになるというのも前例が無いわけではないけど、ほぼ有り得ない話らしいし――)


かなり危険なことをしているのだろうか、それが心配になって、問いかけてみることにする。


「……リーリャ、怪我とかしてない?」


「大丈夫、ドラゴンとか簡単に倒せるようになったし」


――もはや何も言うまい、マリアは心の中で誓った。


「何か欲しいものある?何でも買うよ?」


「う、うん、じゃあお母さんハンドクリーム欲しいわね、冬場はやっぱり手が荒れちゃうから……」


「金貨100万枚くらいのハンドクリームってあるのかな?」


「うん、市販のものでいいのよ?高すぎるとお母さん怖くなって使えなくなるから」


田舎では金貨2枚で一年を普通に暮らすことができる。

リーリャは金銭感覚が破壊されている感じがするが、それはお礼をしたいという願いの表れなのだろう――行き過ぎだろうが。


「そう?それじゃあユレイドさんが使ってるものを送るね?」


「えぇ、楽しみにしてるわ」


「あとはお爺ちゃんとお婆ちゃんに送ろうかな?」


「うん、お父さんとお母さんの心臓が止まりそうだし、今度連れてくるから、その時おいしいものでも食べさせてくれたらうれしいわ」


「村の皆にも何か送らないとね!」


「とりあえずお土産のお菓子ぐらいでいいと思うわよ?あとは顔を出すぐらいにしてくれれば後は何も言わないわ」


――屋敷を建てられても困るし、とマリアはボソリと漏らす。

疑問符を浮かべるリーリャに「なんでもないわ」と首を振って。

コホンと咳をして、本題に入ることにした。


「――リーリャ、貴方のお父さんのことだけど」


「……うん」


「ずっと言わないつもりだったわ、メイドの夢もあるし、……メイドの夢って、お母さんのためでしょう?」


「……うん」


母の悲しげな顔がリーリャにとってこびり付いてなくならない。

お母さんが悲しまない、お母さんのような人が悲しむことの無い、そんな国になればいいのに、それが小さなころに考え続けていたことだった。


――この国を変えたい。


変えられる人をサポートしたい。

その願いこそが、リーリャの夢の根幹だ。

そこから母親への尊敬の念が込められて、今の形となった。


「……お母さんね、貴方をお父さんとあわせることができないことが一番苦しかったの」


「ううん、私お母さんが居て本当に嬉しいよ」


「うん、ありがとうね、リーリャ……でも貴方のお父さんについては貴方を付いて回る可能性が高くなったの、だから伝えるべきだと思った、何も起こらなければ聞かなかったことにすればいい、聞かなかったことにして夢へ真っ直ぐに進めばいい」


「うん」


コホン、と先ほどよりも強い咳をする。

リーリャの心臓も、マリアの心臓も強く大きく振動していた。


「この国の――」


――ドオオォォンッという轟音が遥か遠方から響き渡る。

弾かれるように二人は窓の外を見る。

遠方、あれだと町外れかその近くといったところか、リーリャはそう考えて


「アーマーモード!」


メイド服を鎧へと変更する。

マリアが目を丸くしてリーリャを見るが説明はしていられない。


「お母さん、私ちょっと見てくるけど外に出ないでね!」


「え、えぇ」


弾丸のように、飛び出していく娘を見送る。

マリアは、リーリャの背中を眺めながら、ため息をつく。


「――できるだけ早く伝えたいのだけど」



-------------------



飛び立ったリーリャは即座に魔力を練り始める。


「『精霊よ、家を護れ』」


莫大な魔力を無差別に精霊へと渡し、精霊言語にて『家の守護』を命令する。

チラリと家を振り向き、直に帰ろうと心の中で誓ってから現場へと急行する。




現場は巨大な穴が開いているだけで、被害は特に無かった。

というよりも、誰も居なかったときに起こったようだ。


「よかった……」


胸を撫で下ろし、ギルドによろうか――と考えたときだった。

巨大な槌が振り下ろされる、それを片手で受け止めて殴り飛ばす。

槌は周りながら円を描き、どこかへと飛んでいく。

リーリャは飛んできた方向へとちらりと視線を向けると、藍色の髪の妖艶な女性がそこに居た。

宙に浮かび、こちらを見下ろしている。


「ヴァンパイア――いや、サキュバスの亜人ですか?」


「みんなのアイドル、ミストレーナちゃんです☆」


「……」


光の魔法で、発光する球を作り出しているのだろう。

キラキラと、周囲を輝かせながらポーズを決めて、ミストレーナはリーリャへと自己紹介する。

リーリャは、あったことのないタイプに驚きつつも、胸に手を当てて言葉を返した。


「Sランク冒険者『姫騎士』リーリャと申します」


「貴方かわいいわね!私とコンビで大陸一のアイドル目指さない?」


「夢はメイドなので、ちょっと無理ですね」


「じゃあ死ねよゴミクズ」


豹変し、まるでせき止められていたといわんばかりに殺気が噴出した。

一瞬で空間から巨大な槌を呼び出し、猛威を振るう。


「『風よ、壁となれ』」


精霊言語、空気が圧縮され槌の攻撃を防がんと壁になる。

リーリャは槌が防いだ瞬間に能力を発動し、相手の情報を見る。


――レベル438。

問題はない、住宅地に被害なく倒せる。

そう考えて剣を引き抜き、相手へと向ける。


「――ウゼエェェェ!超うぜぇぇええええ!防御とかしてんじゃねぇぇよッ!このチキンが!クソビッチ!」


――サキュバスにビッチと呼ばれる、これはいかに。

防御された槌をぶん殴り、同じくどこかへと飛んでいく槌を眺め、リーリャはまっすぐに相手を見る。


「チィィッ!ファァァック!」


今度は巨大な剣だった、槌も巨大ではあったが、それを軽々と振り回すその筋力。

ステータスの数値をリーリャは注視する。


筋力:46309


――レベルはリーリャの半分程度だ。

しかし筋力は同レベル。

これ以上強くなったら殴り合いでは勝てない相手になるだろう。


「『火炎よ、剣へ纏え』」


しかし、リーリャの強みは『特化しない』ということだ。

炎を纏った龍牙剣は纏っている炎のように真っ赤に染まった。

そしてそのまま振り下ろされた剣へと飛び出した。

そのまま、一振り、剣を切断しながら前へと進む。

鉄がゴポゴポと音を立てながら液体へと変貌し、振るわれた先端は地面へと落ちていく。


「チッ」


ミストレーナは盾を複数呼び出し、こちらの攻撃を防御する――

リーリャは剣を投げ捨てる。


「『風よ、全力で背を押せ』」


「……は?」


リーリャの攻撃は、炎の剣を振るうということではなかった。

ただの突撃である――突撃を、音速レベルで盾を巻き込み、ミストレーナへと直撃した。

鈍い音を、全身から立てて吹き飛んでいくミストレーナを、リーリャは腕をぐるぐると回して無事を確認しながら眺めていた。


「本当にすごい鎧だなぁ」


地面へと倒れ付すミストレーナはピクピクと痙攣している――すぐに立ち上がった。


「いやぁ……やっぱ男相手のほうがいいわねぇ……」


よろよろとよろけながら、ズタボロな状態で、ミストレーナは、余裕の笑みを浮かべた。


「……えぇっと、魔法使いますか?」


「余裕そうだね、まぁ力量の差はわかってたけどね……」


「何がお目当てで?」


「お目当ては――メルロスとエーリカかな?」


「――!?」


振り向く、――ギルド方面から轟音と共に土煙が上がった。



--------------------------




「……リーリャを残しておいたほうがよかったな」


ハロルドは苦笑いを浮かべて目の前の男を見る。

銀髪、紫色の肌、魔族というやつだ、それもかなり高位の。

そして、自分より強いということは用意に分かった。

ハロルドの師匠のような、強い威圧感を感じた。


「支部長兼Sランク冒険者『殲滅者』ハロルドだ、さて戦おうか」


ナイフを片手に嬉しそうに笑みを浮かべる。

しかし男は、一向に構える様子は無かった。


「……既に目標は手に入れた」


「……は?ってまさか!?」


驚きギルド内部へと侵入する。

そのまま奥へと進み――メルロスとエーリカのいない室内を見つける。

ポカンと口を広げているアーリーが室内に一人だけ居た。


「……ハロルド、いきなり裂け目ができて二人が消えたんだけど――」


アーリーの言葉に返答せず、ハロルドは外へと飛び出した。

暢気に男は出てくるのを待っていたらしい、笑みを浮かべてこちらを出迎える。


「まんまと嵌められたわけか……んで、なんで待ってたんだよ?」


「……名乗りを返してなかったからな、私はルーカス、魔族のルーカスだ」


「……喧嘩売ってるのか、礼儀正しいのか、どっちかさっぱりわかんねぇな」


ハロルドは少々苛立ちながらも睨みつける。

そんな視線を気にせずにルーカスは笑みを浮かべて一礼をし――


「では、この度はお時間を頂きまことに有難うございました」


そういって、発生した裂け目へと消えていくルーカスに、ハロルドは何もすることはできずに見送った。


「……やっぱ喧嘩売ってるだろ」



-------------------------------





ルーカスは裂け目からストンと地面へと着地する。

そして見たのは――リーリャが剣を持って、こちらを真っ直ぐとみている、そんな光景だった。

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