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エーリカとメルロス

四話

ベイステイから紙を受け取った後、メイドモードへと鎧を変換して真っ直ぐにギルドへとリーリャは向かった。

いつも通りの鈴の音を鳴らすドアを開けて、ギルド内部へと入ると、見知った顔が出迎える。


「あら、リーリャちゃんじゃない、こんにちは」


「こんにちは、ハロルドさん居ますか?」


「ハロルド?今日はまだ帰ってきてないけど……もうすぐ帰ってくるんじゃないかしら?」


そうアーリーが言うと同時に、鈴の音が響き渡った。


「ハロルド、リーリャちゃんが」


アーリーが呼んだ名前によりハロルドが入ってきた音だとリーリャは理解する。振り向いて用事を伝えようとしたリーリャの眼に飛び込んできたものは二人の女性を抱えたハロルドだった。


「あぁ、どうかしたのか?」


「ハ、ハロルド……」


「ん?あぁこの二人か?」


そういってハロルドは気絶した二人をチラッと見る。

何故か泥だらけなヴァンパイアの少女、エーリカともう一人は金髪の耳の長い少女だ。

リーリャとアーリーは身体的特徴から、ヴァンパイアとエルフであることは一瞬で理解した。

そのため


「ハロルドさんが亜人愛好家なことは知ってましたけど、浚ってくるなんて!」


「ハロルド!憲兵に行きましょう!」


「どうしてそうなるんだよ!?」


こう考えるのはハロルドに対する信頼の現われだ。

それが変態的な方向であることはいう必要はないだろう。


「こいつらは重要参考人だよ!」


「趣味の……参考人……」


「リーリャ、後で二百個くらいクエスト押し付けるからな」


「んん……?」


ドン引きした表情のリーリャと、ヒクヒクと右眼の下の筋肉を動かし怒っているのか笑っているのかよくわからない表情を浮かべるハロルド。

そんな彼らの会話中に、エルフの方が起きたのかうめき声を上げた。


「こ、ここはどこだ……」


「冒険者ギルドよ、大丈夫?ハロルドに何かされなかった?」


「俺の信頼はどうなってんだ!?」


アーリーのあまりの言い草に心外だと言わんばかりの表情で、ハロルドは非難の声を上げた。


「普段の行動じゃないですかね?」


「浮気はしたことないんだぞ!?」


「そういうことじゃないです」


「静かにして、言葉が聞き取りにくいから」


「「はい」」


アーリーの言葉に一瞬で静まり返るギルド内部。

そのことを確認して、アーリーはゆっくりとぼんやりとしているエルフへと語りかける。


「あなたは……亜人?」


「えぇ、私は猫族のアーリー、貴方は?」


「エルフ、名前は……メルロス」


「メルロス、いい名前ね」


「あぁ……母上から貰った名前だ……ッ!」


会話をしている間に意識がハッキリしたのか、カッと眼を見開くと、焦ったように周囲をメルロスは見回し始め、視線をハロルドで止めた。

脅えたような表情をしながらも、必死にハロルドを睨みつけている。


「化け物が……!」


「まぁハロルドは化け物だけど」


「否定はしねぇがな、とりあえず話を聞け、こいつらはアンノウンについて知っていると思われる、だから連れてきたんだよ」


「まぁヴァンパイアのエーリカって奴のほうなんだけど、こいつは途中から攻撃してきたからな」とハロルドは言い放った後に、メルロスを捕まえる経緯を説明し始める。


------------------------



時は遡り、エーリカとの戦闘前へと戻る。

半眼でハロルドを睨みながら、エーリカは宙に浮いたまま手を前に突き出した。

すると、体から赤黒い液体が湧き出し、彼女の手に収束し、赤黒い剣へと変貌する。

彼女の体二人分はありそうな巨大な剣を軽々と持ち上げ、横に振るう。

ボッという破裂音が響き渡ったかと思うと、荒れ狂う風がハロルドへと襲い掛かってゆく。


「――鮮血の剣」


吹き荒れる暴風を叩きつけられたハロルドは、何事もないかのようにその場に立っている、そして彼の表情はニヤリと楽しそうな笑みを浮かべていた。


(魔力はかなりのもの、筋力は吸血鬼だし高いだろう)


Sランク冒険者には様々な人間が居るが、共通して『戦いが好き』な人間がほとんどだ。それはハロルドも同様だ。

――久しぶりに強い奴と戦える。そう考えると笑みが止まらない。


「いくわよ」


冷たい視線を向けながら、エーリカは始まりを宣言する。

剣を構えてハロルドへと突撃をする。


(唯の突撃?芸のない――)


そうハロルドが考えていると、地面から何か違和感を感じる。

――次の瞬間、赤黒い血の刃がハロルドを串刺しにしようと噴出すように地面から現れた。

ハロルドはバックステップで回避する、しかし血の刃は止まることなく、ぐねぐねとまるで生きているかのように変化をして、ハロルドを追尾し始める。


「『地面よ、沼地と化せ』」


――詠唱魔法と固有の詠唱不要である術。足を取られて動きにくい。

固有能力は血の操作だろう、そうハロルドは判断する。


(俺自身の血を操作しないということは、何かしらの条件があるのか)


血の刃の量は増加していき、ついにハロルドを囲むようになる。

まるで、血の牢獄のように。


「さようなら」


巨大な剣を大きく振り上げて、力任せに振り下ろす。

血の牢獄は剣を素通りさせていくどころか、内部のハロルドを串刺しにしてやろうと、所々から棘を伸ばしていく。


「……簡単に死ぬわけにはいかないしなぁ」


しかしハロルドは特に焦る様子もなく、剣を右手の人差し指と中指で受け止め、逆の腕で全ての棘を叩き落す。

牢獄は次の瞬間霧散するようにして消滅した。

残ったのは、剣を受け止めるハロルドと、剣を握り締めるエーリカのみだ。


「いえ、終わりよ」


「あん?」


ハロルドが自信満々といったエーリカの声と、エーリカのニヒルな笑みを見た瞬間、体に違和感を感じた。

内部が何かにかき回されているかのような――そう考えて、ハロルドはハッと理解した。


「私が血を操作する条件は、私の管理下に置かれたものが相手の肉体が触れること、それだけよ」


――これで終わりよ、そうエーリカは告げてハロルドに流れる血を暴れまわるように操作する。

……が、一向にハロルドは倒れることはなかった。


「……何故」


「嘗めていたことは謝る、すまんな」


そういってハロルドは左手に持つ者をエーリカへと見せ付けるようにして突き出した。

それは、ただのナイフだった。

魔力の反応もない、ただのナイフ。


「ッ――!」


固有能力が効かない、そうと理解できれば悠長に近づいているわけにも行かない、エーリカは捕まれている剣を放棄し、後ろへと飛んで退避する。

血の刃で近づかないようにけん制することも忘れない。


「それは効かない」


襲い掛かる血の刃に一閃、操作されていた血は、唯の血へと変貌し、そのまま地に落ちた。


「(――これは固有能)ギィッ!?」


意識が二度三度暗転し、視界がぐるぐると回る。

右頬がジンジンと痛む、殴られたと理解するには十分だった。

――ヤバイ、ヤバイヤバイヤバイヤバイ!

思考が一色に染まっていく、見えなかった、動きが、消えるところさえも。


(逃げなければ、逃げなければ、逃げなければ!逃げろ逃げ――)


ハロルドは回転するエーリカの鳩尾へと一撃を食らわせる。

悲鳴やうめき声を上げる余裕さえもなかった、エーリカは殴られた後、吹き飛ばずにそのまま地にべしゃりと落ちる。


「亜人を殴るとすっげぇ罪悪感が起こるから嫌なんだよな」


顔を歪めてハロルドは先ほどエーリカが作り出した沼地に沈んでいくエーリカをナイフを収めてからお姫様抱っこで助け出す。

――帰るか。

そう考えたときだった。


「チィッ!」


広範囲高威力の風の魔法が、ハロルドへと襲い掛かる。

土煙が舞い上がり、周辺を染め上げた。

そこに金色の女性が空から舞い降りて、ぐるりと見回して、


「エーリカ!無事か!」


エーリカの名を呼び、彼女の無事を確認しようと歩き始める。


「エーリカは無事だ」


ハロルドはそんな彼女に声をかけた。

ハロルドは退避するかと思ったのだが、


「そうか!それは良かった!」


帰ってきたのは喜びの声だった。

考えていなかった反応だったのか、若干ハロルドの顔が引きつっている。


「お、おう、良かったな」


「あぁ!って貴様ァァァ!?」


やっと理解したのか、ズザザザと退避する音がハロルドに聞こえた。

土煙が晴れ、女性の姿が露になる。

金髪の耳の長い女性だった、特徴から一発でエルフだということがわかる。

エルフの女性がこちらへと青い宝石が特徴的な杖を向けている。


「わ、私の魔法が効かないのか?」


「いや効かないわけじゃない、ダメージが少ないだけだ」


「そうか、よかった!」


(いや、よくねぇから)


効かないわけではないとはいえ、数千発食らわされてやっと痛いと思う程度だろうか、その証拠にハロルドはケロリとしており、怪我一つ無い。

魔法による変化といえば、髪の毛や肩などに土が載っている、その程度のことだ。

だというのに女性は心の底からホッとしたような表情をする。

中々によくわからない女性だ、心の中でハロルドはそう評価した(当然悪い意味で)。


「助けに来たってことは、お前は仲間……ってことでいいんだよな?」


「ふん、そうだな」


「じゃあお前にも仲間の情報を吐いて貰わないとな」


「このメルロス、貴様如きに喋る口はない」


(……自分の名前を教えてくれて、そして喋る口はないのに喋ってると)


少々疲れ始めたハロルドは、さっさとこいつを拘束しようと考えてエーリカを地面へと置く、ズプズプと沼に嵌っていくが、さすがに持って戦うわけにも行かない、投げるのもなんだか嫌だった。

そのままメルロスへと歩き出す。

それに気づいたのは、メルロスは杖を振り上げる――すると、氷の刃が空中に現れてこちらへと打ち出される。


(無詠唱可能――)


エルフの固有能力だろうか、そう考えながらもハロルドは一瞬にしてメルロスの目の前へと移動する。


「え?」


そのまま顎に一発。

脳が揺らしたために、糸が切れたマリオネットのようにメルロスは崩れ落ちる。

こうしてハロルドの戦闘は終了した。




---------------------




「……まぁそんなこんなで此処につれてきた」


「エルフって聡明じゃなかったでしたっけ?」


「一般的にはそのはずよ……」


ハロルドに猫のように威嚇するメルロスを眺めながら三人はため息をついた。


「あ、ハロルド」


そんな時に、何かを思い出したのか、ギルドの奥へとアーリーが向かい、すぐに戻ってくる。

その手には腕輪が握られていた。


「あぁ、魔封じの腕輪か」


「そう、厄介な固有能力持ってそうだからね」


「あ、魔法使えるのか!?じゃあ戦えるじゃないか!」


「……とりあえずメルロスだったな」


「貴様に呼ばれる名前はない!覚悟ッ!」


ハロルドが丁寧に持ってきた杖を持って、ハロルドへと向ける。

彼女の敵はハロルドのみのようだ。

そんな彼女の様子を無視して、リーリャを指してハロルドは言い放つ。


「リーリャは俺より強いかも知れんぞ」


「いや、技量はハロルドさんが上ですけど」


「だけど同等には近いことが確実だ、よしメルロス、俺に反応できずに倒されただろ?今度は俺二人だぞ、楽しみだな!」


(……えげつないですハロルドさん)


「……」


沈黙して、顔を真っ青にしてメルロスは杖を下げた。

その様子をみて、抵抗はしないだろうと考えて、少し優しい声でハロルドはメルロスへと語りかける。


「大丈夫だ、アーリーがお前ら二人と一緒に居るからな、俺はあんまり近づかない、これでどうだ?」


「……本当に?」


「魔封じはするがな、俺は話を聞く程度だ、基本お前らに関わるのは俺じゃあないようにする」


「うん……」


すっかり意気消沈した様子のメルロス。

それをリーリャが眺めていると、視線に気づき、メルロスがリーリャを脅えた表情で見る。


「お、お前はなんだ」


「メイドです」


さらっと嘘をつくリーリャ。


「メイドなのか?」


「はい」


そして信じるメルロス。

まぁメイド服だし仕方が無いだろう。

そんな様子にハロルドは少々呆れながら訂正することにした。


「……嘘だ」


「嘘なのか!?」


「メイドになりたいとは思っていますが、Sランク冒険者は怖がられるので」


「そ、そうか……冒険者やめればいいんじゃないのか?」


「たくさんの冒険者さんたちに恩が有るので……それを返すためにも冒険者という立場をやめるわけにはいかないんです」


「そうか……人間なのに義理堅いんだな」


話し始める二人を眺めて、少し満足そうにハロルドは頷いた。

少し似ている二人だ、打ち解けることだろう。


「うん……?」


アーリーがガチャリと腕輪を装着すると、エーリカが眼を覚ましたようで、うなり声を上げて眼を開き、周囲を見回した。


「ここ、は?」


「冒険者ギルドだ」


ハロルドの声に気づき、彼をまっすぐと見る。

そして何かを悟ったように長いため息を吐いた。


「……負けたのね、私は――それも、手加減をされて」


「エーリカ!」


声に気づいたのか、メルロスがこちらへと飛び掛るようにして駆け込んでくる、そしてエーリカへと抱きついた。


「メルロス……私が負けたら逃げろって言っておいたじゃない」


「エーリカがいないと嫌だ!」


その言葉に、エーリカは「全く……」と呆れたように言いつつも少し嬉しそうに口角が上を向いている。


「……私達の負けよ、でも話さないわよ」


メルロスを抱きながら、確固たる意思を持って睨みつける。

そんな彼女を見て、砦は固そうだな、とハロルドは心の中でため息を吐いた。


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