2. 親切な不審者
「あー間に合わなかったかー」
辺りが夕日に染まる頃。
壁に寄りかかったままボーっとしていたフィニが、そんな不穏な一言を呟いて、まとめておいた縄を手繰り寄せた。不安そうな顔をしているセラとパルヴィを手招きしたので、二人は心細そうな表情を浮かべて、フィニの傍に寄った。
「いい? 今から二人を縛るからね」
「えええ! 何で!」
「わ、私も嫌です、手首が擦りむけてて痛いの」
「だまらっしゃい。いいから言うこと聞いて、この縄の端を持って」
フィニには何か考えがあるのだろうと思ったセラは、素直に後ろを向いて縄の端を持った。フィニは手早く縄をセラの手首に巻きつけて、縄の端を一重に結んだ。
「握ってるほうの縄をグッと下に引けば解けるから。いざって時は、自分で解いて逃げて。でも奴らの前で引いたら絶対ダメだよ」
「わかったわ。さっきフィニが縄抜けしたのって、この結び方のおかげ?」
「違うよ、普通に縄抜けしただけ」
「ゴキゴキって手首をはずして?」
「ンなことしたら痛いでしょうが!」
軽口を叩きつつも、フィニの作業は手際が良かった。パルヴィの血の滲む細い手首には、懐から出した手巾を巻いてから、セラと同じように手早く縄を巻いていく。そのやけに手馴れた様子に、ますますフィニの正体がわからなくなってきた。こういう変わった縄の使い方をするのは、シーフのような特殊技術者が多いのだが、フィニはそういう風には見えない。悪い人間ではなくても、どこか不審なところがちらほらあるのが、少しだけ気になった。
「縄抜けって、私にも出来る?」
「無理無理。手首が太くなっちゃうからやめときなよ」
「え、ふが! もご!」
「静かに。すぐそこまで馬車が来てるからね」
呆れたような半目のフィニに、猿轡を再びかまされてセラは沈黙した。パルヴィもおとなしく猿轡をされて、しょんぼりと座り込む。そしてフィニも猿轡をしてから、後ろ手に自分で自分を器用に縛り上げた。やがてセラとパルヴィの耳にも、馬車の音が聞こえてきた。
ガンガン! と乱暴な音を立てて閂が抜かれ、大柄な男と町人風の男が入ってきた。荒んだ目つきをしたやくざ者のような風情だが、胸に紋章のついた軍服をだらしなく着込んでいるので、おそらく騎士だろう。北方大陸に百近くある貴族の紋章を全部覚えているわけではないが、紋章の地色の右上が白地ということは、北方大陸西部の貴族だ。今までの流れから察するに、イプスター兵に違いない。
「これがルズベリーの姫か。おい! こっちの二人は何だ、聞いていないぞ!」
「赤髪の娘はダラムで捕まえた”貢ぎ物”ですよ。茶髪のほうは、姫を攫うところを見られたので、仕方なく連れてきたそうです」
ちらりとセラとフィニを見て、興味なさそうな素振りで町民風の男はさっさと出て行った。大柄な騎士はイライラとした様子で舌打ちをすると、パルヴィの腕を引っ張って、無理やり立たせた。
「ふん。さぁ来るんだ!」
暴れて嫌がるパルヴィに業を煮やした大柄な騎士は、そのまま腕を持って小屋の外へと引き摺っていった。くぐもった泣き声があたりにこだまする。フィニが目配せをしたので、セラも慌てて外に出た。山の向こうに日が沈んでいくのが見える。結局のところ、フィニの相棒は間に合わなかったのだろうか。心細さにセラも泣きたくなってきた。
今度は幌馬車ではなく、きちんとした箱型の馬車だった。辻馬車のように家紋も何も入っていないので、どこの誰が使っているものなのか不明だが、そこいらの町人が所有するもののようには見えない。内装もそれなりに綺麗で、ややくたびれている感はあるものの、すわり心地は悪くなかった。
どうも男達のお目当てはパルヴィのようで、セラとフィニはついでのようだ。ついでにどこかへ貢ぎ物として送られるらしい。絶望で目の前が暗くなってきた。
座席の窓からずっと外を見ていたフィニが、顎でしゃくって「外を見ろ」というようなそぶりをするので、セラもフィニに寄りそうにして、窓ににじり寄った。薄暗くてよく見えないが、馬車のかなり後ろを、馬が駆けてくるのが見える。その背には人影があった。
セラは喜色を浮かべた目でフィニを見た。薄茶の瞳がにっこりと笑みの形になる。何とかフィニの相棒が間に合ったのだ。これで助かる。ぐしゃぐしゃに泣き崩れていたパルヴィは「むー! むー!!」と、むごむご喜ぶセラの姿を見て、目を小リスのように丸くして泣き止んだ。
数刻が過ぎて、ようやく馬車が止まった。イプスターに着いてしまったのだろうかと周りを見回したが、あたりは欝蒼とした森に囲まれており、元はどこかの貴族の別荘であったと思われる廃屋しかなかった。まさか、あのお化け屋敷に連れて行かれるのだろうか。セラは思わずしり込みした。あんな怖そうなところ、絶対絶対行きたくない。
「さっさと降りるんだ!」
小柄で華奢なパルヴィが、子猫をつまむように襟首を掴まれて、馬車から降ろされた。セラとフィニも抜き身の剣で脅されては、素直に降りるしかなかった。セラは屋敷全体からかもし出される「廃屋でござい」という雰囲気が、恐ろしくて堪らなかった。キィ、キィ、と壊れた窓枠が物悲しい音を立てていて、不気味さをより一層際立たせる。一秒だってこんなところにいたくないのに、大柄な騎士に剣の鞘で突かれて、しぶしぶ玄関をくぐった。すぐ後ろにフィニがいてくれるのだけが、せめてもの救いだった。
「お前はここでおとなしくしていろ」
まずフィニが、入り口のすぐ傍の部屋に突き飛ばされた。抵抗する素振りも見せず、床に倒れたままのフィニの足が見える。大柄な騎士はすぐ扉を閉めて、鍵をかけた。こんなボロボロの廃屋なのに、ちゃんと部屋の鍵が使えるということは、誰かが手入れをしているに違いない。一体この男達は、若い女性を攫って何をしようとしているのだろう。セラはざわざわと胸騒ぎがした。
「お前はこっちだ」
「んんんーー!! んぎー!」 (やめてーー!! イヤー!)
セラだけが、真っ暗な森しか見えない、月明かりすら入らない部屋に一人で閉じ込められようとしていた。必死の抵抗もむなしく、思いっきり背中を押された。たたらを踏んで部屋に入ると、背後でバン! と音を立てて扉が閉まり、続けざまに鍵のかかる音がした。パルヴィの泣き声が、尾を引きながら遠ざかっていく。外から見た感じでは二階建てだったから、上の階のどこかに連れて行かれたのかもしれない。大事な人質だから、そう手荒な真似はしないと思いたいが、何とかしてここから逃げなくては。捕まった二人を何とかして助けなければ。一緒に逃げる方法は。そればかりが、セラの頭のなかをぐるぐると回る。だが、焦るばかりでいい考えなど、まったく浮かんではこなかった。
森から聞こえてくる、変な生き物の鳴き声が恐ろしい。気の触れた人間があげる叫び声のように聞こえる。部屋は真っ暗だし、遠くからパルヴィらしき女性のすすり泣く声がするし、何だかかび臭いし、とにかく薄気味悪くてたまらなかった。縄を解いて窓から逃げる、ということも考えたが、蝶番がさび付いていてセラの力では動きそうにない。窓を割るにしても、この部屋には本当に何もないので、それも無理。セラはすっかり途方に暮れて、部屋の真ん中に座り込んだ。こんなわけのわからない所で一人ぼっち。泣いてもしょうがないと自分でも思っているのに、涙があふれてきた。
怖い。誰か助けて、と思った、そのとき。突然コツコツコツ、と窓のほうから音がして、セラは文字通り飛び上がって驚いた。前に読んだ怪奇小説で、こんな場面があった。少女が振り返ると、そこには黒い頭巾を被った、骨だけの男が。
「んーーーーーーーーー!!」 (出たーーーーーーーーー!!)
本当に窓の外に、黒い頭巾の人影らしきものが立っていた。とうとうセラは恐慌状態に陥った。なおもしつこく、窓の外の黒い影は窓をコツコツと叩いている。その音から遠ざかるために、必死で後ずさって部屋の隅に蹲った。完全に腰が抜けたのか、足に力が入らない。黒い頭巾は刃物らしきものを窓枠に差し込んで、あっさり蝶番を破壊すると、音を立てずに窓から侵入してきた。頭巾は外套と繋がっていて、その姿は怪奇小説に出てくる死神そのものだった。セラはいっそのこと気絶したかった。
だが、よく見ると黒頭巾は手に手の平くらいの小さな携帯用カンテラを持っていて、しっかりした作りの黒革の長靴を履いていた。足がある。死神ではなくて人間だった。
「もしかして、君がセラか?」
黒頭巾から発せられたのは、小声ながらもよく通る低い声。セラは男の問いかけに、壊れた人形のようにガクガク頷いた。その様子に苦笑して、男は頭巾を取った。頭巾の下は、淡い髪の色に夜明けの空のような蒼い瞳の、セラとそう年の変わらない青年だった。すっきりと整った顔立ちをしていて、粗野なところなど微塵も感じられない。青年の雰囲気は、傭兵という荒っぽい職業についているようには見えなかった。
「フィニ、の手紙を見て、助けに来た。怪我はない?」
「ない、ないけど、フィニと、もう一人女の子が捕まっててっ」
「落ち着けって、もう大丈夫だから」
青年はへたり込んだセラと目線を合わせるように跪いて、優しくあやす様に両肩を叩いた。
「半分は俺のせいか。驚かしてごめんな」
悪戯が成功した顔をしてニッと笑う青年につられて、セラもぎこちなく笑みを浮かべた。笑ったおかげで、少しだけ体の震えが治まった気がする。青年は座り込んだままのセラの後ろに回って、縄を解いてくれた。
「この結び方、もしかしてあいつか?」
「う、うん。いざというときは、自分で解いて逃げてって」
「また無茶振りを……」
青年は大きくため息をつくと立ち上がって、セラに手を差し出した。
「立てるか?」
「さっきので腰抜けちゃった……」
「そりゃ悪かったな」
全然悪かったとは思っていないような素振りで、セラが立ち上がるのに手を貸すと、青年は床に置いていたカンテラを拾い上げた。並んで立つと青年はセラよりも頭一つ高いくらいの背丈だったが、真っ直ぐ伸びた背筋で、実際よりも背が高く見えた。
「えっと、ところであなたは?」
「俺はユリシーズ。旅の傭兵だよ」
「フィニは、ある人に雇われてるって言ってたけど」
「ああ。ルズベリーの領主の知り合いに頼まれた」
「…………そう」
「何だよ、その怪しい者を見るような目は」
「領主の知り合いって、何」
「今は言えない。いいから行くぞ。立てないならおぶっていく」
「ユーリ、それじゃただの怪しいお兄さんだよ」
するりとドアから入ってきたのは、別の部屋に閉じ込められていたフィニだった。先ほど別れたときと同じ姿で、怪我もない様子に、セラは心底安堵した。
「お前! どこ行ってたんだよ。すごく探したんだぞ」
「ごめんごめん」
「ったく。手間をかけさせるなよ」
気安い感じの二人は、きっと組んで長いのだろう。もしかしたら恋人同士のような存在なのかもしれない。セラは少しだけ、そんな二人を羨ましく思った。
「上はどうだった?」
「二階に見張りが五人。姫は二階一番奥」
「何とかいけるな。お前どっち行く?」
「人質救出は本職に任せて」
「もういい加減、その声で話すのやめないか。とっても気持ち悪い」
「ひ、ひどい! なんてひどいことを言うの」
口元に手を当ててぷるぷると震えるフィニを見て、ユリシーズは吐きそうな顔をした。
「とっても気持ち悪い」
「ひどい、二回も言った! 謝ってください!」
セラはあまりの物言いに、思わずユリシーズに食って掛かった。突然立ち上がったセラに驚いたユリシーズは、思わず仰け反った。
「な、何だよ、だってこいつは」
「あとよろしく。地下に行って、他にも捕まってる子いないか見てきてね」
フィニが笑って部屋を出て行こうとすると、青年が腰の後ろに手をやって、何かを投げて渡した。
「手ぶらで行く気かよ」
「助かる。さすが私の相棒。ウフフッ」
フィニは鞘に入ったままの短剣を、かわいらしく振った。
「やめろ! 次やったら、抜き身を投げるからな!」
足音を立てずに部屋を出て行ったフィニの背中に、小声で怒気荒く言い放つと青年は肩で大きく息をついた。
「俺、今から地下に行くけど、ここに一人で残るか? 悪いけどカンテラは持ってくぞ」
「どっちも嫌」
「何だと」
「怖いから置いていかないで。でも地下は怖いから嫌」
「よし、じゃ俺と地下な」
ユリシーズがカンテラの火を吹き消すと、部屋は途端に暗闇に戻った。
「何で消すの!? 何でそうなるの!?」
「静かに。声がデカイよ。ホラ、手を貸せ」
差し出された大きな手に、セラは仕方なく自分の手を乗せた。そのまま手を引かれて部屋の入り口までやってくると、廊下に誰もいないことを確認したユリシーズが振り返り、セラに耳打ちした。
「いい子だから静かにしててくれよ。後でお菓子買ってあげるから」
「……!」
子ども扱いしないで! といいたいところだったが、ユリシーズの言うとおり、ここで騒いだら二階に行ったフィニにも危険が及ぶかもしれないので、ぐっと我慢した。
窓から差し込む細い月の光だけを頼りに、地下への廊下を進む。はっきり言って恐ろしい。暗がりから何かが出てきそう。あの角の先からも。天井の影になっているところからも。恐ろしさのあまり、繋いでいる手に力が篭った。軽く握り返されて我に返ると、目の前にユリシーズの広い背中があった。
さっき会ったばかりだから、どういう人なのかわからないが、とりあえず悪い人ではなさそうだ。仲間に対してはかなりぞんざいだけど、セラに対してはそれなりに気遣いが感じられる。わざわざ手を繋いで、ゆっくりと進んでくれるので、真っ暗闇でも心強かった。
ジメジメと湿った空気の漂う地下室は、元は食料庫だったのか、饐えたようなひどい悪臭が漂っていた。捌いた肉や魚をそのまま放置していたら、きっとこんな風になるに違いない。突然ユリシーズの手が離れて、セラは思わず彼の背中にしがみついた。ユリシーズはセラにしがみつかれたまま、革帯に下げていた携帯用カンテラに火を入れて地下室全体を照らした。天井からは何に使ったのかよくわからない、手かせのついた鎖がぶら下がり、部屋の隅には大きな桶が置いてあった。床は泥のようなもので所々汚れている。セラは恐ろしくてチラリとしか見なかったが、ユリシーズは眦を険しくしてあちこちを見ていた。カンテラが桶を照らした瞬間、振り返ったユリシーズに、いきなり抱え込まれた。
「セラ、そのまま後ろに下がれ。絶対に桶の中を見るなよ」
「何、何なの?」
「いいから」
セラはわけがわからなかったが、ユリシーズの強張った顔を見て、黙って言うとおりにした。下を見たまま回れ右をして、地下室の入り口まで振り返らずに歩く。そのままそろりそろりと階段を上がって、埃臭い空気を吸ってようやく一息ついた。ユリシーズも一切足音を立てずに階段を駆け登ってきて、地下への扉をそっと閉めた。
「人の命を何だと思ってんだ、クソッたれが」
ユリシーズは小声で毒づいて、セラの手を引いて歩き出した。地下のあの部屋で一体何を見たのかひどく気になったが、ユリシーズの様子からして、あまり良いものではなさそうだ。
「これ、持ってて」
ユリシーズが突然立ち止まって、セラにカンテラを渡した。階段の影にセラを押し込んでから幅広の小剣を鞘ごと外すと、足音をさせず玄関のほうへと駆け出した。そっと廊下の角から顔を出しても何も見えなかったが、玄関から誰かが入ってくる気配がした。セラ達を荷馬車で小屋まで運んだ、あの男だろうか。ユリシーズは玄関から入ってきた人影の首筋を、剣を収めた鞘で鋭く打ち据えた。不意打ちに反応できなかったのか、男は声もなく崩れ落ちる。ユリシーズは男が床に倒れて音を立てないように、胸倉を掴んで床にそっと置いた。一連の動きが流れるように早くて、セラは心底驚いた。精霊騎士団にも、こんなに早く動ける人はそういない。しかも鼻をつままれてもわからない暗闇で、音を立てずにだ。
「こいつもイプスター兵か?」
ユリシーズが長い足で男を転がして、黒装束をはぐとその下は軍服姿だった。さっきセラ達を乱暴に扱った大男と同じ意匠のものだ。
「この紋章を見た限り、たぶんそうだと思う」
「わかるのか?」
「北方大陸西部の貴族は、紋章の右上が白いの。イプスターも王都から見て西部だから」
「なるほど」
「何で、貴族がこんなことを……」
「それを俺達も調べてる。反王国派ってのが最近力をつけているって聞いた」
「そうだったの。不審者みたいに思って、ごめんね」
「気にするな」
ユリシーズは男の足を掴むと、さっきセラが閉じ込められていた部屋へと引き摺っていった。男を床に転がし、黒装束を裂いて猿轡をかませて、落ちていた縄で手首をぐるぐる巻きに縛っていく。さらに黒装束を裂いて足も縛り上げた。あまりにも手際が良すぎて、セラはこの人についていってもいいものか、ちょっと迷いが出てきた。不審者から変質者に格下げか。いや、ある意味格上げか。なまじ見目が良いだけに、セラの中では残念度が少しずつ上昇しつつあった。
「あとでルズベリーの私兵に引き渡してやる」
ぎゅうぎゅうと顔を踏んで、男が完全に気絶していることを確認すると、ユリシーズはちょっと引き気味のセラを振り返って、ばつの悪そうな顔をした。
「な、何だよ。俺、そんなひどいことしてる?」
「ううん、縛ったり踏んだりするのが上手いなと思っただけ」
「……仕事だからな、これ」
「フィニも上手だった」
「あいつも仕事だから。好きでやってるわけじゃないから。たぶん」
「理解のある恋人なのね」
「はあっ?! 冗談でもやめてくれ。考えるだけで吐きそうだ」
「違うの?」
「断じて違う。二度とそんな気持ち悪いこと、言わないでくれ」
疲れたようにぐったりとしたユリシーズに、また手を引かれて玄関まで戻ってくると、ユリシーズはセラにカンテラを手渡した。
「セラはこのまま外に出るんだ。出て右の、道沿いの倒木のそばに、俺の馬が繋いである。そこで待っててくれ」
「わ、わかった。フィニとパルヴィを助けてあげて」
「任せろ」
ニッと自信ありげに笑うと、ユリシーズは幅広の小剣を腰に佩いて、階段を上がっていった。それを見送って、セラも恐る恐る外に出た。月明かりが木々の間に細く差し込んでいた。さっきまで変な声がしていたけれど、今は虫の声しか聞こえない。誰もいないことを確認してから、そうっと足を踏み出した。二階の隅の部屋に、明かりがついているのが見える。あそこにパルヴィがいるのだろうか。そしてフィニは無事なのだろうか。セラは心配で、なかなか廃屋から離れることができなかった。