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第7話

「アリサ。アリサと申します」


 そして、アリサは奥ゆかしく頭を下げつつ俺に自身の名を告げた。


「そうか。じゃあアリサさん、君はどうして――」

「お嬢さん、エロ本落としましたよ?」


 俺の台詞にあとから追いついてきた作家が被せる。


「え? あ、あの……」


 うろたえるアリサさんに俺はこいつのことを紹介した。


「こいつはエロ同人作家。見かけ通り怪しい奴だが、悪い奴じゃない。あ、そいつも受け取らなくていい。目に毒だ」

「……」


 アリサさんは俺と作家の手に持つ同人誌のサンプル本とを交互に見比べる。しかし、そのあと彼女は驚くべき行動に出て。


「ありがとうございます。頂いておきますね」

「な……っ!」


 それをうやうやしく手に取り、アリサさんは自身のトートバックの中に入れた。


「い、いや、そんなもの無理してもらわなくてもいいんだぞ?」

「いえ。せっかくのご厚意ですので」


 礼儀正しい振る舞いで、そう微笑するアリサさん。勝ち誇ったかのような作家の顔。


「……」


 俺は困惑した。彼女には、「踊れ! 今夜は乳首祭り!」という奇天烈なタイトルが目に入らなかったのだろうか。否、もしそうであってもあのような卑猥な表紙絵を前に顔を覆いもしないのは不自然で。いやそもそも、彼女はどうしてこんな場所にたった一人でやって来ていたのか。


「アリサさん、君はどうして――いや」

 

 そこで俺はふと思う。アリサさんの外見は美麗そのもの。服も洒落ていて非の打ち所がなく。そこからはスーツ姿の奴らが彼女を捕まえなければならない理由はまるで見当たらない。


 しかし、それならば。


「君は何者だ?」


 ――それならば何故先ほど、彼女はスーツの連中に囲まれていた?


 いつの間にか俺は言いも知れない疑惑のような感情をアリサさんに向けていた。

 対する彼女は。


「何者、でしょうか?」


 きょとん。そういう表現が酷く似合いそうな顔をして。


「私はただの――」


 そのときだった。


「タクヤ、一旦引くぞ」

「は? いきなり何だよ?」


 作家が俺の肩を引く。その意味不明な行動に俺は声を荒げ。

だが。


「あれを見ろ」

「……?」


 作家の指が示す方向を俺は向いた。そこには。


「な……! あいつら!」


 既に倒したものとは違う、新たなスーツ姿の連中が。


「おそらくはここに伸びている奴らと連絡が取れなくなって、別働隊が探しに来たんだろう。戦ってもいいが、もう手元に同人誌はない。それともさっきのは、本の在庫なしでも撃てる技なのか?」

「……いや」

「だったら逃げるぞ。まだ、こちらには気付かれていない。今ならあの建物へ隠れれば、見つからずにやり過ごせるはずだ」


 そして俺達は踵を返す。次いでアリサさんに向かって。


「アリサさん、話はあとだ! 俺達は安全な場所を知っている。今はそこへ――」


 けれど彼女は信じられないようなことを。


「いえ。私は大丈夫ですのでタクヤさん達はお逃げください」


 アリサさんはそう言って、どういう訳かスーツの奴らがいる方向へと歩き始めていた。


「な……っ! アリサさん、そっちは危険だ! 戻って来い!」

「止めろ、間に合わなくなるぞ!」


 彼女の背を追いかけようとした俺を、作家が止める。


「お前が捕まったら、あの子は。建物で私の本を読んでいるあの子はどうするんだ!?」

「……っ!」


 その言葉に俺の奥歯はぎりっと軋んだ。

 だから俺は。


「……くそっ」


 そう吐き出してから建物の方へ走り始める。そこに追随する作家。

 また、最後にその背後から。


「助けてくださってありがとうございます、タクヤさん。またお会いしましょう」


 アリサさんの囁く声が耳に届いた。

 俺はそれに応えることもできないまま、足早にその場を去っていく。

エロ同人作家の「お嬢さん、エロ本落としましたよ?」というセリフは、アニメ「ドージンワーク」のオマージュです。


ご存知の方、いらっしゃるんでしょうか?(笑)

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