第54話
「は!?」
まだ、終わっていない。術者が倒れたというのに、機械仕掛けの神が止まっていない。これは。
「これは、どうして!?」
一度、発動してしまえば世界を無に帰すまで止まらない。つまり、その性質が故に。杖はルリから力を剥ぎ取りながら、今もなお強引に与えられた作業を続けているのだ。
「ルリ!!! 杖を離せ!!!」
「……」
反応がない。既に彼女は気を失っている。このままでは。
「おい! ルリ!!!」
このままではルリが。
「おい! おい! 頼む! 頼むから杖を離してくれ!!!」
ルリが死ぬ。そう思った、そのとき。
――らしくないな。
「……え?」
――ああ、らしくない。
「……何……だ?」
どこからか声が。
――そうでござるwww こういう状況を一発で覆すのがタクヤ殿でござろう?www
「……は!?」
それは仲間達の声。ここにはいない。なのに、確かに俺の元にまで。
――あはぁ。というかお前、守るものがある方が強くなるんだよな? だったらこれって、チャンスじゃねえか?
――仲間を守って、妹さんまで守る。うふふ、わくてかですね。
――う……う……!
――キャハハ。
「皆……」
力の封印が解けた故の奇跡か。あるいはただの幻聴か。いや、そんなのどちらでも構わない。何故なら、俺は思い出したから。
「ありがとう」
俺は決して一人じゃないという事実に。
「うおおおおおお!!!」
その事実が体を、魂を燃やす。マグマが噴出するように力が湧き上がる。それが荒れ狂う熱のうねりとなって、嵐のように駆け抜けて。
「うおおおおおお!!!」
俺は右手を杖に向けて体を構えた。すると、光が、雷撃が、辺りを、空間を軋ませて。とてつもない重力負荷。ねじれる断層。燃えたぎる灼熱。吹き抜ける風。透き通る流水。瞬く思考。その集点とは。
「うおおおおおお!!!」
混沌。この世界を構成する、最初の原点。
「混沌の証明おおおおおおお!!!」
世界を創造する原初の力。
「限界突破おおおおおお!!!」
歪み、その他一切を呑み込みながら、混沌が駆けた。目指すは天地創造、神の偉大な意志。それを打ち抜く想いの牙。
そして――。
「うおおおおおお!!!」
俺の、俺達の意志は。天地創造の杖を捉えた。そこからあふれる無尽のエネルギーを全て巻き込んで。
「うおおおおおお!!!」
それでもなお君臨する杖。そこに混沌を叩き込み続ける。
「タクヤ!!!」
そこでビッチが俺を。
彼女はこちらに向かって大きく手を振りながら。
「頑張って!!!」
「おう!!!」
そんなビッチに俺はとびっきり勝気な声を返す。そう、俺には守るべきものが、仲間が、ビッチが、妹がいるのだ。
「うおおおおおお!!!」
きゅごおおおおおお。杖が鳴いた。いや、啼き始めた。理解の及ばない超力場に圧せられ、圧倒的な物量に耐えきれず、ぶるぶると震え始める。そしてついに。
「うおおおおおお!!!」
ごがっ、がぐ。
「うおおおおおお!!!」
妙な音がして。
「うおおおおおお……うぅよっしゃああああああ!!!」
天地創造の杖が。
「ああああああ!!!」
ぷしゅるるる。その光を途絶えさせた。
「あああ……! はぁっ……はぁっ……うっ!」
杖は完全に沈黙。対する俺は枯渇。力を使い切ったせいで、意識も保てなくなり、そのまま落下してしまって。
「……ぐはあっ」
どすん。俺の体は真下の床に叩きつけられた。
「タクヤ!」
「……う、だ、大丈夫だ。それよりも……ルリは」
「あ、ルリちゃん! い、妹さんなんだよね!?」
ビッチはルリの元へ走って行って。
「だ、大丈夫そうだよ! 気絶してるみたいだけど!」
「……そうか」
そうして俺は手を支えにしながら、ゆっくりと立ち上がる。次いで、気を抜けば今にも倒れてしまいそうだが、そのままルリの元へと歩いて行った。
「……ルリ」
ルリはビッチの手に抱えられながら、それでも顔色は先刻よりもよく。
「……」
杖は確かにその機能を停止していた。
「……」
俺が何をやったのか。それはとても簡単なことで。
「……」
天地創造の杖の本来の力、機械仕掛けの神は世界を無に帰すまで止まることはない。それなら。
「……」
この世界を構成する要素。それを超える量の何かを、杖に撃ち込んでやればどうなるか。例えば俺の放った混沌のような。つまり。
「……」
つまり、過重労働。ちょっと前のルリと同じで、杖は自分の処理能力を超える圧倒的な情報量に耐えかねて、自ら機能を停止させたのだ。
「……う」
そのとき気を失っていたルリが声を。
「ルリ! 大丈夫か!?」
「……う、うぅ」
彼女は眉をしかめつつ、徐々に瞼を開いて。
「……お……にぃ……?」
けれどルリはそこではっ、と表情を変えると。逃げる小動物のようにビッチの手から離れ、壁際へと走った。
「お、おい。ルリ」
「……」
「なあ、ちょっと話を」
「……」
無言。彼女はこちらに背を向けたまま、一向に反応を見せず。一応、体は大丈夫そうだが、これでは会話もままならない。
「……」
「…………」
しかし、それでも俺は声を投げかけて。
「プリンのこと……怒ってるのか?」
「……」
「それなら謝る……俺が悪かった」
「……」
「さっき力が解放されたとき、お前の気持ちが伝わってきたんだ」
「……」
「お前があんなにプリンのことを大事にしているなんて、前は分からなかった」
「……」
「でも」
「……」
「でも、今なら分かるんだ。お前の感じた想いが」
「……」
「悔しかった。辛かった。その中でも何より嫌だったのは、自分の大切なものを粗末に扱われたこと」
「……」
「俺も自分の仲間がそんな扱いされたら怒るもんな」
「……」
「だから」
「……」
「だから、俺に謝らせてくれ……お前のプリンを馬鹿みたいに食っちゃって……」
「……」
「……本当にごめん」
「……」
それは俺の本心からの言葉だった。偽りなく、紛れもない、心からの謝罪。
カズマのシェルブリット、ご存知の方がいれば嬉しいです(^O^)/




