第52話
杖により空に創造した浮遊城。それは物理の基礎的概念を超越した奇跡の体現。
その中で佇む少女が一人。
「……」
ルリ。彼女はこの世界、万物の流転を把握することができていて。もちろんタクヤの動向も逐一掴み、それを確実に妨害できるよう色々なものを操作した。つもりだった。
「……」
しかし、実際には彼女のその努力は、タクヤの持つ運命力とでも呼べるような出鱈目な力によってことごとく退けられ、ついには最後の砦である秋葉原さえも取り返されてしまった。
「……う」
分からない。どうしてなのだろうか。何も、何も理解することができない。
「……うえ」
あの兄はいつだってめちゃくちゃで、へらへらとして。己を自制することもなく、酷く我儘に、自分のやりたいようにやっているだけ。少なくともルリにはそう見える。
「うえ……ひっぐ……うう」
それなのにどうして自分は兄に勝てないのだろうか。父親の部屋から天地創造の杖すら無断で持ち出して。そこまでしても兄の理不尽な力に覆される。
「……うう……ひっぐ」
もう嫌だ。もう諦めてしまおう。当然だ。真面目なルリは地道に努力して、父親のように立派な存在になることを目指して。だが、そんな彼女の積み重ねを兄は易々と飛び越えてしまう。それはとても悲しくて。もはや立ってさえいられなくて。けれど。
「……えっぐ……ひっ……むぐ」
彼女はあふれ出てくる涙を堪え、嗚咽を吐き出す口を強引に紡ぐ。何故なら。
「む……むぐっ……」
悔しかった。悲しかった。しかしそれでもなお、ルリにはやるべきことがあったから。
「……むっ……むぐっ」
しゃっくりのように跳ねる涙声を噛み殺す。
「……む」
それはプリンのため。頭の中に限定プリンの姿が浮かぶ。あんな下らない兄に食べられたプリンの無念を。
自分の世界征服が上手くいかなくてもいい。努力が踏みにじられてもかまわない。最初に彼女がどうしてこんなことを始めたのか。世界に秩序をもたらそうと、ついでに頑張ってしまったが。そう、この戦とは。元々は、兄にプリンの大事さを思い知らせるための戦いだったのだ。
「……」
ふつふつとルリの中に湧き上がる熱。いつの間にか涙は止まり、ふと気付くと彼女の心は強い使命感に支配されて。
「……」
絶対に分からせる。自分が受けた絶望を、プリンが受けた屈辱を。あの。あの、馬鹿丸出しの兄に。彼女は今一度、手に持つ天地創造の杖を強く握った。
そして――。
頑張れ! ルリ!




