第3話
「……嘘だろ?」
俺は自身の目を、今見ている光景を疑った。
「……」
その場所はまるで廃墟と。いや、あたかも大規模な空襲を受けたかのように建物が軒並み破壊されていて。もはやそこは俺の知っている聖地ではなく。
「え? え?」
隣にいる馬鹿女も目を白黒させていた。
「あの秋葉原が、まさかこんな……」
「あ、ここ秋葉原だったんだ! 何か想像と違ってたから分かんなかった」
「むごい、むごすぎる」
「へー、何か変な場所だねー。あ、メイド! メイドさんとかいるんでしょ、ここ?」
「これじゃアニメイトも、電気街も、SEGAも、とらのあなも……おそらくは」
「ねえねえ、タクヤ! コスプレ! コスプレのお店行こうよー。うち、メイドになってみたいー」
「……くそっ」
「ねぇ、タクヤったらー」
きっとルリの仕業だろう。徹底的に壊滅させられた心の故郷を前に俺ができることといえば、あふれてくる涙をこらえるのが精一杯で。
「……行くぞ」
「やったー! コスプレだ! メイドさんっ、メイドさんっ」
俺達は薄汚れた街を当てもなく歩き始めた。
「……」
「どんな服があるのかなー?」
しかし、それはまるで苦行のようで。
「……っ」
「ねぇ、タクヤはうちにどんな服着て欲しい?」
親しんだ場所の変わり果てた姿を見るのはとても辛く。
「……ぐ」
「あ、でもえっちぃのはだめだからね! うちって『けんぜん』だからー。タクヤ、『けんぜん』って知ってる?」
噛みしめた奥歯がぎりぎりと音を鳴らして。
「……う」
「うちみたいにしっかりしてるってことなんだよー。賢いでしょ? えへへー、前にお母さんに教えてもらったんだー」
そのとき視界の中。倒壊したビルの陰で何かが動くのが見えた。
「ん? あそこで、今……?」
「え? もう着いちゃったの? お財布、お財布」
「気の……せいか?」
それはあるいは見間違いと言ってもいいような微細な変化。けれど、どういう訳か気に留まる。無視できない何かがあそこにあるような。
俺はまるで見えない力に揺り動かされるように走り出した。
「え? え? 走るの?」
一瞬遅れてビッチも、かつかつとヒールの音を響かせながらついてくる。
辿り着くビルの角。
しかし。
「……何もない?」
そこにはただ瓦礫とコンクリートの平たい道があるだけで。
「ちょ、ちょっとー早いよー。うち、ヒールで大変なんだよ? そいういう女の子に優しくできない男は嫌われちゃうんだよー?」
「いや……違う」
目線を上げたその先。また、何かが動いた。それは一度だけこちらに姿を見せ、すぐに隠れるように消える。
「……」
俺はその誘いに乗ることにした。
「え? またなのー? もう!」
ビッチが頬を膨らませながらあとを追ってくる。先ほどから無視されていることには気付いていないご様子で。全く、いい女だ。
そして。
「なるほどな」
前を行く影とのやりとりが数回続いたあと、俺達の目の前には一つの建物が。
「うー疲れたよー、おんぶー」
ビルの残骸が辺りに広がる中、偶然にもそれは瓦礫に包まれるように佇んでいて。ぱっと見るだけなら分からないだろうが、よく観察するとその構造はほとんど破壊されていないことが分かる。おそらく内部も綺麗なものだろう。
「……中に、いるんだな?」
俺は建物の扉へ視線を飛ばした。僅かに開いている。だからそこへ近付き、L字型ののぶを掴んで。
だが。
「ぶー! おんぶー!」
うしろを振り向くと、ビッチはついてきておらず。
「ぶー! ぶー!」
それどころか、駄々をこねる子どものように地べたに座り込んでしまっていた。
だから。
「……しょうがねえな」
俺は不本意ながら彼女の前で静かにかがむ。
「わぁ! やったー! タクヤだーいすきー!」
すると先刻の疲れはどこへいってしまったんだか、ビッチはしっかりと俺の背にしがみついて。
「ふわふわー、ふわふわー」
「行くぞ」
そうして、俺達は建物へと入って行く。
ふわふわ?




