第44話
そして時は遡る。
エロ同人作家はタクヤへの送信済みメールを提示して。
「これで……ここにいる彼らのことは見逃してくれるんだな?」
「……」
こくり。ルリは頷いた。次いで、スーツの彼らが拘束していた作家の仲間達を解放していく。その様を見て作家は。
「だが、どうしてタクヤなんだ? あいつは確かにふと常人ではない力を発揮することがある。しかしそんな連中は他にも山ほどいるはずだ、嫌われ者の中にはな。それなのにどうして、どうして君はタクヤを――」
「……タクヤは私の兄」
初夏に響く風鈴のような涼やかな声。彼女はここに来て初めてまともに口を開いた。
「……な、それは」
「……」
ルリは無言で、何も答えない。
「そういえば……この世界がおかしくなる直前。テレビで妙なものが流れたが、あれは――」
作家の脳裏に呼び起されるテロップ。思えばあれには、復讐だとか、反省だとか、兄だとか意味不明な言葉が書かれていたような。
「……君はタクヤの……妹?」
「……」
ルリは小さく頷く。また彼女は作家を拘束していた縄を解こうと手を伸ばして。
「あ、いやこれは解かなくていい」
「……?」
「ふふ。私は今度、ヒロインを助けに来る王子様という展開の作品を描こうと思っている。無論、中身は卑猥極まるもので。だから、このシチュエーションはその参考になると思ってな」
その主張、彼女には理解不能だった。だから。
「……」
じとりとした目線。それはルリがよくタクヤを見るときにする表情。彼女は思ったことだろう、「こいつも兄と同類か」と。
「しかし君はタクヤと同じで奇妙な格好もしているが、見る限りでは普通の人間だ。そんな君がいったいどうやって世界を征服したのだ?」
「……」
ルリはその問いには答えず、スーツの人間を引きつれて部屋を出て行く。それはとても淡々としていて、無駄や無意味とは酷くかけ離れているような。
「何だ、つれないな」
作家はそんな彼女の背に、少し批判めいたことを投げかけて。しかしそのとき。
「……む?」
ばん、と音を立てて作家が持っていた携帯電話が蒸発した。自分に怪我はないが、どういう訳かそれはまるで最初から存在しなかったかのように目の前で姿を消す。
「……なっ」
作家が驚いて視線を過敏に動かすと、ルリが扉の前でこちらを振り返っていて。
「……」
彼女は持っていた杖をこちらに向けていた。つまり、原理は分からないがおそらくは彼女がこの事態を起こした原因で。
「……なるほどな」
内に生まれた驚嘆を隠しつつ作家は呟く。そんな中ルリは、用は済んだとても言わんばかりに早々に部屋をあとにした。
「……」
一人残された作家。その視線は、現在タクヤがいるであろうハローワークへ伸びて。
「タクヤよ。兄妹は何者なのだ……?」
そう疑問を投げかける。




