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第43話

「ついに……やって来たでござるなwww」

「ああ」


 俺は顎を上げる。前方には崩壊した廃墟の群れ、電脳都市秋葉原。嫌われ者おれたち聖域サンクチュアリ


「気を付けろ。ここからはいつ敵に襲われてもおかしくない」


 ロリコンは周りを見回しながら注意を呼び掛けた。


「……」


 この大所帯。もし今、スーツの連中と蜂合わすことになったら、おそらくただでは済まない。きっとそれは、血で血を洗うような大きな戦いになるだろう。しかし。


「皆、いつでも戦える準備だけはしておいてくれ」

「あはぁ。俺の右腕よ……時がきたぞ……」

「……う……う!」


 邪気眼もコミュ障も。


「やってやる……っ!」

「ああ、任せとけ!」

「あのときの無念を晴らしてやる!」


 また、あとに続く仲間達も。それぞれの瞳に強い意志を宿して、秋葉原を見据えている。愛おしい故郷を取り戻すために。だからその歩みはぶれず、止まらず。


「……」


 だが、それよりもまず今は、一つ疑問に思うことがあって。


「……って何で、メンヘラはさっきから俺にくっついて来るんだ?」

「キャハハ?」


 俺の左腕を両手で抱えながら、小首を傾げるメンヘラ。全く理由が分からないのだが、彼女は少し前からずっと俺にまとわりついてきている。


「ドゥフフwww 普通の乙女の心すら拙者達には分からぬものwww それがメンヘラ殿なら、もはやその行動原理を想像することすら無意味でござるwww」


 キモオタは他人事のように笑って。まあ、紛れもなく他人事だが。


「むー! うちもー!」


 その内、余った腕にビッチも絡んで来るようになった。とても歩きにくい。


「おい、ひっつくなよ」

「だってー! メンヘラちゃんもやってるもん!」

「な、いやこいつは下手なことすると、また暴走するかもしれないからやらせてるだけだ」

「そんなのずるいー! うちだって暴走するもん!」

「おいおい……」


 そんなこんなで。


「……」


 俺達はついに電気街口に辿りつく。


「これは、どういうことでござろうか?www」

「誰も……いない?」

「俺の邪気眼が……反応しない……」

「……え……あ」


 けれど、どういう訳かそこに敵の姿はない。もぬけの殻というのか、前に見たスーツ姿の連中はただの一人も見つからなかった。


「おい、これはどういうことなんだ……?」

「も、もしかして俺達にびびって奴ら逃げたんじゃ……」

「馬鹿、そんな訳ねえだろ? だが確かにおかしいな、この状況は……」


 仲間達の間にもざわざわとした動揺が走る。何しろ町を散策している内に、ラジオ会館にもドンキホーテにもゲーマーズにもメロンブックスにもアニメイトにも――もちろん全て倒壊していはいるが―――敵と一度も衝突することなく来てしまえたのだ。


「……」


 これはもはや異端で。この秋葉原という町は敵側と俺達、お互いにとって最重要地点。敵側がここを死守している限り、スーツの連中に負けはない。しかし、同時にそれはこの場所さえ取り返すことができれば、嫌われ者おれたちの勝利であると言える。


 故に鬼門。この場所を最後に手にするのは敵と俺達、果たしてどちらの鬼か。まさに天下分け目の関ヶ原。だが。


「やっぱり誰もいないぞ……」

「ああ、もしかして……もしかするかもな」

「俺達は、取り戻したのか……ここを?」


 だが、誰もそこには。秋葉原は、建物が破壊されていることを除けば確かに俺達の慣れ親しんだ町で。


「キモオタ、ロリコン、邪気眼、コミュ障。皆を頼む」

「む?www どこへ行くでござるか?www」

「行かなきゃいけない場所がある」

「おい、それなら俺達も一緒に――」

「いや、お前らは、万が一敵が現れたときに備えて周りを警戒していてくれ」

「あはぁ、何か当てがあるのか?」

「ああ。あそこに行けば、これがどんな状況なのか、もしかすると分かるかもしれない」

「え……お……」

「心配してくれてありがとうな、コミュ障。大丈夫だ、すぐに戻って来るさ」


 そう告げて俺は歩きだす。「うちもー!」とビッチは言ったが、「あとでちゃんと遊んでやるから」と説得して。メンヘラは意志の疎通が難しかったので、試しにビッチに押しつけてみると以外にもべったり引っ付いた。全く、本当に理解の及ばない存在だ。


「……」


 ここからあの場所へはそう遠くない。歩いていれば、ものの数分で到着するだろう。


「……」


 仲間達の間には気付いている奴もいた。この異常事態のもう一つの側面。秋葉原に敵がいないということ以外に、事前の情報と大きくかけ離れていること。


「……」


 それは味方もいないという事実。エロ同人作家からの連絡では、確かに「秋葉原に仲間が集まっている」と、「敵と戦うための部隊も組織してある」と。それなのにこの場所には、その仲間の姿すら。


「……」


 いいや、分かっている。俺は、それを分かってここへ。


「……」


 ポシェットから取り出した携帯電話を握りしめた。もしものことがあれば、すぐに仲間に連絡を取れるよう準備して。あのメンバーは優秀だ。何かあってもきっとビッチを連れて、ここを脱出することができるだろう。


「……」


 そしてついに扉の前に俺は立った。懐かしい光景。思えば俺はここで誓ったのだ、この理不尽な世界征服に抵抗する、と。


「……」


 ごくり。喉がなる。俺は扉に手をかけた。そこには――。


「……っ」

「……」


 エロ同人作家が。部屋の柱に縛られ、ぐったりと。


「おい……っ! 作家……っ!」

「……」


 肩を揺らしても作家は目を開かない。まさか、そんなまさか。


「おい……っ! 起きろよ! 嘘だろ……っ!?」

「……ぅ」


 僅かな反応。よかった、本当に。作家は気を失っていたようで。


「作家! 大丈夫か!?」

「…………タクヤ……か?」

「そうだ! お前、いったい何が!?」

「……どうして……来てしまったんだ」


 作家は力なく、口の隙間からか細い声を漏らして。


「メールに……書いただろう……?」

「だって、お前!」

「……これは……罠だ、と」

「……っ」


 俺は作家から受信したメールのことを思い出す。やはり、やはりあれは俺の思い過ごしじゃなく。


>こ の度は、打倒ハロー

>レ アなケースだが、

>は 、急速に仲間達が

>わ たったためだろう。

>な 。初めは、「革命」

>だ から、タクヤ達も


「でも、だったらお前が連中に捕まってるってことだから……っ!」

「……『誰もお前なんか守らねえよ』と、言っただろう?」

「……! それは、単に話の流れで!」


 作家の言葉を、俺は慌てて否定した。そんな様子を見てこいつは。


「ふふ……冗談だよ。まあ、助けに来てしまったものはしょうがない。例を言う、ありがとう」


 かなり衰弱しているはずなのに、そうやって笑って見せて。


「馬鹿、そんな冗談言ってる場合かよ……」


 けれど、少しだけそれに励まさされる。俺は薄く苦笑いを浮かべて、作家を縛っていた縄を解いた。


「それでお前……どうしてこんな――」


 そのとき。


「あ」


 プルルルル。ポシェットの中の携帯電話が鳴る。


「忘れてた!」


 急いで音源を取り出し、手の中の画面を確認。そこには「キモオタ」の文字。


「もしもし! キモオタか!?」

『タクヤ殿か!?www 早く戻って来るでござる!www 敵が、敵がたくさん……っ!www』

「……くそっ!」

「行け」


 全てを察した作家が言った。


「……! でも、お前、そんな状態なのに!?」

「私のことは気にするな。少しここで休む」

「けど……っ!」

「あの子を守るんだろう、お前は?」


 作家は俺の目を真っ直ぐに見つめる。


「だったら、迷うな。死ぬ気でやれ」

「……」


 だから俺は。


「……ありがとう」

「ふん」


 作家をそこに残して、ビッチ達の元へと向かった。

メンヘラは、暴走を止めるため抱きついたときにフラグが立ちました。

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