第33話
ロリコンはそうして彼から離れる。次いでタクヤは近くに転がっていたボールを再び握り、オリトへと向き直り。
「待たせたな」
「……青春って奴か。暑苦しいから近寄るなよ?」
配慮のない暴言。されど、オリトの手にもまた熱く、力強くバットが握り込まれていて。
そして。
「いくぞ?」
「いつでもどうぞ」
二つの巨大な熱がうねりを上げた。
「うおおおおおお!!!」
「ぐぬりゃあああ!!!」
ボールは残り20球。ここで全てが決まる最後の闘争。
「うおおおおおお!!!」
「ぐぬりゃあああ!!!」
その空間を射抜けばタクヤの勝ち。最後まで守り通せばオリトの勝ち。
「うおおおおおお!!!」
「ぐぬりゃあああ!!!」
既に休息は十分にもたらされた。あとは互いの意地がどこまでもつかという勝負。
「うおおおおおお!!!」
「ぐぬりゃあああ!!!」
体勢は互角。また、更に勢いが限りを知らず高まり続ける。
「うおおおおおお!!!」
「ぐぬりゃあああ!!!」
けれど。
――速度が上がっているな、俺の腕をしびれさせるほど。だが。
「うおおおおおお!!!」
「ぐぬりゃあああ!!!」
――どうやらさっきより威力が甘いみたいだぜ。
オリトの胸中に余裕あり。どういう訳か、タクヤの球に球威がない。
「うおおおおおお!!!」
「ぐぬりゃあああ!!!」
――奴の球に俺の体が慣れてきた、って訳でもなさそうだ。ということは。
戦いの最中、オリトはタクヤの目を見据える。
「うおおおおおお!!!」
「ぐぬりゃあああ!!!」
――ほんと甘ちゃんだな。仲間の死をまだ引きずってるって訳か。
それは直感にも似た感情。オリトはタクヤの瞳の中に、悲哀の感情を見出した。
「うおおおおおお!!!」
「ぐぬりゃあああ!!!」
――確かに、スピードはすげえ。しかし。
「うおおおおおお!!!」
「ぐぬりゃあああ!!!」
――それじゃ、俺はごまかせねえぜ?
残りは十球。泣いても笑ってもこれで終わり。そこでオリトは確信する。
――この勝負、俺の勝ちだ!
そのときだった。
「ドゥフフwww」
渾身の力でボールを投げようとしたタクヤの耳に聞き覚えのある笑い声が届く。
「……は!?」
だから、タクヤはつい投球を中断してしまって。彼はそのまま声のする方向へと翻り。
「……き、キモオタ?」
「フォカヌプゥwww いったいどうしたでござる?www そんな幽霊でも見たような顔をしてwww」
その事態には他の仲間も同様に、間の抜けた表情になる。
「お前……生きてたのか?」
「当たり前でござるwww」
「だ、だってお前のブログの更新が止まって……」
「ああ、あのときはかなり追い詰められてござったからwww でも、今はちゃんと更新しておるでござるよwww」
「……あ……う」
けれど彼らの誰よりも。
「キモオタ!!!」
「ちょwww タクヤ殿www そんなにしたら苦しいでござるよwww」
タクヤはキモオタに走り寄り、力いっぱい抱きしめた。
けれど。
「……どういうことだ?」
その場には彼の復活を喜べない立場の者もいて。
「む?www 誰でござるか?www」
「ああ、あいつはこの地下の奴らのリーダーだ」
キモオタの質問に、体を離しつつタクヤが答える。
「なるほどwww では隊長殿でござるなwww して、拙者に何か訊きたいことでも?www」
「俺はさっきお前を倒したという連絡を仲間から聞いた」
「仲間www アオバ氏のことでござるなwww」
「……そうだ。だが、お前はここにいる。ということは、アオバは――」
「アオバ氏は拙者が倒したでござるwww コポォwwww」
「……な! そんなまさか、あいつが!」
うろたえるオリト。しかしそんな彼をキモオタは無視して。
「それよりもwww」
タクヤに向き直った。
「この様はいったい何の冗談でござるか?www タクヤ殿www」
「……な!?」
「いくらなんでもへたれ過ぎでござるwww」
「お、お前までそんなことを言うのか……」
タクヤはへなへなと肩を落とす。だが、キモオタの言葉は止まない。
「状況から察するにタクヤ殿は奴と野球で勝負でもしておったのでござろう?www おそらくは100球投げて、1球でも相手からストライクを取れば勝ちというようなwww」
「そ、そうだけど」
「では、改めて訊くwww 今、拙者が来なければタクヤ殿は負けていたwww そうではござらんか?www」
「……」
「図星、でござるなwww」
「な、何で、そんなにするどいんだよ……お前」
口をすぼめてふてくされるタクヤ。その事実には投げている彼本人が一番感じていたことで。
「それで?www」
「は?」
「それで球はあと何球残っているのかと訊いておるのでござるwww」
「あ、ああ。あとちょうど10球かな」
「そうでござるかwww ならwww」
キモオタはそこでどこか秘密めいた笑みを浮かべる。
「その中の9球はもはや必要ないwww あと1球で勝負するでござるwww」
「は!? お前、何言って……」
その提案にはさすがのタクヤも面喰らってしまった。というか意味不明。まるで理屈の通らなぬ話。
けれど。
「タクヤ殿www らしくないでござるよ?www」
キモオタは笑う。
「え?」
「拙者が知っているタクヤ殿はだらだらとした戦いなどしないwww 拙者の知るタクヤ殿はいつだって、どんな困難な状況だとしても、ただの一撃で粉砕してくれたwww だから、拙者はタクヤ殿に憧れwww そして仲間として隣に立ったwww」
「……」
その言葉で、タクヤはキモオタと初めて出会ったときのことを思い出した。そう、確かあれは街中でヤンキーに絡まれているキモオタを売れ残り股間砲で助けて。
だから。
次話、「激突! ハローワーク編!」 決着!!!




