第32話
「その男の言う通りだ、タクヤ。お前はいったい何をしている?」
部屋の入り口から声が。
「……ロリ、コン?」
タキシードを着たオールバックの人影、ロリコンが。
また、更に。
「ああ、俺の右腕が……右腕が……まるでうずかないな。今のお前の姿には」
怪我や病気を患っている訳でもない眼帯と包帯、邪気眼も。
「……う……あ」
喋らないショタ、コミュ障さえ。
「邪気眼、コミュ障も……」
タクヤはか細い声で、だがそこには感涙の趣が。
「無事だった……のか」
「ああ、無事だ。しかしそんなことはどうでもいい!」
髪をかき上げるロリコン。次いで彼は。
「その情けない様は何だ!? タクヤ!」
「……」
「俺達はお前に膝をつかせるために道を譲ったのではないぞ! 俺達はお前に勝利を諦めさせるために敵と戦った訳ではないぞ!」
「……」
「何があったか知らないが! それをお前は!」
「キモオタが……」
そこで弱々しいタクヤの声。
「何だ? キモオタがどうしたというんだ!?」
「キモオタの気配が……消えたんだ」
「……」
ロリコンは眉間にしわを寄せる。
「……おい、邪気眼!」
「待ってろ。俺の邪気眼よ…………む、マジだ。この地下に来てからもずっと10分おきに更新し続けられていたあいつのブログが停止している」
「……」
その事実は彼らに衝撃をもたらした。けれど、その言葉に一番反応したのは。
「……ああ、うあ」
他ならぬタクヤで。彼は。
「ああああああ……」
脳内に悲痛と後悔が。深く沈む陰鬱が、めぐるようにうねるように心を占拠して。
しかし。
「……」
がつん。空気に何かがぶつかり合うような鈍い音が響く。
「ぐがっ……」
タクヤがロリコンに殴られたのだ。
「う……お前、何を……?」
「それは俺のセリフだ」
彼はタクヤのむなぐらをぐいと掴んで引き寄せた。
「お前は何をしている?」
「な……」
「答えろ、この何弱者! キモオタが死んで、それでお前は何をしている!?」
「……」
言っている意味がまるでタクヤには理解できす。だが、そんな彼を尻目にロリコンは声を荒げた。
「キモオタが死んで悲しいか!? 苦しいか!? だから膝をつくの!か? だから諦めるのか!?」
「……それは」
「お前、俺達を見くびってくれるなよ? キモオタが俺達を先に行かせたとき、あいつが自らの死を覚悟していなかったとお前は思っているのか!?」
「……っ」
「あいつの目を見ればそんなもの分かる! 仲間なら、理解できるはずだ!」
「で、でもあいつは……! 俺はあいつのことを守ってやれなかった……っ。絶対助けに行くって言ったのに……俺は」
「……うぬぼれるなよ、貴様?」
「え?」
「誰がお前に守って欲しいと言った? 誰がお前に助けてくれとすがった?」
「……」
「キモオタは一度たりともそんなことは言わなかった」
「……でも、俺は」
「ふてくされるのも大概にしろ、この大馬鹿野郎!」
がつん。もう一発。
「ぐはっ……お前、また!」
「分からんなら何度でも殴ってやる。だがな、よく聞けよ? キモオタは、あいつは……何と言った?」
「……?」
「キモオタが体を張って門番を止めたたときだ! あいつは何と言った!?」
「……」
ロリコンに恫喝され、タクヤは考える。キモオタは、あのとき。あの極限の最中、何を。
そして。
「……先に行け?」
「そうだ。奴は先に行けと俺達に言った。では、奴は何を求めていた? お前に何をして欲しいと願っていたのだ?」
「……それは」
「それは決して大義を果たさず、自分を助けに戻って来ることではないはずだぞ!」
「……」
そこでタクヤはようやく思い出す。自分が何故この地下までやって来たのか。何をしにこうして戦っていたのかを。
それは。
「……地下に封じられた魔物を解放して、そしてハローワークの仲間達を救うこと」
「……そうだ。それがあいつの意志だ」
するとロリコンは優しく笑った。
「お前……」
またタクヤは彼の目に薄く涙が光るのが確かに見えて。
だから。
「……悪い」
「さっさと気付け、この馬鹿ものが」
ロリコンでさえなければ。




