第30話
ハローワーク地下、最初の部屋。
「結局、最後まで秘策は分からなかったな」
アオバは竹刀を腰に収めながらため息をつく。
「……」
振り返ると、そこには床に倒れ伏したキモオタの姿。また、彼の身に着ける衣服は交通事故にあったかのようにずたずたで。隙間から見える皮膚は全て青く、黒く滲んでいた。
「……ここまでの痛みを受けて、どうして最後まで私に対抗し得る手段を隠していたのか、まるで理解ができないな、だが――」
もはやぴくりとも動かなくなったキモオタに向けて、アオバは一礼する。
「だが、お前は戦いから決して背を背けなかった。どれだけ傷付けられようとも、だ。それは感服に値する」
そして彼女は懐から無線機を取り出して。
「オリトか?」
『……アオバ、か?』
「ああ、こちらは終わった。少し時間はかかったが」
『……そうか』
「では、切るぞ」
『ちょっと待て。一つ聞きたいことがある』
「何だ?」
『お前が倒した相手はどんな外見――いや、他の奴らから何て呼ばれていたか分かるか?』
「……?」
首を傾げるアオバ。
「どうした? そんなことを聞いて何になる?」
奇妙だ。彼女はそう思った。普段なら敵の情報どころか、自分の仲間にさえ関心がないオリトがどうして。
『いいから、答えてくれ。覚えているか?』
「……」
アオバは改めて、そこに倒れた男を見つめて。
「……確か、『キモオタ』と」
『そうか。なるほどな』
「……?」
『いや、こっちの話だ』
「……では、切るぞ」
『ああ』
彼女は無線機を切った。
そのとき。
「……!」
ぞくり。嫌な感覚が背筋を撫でる。
「……なっ!」
アオバの対応は迅速だった。一足飛びでその場を離れ、空宙で体を翻し、竹刀を抜きながら体勢を前方へ。
「……!」
彼女の顔は引きつる。何故ならそこには、既に意識を途絶えたはずのキモオタが。
しかし。
「あーあ。こっちの姿になるの、ほんとは嫌だったんだけどな。ダサいし、美学の欠片もないし。ま、でも仕方ないっか」
アオバを何より驚かせたのはその外見。それまでとは全く異質、もはや変化。服を着替えたとかそういう類のものではなく、それは。
「お前……その姿は……?」
「え? アオバちゃんがずっと知りたがってたものだよ?」
「……?」
「ほら、私を倒せるのがどうとかって」
「……! そうか……なるほどな。それがお前の秘策か。ならば……っ!」
「あはは」
「いざ、尋常に勝負!」
そして。
果たして、キモオタは〝何〟になったのでしょうか?




