第28話
「お前の仲間、たぶん全員死んだぞ?」
全力投球、五十球目。タクヤの耳にそんな言葉が届く。
「……は?」
「いや、だからお前の仲間死んだんだって」
「何を……言って……」
「さっきから俺がこの無線機を使っていたのは知ってるだろ?」
「……」
知っている。タクヤは必至でボールを投げているのに、オリトは馬鹿にするように片手でバットを持ち、余った方の手で無線機を。それでも打たれた。
「連絡が来た。こっちの仲間は、お前が連れて来た奴らを倒したそうだ。一人からはまだ連絡が来てないが。ま、じきに来るだろう」
「……何だよそれ、俺が信じるとでも?」
「信じる信じないはお前次第だ。俺は、ただ事実を言っているだけ」
「……『死んだ』って、どういうことだ?」
「ああ、それか? ま、俺が一応この地下にいる奴らの隊長なんだが。今回の命令はただ『侵入者の中から適当に一人ずつ選んで遊べ』って言っただけで、相手の生死に関しては特に指示していないんだよ。だから」
「だから?」
「別に敢えて『殺せ』とも言ってないが、あいつらはそういうときに手加減はしない。だから言ったんだよ、『たぶん死んだ』ってな」
「……まさか」
「まさか?」
オリトは半分笑いながら訊き返す。
「お前、もしかしてここで負けてもただ上の施設に戻されるだけだと考えていたのか?」
「……」
「だとしたら、チームのリーダーとしちゃ失格だな。危険認識が甘過ぎる。奴らもかわいそうだ。お前みたいなぐずのリーダーを持って、な」
「何を……」
「お前が奴らを殺したって言っているんだよ」
「……」
「そうだろ? 例えば、お前はこの地下に入ってきたときにメンバーを分散せず、全員でこっち側を1人ずつ倒すって作戦を取ることもできた。そうすればあるいはお前らは犠牲者を出さなくても済んだかもしれないし、同じ場所に固まるなら撤退の判断も容易だっただろう。だが、お前は結局そうせず、連絡も取れないこの状況下でメンバーを徒に分散して、結果的に仲間を死に至らしめた」
「……止めろ」
「お前はここに攻めてきたとき本当に仲間のことを考えていたか?」
「……止めろ」
「もしかするとお前は自分のことしか。いや、それは自分の大切なもののために仲間を犠牲にした、って面だ」
「……止めろ」
「そうか、女でもいたか。そいつのためにって頭ん中で自分勝手な言い訳並べて、仲間を見捨てたって訳か。だが、それに付き合わされる仲間はとんだ迷惑だぜ。何故なら、信頼して先頭切らせた奴が実は仲間のことなんか何にも考えちゃいない――」
「……止めてくれ!」
「――ただの屑野郎なんだからな」
タクヤは崩れ落ちた。それは体に溜まる極度の疲労のためか、あるいは。
「……ふん」
そんな彼を見て、オリトは鼻息を吐く。完全に相手に失望した目、もはや戦うに値しないと切り捨てる目。
――っと、こんな所だろ。
しかしそれは本心では。
――こういう手合いは無駄に仲間意識が強いからな。そこをついてやれば何もしなくても勝手に崩れる。所詮は年季が違うんだよ、年季が。
「……」
オリトは自分の掌を見つめた。
「……」
――ただ、ボールの威力はまずまずだな。
それは自分の意志に背いて僅かに震えている。タクヤの全力の連続投球を打ち続けたことへの疲労は、オリトの体も確かに蝕んでいて。
――しかし、精神力はお笑い草。何が仲間だ。あんな奴ら、いなくなってもいくらでも替えはきく。そんな瑣末なことにこだわっている時点で俺には勝てないんだよ。
それでもオリトの表情に焦りはない。あとはたった五十球を完璧に処理すればいいだけ、それも今の心の折れたタクヤでは例え投球できたとしても大した威力は出ないだろう。
「……」
と、考えていた。オリトだけは。
だが。
「……う」
「は? 何か言ったか?」
「……う」
「何だよ、聞こえねえよ。話したいことがあるならはっきり言ってもわらないとなあ」
「……う」
それはもしかすると間違いだったかもしれない。彼は、オリトは。
「泣き言か? それはお前の仲間の方が漏らしたかっただろうな」
「……う」
明らかに過小評価していた、タクヤのことを。目の前にいる存在が秘めている力を見誤った、致命的に。
何故なら。




