第23話
「シュッ」
ザシュ。ボールが弧を描きリングの中へ。
「地獄の破壊神が一撃……氷炎弾……っ!」
ザシュ。同じくリングの中心に吸い込まれた。
「……あの、その言葉を言わないとボールを投げられないんですか?」
「っふ……邪気眼を持たぬ者には分からんだろう……ぐあっ、静まれ……まだ……まだ、そのときではないのだっ……! 俺の右腕よ……っ!」
「はぁ……そうですか」
ウキョウは心底呆れたようにため息をつく。
「シュッ」
ザシュ。淀みないフォームから放たれたボールは何の不安もなく網を揺らし。
「死の世界から招致されし淫闇なる火球よ……約束された勝利を掴み取れ……ヘルズボルケイノシュート……っ! 」
ザシュ。歪みだらけのシュートスタイル。ボールもまるで戸惑っているように宙を右往左往して、しかし悪夢のようにリングへ届いた。
「よ、よくそんな投げ方でボールが入りますね……」
次いでウキョウは顔を引きつらせる。だが、それも当然で。
「ひひひ……魔剣よ……血に飢えているか? ああ、早くお前を美しい紅蓮に染め上げたい……」
奇天烈な動作でボールを放ったかと思うと、邪気眼はどこからか取り出したカッターの刃を弄ぶように丁寧に舐めていてから。
「……」
――何なのですか、この方は……。
口には出さなかった。出さなかったが、ウキョウは邪気眼に対して底知れぬ不安のような感情を抱いていて。
「シュっ」
けれどそれでも彼の放つボールの球筋は少しもぶれない。その事実は彼のバスケットボールという競技における著しい練度を証明している。
「……へへ。久しぶりに外に出られた。この男は意志が強くて困る」
対する邪気眼のボールは嘘のように奇怪な軌跡を描いた。投げるフォームもあまりに斬新過ぎて目を覆うようで。
しかし。
「ああ、久々のゴールだ……っ!」
ザシュ。ボールは魅入られたかのように最後にはきちんとリングに収まる。
「……はぁ」
この広い体育館のような空間。二人は互いにシュートを打ち合っていた。
それはウキョウが提示した勝負で。交互にボールを投げ、シュートを外した方が負けという趣旨の。もし彼が敗北すれば次の部屋に行くためのシリアルコードを邪気眼に示さなくてはならない。
「シュッ」
すぐに終わる。ウキョウは最初、そんなことを思っていた。それほど邪気眼の見せたシュートフォームはいびつで。ゴールに入ったのもただの偶然だ、と。
だが。
「並行世界の末裔……世界の紡ぎ手よ。我の眼前に立ちはだかる怨敵を避け得ぬ境地へといざなえ……夢の楽園……っ!」
現在、二人のシュート数は既に百を超え。
「……」
――これは意外にも長期戦になりそうですね。まぁ。
「シュッ」
――負ける気は全くしませんが。
ウキョウの動作には疲労も乱れも感じられなかった。また、彼は既にオリトにも「余裕です」と連絡を、それは彼の持つ絶対の自信から。
けれどそのとき。
「……エロエロ……ウキョウ」
ぼそり。邪気眼の呟き。
「!?」
ボールの軌道が僅かにずれる。
「……な!」
ザシュ。ただ、それはほんの微差だったためゴールには影響なく。ボールはリングをくぐり、とんとーんと床を叩いた。
しかし。
「……」
ウキョウの心はぐらぐらと音を立てていて。
「あはぁ?」
振り向くと舌なめずりをしながら獲物を見つめる肉食獣の笑みが。
「……っ」
ウキョウの脳がしびれ始める。
それを見て邪気眼は更に狡猾に口角を吊り上げて。
「見つけたぁ……見つけたぁ……」
「……なっ!」
――その目で、そんな目で!
「あはぁ」
「ぐっ」
――僕を見るな!
心が悲鳴を。揺さぶられる、揺さぶられる。封印していた何かが引きずり出される。あのときの記憶を。あのときの過去を。
「狂気の氷結……エターナルフォースブリザード(相手は死ぬ)……っ!」
邪気眼はボールを放ち、それはリングを。
「あ、あなたは……!」
「さあ……次は貴様の五行勳を見せる番だ……」
「……っ」
差された指はウキョウの持つボールに向かい。発言は意味不明だが、それはおそらく彼のシュートを強要していて。
「い、言われなくても……」
彼はボールを顔の上、リングを見据えつつ、しなやかに構えた。
だが。
「あはぁ、人間とは憂きものだなあ。誰しも忘れたい記憶に縛られて……なあ、エロエロウキョウ?」
「……っ」
ボールが放たれる前にウキョウの膝が、がくりと。
次いで。
「お前っ!」
「どうしたあ? 早くその呪われし黒球をゴール(ヘブンズ・ゲート)に投げ入れろ」
「シュ、シュートを邪魔するのは止めてもらいたい!」
「あはぁ?」
ウキョウの抗議にも邪気眼はただ笑うだけ。
「……っぐ」
埒が明かない。再び、彼はシュートモーションへ。速く、邪気眼が何かを言うよりも速く。そうすればあるいは。
けれど。
「中学生なら……やって良いことと悪いことの区別ぐらいはつけておかないとなあ」
間に合わない。
「……っ」
ボールが手から離れる寸で。ぎりぎりのさなか、ウキョウは何とかそのぶれたシュートを放たず留めた。また、彼は即座に邪気眼の方を向き。
「あ、あなたは何が! 何が言いたいんですか!?」
「あはぁ?」
笑う邪気眼。
そして。
「お前の隠したい黒歴史、見つけるのは少し骨が折れたよ」
「あなた何を言って!? ぼ、僕はスポーツ特待生ですよ!? 僕の経歴には隠したいことなど一つも……!」
「あはぁ? お前がスポーツ特待生になったのは高校生の頃だろう? それ以前は、お前は俺達と何も変わらないただの凡人だあ」
「……っ」
「しかし、恐れ入ったよ。まさか、嫌われ者を常に馬鹿にしてきた天下のスポーツ特待生殿にそんな趣味があっただなんて」
「しゅ、趣味!? い、意味が分かりません!」
明らかな同様。今のウキョウには先ほどまでの冷静さは微塵もなかった。
だから。
「女子生徒の体操服連続紛失事件」
「……っ!」
だからついに邪気眼のその発言で、ウキョウの仮面は剥げ落ちる。
「……う、うう」
次いで彼の脳裏に蘇る記憶。あれは。
氷炎弾や、ドラッグ・デストロイ・デスマーチはかの有名な「邪気眼まとめwiki」で実際に存在する技です。
他の人間の黒歴史に興味ある方は、是非一度検索を!




