第22話
「素晴らしい!!!」
「はうんっ!」
怒声、次いで奇声。
振り向くとそこにはぼろぼろになったロリコンが、腕を広げて立っていて。
『どうした? 何かあったのか?』
「……なんでもないのら。とどめを刺し損ねていただけなのら」
『ん? それはどういう……ブツ』
イチカは無線機をポケットに仕舞いながら向き直る。
「まだ、やられ足りないのら?」
「ああ、まだだ! まだ足りない! いや、むしろもっとだ!」
ロリコンは拳を天に突き上げた。彼の、彼の扉が。
「俺はロリコンとしてまだまだだった。まだまだ何も分かっていなかった。何故なら俺は今まで俺が自分で幼女を責めることしか頭になかったから!」
極度に幼女に痛めつけられることによって。その快感が故に。
「しかし今は幼女から俺が責められている! あの可憐な足で、ボールを蹴って! 美しい瞳を憎悪に染めて! 何故俺は気付かなかったんだ! この素晴らしいシチュエーションに!!!」
開いたのだ。
「……はぁ。イチカはもうお前の話を聞くのは止めるのら」
そんな彼にイチカはため息をついて。
「ふはははははは!」
「なのら!」
鉄球入りのボールを蹴り込んだ。
「ふぐうっ! 楽しい! だが、足りない!」
だが。
「なのら!」
「ぐあっ! 楽しい! だが、もっと!」
「なのら!」
「あがあっ! ああ! 楽しい! もっと!」
ロリコンはまるで痛みを感じていないような。また、それにイチカの方へじりじりと滲み寄ってきていて。
「な、なのら!」
「はぐうっ! 楽しい! もっと! もっとだ!」
「なのらあ!」
「あうっ! いいぞ! もっと!」
「う、な、なのら!」
それはまさに悪夢。彼女は決して手を抜かず、相手を殺すつもりでボールをぶつけているのに。彼はそれを真正面から受けながら、全くもって度し難い耐久力で近付いてきて。
「な、なのらあ!」
――こ、こいつ! さっきは簡単に吹っ飛んだのに!
「う、ぐ、なのら!」
――というかこいつ、こんなにぶつけているのになんでなのら!?
「ん、なのらあ!!!」
――なんで倒れないのら!?
「ふばぁ! ああ! 感動的だ! ああ!」
「う、うわ! なのらあああ!」
彼女の心は再び恐怖で悲鳴を上げ始めた。
そして。
「いがあ! ああ、楽しい!!!」
「ふえええっ!」
狂気的な猛進に、押されついにその場に尻もちをつくイチカ。
けれど悪夢はそれで一時中断し。
「……ふえ?」
「……」
どういう訳かロリコンは彼女の前で静止する。
「ふ、ふえ?」
「どうした? それで終わりか?」
「へ?」
「もっと! もっとだ! もっと俺を責めろ!」
「……ひいっ!」
――も、もう嫌なのら! 気持ち悪い奴を一回倒したと思ったら、今度はゾンビになったのら!
度重なるストレス。やっと終わったという安堵から、急激に絶望へ堕とされた落差。確かにそこで。そこでイチカの戦意は完全に砕けたといってもいい。
「あ、あっちいけ! なのら!」
だから彼女の内には既に敵を倒そうという意志はなく。
「ばか! どっかいけ! なのら!」
地面に尻をつけたまま相手を罵倒することが精一杯で。
しかしそれでも。
「……そうか、俺の責め方が足りないんだな?」
それでもロリコンは。
「遊んでいる内に分かった。お前は窮地に陥れば陥るほど、才能を発揮するタイプだと」
イチカに悪夢を見せ続ける。
「ならば俺も本気を見せてやろう」
「ふえ?」
そしてロリコンは両手を顔の前で小窓を作るような形に。
「拘束制御術式! 第3号、第2号、第1号開放!」
また、彼が叫ぶと同時に身にまとっていたタキシードが弾け飛ぶ。
その姿は。
「では、教育してやろう。本当の変態紳士の闘争というものを!」
「……わ、はは、もう意味分かんないのら」
見るに堪えない卑猥なもので。
影が動く。
「はわわわ! こっちに来るな! なのら!」
強い拒絶。しかし、間に合わない。
「はうっ!」
目に見えぬ速度。一瞬よりも狭い刹那。
ロリコンはイチカのいた場所を通り過ぎて。
「……?」
だが、別に殴られた訳でも、蹴られた訳でもない。彼女の体には傷一つ付いておらず。
「え? な、何なのら?」
ぴしり。そのとき、代わりにそんな音が聞こえた。
「ふえ?」
するとイチカの服の右袖が、まるでそれまで時間が止まっていたかのように急に細切れになって。
「な、な!?」
「ゆくぞ!」
次いで、左袖が。
「はうわっ!」
更に腹部の布も剥ぎ取られ、滑らかな肌が露出し。
「や、止めっ」
背中の部分が切り裂かれた。
「や、止めろなのら!!! お、お前はさっきイチカに触らないっていったのら!!!」
必死の絶叫。
けれど。
「私は確かに言った。幼女には触れない、とな。だが」
「だ、だが?」
「服は幼女ではない!!!」
「はうんっ!」
そしてついに残った個所が消滅し。
「は、はわわ……」
イチカは両手でそこを抱きかかえるように何とか隠して。
「どうした? まだ、上半身の服が消し飛んだだけだぞ? かかってこい! スクール水着を出せ! ポーズを変化させろ! 布を再構成して立ち上がれ! さあ、遊びはこれからだ! ハリー! ハリー!」
「……っ!」
「ハリー! ハリー! ハリー! お楽しみはこれからだ! ハリー! ハリイイイ!!!」
「ば、化け物なのら!!!」
そうして決着はついた。
「む?」
「もう、嫌なのらー!!!」
イチカは泣きながらその場から逃げだして。
「おや? 追い詰めすぎたか?」
彼女は部屋の隅にあった緊急避難通路的な所へと。
「ふははははは! まあ、俺は遊びで幼女を追いかけることはあるが、本気で逃げる幼女は追わない。それが俺の変態紳士道だ!!!」
ロリコンは誰に言っているのか分からないがそう宣言した。
「幼女よ、また会おう!」
次いで彼はどこから裁縫道具を取り出して、一瞬で散り散りになったタキシードを再構成する。また、そこに残されたサッカーボールを見つつ、奥の鉄扉へ歩いていき。
「ああ、楽しかった」
ボールの表面に書かれていたシリアルコードをスムーズに打ち込んだ。
「それではタクヤを助けに行くとするか」
「拘束制御術式! 第3号、第2号、第1号開放!」以降の下りは、あの名作漫画「HELLSING」からです。理不尽なほど強い主人公が見れますので、興味のある方は是非。




