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妹が世界を征服したようです。 ~限定プリンは大事です!~  作者: 猫屋敷
第二章 激突! ハローワーク編!
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第21話

「素晴らしい……」


 イチカと相対するこの男を除いてのこと。

「素晴らしいぞ!!!」

「……!?」

「ああ、この世に幼女の涙ほど洗練されたものはあるだろうか!? いや、ない!!! たぎる! たぎるぞおおお!!!」


 嫌われ者の精鋭、選ばれし屑、他を圧する自己中心。ロリコンの脳に、彼女の悲痛を思いやるデリカシーなど欠片も存在せず。


「ふはははははは!」


 彼はまた高々と笑い始めた。


「……」


 そのとき。その様を見て。


「……気持ち悪い」


 もはやイチカの涙は止まって。心には悲しみよりも、更に濃い感情。不快感。


「気持ち悪い! 気持ち悪い! 気持ち悪い! 気持ち悪いのら!」


 人間には無限の可能性がある。それを開く要素もまた無限。


「……もう、いいのら」


 そう、彼女にとって未だ到達したことのない境地、その扉を解放する今日の鍵は。


「……もう全部知らないのら」


 身を焦がすほどの。


「お前……」


 強い怒り。


「ふはははははは!」

「殺すのら!!!」


 ボールが舞った。いや、駆けた。

 渾身。それは以前見せた速度を大きく上回り、ロリコンの元へ。


「ふはは! 遊びの再開か? 望む所だ! 俺はお前を堪能するだけ!」


 だがそれでも彼は当然のようにボールを避けて。


「……」

「ああ、素晴らしい!」


 イチカの背後に回り込む。

 そのときだった。


「チェックメイト……なのら」

「ん? 何を……ぐはあっ!」


 みしり。ひしゃげる背骨。この日、初めてロリコンが嗚咽を漏らした。


「わはは、こういう戦い方もあるのらね。初めてやってみたけど結構上手くいってよかったのら」

「うぐっ……こ、れは……確かに俺は避け、て」

「簡単なのらよ。お前がボールを避けるのは分かっていたのら。なら」


 イチカは目の前の壁から天井を伝い、ぐるりと背後まで視線を巡らせて。


「避けた先にボールが来るように蹴ればいいのら」


 そこにはがりがりと何かがコンクリート直線的にを削りとったような跡が。


「ふぐっ……ぐぅ、ふっ」

「わはは、いい気味なのら」


 瀕死の虫のように地べたでもがくロリコンを見て彼女は笑う。


 彼女に蹴り出されたボールは特殊な回転を伴い、部屋の枠を伝って最終的にロリコンを射抜いた。それが不可思議な背後からの攻撃の答え。


「なのら!」

「うぐっ」


 イチカは、ほぼ動かなくなった標的に追い打ちをかける。


 以前の彼女ならそんな一か八か、あるいはロリコンが自分の背後に回らず、あるいはそれでも避けられて、ボールが己の身を撃ち抜くかもしれない、そんな危険性のある手段などは決して選ばなかっただろう。


「なのら!」

「ごふっ!」


 けれど彼女は今日、そうせざるを得ない好敵手と出会った。それをしてでも倒したいという怒りの感情が彼女を変えた。


「なのら!」

「はぐぅ」


 つまり進歩。新たなる可能性をイチカは。また一つ境地への階段を、彼女は。


「これで、終わりなのら!」

「ぐわあああ!」


 全身全霊の力を込められたボールがロリコンに衝突する。

 すると、彼の体はまるでぼろ雑巾のように吹き飛び。


「わはは、イチカの勝ちなのら」

「う……ふ……」


 やがて動かなくなった。

 ごろごろとことらへ戻ってくるボール、それをイチカは足で踏み止めながら。


「はぁー、終わったのら。本当に気持ち悪い奴だったのら」


 ポケットから無線機を取り出す。


「もしもしー、オリトなのら?」

『ああ、イチカか?』

「そうなのら、こっちは終わったのら」

『そりゃごくろんさん。大丈夫だったか?』

「それが本当に酷かったのら! 今日の奴、とっても気持ちが悪い奴だったのら!」


 その声からは全てが終わった安堵感が滲み出ていて。


 しかし。


『そいつはいつものことだろうが』

「それはそうだけど違うのら! 今日のは、もう今までよりもすっごく気持ち悪かったのら!」

『あはは、まあそんなに怒るな。給料弾んでもらえるよう上に言っといてやるからよ』


 彼女は気付かなければいけなかった。


「……い」

「頼むのら! これはいつも通りじゃ我慢できないのら!」


 新たな扉を開ける者は、何も自分一人ではないという事実に。

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