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妹が世界を征服したようです。 ~限定プリンは大事です!~  作者: 猫屋敷
第二章 激突! ハローワーク編!
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第19話

「ふふふ」


 ただ一人、こんな状況下でも余裕の笑みを崩さぬ男が。


「強がりでも、虚勢でもない。ただ、俺は本心から思うんだ。お前がスポーツ特待生だとか、そんな事実は些細なことだとな」


 周りの仲間達は彼のことをロリコンと呼ぶ。また、彼はタキシードに包まれた体躯でスマートに立ち、オールバックに固められた髪をかき上げて。


「うはは、まだ言うのらー? まあ、イチカと戦う奴は割とそういうことを言う奴が多いのら! でも、結局はイチカとの勝負に負けて吠え面を――」

「重要なことは!!!」

「はうっ!」


 突然の怒声にイチカの体がびくんと跳ねた。

 次いで彼女は。


「い、いきなり大きい声を出すななのら! びっくりしちゃったのら!」


 両腕を体の上に振り上げて抗議の声を。


「重要なことはお前の年齢だ。お前は今何歳だ?」

「は? 急にどうしたのら?」

「お前は今何歳だ!!!???」

「はうっ!」

「答えろ!!!」

「はうんっ! わ、分かったからその大きな声を止めるのら!」

「……」


 するとロリコンは素直に口を閉じる。


「な、なんてうるさいや奴なのら……」

「早く!!!」


 しかし彼は幾ばくも待たずまた怒号を。


「はうっ! い、イチカは7歳なのら。分かったら、声のボリュームをもっと絞るのら!」

「素晴らしい!!!」

「はうんっ! ひ、人の話を聞けなのら!」


 イチカの眼には涙が浮かんでいた。いや、むしろ今にもそれがこぼれ落ちてきそうで。


 だが、彼女の相対するこの男の中には。


「幼女 イズ ビューティフル!!!」


 常識もデリカシーも存在しなかった。


「……」

「先ほど俺は言ったな? お前がスポーツ特待生などという事実が取るに足らないことだと。やはりその通り! 俺の出した結論は間違っていなかった! 俺は打ち震えているぞ! 俺の、俺自身の才覚に、俺が持つ運命力に!」


 言葉を失うイチカに、ロリコンはなおも自分勝手に発言を押しつけ続ける。


「俺は分かっていたのだ、お前が幼女であることを! 無論、それはローブを脱ぎ去る前から。いや、この部屋の扉を開ける以前から。ここにお前がいることを、お前が幼女だということを! そこに理由などいらん、理屈すら無粋だ。ただ、俺は感じた。直に目にせずとも、感じたのだ! 小さな口からもれる幼女の可憐な吐息を! その肌から発せられる夏蜜柑のような汗の香りを!」

「……」

「神よ、アモーレ! 俺はこの運命を享受する! これから俺は幼女と忘れられないひとときを、忘れさせない思い出を共有するだろう! ああ、素晴らしい! ああ、狂おしい! ああ!!!」


 そうしていたいけな少女の前で、犯行声明にも似た宣言が終わる。

 イチカは。


「……何なのら、こいつ」


 混乱していた。困惑していた。今まで出会ったどの存在よりも不可解。まともではない。否、相手にしてきたのはまともでない人間ばかりだったが。そんな彼女ですらまるで受け入れることのできない狂気。異質。


 だから。


「さ、さっさと終わらせるのら」


 イチカは、自身の中に生まれた怯えから目を反らして。


「お、おい、お前!」

「ふはははははは!」


 ロリコンは手を広げ、天井を見上げながら高く笑っている。


「……聞いてなくてもいいのら。とりあえずイチカのボールを奪えばお前の勝ちなのら。そのときは道を譲ってやるから、仲間の元にでも行けばいいのら……というか」

「ふはははははは!」

「……もう勝手にどっかに行って欲しいのら」


 そして。


「でも、仕事だから……仕方ないのらね」


 ボールに置いた足先にイチカは力を込めて。

 すると。


「……」


 空気が一瞬で変わった。

 辺りがびしりと張りつめ、温度が急速に下がって。


「……」


 その中心にいるのは一人の暴虐。数多の人間の希望を踏み砕きし巨兵。いくらその姿が幼くても、イチカは著しい運動能力により特例的に大学への飛び級を果たした紛うことなきスポーツ特待生で。極限に厳選されし一握りなのだ。


「……」


 そんな彼女が本日、受けた命令は最低限の足止め。侵入者の内の一人を、手段を問わずここで食い止めるようにと。


 ただし。


「……」


 相手の生死に関しての指示は皆無。彼女達のリーダーであるオリトは「各々で勝手に遊べ」とだけ伝えてきて。


 だから。


「ふはははははは!」

「……」

 ――笑いたいのはこちらの方なのら。


 イチカは先ほどボールを奪えば勝ちだと話した。それは暇つぶしにでもなればいいと、彼女が自分なりに考えた遊びで。


 だが。


「……」


 実はそこには不足している情報が存在する。何故なら彼女は告げていないのだ。この勝負で「何が負けに当たるのか。また、負けたらどうなってしまうのか」ということを。


 ならば。


「……」


 イチカの体から殺気が膨れ上がる。次いで視線が血に飢えた鮫のように鋭く光り。


 ――もしこれがただのボールの奪い合いだと油断しているようなら、痛い目を見ることになるのら。


 そうして彼女はふとサッカーボールを前方へ転がす。まるで自然な動き。それを見る誰が、ボールの中に硬い鉄球が仕込まれていると気が付けるだろうか。


「ふはははははは! それではそろそろ始めようか、楽しい遊戯の時間を!」


 一頻り笑い声を上げたのち、ロリコンが視線を前方へ戻す。

 それが引き金となって。


「……いくのら」


 イチカはその恐るべき脚力を存分に引き絞った。狙いは彼方、彼の遥か後方まで撃ち抜くために。


 そして。


「なのら!!!」


 掛け声と共に彼女の足が火を噴き上げる。


 それは奪われぬよう守るべきボールで攻撃するという異端、発想の外。相手にしてみれば、そのボールを受け止めることができれば容易に勝利を得られるという魔性の条件下。


 故に、彼女の蹴り出したボールは決して避け得ぬ引力を持つ弾丸となって敵の体を射抜く。次いで、ぐしゃりと肋骨が音を立てて破壊され、相対していたロリコンは痛々しい嗚咽の声と共にその場に崩れ落ちた。


 はずだった。

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