第13話
そして決行の日。
「ムフフwww ついにやって来たでござるな、拙者達の反撃の日がwww」
「ああ。この三日、やりたくもない仕事を休む暇もなく紹介され続けて……本当に辟易したぜ」
俺達は壁に飾られた華やかな装飾を見ながら、ホールの脇に座っているリーゼント姿の人影に近付いていき。
「おい、DQM! とうとうこの日が来たな!」
そいつの肩を叩いた。
「うぃ、たくやか? 俺、今マジ、キてるっていうかー。てか、やってやんべー!」
するとDQNはにかりと笑う。髪型も、だぼだぼの服装も、見た目どれもだらしないのに口元に覗く抜けた歯がとても無邪気で。俺のこいつに対する評価は、知り合って間もなく「見た目はいかついが、意外といい奴」というものに変わった。
「おう、応援してるぜ!」
「タクヤ殿www そろそろ式が始まる故、拙者達は向こうの方にwww」
「そうだな。じゃあDQN、またあとで」
「うぃーっす」
俺達は指定された席へ。周りにもぞくそくと人間が集まっていた。
何が起きているのか。事情を説明すると。実は今日、俺達の仲間であるDQNがこのハローワークを卒業するのだ。不正にではなく、正々堂々と正面から。
「でもよ、俺達の中から就職する奴が出てくるなんて信じられねえな」
「ドプフォwww まぁ、拙者達はまるで勤労に興味がないでござるからなwww」
そう、今日は奴の就職を祝う式典の日で。ハローワーク側からしてみればこういった催しで就職者を褒め称えることで、少しでもニート達の就職意欲に繋げたいという狙いがあるのだろう。
だが。
「タイミングはDQNが記念品をもらったあとだよな?」
「そうでござるwww」
その狙いこそが俺達の付け込む隙となる。
「よし」
作戦はこうだ。
「……」
DQN就職記念式典の途中、一斉に暴動を起こす。普段ハローワーク側はそういった事態を防ぐために俺達を一箇所に集結させたりしないが、このときばかりは別だ。施設内で散り散りにされた主力メンバーが、今日だけはこの場所に集結する。それはここを脱出するだけなら十分な勢力といえるだろう。
――ありがとうな、DQN……。
俺は心の中でDQNに感謝の言葉を。
そう。奴は自分のための式典を、俺達が脱出に利用することを知っているのだ。知っていて奴はそれを受け入れてくれた。「仲間のためだべ? マジそれ、ばり熱いっつーか。どーんと夜露死苦!」と、歯をむき出しながら。
「タクヤ殿www DQNがこのハローワークから出たあと、どうするか知ってござるか?www」
「ん? 知らねえな。何かあるのか?」
「ムフフwww 『うぃ~。ここから出たら俺~、マジ結婚するんだ~。やっぱ、あいつをバリバリに幸せにしたいっつ~か。うぃ! おぃ!』と、DQNは先日言っていたでごるwww」
「……そっか。だから、あいつは」
「そうでござるwww DQNは奥さんを幸せにするために、就職活動を頑張ったのでござるwww」
「DQN……」
改めて俺はDQNの方を見た。そんな幸せの門出を、俺達のために。
「むむむ?www もう式典が始まるようでござるよ、タクヤ殿?www」
「お、そうか」
部屋の照明が落ち、ステージが光る。そこには一人の年配の職員が立っていて。
「お待たせ致しました。本日、皆さんに集まって頂いたのはこの施設から卒業する方を全員でお祝いするためです。早く就職できるように、皆さんも彼を見習って頑張っていきましょう」
そして簡単な挨拶をしたあと、職員はDQNに手招きする。奴は柄にもなく緊張した面持ちで椅子から立ち上がり。
「うぃ! マジ、やってやんべー!」
就職記念スピーチをするために壇上へと歩きだした。
「……」
「…………」
俺達は奴を優しい眼差しで送り出して。
そのとき。
「うぉっ!」
突然DQNの体勢が崩れる。階段を踏みそこなったのだ。奴はバランスを取ろうと両手をぐるぐる回しながら、しかしそれでも徐々に後方へ。
「ぐふっ!」
ガンッ、そんな音と共に奴は勢いよく倒れた。
「……」
「…………」
急な展開に俺達はただ唖然と。状況は周りの人間も同じで、彼らもまた顔をしかめたままDQNが立ち上がってくるのを待っている。
だが。
「……え?」
いつまで経っても奴は動かず、倒れたまま。
だから俺は。
「……ど、DQN?」
嫌な予感が。恐る恐るDQNに歩み寄って行って。
「……おい! DQN!」
返事がない。まさか。
「おい! 大丈夫か!? しっかりしろ!」
最終的に俺は仰向けのDQNのそばで跪いて、奴の肩を強く。できる限り、強く。
すると。
「……うぃ、タクヤか?」
「そうだ! 大丈夫か!?」
「俺はもう……駄目だ……」
「何だよ、おい! そんなこと言うなよ! お前、ここを出て結婚するんだろ!?」
「俺は……〝不運〟と踊〟っちまったんだよ……」
がくり、手に伝わる力が抜けていく感触。
「……おい? DQN?」
「……」
その閉じられた瞼はもう。
「DQーーーN!!!」
俺はDQNの体を抱きしめながら獣のような咆哮を上げて泣いた。
DQNという言葉を知らない方は、ヤンキーとか不良をイメージしてもらえれば問題ないかと思います。
「俺は……〝不運〟と踊〟っちまったんだよ……」
元ネタが分からない方は検索してみて下さいw




