第11話
「一緒に来ないのか?」
「ああ、街にはお前達のような生き残りが最後の希望にすがって訪れる。私はその者達をここで匿い、いずれ来る革命の日に備えよう」
「そうか」
「同人誌を描くための画材も気軽に持ち運べる量ではないしな。それに――」
「それに?」
そこで作家はにやりと嫌な笑顔を浮かべる。
「守る者が二人になっては、お前も大変だろう?」
だから俺も、ふんと鼻を鳴らして。
「誰もお前なんか守らねえよ」
馬鹿みたいに歯を剥き出しにした顔を返してやった。
「それじゃあ、またな」
「ああ」
そうして、俺とビッチは秋葉原をあとにする。
「ふっふふっふふーん」
その道中、彼女はやけにご機嫌で。
「お前、それどうしたんだ?」
「あ、これ? えっとねー! 作家さんが『淑女の旅に、着替えは必須だから持ってっていい』って!」
ビッチの手には中型のキャリーバックが握られている。
「作家さん優しいー! 大好きー!」
「……」
いらっ。どうしてか分からないがそのとき俺は神経が軋む音を。否、気のせいに違いない、断じて。俺はぶるぶると頭を振ってから彼女に向き直った。
「でも、ビッチ。本当によかったのか?」
「んー? 何がー?」
「俺について来るよりも、秋葉原にいた方が安全だったかもしれない」
それは心配、合わせて不安。今俺達が向かっている場所は決して楽園などではなく、あるいは一つの国家を滅亡レベルにまで追い込んだ敵が、まさかのBクラス認定されるほど危険な暗黒大陸かもしれない。
「……」
俺は彼女を本当に守ることができるだろうか。そんな自分への不信が、思わず漏らさせた弱気な心。
しかし。
「え? んーとね、うちはタクヤがいる場所だったらどんなに危なくても平気だよー?」
ビッチは無邪気に笑った。
「……」
彼女にも恐怖があるだろう。憂いもあるだろう。だが、それでも彼女は。
「えへへー。でも、これって何だか駆け落ちみたいだねー! 大人だ―!」
そんな素振りを微塵も見せずに隣を歩いてくれていて。だから。
だから、俺は。
「……絶対守ってみせる」
自分の中の決意を改めて確認する。
「ん? タクヤ、何か言ったー?」
「いいや」
そんな俺の言葉は東から吹く海風に誘われて、彼女の耳に届く間もなく消えていった。




