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第10話

 場所は変わって、とある部屋。

 そこには一人のジト目美少女が。


「……」


 彼女は自身の兄への復讐に燃えていた。


「……」


 プリンというものがどれほど偉大なものなのか。それを無遠慮に奪ったことがいかに度し難い罪なのか。それを知らしめるために。


「……」


 兄を自分と同じ絶望に叩き落とす。それを最終目標に、ルリがまず手を付けたのは。


「……」


 世界の征服だった。


「……」


 力による強制的な主権の奪取。その無謀にも思える試みは、実はとても容易で。何故なら、世界中の政治家、権力者、宗教家、経済家、そして国そのもの、及びそこに生きる彼ら。それら全てを支配できるだけの圧倒的な影響力というものを今の彼女は有していたから。


「……」


 手始めにルリは世界中に各地の言語で征服声明を行った。


「……」


 テレビやインターネットを通じて配信された声明は驚くほどスムーズに人々へ伝わっていく。その事実は彼女が与える影響の強大さの表れ。


 もはや、この世界の誰も自分を止めることはできない。何者をも、この改革を拒絶することはできない。ルリは最初そう思っていた。


「……」


 動き始めてからすぐ、己の力が効かない存在がいることに彼女は気付く。


「……」


 それはいわゆる社会不適合者と呼ばれる者達。いや、それに加えていくつか違った種類の人間も居はしたが、ほとんどが周りから白い目で見られる鼻つまみ者の集団。


「……」


 ルリは自分の無力さに歯がみする。どれだけ素晴らしい道具を持っていても、そこに技量が伴わなければ宝の持ち腐れだ。そう感じて。


「……」


 しかし、そこからの彼女の立ち直りは早かった。


「……」


 世界の全て・・ではなくとも、大半・・は掌握することができている。そうルリは視点を変えたのだ。


「……」


 だから、次に行うべきことは明確で。

「……」


 彼女は「自身の力を享受した者達」で、「自身の力が及ばない者達」を捕縛し始めた。それはあたかもチェスのように。いや、こちらの駒数は相手の倍以上。チェスというよりはむしろ狩猟か。


「……」


 その後、捕まえた者達は施設で再教育し、秩序ある人間に変えていく。あとはそれを繰り返すだけ。これを続けていくだけで兄への復讐は成功する。これで兄が大切だと宣う下らない流行達は、全てこの世から消失する。

すなわちそれは。


「……」


 兄の絶望。


「……ふぅ」


 そこまで考えてルリは、小さな口で溜息をついた。次いで、どろっとした疲労感が。


「……」


 少し頑張りすぎたかもしれない。彼女は思う。


 普通なら数百年規模で行われる改革を、彼女はただ数日で無理矢理引き起こしているのだ。ならば、その代償は決して軽くはない。


「……」


 あるいは一度休もうか。これからの計画は、ある程度自分の駒達が進めてくれるようにはしているし。


「……」


 ルリはそんなことを考えつつ。すっ、と玉座を下りた。

 だが、そのとき。


『コンコンコン』


 彼女と真反対の位置取り。部屋の扉からノックの音が響いてきた。


「……!」


 当然身構える。というよりも困惑して。


「……」


 まさか。そんな想いがルリの脳裏をかすめた。何故ならそこは、彼女以外が容易に立ち入ることなど決して不可能な場所で。


『コンコンコン』


 だが、それでも例外はある。もし、ここへやって来られる存在がいるとしたらそれは。


「……」


 兄、ぐらいしか。


「……」


 そして、ぐいと張り詰める緊張の中、声が。


「入るぞ」


 それはウッドベースを彷彿とさせる魅力的な渋い響き。多くの経験を重ねてきた、大人の哀愁を漂わせるような。


 また、そのまま扉がゆっくりと開いて。


「……」


 次いで部屋へと入って来た人物を確認すると。


「……はぁ」


 ルリはそっと体の力を緩めた。


ウッドベース!

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