茶色の小瓶と僕と愉快な先輩
ノベルジムにて掲載。
「ふふんふふ〜ん♪ ふふんふふ〜ん♪ 茶色の小瓶ホ〜ホ〜♪」
今日もゼミでは実験が朝からあると聞いていたので、準備をしようと早めに実験室に行った僕の前には、上機嫌に『茶色の小瓶』を歌う先輩がいた。手には今日の実験で使う褐色瓶(硝酸入り)を持って。
「茶色の小瓶ったって・・・単なる硝酸じゃないですか」
硝酸は光や熱に反応して、分解するという性質を持つ。
そのために褐色瓶・・・先輩曰く「茶色の小瓶」に保存しているのだ。
「硝酸だって称賛に値するものだと思うよ。・・・まあ、歌になっている褐色瓶ほどではないかもしれないけどね」
「親父ギャグかよ・・・」
そうツッコミを入れる僕の心中では、
『いや絶対硝酸の方が茶色の小瓶より有名だろ』
『というより歌詞中の茶色の小瓶にそんな物騒なモンが入ってる訳ねえだろ』
といった声が渦巻いている。
「だいたい茶色の小瓶を見ただけで幸せな気分になれんなら褐色瓶が資源ゴミの分別対象になることなんて無いでしょうし、そもそも硝酸なんかを入れることもないでしょう」
「理屈っぽいね〜君は」
アハハと笑う先輩。
あんまり関係ないのかもしれないが、理系が理屈っぽく無くてどうする。
というかコレは理屈か!?
「あ、もうこんな時間か。さ〜て準備再開〜♪」
先輩が器具を丁寧に並べていく。・・・今度は『茶色の小瓶』を鼻歌で歌いながら。・・・・・・地味に巧いとは言わない、絶対に。
「ねえ」
「なんですか」
先輩がビーカー並べまくっている間に、俺も他の準備をする。
その準備の、最中。
「隙アリ★」
「〜っ!!」
不覚にも、先輩に不意打ちを食らってしまった。
「さ〜て準備準備〜」
人の気も知らないで先輩は隣の部屋へと楽しそうに駆けていく。
「硝酸」云々と書かれた茶色の小瓶が少し羨ましく思えた。
「僕」が「先輩」に何をされたのかは、ご想像にお任せします。