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勇者と魔王 それぞれの戦場

研究本部自慢のシュミレーターが様々な状況を推測してその勝率をはじき出している。


勝率を計算します。

CHECK A

RESULT勝率0%

CHECK B

RESULT勝率0%

CHECK C

RESULT勝率0%

……

何度計算しても幾つもの計算結果が万が一にも勝算のないことを導き出す。それは絶望。


しかし、


「計算はここらで終わりにしよう。時間がもったいない。」

よりにもよってそういったのは尤もそんなことを言うはずがない人物であった。

そういって彼はメガネを胸ポケットにしまい、勝率を計算するプログラムを強制終了させ、

いつもの冷静な声では無く士気をあげ、鼓舞するために激昂した声で命令する。

「お前たち、どうやらプログラムはバグったみたいだ。各々の武器を持てっ。

現状で勝てないなら勝てる状況にすればいい。あの魔王に人間の意地を見せてやろう。

いいか、肝に銘じておけ。

―――――――――この研究本部がこの戦いの最前線だっっ!!」









透流は推測する。

大量の種族も違うモンスター達を操っている、いや支配しているのは恐らくは『音』。

ならばこちらも『音』をぶつければいいのだ。

想定される必要な音量はちょうどこの基地のスピーカー全て。

「工兵達は早急にバリアー及びスピーカーを修理、その後は機材を防護しろ。」

「了解致しました。」

彼らが命じられたのは修理のためのモンスターが闊歩する現在の基地でのそれぞれ単独での野外行動。

それはすなわち死ねということと同義。しかし彼らの士気には一点の陰りもない。文字通り此処が最前線であり最終防衛線なのだ。

此処を戦場と言わなければ戦場は存在しないであろう。部屋を出る前に工兵たちの長である男は透流に聞いた。

「閣下、よろしいですか?」

「なんだ。」

「俺たち頑張りますから。―――二階級特進、期待していいんですね?」

「当然だ。誰にも文句は言わせない。」

「そうですか、それはありがたいです…。―――――――工兵隊気を付けぇぇぃっ!!」

工兵部隊の隊長は一度振り向き部下たちに整列をかけると再度透流に向き直し、

「敬礼っっ!! 我ら工兵部隊任務了解いたしました。扶桑帝国の軍人として恥じぬ働きをしてまいります。閣下もご武運を。」

工兵達はそれぞれの工具(ぶき)を持って部屋を去っていった。


彼らが去った後、工兵の男らしい声とは違い、この戦場には似つかわしくないはかなげな声が彼を呼んだ。

「私もよろしいですか?指令代理(・・)?」

「何か用ですか?指令補佐」

「手榴弾をありったけ私に下さいますか。」

「お前…何をするつもりだ。」

「私には皆さんのような特殊な技術はありませんから。

―――それと、貴方の指図は受けません。勝手にやらせてもらいます。」


ある者達は慣れない武器を持ち出撃し、

ある者達はまだ息がある人員を救助しに外へ向かい、

ある者達は故障したシステムの復旧、新たな通信指揮及びシステム系統の構成の為部屋を出ていく。

残る者達は基地全域の対空迎撃システムを遠隔操作で掌握する。

本来複数名で1つの兵器に対し距離や気象状況を計算し照準を合わせエネルギーを装填しロックを解除し砲撃するという離れ業を、

遠隔操作で1台のコンピューターに統合し兵器操作を一人一台で行う。

後に資料から明るみになったこの戦役は帝国の歴史の中でも最大級の激戦とされた。











年若い工兵は戸惑っていた。

通路の向こうに行けばすぐそこに故障したスピーカーがある。

行きたいが…、通路は密集したモンスターに占拠されている。

「向こうに行ければいいのね?いいわ、下がっていなさい。」

振り向くとそこにいたのは大量の爆発物を所持した美女。

「指令…補佐…?―――まさかあなたは…」

「ふふっ。まるでついさっきの状況の様…。」

「止めて下さい。あなたがしようとしているのことというのは――」

「黙りなさいっ。私に意見していい人は一人だけ、貴方の指図は受けないわ。」

「指令補佐……」


一見戦いとは無縁なように見える嫋やかな女性は目の前の己を喰らわんとするモンスター達に脅えることなくその歩を進めた。

フロアーの中央まで来たときにモンスター達はのこのこと自分からやってきた愚かなエサに一斉に襲い掛かる。

「―――閣下、今御傍に。」

フロアを爆風が吹き荒れた。



十数分後スピーカーの復旧が完了する。基地全てのスピーカーから発せられる轟音は洗脳されたモンスター達の耳から音を吹き飛ばす。

これ以上は統制された魔の群体と戦う必要はない。数分後には再発動する残ったモンスターを基地から追い出すバリアーで片が付くのだ。

しかし再び本部に帰ろうとした工兵の前に再びモンスター達が姿を現す。

若き工兵は渡された手榴弾を後方に放り投げ崩した瓦礫でスピーカーまでの通路を閉鎖する。

「くそったれがぁっ、うおぉぉぉっっっ!!!!」

彼は銃剣を小銃に着剣すると己を喰らわんとする者達に駆けていった。

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