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勇者と魔王 英雄の死の後で

「初めてだ、お前に約束を破られたのは。」

高級将校 伊佐美 透流はその怜悧な顔を苦々しく歪めた。





西風隊が敗北したその直後、

海沿い近くにあり、恐らく魔王の進路上の真下に存在する基地内においても惨劇が起ころうとしていた。


魔王が翅を大きく広げた直後、魔王の観測用の無人偵察機から送られていた映像などが全てダウンする。

そのさまを見て瞬時に悟ってしまった基地司令と透流は指令室と研究本部でマイクを持ち同時に叫ぶ。

「「総員っ!!耳を塞げぇぇっっ!!!!!」」

窓ガラスが全てはじけ飛んだ。



直接二人の声が届いたもの、スピーカーで指令と透流の声を聞いたものは良かっただろうが、

そうでないもの。たとえば屋外で勤務していたため反応できなかったものや反応が遅れたものなどの中には、

多くのショック死した者がいた。



しかしそれだけで惨劇が終わるなんてことはなかった。


天上の音色と称するに相応しい悍ましくも美しい歌声に引き寄せられたのか、

周囲から多種多様なモンスターが基地に迫ってくる。中にはほかの国から飛んできたと思われるものも多くいた。

あるモンスターは耳から血を流す瀕死の衛兵を殺しゲートを直進し、

別のモンスターはそもそも高圧電流の流れる有刺鉄線の柵を直進してきている。無論焼き焦げているのだが次から次と狂信者のように進んでくる。

対モンスターバリアーシステムが当初機能していたものの、多すぎる飛行モンスターに負荷が耐えきれずフリーズしてしまう。

基地の中に入ると暴れまわるモンスターによってフリーズ中のバリアーや、情報を伝えるスピーカーのうち幾つかが破壊された。




指令室と臨時指揮所となった研究本部がある中央棟一階以外の全てが

多種多様なモンスターに占拠され基地の各地で絶叫と銃声が響き渡る。

基地の誰もが阿鼻叫喚の中ただ一人冷静な男がいた。

彼の副官は思った。この人についていけば勝てるかもしれない。

「狼狽えるなお前たちの戦場は此処だ。余計なことは考えずに与えられた任務をこなせばいい。」

この基地の副指令であり研究本部長である伊佐美 透流はその冷徹な仮面を外さずに沈静化の為の指示を飛ばす。


ちょっと親しみやすくはある指令よりもやはり切れ者の透流の方が優秀そうだという評価は高い。

「指令との連絡が付きません。指令の生存が確認されるまでは

研究本部長に指揮権が移行されます。よって閣下がこの場の臨時最高指揮官となります。」

だから、そう発言をした者の顔には指令不在の不安は無かった。

「わかった。指令を探しに行った何名かを除き、

生き残った者達を今すぐここに集めろ。いいか例外なく全員だ。」

透流自身も指令代理としての任務達成の意識で思考が埋まり、本来の指令の安否は優先度はそう高くなかった。











指令室前の通路にて

指令とその愛人と噂されている補佐はモンスターは徘徊する建物の中を通り、

臨時指揮所となった研究本部へと向かっていた。

しかし研究本部まであと曲がり角を3つほどというところの十字路でモンスター達の集団と鉢合わせしてしまう。

しかもモンスター達がいるのはよりにもよって研究所の方向を塞ぐ道に、だ。

「私がひきつけて通路があいたらお進みください。」

「しかし、だな。君は死ぬぞ?」

「閣下は生き残るべきです。私と違って閣下の代わりはいないのですから。」

「わかっている。だが生きろ、君が生き残るんだ。どうせ俺が死んでも我が基地の後任者は俺よりずっと優秀だ。」

「閣下っ!! 私は嫌ですよ。いつも指令を無能扱いしていたあんなガキの指揮下に入るなんて。」

「それでもだ。…惚れた女くらい護らせてくれ。」

そういって指令は補佐の唇を強引に奪う。

「閣っ…下?」

「行けっ。これは命令じゃない。お願いだ。頼む、生き延びてくれ。」

「っ……。了解いたしました。閣下もご武運を。」

「精々長生きしてくれ。また、冥府で会おう。」

そういって指令は補佐を小部屋の中に隠した後モンスターの方に走り注意をひきつけた後、

先程来た通路でも研究本部でもない通路に走っていった。



「あ~あ、これだけ階級付けてやることが白兵戦とは何してるんだろうな、俺は。

やっぱ無能扱いされてもしょうがないな。…まぁこれでも射撃の腕は良かったんだ。

あいつが逃げるまでの時間位稼げるさ。

……俺にはもったいない女だったよ、お前は。」

指令は高々拳銃如きで軽々死ぬモンスターもそんなにいないだろうが、時間稼ぎぐらいにはなるだろうな、

と煙草を吸いながらモンスターに向け引き金を引いた。








研究本部の入り口前で透流はシャッターを下ろすよう部下に指示する。

「時間だシャッターを降ろせ。」

「未だ全隊員の半数にすら満たされていませんが」

「時間だシャッターを降ろせ。……これだけか…間に合わなかったか。」

指令補佐が駆け込んでくるのが見えた。

「待てっ。指令補佐が来ている。」

シャッターが閉まる手前で補佐の姿を確認した透流はシャッターを下すのを止めさせ、

補佐を通した。

「指令はどうした?」

「死にました。」

そう淡々と答える指令補佐の昏い何かを灯した瞳を見た透流にはそれ以上何も聞くことはできなかった。

代わりに部下にこう命じた。

「時間だシャッターを降ろせ。」

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