勇者と魔王 散る仲間
交戦規定はただ一つ――――生き残れ
「西風隊、出るっ!!」
空軍では有名な空の英雄と言われる、隼人率いる航空隊は敵予測進路に向かい合うようにして飛び立つ。
レーダー装置には早くも敵影が映っている。
そんな中基地から通信が入る。
「聞こえるか隼人、今から敵のデータを送る。」
「了解っ。」
「対象は高速飛行型魔王級。対象の現地での呼び名を我が国風にいうと『天上の音色』。
俺も軍学校で学んだことがある。『天上の音色』とはこの国の『まつろわざるもの』同様、歌う魔王だそうだ。
モンスター風情がいっぱしの音楽家のようだな。
……今のは余計な情報だったな。失礼した。
主攻撃は強風。それと伝承の通り局地的な空気の振動、つまり音を叩きつけてくる可能性もある。目視は困難だ。
よって基地の感知システムから俺が予測した情報を送る。
各人に情報を逐次確認させるようにしておいてくれ。」
「判った。皆今聞いたとおりだ。質問は?」
「「無し。」」
「第一分隊は高高度から反転し敵の背後を付く。
第二分隊は右、第三分隊は左から攻撃しろ。
各分隊のリーダーは友軍を誤射させないこと。了解か?」
「「了解。」」
第二、第三分隊が緩やかに左右に離れていくのを確認した第一分隊は速度と高度を上げる。
第一分隊は魔王を通り過ぎたのを確認するとスプリットSと呼ばれる空戦機動を行う。
スプリットSとは下方向に機体を捻りながら180度反転しUターンする曲芸の一つだ。
第一分隊はその高度な技術を編隊を保ったまま一糸乱れずに実行する。
反転して魔王セブンスコードホーンフライの背後から強襲する前に隼人たちがレーダーで見たものは、
停止した魔王と、第二分隊を後方から執拗に追い回す第三分隊であった。
「や、止めろぉ、撃つなぁっ。」
そう言った第二分隊のリーダー機が親友であるはずの第三分隊リーダー機に意図的に誤射される。
昼空に花火が上がった。
「何してるんだっ!!!」
思わず隼人は怒鳴りつけるが、第三分隊の応答はない。
しかし今は魔王の撃破が最優先だ。
「第二分隊は第三分隊からの回避、第一分隊はそのまま攻撃に移る。」
目標が目視攻撃圏内に入った第一分隊は充填されたレーザーを一気に放つ。
しかし、魔王の周りには濃厚な霧が発生しておりレーザーは大して効果が無いと判断した隼人は、
部下に命令までは間に合わないと判断し、自分の機体だけでも実弾に切り替える。
攻撃を喰らった魔王『ベル・アルモニカ』の生体反応は感知器類上ではほとんど変化が無い。
そんな中再び通信が入る。
「隼人、聞こえるか。霧に包まれた状態の魔王にはレーザーは効いていない。実弾を推奨する。
……第三分隊についてはログを見るに音にやられたようだ。
敵は音を使った洗脳を行ってきている可能性が高い。しっかりヘッドホンを付けさせろ。
妨害用に雑音を流しておく。会話の際だけ雑音を消してくれ。」
「了解した。」
聞こえるか皆、そう言おうとしたときちょうど第二分隊が全て撃ち落されていた。
撃ち落とした第三分隊のリーダー機は直後、宙で真っ二つに切断されていた。
第三分隊の残った二機はその後役目を終えたかのように互いに衝突、爆散しその破片を落としていった。
「……残ったのは俺たちだけだ。魔王の声に耳を傾けるな。何としてでもこの国を守るんだ。」
「「了解っ。」」
隼人たちの乗る戦闘機は先程の惨劇を目にしてもその統制を乱すことなく有効とされる実弾で魔王を攻撃する。
しかし、効いている様子はない。
「もう一度だ。」
再び旋回して魔王に向かおうとした隼人はその視界の端に一瞬何かがよぎった気がした。
「隊長っ!!」
雑音が消え、分隊員から通信が入る。
その通信を送ってきた部下の機体の状況は極めて不安定だ。
当然だ。上から魔王に接触されているのだから。
隊の誰もが取りつかれた者の死を意識した。
しかし取りつかれたのではない。憑りつかれたのだ。魔王の『歌』に。
第一分隊にも洗脳をかけようとしたがどうにも聞いてないようなので、
機体に直接取りついて、振動を使って直接パイロットに歌を聞かせたのだ。
機体から魔王が一見何もせずに飛び立った後も不安定な、
まるで先程の第三分隊に近い動きを始めた機体のパイロットに隼人は声をかけた。
「おいっ、しっかりしろっ!!」
「だんだん判断がおかしくなってきました。………隊長、さよならです。」
「おい…っ。」
「自分は仲間を撃ち殺すなどできません。…ではっ。」
「待てっ。」
隼人の制止も聞かずパイロットは拳銃で自決した。
操縦手の居なくなった機体は眼下へ落下していく。
隼人の絶望は終わらない。
反対側を見れば先程まで自決したパイロットの機体に張り付いていた魔王がもう一人の部下の機体に張り付いている。
先程と違うのは洗脳なんてしようとしていないことだ。
コクピットの強化ガラスを破砕し、中のパイロットを引きずり出し食べていた。
魔王はそのままパイロットを引きずり出しきった後は強烈な風圧をかけてその機体を爆散させた。
かくして実験機の試験運用などを任せられた最高練度と謳われた西風隊は隊長機を残すのみになった。




