外伝 スセリ封印 猿の友情
三匹の中で尤もダメージを負っているのは犬である。ところどころに傷を負っている。
今もまたスセリが地面を殴りつけるとスセリの前から犬の真下まで次々と連なるように大岩がむき出していく。
モンスターでなければ死ぬほどのケガを何度追っているかもわからない。
その理由の一つに、ミコトの『殺すな』という縛りがあるのは間違いないだろう。
犬は血を多く失いながらもその忠誠心だけは失っていなかった。
犬猿の仲という言葉があるが、むしろミコトパーティーの中では犬と猿は親友だった。
鳥が物理的にも精神的にもお高く留まっている分、2匹は距離が近かったのだ。
そんな犬が健気にもその忠義を果たそうとする姿を見て猿は覚醒する。
猿はその両手を大きく開き、叩く。
瞬間世界は闇に包まれる。いや、太陽の光は届いているのだが、誰にもそれは見えないのだ。
視覚『見ざる』
聴覚『聞かざる』
発音『言わざる』
空間内にいるものの二つの感覚を封じ、そのものらに『音』の発生を封じる能力。
三毒最終の『癡』それが猿の能力だった。
言わざる聞かざる。それはスセリの姉との絆を否定する能力。
「反則よね。一番ノーマークだった奴が一番消さなきゃいけない奴だったなんて。」
そしてその能力は『嗅覚』で敵を追尾する犬との相性は抜群だ。
一方スセリはヒトにとっての重要感覚2つを潰されて行動の制限が大きくかかる。
犬の爪が躱しきれないスセリに何度も襲い掛かる。
『瀕死』はいいのだ。最終的にヤタガラスの『月』で回復させられるのだから。
このままいけばミコトの勝ちは確定だ。
しかし『時間』がきた。煙の効果が切れ再びスセリの姿はハオウバチに変化する。
それに対抗せんといつの間にかかなり遠くへ行っていたミコトは命ずる。
「合体だ。」
三匹は合体し巨大なヒトガタになる。鬼といってもいいかもしれない。
ソレは鬼なんかよりはるかに恐ろしい存在だが、今回は便宜上鬼と呼ぼう。
「思いっきりやれ。」
鬼はハオウバチに戻ったスセリを背中の羽で加速し殴りつける。
「見た目が変わったくらいでこうまで戦い方を変えるなんて、マジでサイッテーね。
鬼なんかと仲良くやってんじゃないわよ。この似非桃太郎。
でも、アンタには一つ感謝しておくわ。『戻る』なんて発想をくれたんだからね。」
吹き飛ばされたスセリは地面に針を深く刺し抜く。
今まで地面に突き刺して今まで星に送っていた情報を逆流させ、自らの過去を探り出す。
かつてこの星の上でバグズの民たる昆虫とアクエリアスの原住民たるそれ以外のものによる『星戦』。
その戦いにおいて昆虫側の旗頭を務めたのは蜂の魔王アマツミカハバチの『スペルヴィア』。
『三部劇の魂』オリジナルの保持者であるスセリの二つ前の前世である。
2つ前の記憶に関しては最近になって少しずつ戻ってきた。
先程の姿である前世の名前とその前世との偶然の関連性には笑ってしまった程だ。
『アマツ ミカ』なんて出来過ぎだ。
そんなどうでもいいことを思い出しながら、スセリは今日2度目の変身を行う。
そして、彼女が知る最強の存在に再び彼女は戻った。
この瞬間惑星アクエリアスは最大級の警戒を、惑星バグズは最大級に準じる歓喜をあげた。
最強の魔王デュカリス=スペルヴィアの母たるスペルヴィアとはスセリは同名の別虫。
しかし遠い先祖には違いないので血は繋がっている。




