第9話 羽化、手に入れたもの
うーかー
デュカリスが蛹になってからの話は蛹だけに何もないので省略しておく。
敢えて言うとすれば妹が暇そうに蛹の横で謳っていたくらいだが敢えて無視して話を進める。虫だけに。
まぁ、それは半分冗談で、大きく変わったことが一つある。場所だ。
只管周囲の鳥モンスターを狩り尽くしたためこのあたりにも鳥モンスターはいなくなってしまった。
いつもの通り南東に飛ぼうとしたが既に大陸の端であった、そのため海を渡るため非常に長い期間飛ぶことになった。
無論蛹であるデュカリスや幼虫であるその妹たちは働き蜂の成虫たちに運ばれてだが。
長い距離なので当然ついてこれないものも多くいた。姫たちを抱える者は交替させていたのだが数匹が抱えていた蜂もろとも落ちてしまった、
新たな島についたころには少なくない数の働き蜂たちが脱落し、高い飛行能力を持つ者だけが生き残れた。
極東の新天地にて新たな巣が作られたころ、急増の蛹部屋で音符の名を冠した姫が目を覚ます。
元々その要素はあったが、羽化したことではっきりとしてきた。
全体的に先祖返りしたというかアーピス(みつばち)というよりかは祖母の種族であるヴェスパ(すずめばち)の要素が強い。
母に対しその在り方を継ごうとするよりかは内心では決別しているその在り方が姿を変えたのであろうか。
その姿はコルセットを使っている貴族女性なんて目じゃないほどに腰が極端に細い。
和音のいた世界の生き物でいうとスズバチに近い。
白く細長いが括れがはっきりした体にアクセントのように音符が刻み込まれ、
腹部には五線譜のように黒い線が引かれ、腹部の上の方にはト音記号、腕はヴァイオリンの弓のよう。
針の付け根には針にも跨ってヘ音記号が描かれている。うん、実にオシャレである。
オシャレな成虫になってデュカリスが気付いたのはいつも突っかかってくる妹、スセリの姿が無いことだ。
部屋の周囲を見渡すと妹も蛹になっていた。…通りで静かなわけである。
「静かすぎますのも寂しいですわね。」
デュカリスはそうつぶやくと羽化したことを報告するために母の所へ行くことにした。
女王の間に行くと今までに見たことも無いように狂喜した母たる女王の姿があった。
「あら、デュカリス、成虫になったのね。まずはおめでとう。
今日は本当にいいこと続きね。スセリは蛹になったし、貴女は成虫になった。
―――――――――――そして、遂に奴を見つけた。明日総攻撃をかけます。当然貴女も来なさい。
期待しているわ、我が娘『デュカリス』………………………お姉様が生きていたらどのようなお姿になられたでしょうか。
最後に小さく呟かれた言葉を聞き取れたものは呟いた彼女以外に1匹もいなかった。――――――――のならどれだけよかったであろう。
彼女の娘は己の高い聴力を悔いた。