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天奏高山帯奏話 第4音

誰も立ち入ることが許されない禁域、天使の歌う場所。

決して天使がいるわけではない。いるのは天使どころか魔王だ。

周辺の住民は恐れ多いものとして決して登らない。

しかしそこの生まれでありながら敢えて登る者がいた。

恐れを知り、そして怖れを超える勇ある者。

勇者ハルマー。

彼はアルパインフォックス、デンパナスビやチリチリペッパーなどのモンスターを倒しながら山の頂上へ登っていた。


そして遂に辿り着く。

彼の持つ山頂蟹双鋏槍もかつて自分を倒した魔王に今度こそ止めを刺してやろうと唸っているようだった。



山の頂には魔王が待ち構えていた。

「勇者さん、お待ちしていましたっわっと。急に危ないですわ。」

人語を流暢に喋る昆虫の魔王に驚くことなくその話をさえぎるように槍を振るう。


「少しはわたくしの話をっ……聞いては頂けないようですわね。」

(ひと)の話を全く聞くことなく二槍を振り回すハルマーにベルは怒る前にマナーのなさっぷりにびっくりだ。

ベルは取り敢えず槍が届かないところまで高く飛んでみる。


「そこの人間さん?お話を聞く耳はおありですか?」

その言葉にやはり傾ける耳は無いらしく片方の槍で体を持ち上げもう片方の槍でベルを付こうとする離れ業を見せる。


更に高くベルは飛んでみたが今度は軽く上に投げた片方の槍の柄をもう片方の槍で叩き上空に跳ねあげるという荒業でベルに攻撃してきた。


仕方ないので、音による洗脳で一回止まってもらうことにしたベルであったが…


「…………何で効きませんの?」

ハルマーの動きは全く変わらない。『音』が効いていないのだ。

敢えて当てないように周囲に衝撃波を発生させるがハルマーは意も介した様子はない。


「いえ、『効いて』いないのでは無く、『聞いて』いないのですわね。」





そう、ベル・アルモニカの主武装が『音』であると知ったハルマーは自らの鼓膜を破り音を『聞』か無いようにしたのだ。

しかし、

「わたくしの『音』がその程度で対処できると思われたのは大変心外ですわ。」



再び『音』を使ってハルマーに作用をかける。

音が聞こえないハルマーは、

『音に従い』その動きを止めた。

ハルマーの視界が急に消える。そして嗅覚、味覚様々な感覚が全身から奪われる。




―――そして聴覚だけが残される。


ここにきて初めてハルマーが叫ぶ。

「なぜだ、なぜ聞こえてくる。悪魔の音色が、魔王の歌が。」


「えぇ~っと、コツデンドウ?とかいうものらしいですわ?」

何でか魔王自身もよくわかってないような疑問げな人語が返ってきた。


「人の言葉を介す…だと…。」

「ちょっと今更過ぎ…ですわ。」


勇者でありながら思ったよりあっけなく魔王の掌握下に陥ったハルマーにベルは、






「がっかりですわ…。」


そういって空気の塊をハルマーに叩きつける。

人体など容易く潰される衝撃をハルマーはぶつかる寸前でその槍を振るって回避する。

「あらっ?」

攻撃を躱されたはずのベルはなぜかどこか嬉しそうだった。


ハルマーは二槍を前方に低く構え地面に時折擦るようにして走る。

それは猛吹雪の視覚が封じられた中や夜間に高速で移動するための父親から受け継いだ秘伝の走法。

足の裏と二槍を探査機代わりに進むその歩き方は奇しくもハルマーの持つ二槍の元となった山を登る蟹の歩き方に似ていた。

先程まで見ていた光景の手足の感覚を重ね合わせハルマーはよどみなく駆ける。








だが、

「その技の欠点は常に地面と繋がっていること。

目が見えないものには弱点を見逃してあげるほど、わたくしは甘くはありませんわ。」

上空から発生したベルの強烈な音が地面を大きく振動させる。


揺れる足場に思わず地面の感覚を掴み損ねたハルマーは崖から落ちてしまう。

咄嗟に槍を崖壁に突き刺し即死を免れたがこのままではいつか魔王がやってくる。

目が見えない状態で崖にぶら下がるという常人なら発狂する状況にもかかわらず

この周辺に生息する巨大蟹同様に交互に槍を指して崖に登っていくが、

あと少しで崖を昇りきるというところで、

手の感覚が、全身の感覚が消える。

そして再び声が『聞こえた』のだ。




「流石勇者ですわね。正直期待していた程ではなかったのですが、…まぁいいでしょう一応勇者ですからね。

わたくしに忠誠を誓いなさい。そうすれば命は助けて差し上げますわ。」


その問いに対しハルマーは、





「糞喰らえ、だ。」

感覚のないその手を離した。





落ちていきながらハルマーは思った。

(クエルダ…、案外早く再戦できそうだな…。)










『ファ』それは破。聞く者の視界を奪い、暗黒の世界に連れ去る。

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