第63話 もう一人の歌姫
何度目かになる混沌の暴虐が2匹を襲い既にその身は満身創痍だ。
時間と共に上昇するムリダスの能力、
下降する二匹の能力、
もう時間は残されてはいまい。ここが2匹の最後の正念場であった。
「そうじゃそうじゃ。そう言えば蜂の姿で思い出したが、昔拙者はこの国にいたことがあったんじゃ。
其処の蜂の方よ、昔蜂の巣を襲撃したことがあってのう、
この国にいるということはその巣の子孫じゃろうて、お主。
結局その巣を護ろうとした蜂は遠い国で死んだんじゃ。死んだん――――」
「黙れ。『私の姉』は死んでなんかいない。」
ムリダスは嫌らしい眼でベルの方に向き直る。
ベルは此処で正体がばれたらどうすればいいのかわからなくなり動けなくなる。
「ほう、妹、とな?
これは面白い。実に面白い。お前の姉は死んださ死んだから今――――」
「だから死んでなんかいないって言ってるでしょっっ。
私の自慢の姉はそう簡単にくたばるようなヤワじゃない。今もどこかでのんきに歌ってるんじゃないかしら。」
「知らぬとは滑稽じゃのう。教えてやろうお前の姉は――――」
「だからだまりなさいっていっているでしょうがぁぁぁぁぁっっっっ!!!!!」
荒れ狂う風と共に
スセリの中の『封印された力』が一つ解放される。
決して使わぬと決めていた力。それは『音』。
姉の力である『音』は姉が帰ってきたその日まで使わぬと。
その力は姉のものだと、そう、決めていた。
「あんた、私の歌に合わせなさい。」
「えっ……」
あの人の甘い声が私を導くの
ランメルモールのルチア 狂乱のアリア
その歌をベルが知らないはずがない。他でもないベルがその歌をスセリに聞かせていたのだ。
ベルもその歌に『力』を重ねて歌いだす。
スセリも自身の歌に『力』を重ね合わせる。
美しい姉の歌声に憧れて隠れて拙く歌っていたあの時とは違う。
ベルの声にスセリの声が重なる。
重なる二つの音と音、それは『和音』。
薔薇の花が撒かれているわ
お姉、お姉はそこにいたんですね…。
スセリの中で先程からの疑問が確信に変わる。
曲はクライマックスへと向かっていく
スセリとベルの歌声は完全に調和し、ピークに上り詰める強大な力をこともなく支配下に置く。
姉妹の『力』は悪霊どものそれを完全に凌駕する。
頷きもアイコンタクトさえもいらない。ただ想いを重ねるだけでいい。
共鳴する想いが強大なる力へと変わる。
「「汝には天上の調べが聴こえなくて」」
美しき音色が響き渡り、
ムリダスの魂は世界から完全に消滅した。




