外伝 嘆きの死者へ安らぎを
とある魔都にて
「こぉろしてぇ、はやく私をぉ、こぉろしてぇぇ。」
一匹の姫バチがムリダスの眷属として徘徊していた。
彼女だけではない。ムリダスの眷属は生前の意識がある。というよりまだ死んでいないのだ。
生きたまま咀嚼され生きたまま内包され生きたまま眷属として分離する。
時折分離したまま動かなくなる失敗例や複数で引っ付いたようなもの、
不定形のものもあるが、元が強靭なモンスター程単体の形でムリダスの肉で作られた体で存在する。
余りの苦痛に思考能力は擦り減っていくが、その擦り切れるまでが地獄なのだ。
今日も魔都は怨唆に満ちた声に満ち溢れている。
彼女は後悔していた。巣の母親の更に遠い母親の姉、生ける伝説たる大叔母に憧れ、
強くならんと無茶無謀を繰り返し、巣から遠く離れた先での黒々としたヒトの都の様子を見に行き、
その原因たるムリダスを見つけ、倒して自慢話にしようと思っていたのだ。
しかしその結果は裏目に出て逆に殺された方がましな姿で生き延びさせられていた。
「だれでもいい、私の生をぉ、終わらせてぇぇ。」
今日も消えかかりそうな意識の中彼女は己を終わらせてくれるものを探していた。
これ以上生き恥を晒すくらいなら死んだ方がましだという結論は『こう』なった時から出ていた。
惨めな姿をこの世界に残したくない。そんな願いが彼女のか細い意識を保たせていた。
そして、彼女は遂に出会う。その生を終わらせてくれるものに。
「……なんてこと…」
背後からかかる、その聴き覚えがあるというにはありすぎる声。
ゆっくりと彼女は振り向いた。
そこにいたのは彼女にとってその姿を尤も見られたくない相手だった。
「おお、おば…さま……? ああ”あ”あ”A"A"A"A"A"AAA!!!!!」
よりにもよって、彼女を探しにこのあたりに来たものは、彼女の敬愛する大叔母であったのだ。
「……………。そう…、姿を急に見せなくなったと思ったら、こんなことになっていたのね。」
「み”な”い”でぇ”ぇ”、み”な”い”でぇ”ぐだざい”い”ぃ”ぃ”」
「苦しかったでしょうね、悔しかったでしょうね。
―――――――――――もういい、もうそれ以上苦痛を感じなくてもいいから。
この私が全て終わらせてあげるから。安心してお眠りなさい。」
「おお、おば…さま。」
「大丈夫、私に任せて安らかに眠りなさい。」
その日、かつて人が住まいその後魔が住まう都であった場所は劫火に焼かれ地に飲み込まれるように消えた。
「『向こう』で見ていなさい。…『全て』終わらせてあげるから。」
『あの戦い』でもこんなことをする奴はいなかった。
どこの誰だかは知らないけど
蜂族の誇りを汚して命があるものと思わないで。
とある蜂の呟き。




