第55話 ベル ザ ホーンフライ
『ホーン』違い
ベルはしぶしぶ洞窟の中に入っていった。
ぶっちゃけキモ男の部屋にお呼ばれなんかしたくはないのだが、
家だけは立派なようだ。
「其れなりの洞窟ですわね。…あとは前の住民を始末するだけですわ。」
以前の世界では金に困ったことはなく、少なくとも両親はそのそぶりを娘には見せなかった。
(但し、娘自体を売り払いはしたが。)
そんなベルは、男に媚びて貢がせるだけ貢がさせて捨てるなんてはしたない真似はしない。
もっとシンプルに、殺して奪い取ってしまおうという今風の簡素な思考のお嬢様だ。
人であった頃には予想もしなかった変わりようであるが、
もはや弱肉強食の世界の化け物になってからの方がかなり長いのでそう変な話でもない。
洞窟の入り口を抜けると中は球体状のドームになっていた。
やたら音が響く洞窟内の奥から、似非侍な雄虫の声が無駄に反響して響く。
この地域の鉱物の特性なのか、確かに外でも反響は多かったが洞窟に入ってからは更に物凄い。
「ふはは~っ。拙者の巣へようこそでござる。この巣で仔作りとかどうでござるか?」
「セクハラですわね?」
「SEKUHARA?拙者そんな言葉は知らないでござるよ?」
「SEXUAL HARASSMENT略してセクハラ、要は女性側が不快に思ったら男が悪いという意味ですわ。」
「そんな都合の悪い決まり事なんて拙者知りたくなかったでござる。やっぱり強引にするが吉でござる。」
そういって再び回転して転がってくる巨大イモムシの様な古代ムカデ。
再びベルは回避行動を取った。
しかし、回避しきる前に攻撃が当たった。
完全に直撃した訳ではないがその衝撃は凄まじい。
思わずベルは声を漏らす。
「ふほほ~い。拙者の全身のぼでいは余すことなく触角から脚の先まで
全て同一の母なる星からの超高硬度隕鉄で作られてるでござる。
そのぱぅわぁを思い知ったでござるか。」
違う『そこ』では無い
『なぜ、回避したはずの攻撃が当たったか』だ。
再び背後から転がってきたムリャシュゲを躱そうとするが、紙一重で回避が間に合わず再び跳ね飛ばされる。
跳ね飛ばされて宙に飛ばされたベルに対し、長年削って球体状にしたドームの特性を利用し、
側面から上方に転がり昇り真上からベルはさらに追い打ちをかけられ地面に叩き落とされる。
「なぜ?という表情でござるなぁ。拙者の攻撃はただただ体当たり、この単純性ゆえに改良が容易なのでござる。
回転中にスキルで大きさを変え、霧で視界を曇らし、鈍化ガスで反応を遅らせ、
直前で至近距離テレポートし、飛ぶ寸前で体を軽くしてぶつかる直前には急激に重くするのでござる。
加えてこのドーム状の巣は空に逃げることもさせぬし、天井まで転がることもできるでござる。
更にこのやたら音が響くドーム、ご自慢の耳は正確でござるか?
――――――――あんまり拙者を舐めると痛い目にあわすでござるよ?この小娘が。」
もちろん、眼を使わないベルには関係ない要素も幾つもあるのだが、
敢えて言おう。下衆であると。
正々堂々と言っておきながら、やったら策に策を重ねるあたりなかなかに下衆の極みだ。
是が知性派キャラがやった行動ならカッコいいのかもしれないが、
自称正々堂々がやっちゃダメな展開だろ、これ。特に鈍化ガスとか。
この当てるためにたくさん工夫がされた技の名前は漢気回転弾という名前らしい。
一回辞書で漢気の意味を調べてこいと言いたくなる技である。
しかし効果的であるのは事実だ。
現にドーム内を縦横無尽に転がり跳ねまわるムリャシュゲの攻撃をベルは躱せずいる。
そもそもこの巣に呼び込んだのだって、
ピンボール風に反射するものがなくなって此処に来たその場しのぎではない。
最初からここに呼び込むために敢えて楽勝ではないものの苦戦はしない程度だと油断させるために、
回避が適度に容易な攻撃を繰り出し、
敵が逃げ込んだ洞窟まで追っても大丈夫と思わせるためだ。
やはり長く生きたものは総じて性質が悪い。
「回避だけではじり貧ですわね。」
そう考えたベルは攻勢に出ることにした。幸い距離や反応にこそブレが出るが、左右上下に目標の狂いはない。
ベルは風の刃を打ち放つ。
しかしそれは甲高い音とともに弾き消され何のダメージにもなっていない。
気にせず攻撃を続ける。攻撃が当たる度に甲高い金属音が反響する。
「拙者の鋼のぼでぃには傷一つ付けられんでござるよ。」
そういって再びベルを弾き飛ばす。
しかし今回ベルは最初から完全に避けることができないのであれば、ぶつかる衝撃を逃がすことに重点を置いていたため、
今まで程のダメージ時は無い。
再び風の刃を放つ。『先程と同じ』音がドーム内に反響する。
「解かりましたわ。」
そういってベルはドームの中心まで飛翔し、その翅を全開にする。
先程ムリャシュゲの体が風の刃を弾いたときの音と『寸分違わぬ音』が響き渡る。
ムリャシュゲの体が小刻みに震えだす。
「何でござるかっ?」
思わずムリャシュゲは攻撃をやめ立ち止まる。
「……全身が『全て同一』のご自慢の金属で構成されているのですわね?」
「それが何でござるかっ?そっそれより何が起きて、い、いや何を起こしているのでござるかっ!?」
「共鳴と固有振動を利用した殺人音楽(人じゃないですが)。これほど効果的な相手も珍しいですわね?」
ムリャシュゲには何のことかさっぱり解からなかったが唯ひとつ解かるのはこのままでは非常にヤバいということだった。
ベルがさらに力を強めようとしているのがわかる。
このままでは死ぬ。そう考えたムリャシュゲはベルを片付けようと、ドームの『中心』まで飛ぶ。
斃せれば完璧。斃せなくても流石に敵の至近距離では攻撃はできないのではないかと、そう考えたのだ。
「残念ですが、この音が響きやすい上に球体に造って下さったこの巣ではそこは一番危険な場所ですわ。」
ベルは全方位に全開でムリャシュゲの固有振動たる音を響かせる。
ドームの壁を反射しパラボラアンテナのように再び中心に集まった音波は、
ベルに触れるほんの手前であったムリャシュゲを爆砕した。
死ぬ間際にムリャシュゲが呟いた「死者が甦ってはならなかったでござるか…」
その言葉はベルの心にぬぐえない闇を落とした。
「蘇った先が幸せだとは限りませんものね…。」
ベルは超短距離瞬間移動を手に入れた。
ベルは霧生成を手に入れた。
次の日、ある目的の為に再びベルは洞窟の中心に来ていた。
「ここはいいコンサートホールになりそうですわね。しかし――――――
やっぱりさえないオスの匂いのしみついた洞窟なんていりませんわ。」
洞窟は元の主同様崩落した。
「憎いでござる、恨めしいでござる。」
ムリャシュゲの魂は汚染領域に沈んでいった。
「そ…か、…お主… も……が 憎いか」
「だ、誰でござるっ。」
「憎いか?いや、憎いだろう。」
「憎いに決まってるでござる。」
「なら、復讐すればいいじゃろうて。」
「また蘇っても負けて死ぬだけでござる。其れに蘇るのはそう簡単では……。拙者の力と複雑な条件が相まって初めて…」
「その時を待てばいいだけじゃ。しかしその時が来てもワシは動けない。」
「そもそもいったいあんたは誰なんでござるかっ?」
「ワシを知らんか?お主が最初に死ぬ前から名は通ってたはずなんじゃがのう。」
「知らないから言っているでござる。」
「ワシは今自分の魂の最表面のみを時間を止めたような状態なんじゃ。
たまたま一度は同じ名を冠したからか、
お主とは波長が合うようなんじゃが他の者に気付かれんとも限らん。
余り長々と詳しくは言いたくないんじゃがのう。」
「時間…停止…ま、まさか」
「お主だってワシにその座を奪われんか警戒しておったであろうよ?えぇ?『暴食』の大先輩よ。」
「あ、あんたは…。」
「『暴食の魔王』ミダスさまじゃ。」
元が付きますけどね。
ちなみにムリャシュゲ→戦国の卑怯の代名詞荒木村重から。
なんか実際そんなに卑怯なヒトでもないみたいなんだけど、そういわれ始めたのは最近。
そりゃあ、バトルロ○イアルみたいにに昨日までのお隣さんと殺しあえなんて言われたら、
言ったやつを凹りますよね。人情的に。そういう意味では裏切りもしょうがない気がしなくもない。




